21世紀のこんにち、世界は資本主義の爛熟(らんじゅく)とともに、その構造的矛盾がかつてない規模で露呈している。資本主義は末期症状を呈している。
地球環境の環境破壊はよく例に挙げられる。環境破壊は、利潤追求を基本原則とする資本主義システムが天然資源を収奪し続けた結果である。気候変動・生態系の崩壊・資源の枯渇などの問題は、人類存続の危機さえ招来している。また、世界的に貧富の格差が拡大し、ごく一部の富裕層への富と権力の集中は解決できない。これは、資本主義の「政治的外被」である議会制民主主義の基盤を揺るがしている。
これらの問題は、私的所有に基づく資本主義の継続が人類社会を「持続不可能」な状態に陥れていることを示している。
一方で、社会の持続可能性を根本から問い直し、「次の社会」への模索が強まっている。資本主義の危機が進行するその内部から、それを突き崩す要素が新たな形で育ちつつある。
再生可能エネルギーの発電・蓄電設備を地域住民や自治体が協力して「共有インフラ化」する例、低賃金や不安定な労働環境に対する労働者協同組合の取り組みに加え、データや知識を公共財として扱うべきだという議論も高まりつつある。
これらは、その担い手たちが明確に「次の社会」への展望を描いて推進しているものとは、必ずしもいえない。それどころか現代資本主義の枠内に存在し、客観的にそれを支える一部ともなっている。
そうであっても、これらは生産手段の私的所有を否定し、「社会的所有・管理」という社会主義に結びつく可能性を持った動きである。
技術革新の現状と、それがはらむ矛盾について述べることで、社会主義・共産主義の条件が成熟しつつあることを論じたい。
まず取り上げるのは、オープンソースソフトウェア(OSS)の発展である。OSSは、資本主義の市場競争の中で育ちながら、利潤動機ではなく協働・共有・公共性を基盤とする生産様式を一部に実現している。OSSで開発されるコンピューターのソースコード(プログラミング言語で記述された設計図)は公開されており、誰でも利用・改変でき、成果はコミュニティー全体に還元される。
この様態を、マルクスが『経済学批判要綱』で述べた「一般知性」―社会全体の知識と協働能力が生産力の中心となる状態―の現代的な具現化として理解すべきという見解がある。
同時に、OSSは巨大テック企業によって積極的に利用され、クラウドサービスやAI(人工知能)開発の中核として、日々刻々、利潤を増殖させている。OSSは資本主義の存続に貢献してもいる。
OSSは資本主義内部で社会主義的な生産様式を部分的に実現しつつ、それが資本によって包摂されるという矛盾を形づくっている。

OSSの歴史と特徴
OSSが「資本主義の内部に生じる社会主義的萌芽」であるとすれば、それはどのような制度的・技術的基盤の上に成立しているのか。これは単なる技術論ではなく、現代資本主義の発展と変容、公共性の再構築といった問題と密接に結びついている。
通常のコンピュター用ソフトウェアは、基本ソフト(OS)と応用ソフト(アプリケーション、アプリ)に大別される。いずれも企業が労働者を雇用して開発し、市販される。例を挙げれば、米Microsoftは、OSのWindows、アプリのWord、Excelなどを開発・販売している。
これらのソフトのソースコード(数万行の規模がある)は公開されておらず、知的財産として厳重に管理されている。プログラムのミス(バグ)は、利用者や他の開発者からの報告に基づき、開発元(この場合はMicrosoft)が修正し、修正プログラム(パッチ)として配布する。このようなソフトを「クローズドソース」または「プロプライエタリ・ソフトウェア」と言う。
これに対して、OSSのソースコードを管理するのは多くの場合は任意の団体で、ここで開発の方向性や管理が行われる。コードはインターネット上で公開(オープンソース)されており、誰でも閲覧・無償利用・改変・再配布できる。開発者はほとんどがボランティアベースで、自らの余暇時間を使ってOSSの開発、バグの修正を行い、新機能を提案し、ドキュメント(マニュアル)作成などを行っている。開発者が行った修正を本採用するかどうかは、プロジェクトの管理団体または責任者が決定する。
OSSの創始者とも言えるリチャード・ストールマンは、1970年代初頭からこの運動の代表的活動家であり、1983年に「GNU(グヌー)プロジェクト」を提唱、「自由な利用・改変・再配布」を理念とするライセンス枠組み「GNU一般公衆利用許諾書(GPL)」を創設した。彼は社会主義者ではないが、反権威、コミューン的価値観という思想を有する。
OSSが有名になったのは、1991年にフィンランド・ヘルシンキ大学の学生であるリーナス・トーパルズが自作のカーネル(OSの根幹部分)であるLinux(リナックス)を公開したことがきっかけである。世界中の開発者が興味を示し、インターネットを介した協働が始まった。
1998年、エリック・レイモンドは、ソフトウェアの開発の方法論として、伽藍方式とバザール(市場)方式があるとした。伽藍方式とはクローズドソースの開発法で、大聖堂の建築を行うように大がかりであることを指す。これに対してバザール方式とはOSSの開発法で、知らない者同士が市場で売買するようにアイディアや技術を持ち寄ってつくり上げていくことを指している。
OSSは、すでに私たちの生活に深く浸透している。スマートフォン(スマホ)のOSであるAndoroid(アンドロイド)は米Googleが開発しているが、その基礎はLinuxである。米Apple製品で採用されているiOS、macOSなどの基盤部分は共通で、OSSのFree BSDを利用している。任天堂のゲーム機Switch(スイッチ)のOSも、Free BSDである。
このほか、世界中で使われているWebサーバーソフト・Apache(アパッチ)、データベースソフトのMySQL、プログラミング言語のJavaなど、多数のOSSが利用されている。