米トランプ政権が再登場し、「米国第一」をさらに強化している。
隣国のメキシコ、カナダは真っ先に追加関税の対象となった。欧州連合(EU)はデンマークのグリーンランド自治領を「武力を用いてでも獲得する」と脅され、「頭越し」のウクライナ戦争「和平」に揺さぶられている。中南米諸国も、パナマ運河を「取り戻す」とどう喝された。中国は引き続き、戦略的「敵国扱い」である。
米国の国際的孤立はいちだんと進み、「道義的権威」も失墜した。
トランプ政権によるなりふり構わぬ策動は、米国の抱える危機、国内矛盾の深さを示している。
「米国第一」策動は米国内の階級矛盾をさらに激化させ、破綻は不可避である。世界資本主義の危機をさらに深めることになろう。
対米従属のわが国はどうするのか。
USスチール買収問題での圧力に続き、トランプ政権は日本などからの輸入自動車に25%の関税を課すと発表した。
戦後、わが国独占資本は米国市場で膨大な利益を得てきた。かれらが対米従属政治の継続を望んだのは当然である。
だが、世界は激変した。中国をはじめグローバルサウスが前進し、世界経済・政治で主導的役割を果たすようになった。わが国独占資本も、中国の巨大市場なしには存続できない。
対米従属政治の転換は客観的に避けられず、財界は動揺を深めざるを得ない。対米・対中関係をめぐる政治闘争は厳しさを増すことになる。
国民的戦線をつくって対米従属政治を打ち破り、独立・自主でグローバルサウスと共生する政権を樹立しなければならない。
米国の孤立はさらに深まる
トランプ政権は誕生早々、グリーンランド自治領やパナマ運河への野心をあらわにし、メキシコ湾を「アメリカ湾」に一方的に改称した。パレスチナ人民への暴力に関与した、ユダヤ人入植者に対する制裁解除、気候変動対策のパリ協定からの再離脱、世界保健機関(WHO)からの離脱も表明した。
メキシコ・カナダへの関税に続き、中国への二度にわたる10%関税、鉄鋼・アルミニウム製品への一律25%関税、ベネズエラ産資源購入国への25%関税など、際限ない「関税戦争」を打ち出している。
こうした傍若無人の振る舞いは、諸国の反発を招いている。関税強化の対象となった諸国は、報復関税を発動または予定している。
グローバルサウス諸国が批判を高めているだけではない。
バイデン前政権が、ウクライナ戦争や中国への対抗で進めてきた「同盟強化」は打ち壊され、欧州諸国は米国への不信感を高めている。
米国の狙いは、中国の台頭を抑え込むとともに、諸国に犠牲を転嫁して自国の衰退を巻き返すことである。これはオバマ政権後半以降、手法に違いはあれ、トランプ、バイデンと続く政権下で一貫した戦略である。日本は最前線で、中国と争わせられる。
トランプ政権によるウクライナ戦争「停戦」などは、中国への対抗に政治的資源を集中することを目指したものだ。グリーンランドやパナマ運河問題も、中国に対抗するための戦略的要衝を確保する狙いである。
「米国第一」は破綻必至
何より重視しているのは自国経済の再生である。これなしに、国際政治面で巻き返すこともできないからである。
だが、関税引き上げは、インフレ加速、個人消費減速といった経済への悪影響が指摘されている。移民規制は産業競争力を低下させ、公務員削減や省庁再編はサービス低下と混乱を増大させる。言論や教育への統制強化も、政治的・社会的対立を激化させる。
そのような政策であっても、トランプ政権は行わざるを得ない。デタラメな「政策」を宣伝してきたツケだが、それを払わされるのは米国人民である。
労働者の貧困化と「格差」拡大、人種差別はいちだんと深刻化する。銃、暴力、薬物など、米国社会はすでに崩壊状態で、社会的分断は内戦的状態を呈している。
トランプ政権はこうした分断を背景に登場したが、「米国第一」の内外政策は、その分断と危機をさらに深める。人民の怒りの矛先は、遠からずトランプ自身に向かうことになる。
さらに、末期症状を呈する世界資本主義の危機を深めることになる。
対日圧力が次々と
米国の対外強攻策は、日本をも襲っている。
2月の日米首脳会談で、石破首相は米国産LNG(液化天然ガス)の輸入拡大を表明、「抜本的に防衛力を強化」と防衛費増額も約束した。対中国政策でも「台湾の国際機関への参加を支持」と、台湾を独立国として扱う方向に進んだ。
トランプ政権の要求には際限がない。
日米首脳会談でも、米側が日本に対し、28年度以降も防衛費を増額する数値目標を求めていたことが明らかになっている。日本製鉄によるUSスチール買収は、バイデン前政権による「禁止」を引き継ぎ「投資」とされた。係争は続き、解決のメドはない。
さらに、トランプ政権は3月26日、輸入自動車に25%の追加関税をかけると発表した。日本からの輸入関税は、現在の10倍以上に跳ね上がることになる。トランプ大統領は、「日本やドイツといった『友』こそ、自動車輸出で米国を痛めつけてきた」とまで述べ、一方的な追加関税を正当化している。
関税引き上げは、自動車メーカーや部品加工会社はもちろん、周辺産業にまで幅広く影響を与える。トヨタなどは当面、対米投資で「関税逃れ」を図るだろう。だが、米国についていけない下請け企業は存亡の危機で、これは日本国内の雇用にも直結する。
ただでさえわが国自動車産業は、EV(電気自動車)化の遅れなどで、中国企業に後れを取っている。追加関税は「泣きっ面に蜂」で、独占資本は、対米関係で従来のようにはやっていけなくなる。
わが国勤労諸階層は、一貫して、対米従属政治に苦しめられ続けてきた。農業・農民はすでに存亡の淵にあり、中小商店や地場産業も急速に衰退させられた。米金融資本やテック企業は、わが国国民経済・国民生活を収奪している。
大企業でさえ、米国の圧力で繊維産業や半導体産業が零落させられてきた。こんにち、わが国財界の中枢である鉄鋼や自動車産業までもが揺さぶられている。
対米従属政治は限界に達し、その転換は避けがたくなっている。
活路はグローバルサウスとの連携に
支配層、石破政権はどう対応するのか。
武藤経産相はわが国の追加関税「除外」を懇願し徒労に終わったようである。追加関税除外と防衛費増額を「取引」すべしという見解があるように、石破政権が水面下でさまざまに模索していることは疑いない。
わが国の活路は、中国をはじめグローバルサウスと連携することにこそある。
こんにち、米国を中心とする戦後秩序は崩れ、中国を先頭とするグローバルサウス諸国が主導的に振る舞う転換期となった。世界資本主義は完全に行き詰まり、新たな生産様式への移行が避けがたい「社会革命」の時代である。
グローバルサウスの中心となったBRICSは、人口で世界の約半分を占め、購買力平価GDP(国内総生産)のシェアはすでにG7を抜き、世界の3割以上となっている。独自決済システムの導入も検討されている。
とくに中国は、すでに購買力平価GDPで首位となった。生成AI(人工知能)・ディープシークに象徴されるように、科学技術面での発展も著しい。2000年代以降、科学者数、論文数などで、世界のトップに立っている。
グローバルサウスは発展を基礎に、ウクライナ戦争をめぐるロシア制裁、さらにガザ虐殺への態度などで米国・G7に与(くみ)せず、戦略的自立を堅持している。
現在の世界の主要矛盾は、米国を頂点とする帝国主義諸国と、中国をはじめとするその他諸国との間の矛盾である。こんにち、米国など帝国主義の衰退は著しく、グローバルサウス諸国は、経済力、政治力でも帝国主義をしのぐようになった。世界の主要矛盾の「主要な側面」は、帝国主義の側からその他諸国、中国をはじめとするグローバルサウスの側に移った。
わが国が世界の中で生きていこうとするなら、この変化を見定め、中国をはじめとするグローバルサウスと結びつくことこそ、時代の趨勢(すうせい)に沿う道である。
幅広い戦線で独立の政権へ
米中関係が厳しさを増す中、双方に大きな利害関係を有する支配層は、そのはざまで動揺を深めている。
経団連はUSスチール買収問題で「今後の対米投資、さらには日米経済関係への影響が憂慮される」と、不満たらたらである。「対米関係を見直す時が来た」(田中均・日本総研特別顧問)、「2040年までに米国に依存しない外交・安保が必要」(小泉悠・東大先端研准教授)などの声が広がりつつある。
一方、新浪・経済同友会代表幹事が「(日中は)今後も切っても切れない関係」とし、「自らの中国観を鍛える」などとする「中国ミッション報告」(23年5月)の具体化を明言している。財界は対中関係を深化させようとしている。
わが国の独立をめぐり、軍事大国化でアジアに敵対する道か、中国などアジアと共生する道か、「二つの路線」をめぐる争いは客観的に避けがたく激化する。支配層の一部は、中国に対抗して「アジアの大国」を目指す衝動を強めている。だが、現状、財界の多くは中間派あるいは「様子見」で、しかも動揺的である。
国会議員にも、与野党の中国訪問が相次ぐなど、「対米一辺倒」ではない動きがある。
広い戦線をつくり、独立・自主で中国をはじめグローバルサウスと共生する政権を樹立することこそ、日本の平和と繁栄を保障し、国民経済・国民生活を再生させる道である。