自民党・日本維新の会による高市連立政権が誕生した。これに先立つ公明党の連立離脱、政権成立後の日米首脳会談など、政局は激動している。これをどう見、いかに闘うべきか、編集部は秋山秀男・党中央委員会議長に緊急インタビューを行った。
——高市政権成立とそれを前後する一連の動きについて、どう感じましたか?
秋山 多くの人たちが自民党・日本維新の会の連立政権について「軍事大国化」が急ピッチで進むとか「排外主義」「対中戦争準備内閣」などと警戒心を高めています。また、社会保障改悪、実質上の増税など、国民生活破壊の政権だと厳しく批判しています。その典型が日本共産党でしょう。
——秋山議長はどう考えているのですか?
秋山 こんにちの事態は単なる一つの内閣の破綻という域を超えて「戦後自民党政治の終わりの始まり」であるという意見もありました。私はこの識者の見解に賛同します。
しかし、総じて、何か物足りない。あまりにも感情的で、また一面的な意見が多いのではないでしょうか。
最近のマスコミの世論調査で高市政権支持と答えた人々が74%に上っていることが明らかになりました。これは何を意味するのでしょうか。世論は必ずしも批判一色ではなく、期待する人たちが多いということです。
事態はもっと複雑で、私たちは自分の頭を使ってトータルに考えねばならないと思います。
——なるほど。どうすればいいのでしょうか?
秋山 唯物弁証法や史的唯物論という武器を使い、激変したわが国政治情勢・階級情勢をリアルに把握する、情勢を全面的に、また歴史的に把握し、今後の発展方向と闘い方を鮮明に打ち立てることが求められていると思います。
いずれにしろ、今到来しているわが国の政治情勢は戦後最大の深刻な危機であるとともに、同時に労働者国民諸階層にとってわが国の独立・自主の政権の樹立に、そして連続的に社会主義・共産主義に向けた歴史的なチャンスであると私は思います。
——議長は事物を歴史的に把握しようと言いますが、それはどういう意味でしょうか?
秋山 新政権の成立に限らず、わが国も世界も、こんにち歴史的に大きな変化のただなかにあると思います。しかも急ピッチで動いています。こうした大きな変化を把握するには大きな物差しで測らねばなりません。
——どのような物差しですか?
秋山 戦後自民党政治の発生に立ち戻り、その発展を追跡して、今どこに来ているかを認識して初めて今後の流れをつかみ、予測することができると思います。
また、「具体的事情の具体的な分析」が必要です。自民・維新連立政権という新生の事物を分析するに際して、政党の政策だけでなく、経済との関連、有権者の生活状況や政治意識、階級関係の変化、国際的な圧力(米中関係や日中関係)など有権者の投票行動に影響を与える諸要因を分析しなければなりません。
——実に困難な仕事ですね。
秋山 そうですね。「具体的事情の具体的分析」が必要不可欠です。何も難しいことではなく、丹念に材料・データを集めて、分析を重ね、最後的にそれをまとめることだと思います。
戦後自民党政治の推移に学ぶ
秋山 戦後政治の流れを把握するうえで重要と思われる諸事件をともに考えてみましょう。
米軍の単独占領の下でのわが国の政治。戦後直後の米国主導の日本の「民主化」と「非軍事化」を目指す戦後改革の遂行と米ソ冷戦によるその中断。米国の世界戦略に組み込まれた東アジアでの対共産主義の砦として日本資本主義の再建を目指す政治(アジアでの工業国・兵器廠(しょう)の再建、労働運動への弾圧と体制内化、日本共産党の排除)に乗ったこと、「吉田ドクトリン」がわが国の基本政策となった。それは「経済中心」で軽武装、経済大国化を目指す。日米同盟を選択、外交の基軸は日米関係に置くというものでした。
1955年秋、社会党の左右統一に危機感をもったわが国支配層は自由党と民主党の「保守合同」を迫り、ここに自由民主党が成立した。この自民党政権は93年に細川連立政権が生まれるまで38年間政権の座に就いた。長期単独政権です。
自民党はなぜ長期単独政権を維持できたのか?
秋山 日本資本主義は米国の支配の下で「いびつ」ではありましたが、それなりの経済成長を果たし、85年に日本は最大の債権国にまで「成長」しました。
日本経済の「成長」を基礎に、「利益誘導政治」をやって、農民や第1次産業従事者、中小零細商工業者の切実な要求に対応した。これは労働者階級を農林水産業者、中小零細商工業者から分断し、「孤立化」させること、本来的に少数派である「独占資本家階級」の政治支配と権限を守ること、これらが狙いでした。
自民党指導部や官僚の中枢に比較的に「ズル賢い」あるいは先が見える人物がいたこと、内外情勢の激変にうまく対処してきたこと、日本の国家戦略を立て公然と訴えたことです。
労働運動に対して二面政策をとり、労働者が社会的に騒ぎを起こすことに神経を使い、労働運動指導部を抱き込むことに配慮したことです。
日中国交回復、発展途上国への経済支援——などです。
二大政党制・策略政治による危機の回避
秋山 自民党長期単独政権は89年都議選での敗北、続く同年参院選での議席過半数割れ、そして93年衆院選の敗北で終焉(しゅうえん)を迎え、細川連立政権が誕生しました。
自民党は政権から下野せざるを得ませんでした。一つは有権者の自民党離れ、もう一つは有力な幹部党員が自民党から離反し、新しい党をつくって「政治改革」の旗を振ったこと、より決定的だったのは財界や連合・山岸会長、学者、野党などが結集する「民間政治臨調」が「政治改革」の国民運動を起こし、暗に自民党に政権の座から降りることを求めたことです。
それは「利益誘導政治」が国際情勢の激変(米ソ冷戦構造の終焉、日米間矛盾の激化、世界資本主義のグローバル化・金融化と列強間の再分割の激しい闘争)や国内階級闘争に耐えられなくなったからです。
自民党政治は危機に直面しました。
わが国支配層は「二大政党制」(安全保障や外交など国の基本政策で一致する保守二大政党)を樹立することでこの危機を乗り切ろうとしました。社会党および公明党を滅ぼすことが不可欠になったのです。そのために小選挙区比例代表制の導入、国際競争に耐えられる「強い政治」の構築、消費税増税などをたくらみました。社会党は「安保条約反対」「自衛隊反対」の基本政策を変更して安保容認、自衛隊賛成に変化しました。94年社会党村山連立政権(自民党、社民党、さきがけ)が生まれましたが、社会党は連立から離脱し、96年橋本連立政権が誕生しました。自民党は「野党暮らし」から政権に復帰しました。小渕連立政権(99年、公明党、自由党が政権に参加)、「日本を変える、自民党をぶっ壊す」と叫んで小泉が自民党総裁となり、政権の座に就きました。
2009年総選挙で民主党が政権をとりましたが、鳩山政権は短命でした。民主党政権後半は「自民党よりも自民党的」と言われましたが、野田政権は「日米同盟強化」路線に踏み込んだり、消費税税率アップの3党合意をやった。これは「権力の怖さ」の表れか、それとも策略型政治のみじめな見本なのか?! 民主党政権は有権者の中に「政治不信」を植え付けることに「貢献」しました。12年秋の総選挙で民主党は敗北し、同年暮れに安倍自公政権が誕生した。
自維連立政権をどう考えるか
——一言でいえば、この連立政権は「何者なのか」、明確に定めることがなかなか難しいと思いますが、秋山議長はどう考えますか?
秋山 その通りですね。一例を挙げれば、最近の世論調査には驚かされました。74・9%の支持率は予想外の高さですね。高市連立政権はまだ何か国民のために仕事をやってるわけではないので、この数字に国民の期待感の表れを見るのはさほど間違いではないと思います。
——それにしても自民党にしろ維新にしろ、24年衆院選に続いて今回の参院選でも、投票数はかなり減っています。それなのに世論調査での高市政権への支持率はかなり高い。違和感を感じます。
秋山 自民党も参院選の前には「解党的出直し」などと言っていました。自民党は、本当は、有権者の前で「自分たちはこれまでの政治を強く反省し、自民党を解党する。すべての特権を放棄し、国民の皆さまとともに、日本をよくするために汗を流す」と宣言し、実行すべきだと思います。財界人のある方が自民党総裁選を見て「すさまじい権力闘争」とびっくりしたと発言していましたが、政治が誰のためにあるのか、国会議員や政党のためにあるのか、それとも国民のためにあるのか、初心に戻って点検し、悪いところは是正していくべきです。
昨年の衆議院選挙ごろから有権者は政治不信を強めていましたが、当然だと思います。結局、国民諸階層の中に入り彼らと喜怒哀楽をともにすることしか日本の政治は再生できないのではないでしょうか。戦後自民党の政治はもはや終わった、あるいは「終わりの始まり」の時期に来たのではないでしょうか。
——高市首相はそのように認識していますか?
秋山 それはないでしょう。新政権は古い政治にしがみついていると思います。
——高市首相は国民的人気がありそうですね?
秋山 日本の政治史の中で女性が総理大臣になった初めての人であることも彼女への期待を高める一因になっているのではないでしょうか。一般論として、女性の社会進出はいいことです。
自民党中枢に「自己改革」はできないでしょう。私心を捨てて「政治改革」をやろうと思っているはずがありません。彼らは高市首相を利用して生き残りを画策しているのです。
高市氏は安倍元首相の路線を受け継ぐ人であり、それを指針に内外政治で「業績」を上げたいと考えていると思います。高市首相は所信表明演説で安倍元首相の「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」という言葉を引用しています。安倍に倣って安全保障や外交に力を入れ、日本の国際的な位置を高めようとしているのです。また「強い経済」をつくると主張しています。しかし、私はやれるとは思えません。事態はそんなに簡単ではないからです。
日本の政治が堕落し、衰退する中で彼女の振る舞いや発言が力強く見えるのは当然でしょう。だが完全な時代錯誤に陥らないよう警告しておきます。
——なぜこの時期に公明党は政権離脱したのですか?
秋山 その質問に答える前に、私は公明党の今回の行動は平和運動の、また日中関係の前進のためにも、重大な決断だと思います。もっと評価されるべきだと思います。
——その通りですね。
秋山 公明党は、自民党との連立政権を組んで26年経ています。しかし、公明党の組織力、集票力は急減してきました。重要政策で意見の一致よりも不一致が目立ってきています。自民党と一緒に政権運営するメリットが少なくなってきており、むしろマイナス面が広がっています。公明党から見れば政権離脱は当然です。
公明党が大局に立って日本の政治の変革のために闘うことに期待したいですね。
結びにかえて
——もう一度お聞きしますが、この2年間で日本の政治情勢は激変したのでしょうか?
秋山 変化が生まれているのは確かではないでしょうか。一番目に、戦後政治を壟断(ろうだん)してきた自民党が衰退したことです。自民党も、また公明党も、総選挙に続き参院選でも有権者の支持を大幅に減らし、「少数与党」に転落しました。確かに、維新という中間政党を引き込んで連立政権を発足させましたが、この政権にわが国の運命を担う実力があると誰が考えるでしょうか。つまり、この連立政権は人々の不満と怒りの中で短命に終わるでしょう。
二番目に、自民党に代わる「政権担当能力」のある政党がどこにもないことが、自民党総裁選や首班指名選挙で暴露されました。つまり、立憲民主党も政権を担う覚悟を持っていないのです。共産党は議席を大幅に減らしましたが、しっかりした総括ができているとは言えません。このままいけば自滅するでしょう。公明党は連立政権から離脱しました。そのことによって生まれ変わる可能性が残されたとも言えます。
三番目に、信頼でき力のある政党が不在の下で、生活の困窮や未来への不安から、労働者・国民諸階層は立ち上がり、切実な要求実現に向けて闘い始めたということです。「令和の百姓一揆」や沖縄県民の闘い、青年学生や女性の闘いです。地方自治体でも闘いがあります。
——労働組合、労働運動はどうでしょうか。
秋山 中小労働組合の指導的幹部に話を聞く機会がありましたが、「闘争」の二文字を忘却してきた労組幹部のなかにも変化が生まれてきているとのことです。2025春闘は5%以上の賃上げを闘い取りましたが、中小労働運動が全体を引っ張ったようです。
問題は腰を入れて戦後自民党政治(対米追随で大企業の利益優先の政治)に挑戦し、勝利を目指す戦略観のある政党・政治党派が見えないことです。
——なぜこうした状況が続いてきているのでしょうか?
秋山 戦後政治の推移や階級闘争・政治闘争を振り返ると、敵が一枚上手であったと言わざるを得ません。支配層の方が戦略をもって労働者階級を抑え、体制内に閉じ込めるためにいろいろ策略を弄してきたのです。
——もう少し具体的に説明してくれませんか?
秋山 1989年以降ソ連・東欧社会主義が帝国主義のイデオロギー攻撃(帝国主義は「プロレタリア独裁の放棄と市場経済の導入」を迫った)にさらされ思想政治的に敗北を余儀なくされました。この攻撃は、帝国主義諸国の労働者階級の運動に深刻な影響を与えました。
わが国では、74年労働4団体の「反インフレ共闘」、75春闘での大幅賃上げ、スト権ストに恐れを抱いた財界、自民党中枢は巻き返しを図り、80年代に入ってから国鉄の分割民営化攻撃を仕掛けてきたのです。国労や全電通は総評の屋台骨であり、ここに攻撃を加えることで総評の解体攻撃を進めたのです。同時に、社会党つぶしのために総評を攻撃し、連合をつくり、「階級闘争から制度政策闘争」への路線転換を図ったのです。
もう一つ。米ソ冷戦の終焉以降、世界経済は大きく変わりました。多国籍企業は海外に進出、市場と資源を求めて激しい分割の争いを演じました。米国は基軸通貨ドルを生かして世界経済をドル支配の下におきました。これがバブル崩壊以降の「失われた30年」と呼ばれている長期停滞と資本主義の構造変化の実体です。日経連(桜田武会長)の「新時代の日本的経営をめざして」の公表、こうした下で労働者階級はリストラ、低賃金、不安定雇用を余儀なくされました。
以上ですが、日本の労働者階級の生存条件は大きく変わり、それに伴い階級の相互関係が変化しました。独占資本・多国籍企業はなりふり構わぬ攻撃で労働者階級を抑え、労働者は手痛い打撃を受けて後退しました。連合も結成当初、山岸会長の指導下で政権交代可能な体制の構築を唱えました。
——なるほど。少しわかりました。それで労働党はどう考えますか?
秋山 昨年の衆院選での自民党の大敗以降、階級情勢は変わろうとしています。加えて、トランプ政権の再登場と国際情勢の激変がわが国を揺さぶっています。何よりも、中国が世界経済・国際政治で力をつけて、米国を中心とする帝国主義と闘う諸国(グローバルサウス)や被抑圧民族、人々を激励しています。世界も日本も大きく変わろうとしているのです。
高市政権は危険で、売国的です。この政権と闘うことは当然の任務ですね。
労働運動を重視し、国民の先頭に立って生活と平和のために、そして政治変革のために闘うように支援していきます。
——どう闘うのでしょうか?
秋山 長期的な物差しをもって戦いを準備することです。独立・自主の確立、人民民主主義革命の推進です。幅広い国民的な戦線を構築し、この闘いに勝利する、政治を労働者国民の手に奪い返すことです。そのためには大きなビジョンを打ち立てること、情勢を自分の頭で分析し、方向を語り合うこと、こうしたことが大事だと思います。
具体的な闘争課題としては、「台湾有事」を阻止し、「日中不再戦」の世論と戦線形成に力を入れること。国民経済・国民生活を再生・構築すること(食料自給・食糧安保の確立、農業者への所得補償)。沖縄を軍事の砦にさせないこと、平和とアジアの交流都市に発展を促すこと。日米地位協定の抜本改定。女性の社会進出と青年が活躍できる社会につくり直すことなどです。
——ありがとうございました。