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米価高騰も稲作農民は時給10円 ぜい弱なコメ事情(長崎県・兼業農家 村地 洋一)

 先日、妻とスーパーを訪れました。妻が食品売り場を回っている間、私はコメの価格が気になり見に行きました。おおかた5キロの包装で、3800円前後の値が付いていました。1キロ当たり750円です。かなりビックリしました。

 テレビでは、東京でのコシヒカリ5キロの販売価格が今年1月4185円で、依然として品薄だと報道されていました。昨年1月は2400円前後、それが9月には3300円へ急騰し、それだけでなくスーパーからコメが消えるという事態にもなり、「令和の米騒動」と騒がれました。

 当時の岸田政権の農水相はこの高騰・品薄について、「コメの端境期なので、新米が出回り始めれば落ち着く。安心を」と話していました。

 しかし結局、新米が出回りはじめても価格は高騰したままでした。政府は生産と需要、流通の動向を完全に見誤ったと言わざるを得ません。

 諸物価の高騰も加わり、労働者家庭の生活は大変です。慌てた政府はこの2月、政府備蓄米を放出することを初めて表明しました。備蓄米は本来は凶作時の供給不足に対応するためのものです。異常な米価高騰に追い込まれたのです。

減反推進の仕事に憂うつ

 私は兼業農民です。畑作と稲作もやっていますが、野菜作りが軸です。コメは40アールの作付けで、自家米と併せて飼料米も少量ですが出荷しています。

 学校を卒業するとすぐに農協に就職しました。長男だったので、農協での仕事以外の日には農作業を両親と共に行っていました。

 農協では営農指導の担当となり、農家への農作物の栽培指導のほか、当時始まって間もない水田再編対策も担当することになりました。水田再編とは簡単に言えば減反政策です。そのころコメは、国民1億1000万人で1人当たりの年間消費量100キロ、国の消費量は1100万トンと言われていました。年間の生産量は1200〜1300万トンあったので、年間100〜200万トンのコメが国の在庫として残っていました。

 私の仕事は、コメ農家に地区ごとに集まってもらい、30%程度の減反を理解してもらうよう、説明のため行政と一緒になって毎晩のように各地区を駆け回ることでした。

 当時、10アールで5000円ほどの転作助成金が国から出ていたと記憶しています。水稲を作らないことで奨励金が支払われることを奇妙に感じていました。転作奨励金が出るといっても、水稲を作らないと水田に雑草が生えて荒れてしまいます。そのような反対の声を多く聞かされながら、なんとか渋々了解してもらいました。毎日、毎日、仕事に行くのが、とても憂うつだったことをありありと覚えています。

10年で日本農業は壊滅

 それから50年が過ぎました。国の調査では国民1人当たりのコメの消費量は50キロ。人口を1億2000万人とすると、国全体での消費量600万トン。生産量は680万トンです。50年前と比較すると消費量も生産量も半分になってしまいました。

 なぜでしょう。

 今年度産のコメをJAに出荷しましたが、キロ当たり350円の支払いでした。昨年までは250円でしたから、100円のアップです。しかし農家としては全くの赤字です。肥料・農薬などの高騰で生産コストは高止まりし、依然として農家所得が損益分岐点を超えらない状況です。

 一方、消費者に届くときはキロ当たり700円以上です。品質などを考慮しても、中間業者のマージンがあまりにも大き過ぎです。米価高騰は農民の利益に全く結び付いていません。

 昨年の農水省「営農類型別経営統計」によると、農業全分野での平均1時間所得、つまり時給は379円です。水田作はなんと時給10円となっています。さらに、個人経営体では、時給がマイナスの34円。これは水田活用の直接支払交付金などの各種補助金も含まれた合計金額です。労働者の最低賃金の100分の1。これがコメ生産のリアルな実態です。

 「はたらけどはたらけどなほ、わがくらし楽にならざり」…かつて石川啄木がそう歌いましたが、今や働けば働くほど赤字で借金が増えるというのが、個人コメ農家の現状です。いつの間にか農業に魅力がなくなり、私の周囲の農家も半減しています。このままの農政が続けば、年齢構成からみて、あと10年で本当に日本農業は壊滅します。

 販売価格に頼らない国の所得安定対策があればと強く強く思います。

コメ農政の抜本的転換を

 米価高騰問題を取り上げた先日のテレビワイドショーで、東京大学の鈴木宣弘さんの発言に思わず拍手しました。鈴木さんは「日本はどんどんコメを増産し、従来の生産型から需要創出型ヘ舵(かじ)を切らなければならない。備蓄を増やすほか、米粉のパンや麺を増やしたり、困窮世帯へのコメ支援など、需要は膨大にある。さらに輸出拡大という選択肢もある。国内需要が減っていくから生産も減らすという誘導を続けていたら、コメ産業は縮小していくだけだ」と話していました。

 コメ不足に対しても、作付け段階から使途の固定を義務付けて主食用への転用を禁止している現在のやり方を変えるだけでも、需給の変化に柔軟な対応ができるのではと思います。

 インバウンドでの需要拡大がコメ不足や高騰の背景にあるなどといわれていますが、それは主要な問題ではありません。

 問題なのは、コメの生産と需要の需給関係にわずかでも変化が起これば、たちまち不足したり高騰したりする「ぜい弱な現状」にこそ問題があるのではないでしょうか。そこにメスを入れない限り、こんにちのような事態は今後もたびたび起こるはずです。

 コメ農政の抜本的な転換が求められています。

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