労働運動 インタビュー

不安定雇用強いられる公務非正規女性ーーはむねっとの瀬山紀子共同代表に聞く

 公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)は、非正規公務員の実情を調査し、国や自治体に状況の改善を訴えている。非正規公務員の多くは女性で、低賃金で不安定な雇用を強いられている。実態と課題などについて、はむねっとの瀬山紀子共同代表(埼玉大学ダイバーシティ推進センター准教授)に聞いた。(文責編集部)


 国や自治体などの公務の職場では、非正規労働者は民間以上に不安定な状況に置かれている。民間の場合、有期雇用のあり方が社会問題化し、曲がりなりにも無期転換など安定雇用に道を開こうという政策がとられている。しかし、公務の場合は民間の労働法制に包摂されておらず、法の谷間に置かれている。

 公務非正規の不安定雇用を象徴しているとも言えるのが、会計年度任用職員制度だ。2020年度から始まった非常勤の地方公務員に関する制度で、これによりそれまで自治体ごとにバラバラだった非正規職員の採用や待遇のルールが全国的に統一された。

 しかし、問題はこの制度に「任期」と「公募」が導入されたことだ。非正規職員の任期は最長1年とされ、継続して働きたい場合でも一般公募にかけられて不採用(雇い止め)に遭うこともある。「公平性」の名目で導入された公募制度だが、雇い止めのための手段にもなる。

 20年度末の21年3月に発足したはむねっとは、当初からこれを問題視していた。しかし、当事者を対象としたリアルな実態調査は国や労働組合などによってそれまで行われていなかった。そこで私たちは公務非正規当事者を対象とするアンケート調査をインターネットで実施した。以降4年間、毎年47都道府県で働く人からの回答を得ることができている(下記参照)。

制度が雇い止めの道具に

 これまでの調査で分かったことは、「有期雇用」が乱用されている実態だ。雇う側の事情で労働者を簡単に切ることができる。自治体側に都合のよい仕組みとして利用されている現実がある。

 今年の調査でも、正規職員からの嫌がらせに抗議したことで雇い止めとなった人や、妊娠中に雇い止めされた人、また次年度の雇用を打診されていたにもかかわらず4月のわずか数日前に切られた人など、人権侵害ともいえる実情を訴える声が数多く集まっている。

 こうした仕組みがあるため、次の更新のことを考え、理不尽なことがあっても口に出せず、上司などにも相談できず、労組に加入することにも躊躇(ちゅうちょ)するようなケースが少なくない。透明性・公平性・公正性が求められる公務の現場において真逆のことがまかり通っている。

 また、制度の開始から5年目となり、「会計年度さん」といった名前・職種以外の呼称も横行している。正規と非正規の大きな格差、職場内の亀裂が現場で定着し、身分差別ともいえる状態となっていることもうかがえる。

 一方で、非正規でも長期的に継続して働いている、同じ職場に11年以上働いている人も一定いることが確認されている。働き手が不足する社会状況なので、継続雇用が求められるケースは増えている。しかし、給与は少なく、退職金もないため、貯金ができず、年金も少なくなる。労働者としては仕事を辞められないという実態もあるのではないか。

 毎年の調査から制度の矛盾はますます浮き彫りとなっている。

軽視される女性の労働

 なぜ問題の多い制度が放置されているのか。

 私自身、これまで長く自治体の男女共同参画センターで非常勤事業コーディネーターとして勤務し、労働組合員として当局と交渉などに当たってきた。その際に、当局側に「公務は基本的に正規職員によって担われており、非正規は例外」という前提・建前、あるいは思い込みがあり、非正規職員の問題を「小さなこと」と軽んじている姿勢が感じられることも多々あった。

 しかし、現実には自治体の担い手の半数以上がすでに非正規になっているという場合もあり、財政削減の流れの中で財政規模が弱い自治体ほど非正規が増えている。その実情を真正面から見て問題に向き合うべきなのではないか。

 非正規職員に女性が多いことも処遇が軽んじられている一因だろう。当局と交渉していても「女性は主たる生計維持者ではなく、職場でも補助役」という差別的な見方がいまだに少なくない。むしろ非正規を「女性にとって働きやすい形」ぐらいに認識している人もいる。

 女性労働の軽視という意味では、ケア労働やエッセンシャルワークなど、社会にとって必要不可欠な労働が軽視されていることとも共通点があるのではないか。こうしたことを軽んじることが今後社会にどのような影響を与えるのか。深刻に考えるべきだ。

 自治体が「やりがい搾取」しているという指摘も多い。博物館・美術館の学芸員、保育士、学校・図書館の司書、児童・女性関連施設の相談・支援員など、「社会に役立つ仕事がしたい」「専門的な知識を生かしたい」などの意欲に付け込み、自治体が低賃金で不安定な雇用条件をのませていることは否めない。

 しかし、このような専門性のある職種の人たちこそ、むしろ継続雇用で経験や知識を蓄積してもらう方が、長期的には自治体や社会を潤すことになるのではないか。

 労働力が減少している日本社会において、公務非正規の女性にこのような働かせ方を強いたままにすることは、当事者である女性だけでなく、この社会全体や将来の社会にとっても損失となることを強調したい。

声上げ続け、制度の改善も

 この間、はむねっとも含む「官製ワーキングプア」問題に取り組む団体や労働組合などが声を上げ続けたこともあり、総務省のマニュアルが「公募は必須ではない」と改定された。また勤勉手当の支給や大量雇用変動に関する通知の義務化など、制度の改善も見られている。

 今後も、「公平性」の名の下で恣意(しい)的な運用が可能な公募制度をなくし、無期雇用への転換を促す政策を導入するなど、未来を見据えることができる働き方と給与を保障する制度に向けて、声を上げ続けたい。

2024年のアンケート調査から

(6月1日〜7月14日実施)
■回答者の9割は女性。
■問題だと感じることの第1位は「雇用が不安定」。回答者の6割強。
■退職した人の4割は「仕事を続けたかったが、雇い止めになった」と回答した(昨年も退職者の4割が雇い止め)。
■3割は「会計年度さん」「会計さん」など、名前・職種以外で呼ばれた経験がある。不快と感じる人は多い。
■就労収入は250万円未満が6割強(フルタイムでも6割が300万円未満)。
■回答者の4割は主たる生計維持者。また、主たる生計維持者であるか否かを問わず、自分の収入がなくなると家計が非常に厳しいという人が半数は存在している。
■身体面、メンタル面ともに不調の人は少なくない。ただ、病気休暇はないと答えた人が2割を超えた。
■職場で問題を感じても「どこにも相談していない」という人が4人に一人。相談をしても「改善につながらなかった」という人が4割。

過去4回の調査結果ははむねっとのWebサイトに掲載されています。

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