解説

【Q&A】中国は本当に「敵」「脅威」なのか(1)台湾の民意とは?

Q:中国政府は台湾を自国内だとしています。しかし、台湾が独立するかどうかなど、台湾のことは台湾の人たちの民意で決めるべきなのでは?

A:実は日本の私たちには、この問題に対して「〜べきでは」などと言えた義理ではありません。こういう発言をすること自体が傲慢(ごうまん)で罪深いことなのです。

 いきなりですが、例え話から始めます。

 昔、あるところにJさんがいました。Jさんは昔、お隣に住んでいる大家族のCさんの家に強盗に入り、子ども数人を殺し、家の中を荒らし、使用人にするためにCさんの子どもT君を連れ帰ってしまいました。何年かして、Jさんは再びCさんの家で強盗をしました。前の時よりたくさんの子どもを殺したのですが、今度はCさんがJさんを打ち負かして追い出し、T君も取り返しました。

 Cさんは自分の家で強盗殺人をしたJさんを心の底から憎みましたが、お隣でもあり許すことにしました。そこで「もう二度とわが家に強盗に入るな。二度とわが家を引き裂こうとするな」とJさんに約束させ、関係を修復することにしました。Jさんは「許してくれるのか、分かった、約束は守る」と深く頭を下げました。

 にもかかわらず、Jさんはその後もCさんの家にちょっかいを出し、数年離れて暮らしていたためCさんの家になじめずにいたT君について、Cさんに「Tはあなたの家族から自立したがっている。意思を尊重するべきではないか」と提案しました。それを聞いてCさんは「どの口が言うのか。誰のせいだと思っているのか。おまえが言えた義理か。第一、私との約束はどうしたんだ。二度とわが家に口出しし、家族を引き裂こうとするな!」と憤りました。……

 現実には、Jさん(日本)、Cさん(中国)、T君(台湾)だけでなく、Aさん(米国)という登場人物もいますし、国共内戦など事情は複雑なのですが、おおむね構造としてはこの例え話が日本と中国、台湾の関係を表しています。

道義的に守るべき「一つの中国」

 日本と中国は1972年に日中共同声明に調印し関係を正常化させました。しかしそれは当時の日本にとっては大変な難題でした。なんせ日本は何度も侵略し、何千万人というレベルで中国人を殺し、国土を荒廃させ、台湾その他の地域を植民地として奪ったりしています。JさんとCさんのように個人の話であれば、本来数回ぐらい死刑判決を受けても当然という罪を犯しているのです。

 結果を言えば、中国との国交は正常化されましたが、それは「もう二度と日本は中国を侵略したり植民地化したり分割したりしない」という約束が前提でした。「一つの中国」というのはそれを言い換えたものです。この「一つの中国」という原則は、本来はとてつもなく重い重い約束なのです。「日中共同声明の解釈は定まっていない」という人もいますが、本来は解釈の問題などではなく、道義的な問題です。

 ですから、仮にある台湾の人から「私は中国からの独立を望んでいる。あなたにもそれを支持してほしい」と言われても、私たちは「私たちにはそれを支持するとかしないとか言う資格はないから、支持できない」と言うべきでしょう。

 にもかかわらず、最近は過去が忘れられているのか、実に軽く「台湾の民意」などと言って「独立」に賛成したり煽(あお)ったりする向きもあります。過去に「強盗殺人」と「人さらい」をした日本の人間が言えることなのでしょうか。実際に例えば話のようなことが起きれば、Jさんの言動は絶対にこの社会では容認されないでしょう。「いや、T君のためを思って…」などと言っても、「おまえが言うな」と袋だたきにされるでしょう。

誰が何のために掲げる「民意」か

 「台湾の民意」などと「人権重視」を掲げて中国のお家事情に干渉する姿勢は、過去に植民地支配を受けた歴史のあるグローバルサウスの国々からは全く支持されないでしょう。米欧などの国が自国に介入する際、「人権」「民族」「宗教」は何かと口実にされます。「人権」を掲げて台湾のことを語っても、米欧はともかく、グローバルサウスからは冷ややかな目線を送られるだけです。

 そもそも、この「民意」というのにも注意・警戒が必要です。いろいろな人が、いろいろな目的で「民意」を使います。2014年にロシアがクリミア半島を編入しましたが、これは「住民投票」による「民意」を受けたものです。しかしこの「民意」は米欧や日本は支持しませんでした。「民意」なのに支持しないの?

 台湾の「民意」にしても、長年にわたる日本や米国のプロパガンダの影響を受けています。仮に「独立」という「民意」が示されたとしても、そこにどれだけ正当性があるのか、疑問符が付きます。

 誰が何のために掲げている「民意」なのか、それは個別具体的に中身を判断するべきでしょう。

-解説
-, ,