インタビュー

学費値上げは労働・生活と一体の問題 世代や立場を越え声広げたい(大学生・金澤伶さんに聞く)

 東京大学の金澤伶さんは、当事者として学費値上げ問題などに取り組み、この3月には編著者として『学費値上げに反対します——学生たちの生活と主権』(地平社)を出版した。運動の意義や今後について聞いた。(文責編集部)


 私も参加する「東京大学学費値上げ反対緊急アクション」は2024年5月、大学が学生1人当たり年約11万円の学費値上げ(引き上げ後は64万2960円)を計画していることが明らかになり結成されました。学費値上げは学生の生活に直結する問題であるにもかかわらず、当事者である学生の声を全く聞くことなく決定されました。その後値上げの流れは全国の地方国立大学にも波及しました。

 国立大学の法人化以降、学費問題は「大学vs学生」のようにしか語られませんが、これは大学単体の問題ではなく、政治の問題、自民党政権や新自由主義的な流れの中で繰り返されてきた構造の問題です。そのような経験を経て24年6月から、全国の学生・院生にSNSを通じて呼びかけ、政治の問題として国会議員や大学教員など広く社会に訴える活動を始めました。24年に一度、25年に二度の院内集会を開催し、学生や若者の実情を訴え、政治としての解決や改善を訴えました。

現実もっと知らせたい

 活動を通じて国会議員や官僚と接すると、現場を知らないと感じることが少なくありません。現在の学生は、学業、研究、バイト、インターン、就活、サークルなど課外活動に追われていて、「ブラックバイト」から抜け出せない人もいます。

 学費値上げ反対全国ネットワークが行ったアンケートには、「私学の大学4年間分の学費を奨学金でまかなえない」「返済の不安からブラック企業での労働を続けざるを得ない」といった声が届きました。息子を都内国公立に通わせていたパート労働者からは「学費を払うと月々の仕送りはギリギリで、生活費不足分を補うため息子はコンビニの夜勤バイトで身体を壊しかけました」という悲痛な声も寄せられました。

 世代間の認識の違いも感じます。昨年8月に「埼玉大学学費値上げ問題を考える有志の会」が声明で「『仕送り』という言葉は死語」と述べると、現状を知らない世代の方から「衝撃」との感想が寄せられました。私たちの運動に対し「高卒で働けばいい」という反発の声もありますが、その背景には労働市況認識の世代間ギャップがあると思います。

 労働者福祉中央協議会(中央労福協)が3000人を対象に行った「高等教育費や奨学金負担に関するアンケート24年」では、将来の教育費不安は77・8%、負担可能額の中央値は年間44・1万円でした。これは国公立大の授業料(53万5800円)より低く、現在の授業料でも負担できない層が過半です。

 教育基本法第四条の「ひとしく、能力に応じた教育を受ける機会が与えられ」る理念は、社会の公正の基盤であり、「稼げる人だけが学ぶ権利を持つ」という思想を拒む力でもあります。しかし、高い学費が課されている現実は、法の理念とかけ離れていると言わざるを得ません。

 学費問題を含めた経済的困難な学生の問題を「自己責任」で終わらせてはいけません。文教政策が生活実態から乖離しないよう、政府には学生の声を聴く責任があります。これからも、学ぶ権利を守る世代や立場を超えた運動を広げていきたいし、その意義は増していると思います。

伝え方は工夫できる

 この2月に総選挙が行われました。昨年の参議院選挙の前には全国ネットで全候補者にアンケートを取りましたが、今回はあまりに突然の、そして短期間の解散・総選挙であったため、学業にバイトに研究に追われる学生・院生の身の上ではそうした丁寧な取り組みができず、残念でした。

 そもそも高等教育無償化は政府の義務であるはずですが、これまで与野党を問わず超党派の国会議員に学費問題を訴えて感じるのは、長年与党を担ってきた方々は総じてこの問題に対して鈍く、是正に積極的ではなく、むしろ値上げ容認の態度が目立つことです。

 2024年の衆議院選挙では、私たちが根強く声を上げたこともあり、主要政党が高等教育無償化を掲げるなど争点化しました。しかしその後急速に「外国人問題」をめぐるデマと分断が深刻化し、生活にとって切実で本質的な政策議論は後回しとなってしまいました。自民党は先の総選挙で「高等教育無償化」の文言を公約から削除し、今の学費が適正であると答えた唯一の政党となりました。

 今回、学費問題に積極的だった野党の国会議員が少なからず当選できず大変残念です。「左派リベラル」には逆風となった選挙でしたが、「左派リベラルは終わった」とは思っていません。

 問題は考え方でなくて、それをどう伝えているか、誰に向けて話すかだと思います。私たちはどんな社会のあり方を目指しているのか、そこをもっとかみ砕いて伝えるべきだと思っています。よい政策があっても、「これは誰のための話なのか」が見えなければ、心に届かない。実践をもっと言葉にしてイメージとして共有していく。対立軸のつくり方も伝え方も、まだまだ工夫できる余地があると思います。むしろ、人権・多様性・公平さなどそういう価値を期待している人は増えている。それが私の実感です。

分断されないために

 学費問題と労働問題は深く結びついています。学生・労働・家庭の問題は通底し、生活は政治と直結しています。そのことを、活動を通じて強く実感しています。学費問題は本来「学生vs大学」や「学生vs政府」の問題ではありません。「学生だけ」の問題でもありません。しかし声を上げた私たち学生たちへの冷笑は深刻でした。

 今の日本社会は、非正規労働市場化とコロナ禍で中間層が崩れ、池袋や都庁前の炊き出しには500〜900人が並ぶ光景が日常化しています。貧困支援団体には難民申請中の妊婦や若者のSOSが絶えず届き、路上で冬を越そうとする人びとが増えています。

 メディアはネットカフェを転々としスキマバイトだけで暮らす若者の増加を報じていますが、排除ベンチなど路上生活者排除が進み、政府や自治体によって当事者の困難が放置され隠されていることで、気づかぬうちに孤立や分断が悪化しているのではないでしょうか。

 また、社会の閉塞感のはけ口として外国人への責任転嫁と差別も加速しています。総選挙でも与野党が排外主義的な外国人政策を競いました。政府は、そのような差別の是正に努めるどころか、むしろ助長する政策を推し進めています。総選挙の際に高市首相は外国人政策で「不法滞在者ゼロ」「もっと入国管理を厳しくする」などと排外主義を煽りました。入管庁は強制送還を加速する「ゼロプラン」、在留資格審査や帰化の厳格化を強行しています。

 難民・移民の隣人が在留資格なく人間らしい生活を送れず、一方で学生や若手研究者が高学費と借金に苦しむ現実は、政治に起因する構造的な問題として深く結びついていると思いますが、人びとの不満の矛先が外国人に向いている現状は、本質的な議論を難しくしていると思います。

 2025年の参議院選では「外国人優遇」という言説が盛んに流布されましたが、私たち学生は、自分たちの苦しみが外国人差別に利用されていることに怒りを表明しました。学費問題に向き合ってきた学生こそ、留学生と協働して学問を進め、学費値上げにも留学生差別にも声を上げてきたのです。

 私たちは、世代や立場によって容易に分断されず、外国人に関するデマなどに事実をゆがめられないためにも、立場性を問いつつも、自らの抱える現実をもっと伝え合う必要があります。決して対立したり、排除し合ったりするのではなく、それぞれの苦しみや闘争の歴史をより正しく積極的に次世代と共有していくことで、問題解決のための議論を進めるべきです。

 高市政権による改憲の動きも活発化しています。「戦争反対」を単に繰り返すスローガンにせず、一人ひとりの生活と信条とにリンクさせ、他者に伝える実践が必要です。私も実践を続けていきたいと思っています。

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