楠城昇馬さん(くすき・しょうま、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース2年生)は、ハッピーロード大山商店街(東京都板橋区)の再開発問題についてのドキュメンタリーを制作、ネット上で公開して問題を提起している。制作の動機などについて聞いた。(文責編集部)
商店街を取材するようになったきっかけは、昨年5月に学校の授業で「商店街について雑感記事を書く」という課題が出されたことです。その一環として、自宅から大学までの沿線にあった椎名町駅(豊島区)周辺の商店街を取材し始めました。
当初は商店街の歴史や魅力について書こうと思っていたのですが、取材しているうちに再開発によって立ち退きを余儀なくされる店があることを知りました。私は、映像制作サークルで活動していたこともあり、今ある商店街や店の人の姿を映像として記録したいと思うようになりました。

授業の課題が終わった後も商店街に通うようになり、昨年6月には、100年近い歴史を持つ青果店の店主さんに頼み込み、市場への仕入れから閉店までの一日を撮影させてもらったりしました。再開発で数年後にはなくなってしまうかもしれない店です。そうなれば、この店の「いつもと変わらぬ風景」は失われ、月日が流れれば人びとの記憶からも失われてしまうでしょう。そうなったとき、ここにどんな人がいて、再開発に対してどんな思いを抱えていたのかを、せめて映像で残しておくことに意味を感じました。たとえ風景が一変したとしても、映像を通して何度も思い出し、この場所の再開発について継続的に考えていけると思っています。
「身の丈開発」どこへ?
その後、比較して知りたいと都内の他の駅前再開発の事例についても調べるようになりました。すでに反対運動がメディアで取り上げられていた大山商店街の再開発に関心を持ち、取材を始めました。
大山商店街は長さ560メートルの巨大アーケードで知られていますが、現在は再開発によって中心部分の約70メートルが解体され、アーケード街が分断されています。このような形の再開発に反対する商店主や住民が「大山問題を考える会」を中心に運動を行っています。

昨年11月、「考える会」の中心を担っている方々に話をお聞きしました。首都圏で86店舗のスーパーを展開するコモディイイダ(北区)の飯田武男社長や「考える会」の石田英二代表らが対応してくれました。
再開発の発端となったのは、東京都が進める都市計画道路・補助第26号線の整備事業です。都は東日本大震災を機に、「地域の防災性を高めるため」として、26号線の事業化を決定しました。アーケード街を貫くように道路(26号線)が建設されるため、一部の店舗や住宅は立ち退くこととなります。2014年当初、飯田社長が大山商店街振興組合から伝えられていたのは、道路建設により立ち退く店が入るための5階建て程度の商業施設を建築する、言わば「身の丈再開発」の計画でした。
事態が変わったのは20年。飯田社長らは突如として振興組合からタワーマンション建設の計画を伝えられました。タワマン再開発は事業費が高く、それに伴ってタワマンの家賃も高くなるので、立ち退いた店舗や住民にとっては入居のハードルが上がります。これでは慣れ親しんだ地域での営業や生活を続けられなくなる人、友人・隣人と離れ離れになるという人が出てくる事態は避けられないでしょう。石田さんはこれを「追い出しの再開発」と呼んでいます。
「考える会」は計画を「身の丈再開発」に戻すことを訴えています。お二人やメンバーの方は、タワマン再開発の内容だけでなく、十分に説明責任を果たしているとは言えない振興組合や再開発組合、行政、事業者などの姿勢にも疑問があると話していました。
私はタワマン再開発を進めている側にも話を聞こうと、再開発組合や振興組合にも取材を申し込みました。しかし、「忙しい」「意図にそぐわない形で言葉が切り抜かれることに対する懸念がある」などとして、対面での取材は受けてもらえませんでした。そこで文面を通じた取材を行いましたが、最初の回答を受けての二度目の質問には返事がもらえていません。
商店街の利用者にもインタビューを行いました。街頭で質問をすると、「アーケードが解体されて不便になった」「さびしい」という声が実際に聞かれました。一方で、反対運動の規模はだんだんと大きくなっているとはいえ、地元の人でも、再開発が行われている理由や、「考える会」の反対する理由などについて、十分に知っているわけではないという印象を受けました。また自分と同世代くらいの人たちにも聞いたところ、少なからず問題意識を持っている人たちはいて、再開発について地元の友人と話すこともあると聞きました。
この問題に関して、どうにか顔の見える議論の場が広がっていく一助になれないかと思い、私はこの3月、この問題に関する短編ドキュメンタリーや再開発の概要を解説する記事をネット上で公開しました。
現在、建築資材や人件費の高騰などを受け、全国で工事計画の見直しや取りやめが起こっています。採算が合わなくなればタワマン再開発計画が変更される可能性もあります。
今後もこの問題を追い続け、飯田社長が目標として語るように、いつか再びアーケードがつながることになるのであれば、その時を映像に収めたいと思っています。
インタビューは面白い!
私が大学院で研究しているテーマは、一見して再開発問題とは全く異なる、「テロリズムと報道」についてです。血盟団事件など戦前に起きた政財界の要人暗殺や22年の安倍元首相銃撃事件などの事例が、どのように報道され、語られてきたのかということに関心を持って比較研究しています。
一般に、国家や報道機関は「テロ」「暴力」などと一括し、社会的に排除しようとする傾向があります。
しかし、個々の事件の社会的文脈はそれぞれ異なりますし、構造的暴力の問題についても考える必要があります。私はテロのような暴力的な手法を支持しませんが、単に「暴力反対」と拒絶するのではなく、むしろ「暴力とは何か」を考えていくことに意義があると思っています。
再開発問題にも似たことが言えるのではないでしょうか。どうしても賛成派と反対派の対立というイメージで語られがちな傾向があると感じますが、実際はそうとも言えず、それぞれの再開発にはそれぞれの問題や事情もあります。大山問題の場合でも、「考える会」は再開発そのものに反対しているわけではなく、方向性やその決め方に問題意識を持っています。実際に私自身も、「考える会」をはじめとした街の人に実際に会って話を聞くことが、この問題についてさらに考えるきっかけにもなりました。
私が取材しインタビューをしていて面白いと思うのは、やはり世の中には実際に会って話を聞いてみないと分からないことが多いからでしょうか。実は、このインタビューについても、「政党の機関紙」ということで、受けるか少し迷いました。しかし、自分自身も取材することがある以上、申し込まれればできるだけ取材は受けたいと思いますし、そうでなければいけないと思います。実際に会って話を聞こうと思い、お話を受けることにしました。
卒業後は、報道機関で記者として働き始める予定です。丁寧に物事を知り伝える姿勢を今後とも大事にしていきたいと思ってます。