離婚後も父母双方が子どもの親権者となる「共同親権」を導入する改定民法が5月17日、参院本会議で自公与党と立民、維新などの賛成多数で可決・成立した。改定法は26年までに施行される。
同法にはDV被害者を支援する個人・団体などからさまざまな懸念が出されていた。特に、離婚する父母が合意していなくても裁判所が離婚後の共同親権を定め得る点については、合意不在のまま親権の共同行使を強いることにつながり、別居している親による干渉や支配が復活・継続する結果、子の権利や福祉が損なわれてしまうことが懸念されている。
改定をめぐっては、DVや虐待防止のための行政・福祉分野の支援強化を求めることなど12項目もの付帯決議が伴ったが、このこと自体が法案が問題だらけで改定が拙速だったことを示している。本来はこのような支援体制が整ってから離婚後共同親権の導入を検討するべきで、今回の改定は少なくとも拙速との批判は免れない。
国が離婚後共同親権の導入を急いだ背景には、国際離婚の際の「子どもの連れ去り」問題をめぐり、米欧などから導入しろと圧力をかけられていたことがあるが、実際に法制化を推進したのは、主に右派の政治家や宗教右派などによる後押しだ。
神社本庁や旧統一教会などは、もとより自らの家父長的な家族観・男女観を国民に浸透させ統制させることに熱心だ。一方で、選択的夫婦別姓の導入を徹底して拒み、性教育やLGBTQなど性的少数者をめぐる運動は陰湿に攻撃する。
しかし、離婚を選ぶ夫婦にこのような家族観を押し付けたところで元のさやに収まるはずもなく、DV・虐待の問題はなおさら解決しないだろう。離婚後共同親権の導入によって問題が生じたり被害に遭ったりするであろう人びとに対し、右派は無責任で冷淡きわまりない。とりわけ、子どもの権利や福祉に対してはまともな配慮がない。
なお、日本で離婚後共同親権が導入される一方、すでに導入されている米欧では、離婚後のDV・虐待が絶えないことから、子どもの権利を中心に据えて制度を見直すことを求める声が次第に強くなっている。たとえば英国では、「父母が離婚後も共に子どもに関わることが子どもの最善の利益につながるという考えを根本から見直すべき」という司法省の報告書が出されている。
「親権」という用語そのものを見直し廃止・変更すべきという声も徐々に広がっている。民法818条では子は「父母の親権に服する」とされているように、親権には「親が子を思い通りにする権利」の意味合いもある。明治民法の家父長制の影響が色濃く反映している。
「子どもまんなか社会」を掲げる岸田政権だが、このような改悪を主導した政治的な責任は重い。
親権そのものの見直しを含め、施行前の大幅な改正と制度の抜本的改正が求められている。