労働運動

JAMグンゼSOZ労組の闘い 事業譲渡口実の労組つぶしはねのける

 JAMグンゼSOZ労働組合(大阪・茨木市)が「事業譲渡」という法の抜け穴を利用した組合つぶしに抗して敢然と闘い続けている。職場での波状的な全社ストライキ、本社や売却先への抗議の集会、デモで徹底的に闘い、会社の経営責任を追及している。グンゼSOZ労組の高辻圭委員長に闘いの経過について聞いた。(労働新聞関西支社)


売却先会社ホリゾンに「組合つぶしをやめろ」と抗議デモ(10月30日)

ーー今回の闘いの経緯を教えてください。

 春闘の妥結式直後の3月28日、経営側から組合三役に「メカトロ事業部を事業譲渡したい」との話がありました。まさに寝耳に水です。労使間で取り交わした「事前協議同意約款」(工場、事業所の閉鎖・廃止・移転・縮小・統合・分散などの際に会社が労働組合と事前協議することを決めた約束)に違反し、組合を無視する行為だと話を打ち切りました。ここから闘争が始まりました。

 事業譲渡の理由について、グンゼは「シナジー効果が生まれる」などと言っていますが、実際は経営に介入してくる労組と労働契約をつぶすことが狙いであるのは明らかです。

 譲渡先のホリゾン側は、一部の印刷機械で圧倒的なシェアをもつグンゼのメカトロ事業部の顧客情報などを得て、国内の販路拡大を狙っているのでしょう。譲渡後は雇用と労働条件は守ると言っていますが、保証は全くありません。

 すぐに臨時大会を行いました。会社側の説明会をすべてボイコットし、6月からは指名ストで就業拒否も行いました。

 グンゼは「事業譲渡は会社法のルールに基づいて行っている、労組と話すことはない」という一点張り。われわれは事業譲渡以前の労使関係を問題にしました。団交は平行線をたどっていました。

 8月2日にグンゼとホリゾンは事業譲渡の基本合意書を取り交わし、「9月26日には契約を締結する」と通告してきました。

 ここで闘争方針を拡大し、8月7日には西梅田公園(大阪市)でJAM大阪の支援を受けて約300人の集会とグンゼ本社前での街頭抗議行動をやりました。22日には大阪府労働委員会に不当労働行為救済申し立てをしました。JAMの大会でもこの闘争はJAM全体の闘いと確認され、9月2日には売却先のホリゾン京都本社前で抗議のデモを行いました。JAM大阪・山陽・京滋の仲間が集まり、その後も数回行いました。

 9月からは何度も全社ストライキを打って徹底的に闘いました。社前での抗議集会には450人が集まりました。こうした闘いにグンゼは9月26日、事業譲渡契約締結を「未定」と通知してきた。社会的ダメージを恐れたのでしょう。闘いは一つの成果を上げましたが、事業譲渡そのものは撤回されておらず、譲渡先のホリゾンは労組の存続も労働協約の承継も認めようとしていません。

ーー8月以降の職場と街頭での闘いが社会的に影響を与えたわけですね。

 8月からの闘争方針は社会運動化することでした。社会に向けて法の抜け穴を使った組合つぶしの不当性を訴えました。会社法のもろさ、抜け穴の問題点を、森山浩行衆議院議員や村田享子参議院議員にも各所の大会や国会内でも言及してもらいました。JAM大阪は全面支援、中央本部はもちろんJAM北関東から中国まで支援に駆けつけてくれました。JAM組織内の参議院議員候補者である郡山りょうさんは、JAM本部と連携して今回の闘いの争議動画をネットにアップしてくれ、今まで約8万回再生されています。こうしたこともあり、売却先への抗議行動は効果を上げている思います。JAMインサイトなどにも詳しい内容を掲載してもらっています。

ーー政府はM&A(企業の合併・買収)を推進しています。昨年は4千件のM&Aがあったそうですが、合併、株式譲渡、会社分割などと違って、事業譲渡には労働者保護の規制が弱いといいますね。

 私たちの闘いはM&A、ましてや会社同士の事業譲渡で労組や労働者の諸権利と生活が奪われないためにも負けられません。
 2016年に厚労省が出した指針(事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針)は、労働者保護がうたってあるものの、今回の交渉で経営側は完全に無視し、「指針にすぎない」とうそぶいて拘束力を持ち得ませんでした。海外では事業譲渡の際の労働者保護は当たり前になっているといいます。政治的な闘いは重要です。

ーー闘いを通じてどんなことに最も気をつけてきたのですか。

 一番気をつけているのは組合員の意識です。6月からの指名スト、全社ストなど経営に圧迫を加える闘争を4カ月続けてきたわけで、組合員としては自分の仕事が目に見えて少なくなり、事業譲渡されれば雇用を守れるのか、皆不安になっています。実際、この間に20代の若い労働者が4人退社しました。だから組合員のこの不安を怒りに変えることが大事だと考えています。

 なぜストライキをしなければならなかったのかを問い、正当な争議によって与えた経営のダメージを労働者に転嫁させず、会社にきちんと責任をとらせようとしています。「4人の若い社員が辞めたやめたのはおまえたちのせいだ」と。事業譲渡の是非や内容ではなく、これを争点にすることによって、いま組合員のモチベーションが上がってきていると思います。

 そもそも実際に仕事をしているのは労働者です。リーマン・ショックの不況期に会社は事業解体を提案してきましたが、われわれ組合員が力を合わせて在庫、原価・売価管理などをして経営再建を果たし、会社の攻撃をはねのけてきました。組合員の知識や意識は闘争を通じて大きく変わってきたと思います。

 今でも執行部で会議すると、ほとんどの議論は組合員の状況や対策についてです。執行部が毎日、組合員の顔を見ることを大事にしています。組合員から離れて組合活動はできない。昼休みの職場討議、夕方定時の集まりも皆が集まっているかを大事にしています。団結はそうしたなかでつくられると思うからです。

ーー今後の闘いは?

 まずは事業譲渡を白紙撤回させる行動を、JAM大阪の支援を受けてグンゼ、ホリゾンに対して行う予定です。

ーー私たちも皆さんの闘いへの連帯、支援を呼びかけたいと思います。ありがとうございました。

これまでの闘いの概略

 1989年に株式会社グンゼのメカトロ事業部が新大阪造機株式会社を吸収合併した際、当時の全金新大阪造機労働組合が「事前協議同意約款」を結ぶ。2002年に経営危機の中での合理化攻撃、08年リーマン・ショック後には印刷業界の急激な市場縮小をうけて、経営側がメカトロ事業部の解体を提案してくる事態のなか、14年に労働組合は本格的な経営再建闘争に入った。執行部が事務所に寝泊まりし2か月かけて経営分析し、2週間のストを決行し長期再建計画(対案)をつくって事業部解体を撤回させた。こうして最終的に経営再建計画が出された17年から3年間黒字転換した。職場を守り、組合員の意識や仕事のやり方も変わったという。なお、この闘争の経験は19年の本紙でも紹介した。

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