自民党総裁選が行われている。参院選に示されたように、国民の生活苦に背を向け、中国敵視の政治軍事大国化を進め、金権腐敗を極めた自民党は、有権者の支持を完全に失った。だが、総裁選5候補に反省の色が見えるはずもない。
戦後、わが国支配層が頼り切ってきた米帝国主義は衰退し、中国をはじめとするグローバルサウスが主導的役割を果たすようになった。世界史的変化が進む時代である。それだけでなく、世界資本主義も気候変動や人民の貧困化、地政学的危機などで末期症状を呈している。
自民党が比較第一党で公明党と連立する限り、こうした世界でわが国がどのようなかじ取りをするのか、限界付きにしても議論があってしかるべきであろう。だが、自民党総裁選での議論ほとんど見られなかった。多くの候補は、支持拡大を狙って「争点隠し」に終始した。
古賀元自民党幹事長が総裁選に関し、「戦後80年たっているのに、平和をどうするのかという一番大事なことを誰も言っていない」と批判したのは的を射ている。
外交・安保政策では、総裁候補である高市前経済安全保障担当相や小林元経済安保相を中心に、「中国への抑止」が唱えられ、軍事費の国内総生産(GDP)比を2%では「足りない」とばかりの大軍拡が喧伝(けんでん)されている。スパイ防止法制定も主張されている。
対米従属政治の枠内で、中国に対抗して政治軍事大国化を目指すものである。この方向で、日本は激動の世界を生き抜けるのか。
他方、石破首相は「戦後80年」に関する見解を出すことを表明、「戦争の記憶を決して風化させてはならない、二度と戦争を起こさないという観点が重要」と語った。
国連での石破演説は、わが国が「アジアの寛容の精神」に支えられ、世界の恒久平和に尽力してきたなどと述べたが、侵略戦争への反省はほとんどなかった。「戦後80年見解」の内容は現時点では不明だが、侵略戦争に真剣な反省を表明できるかどうか。
他方、高市氏は見解発表自体に「反対」を明言した。高市氏のもくろみは、「戦後70年安倍談話」の「上書き」を許さないという態度である。その「安倍談話」は、侵略や植民地支配の主体が日本であることを認めず、日本による「行い」も具体的でない、まったく無反省なものである。しかも、アジアへの謝罪は終わったとの立場である。
わが国の対アジア外交にとって「百害あって一利なし」で、自民党内でさえ異論があるのは当然である。
パレスチナ問題をめぐっても、石破首相はイスラエルの態度次第で「新たな対応」を取ると述べ、米国が反対するパレスチナの「国家承認」をにじませた。
これらは石破氏の「政治遺産」というだけでなく、対米・対中関係、わが国の独立をめぐる自民党内の矛盾、政治闘争を反映したものといえる。
こんにち、わが国は対米・対中関係をめぐる重大な岐路にある。
戦後日本の経済は、米国からの支援、朝鮮戦争「特需」、さらにブレトンウッズ体制下における有利な為替レートを使った対米輸出を中心に復興を遂げた。その後も、ドルと米軍事力に依存し、米国市場をあてにした投資や輸出を中心に、大企業は多国籍化を遂げた。
だがこんにち、大企業にとってさえ、米国市場は「不確実」で危機をはらんだものとなった。トランプ政権による追加関税や投資規制政策が実行されているからである。
とくに、追加関税の標的にされた自動車産業を中心に矛盾の拡大は避けがたい。下請け企業には、元請け大企業が米国への生産移管などを進めた場合、「自社への注文を減らしてくるのではないか」などの懸念が拡大している。
一方、中国への進出企業は約1万3000社、拠点は3万に達する。日本の中国への貿易依存度は輸出入合わせて約20%で、米国への依存度よりやや高い。これに中国と深く結びついた東南アジア諸国連合(ASEAN)を加えると、約30%にも達する。わが国独占資本、企業家にとって、中国・アジア市場は死活的存在となっている。
経済同友会は、3月に訪中した中国ミッションが「中国との競争または連携抜きにグローバル・ビジネスは成り立たない」と危機感をあらわにし、「企業経営者が、さらに管理職層を含む実務者層が中国の実態を知ること」が重要と指摘している。
これらは自民党に反映し、対米・対中関係をめぐる矛盾が激化しつつある。
自民党政治の危機と内部分化にもかかわらず、野党第一党の立憲民主党は何ら主導性を発揮できず、「日米基軸」の枠内で政策的対抗軸もない。共産党の「新しい国民的・民主的共同」も展望がない。これで日本経済の再生とアジアの平和を実現できるはずもない。
どの議会内勢力が権力を握っても、深刻な日米関係など難局に対処する展望を持ってはいない。世界の激変を直視できぬ、著しい立ち遅れである。
だが、立憲民主党内に日米地位協定見直しのための議員連盟(日米地位協定研究会)が発足するなど、前向きな動きもある。
対米従属政治を打ち破り、独立・自主でアジアと共生する国の進路を実現することこそ、激変する世界に対応し、活路を切り開く道である。