日中関係をめぐる、わが国支配層内の態度の違いが顕在化しつつある。
昨秋の高市首相による「台湾有事は存立危機事態」発言を機に、首脳級会談が開かれず、いくつかの訪中団派遣が中止になるなど「国交正常化以来で最悪」とも言える状況にある。
こうしたなか、岩屋毅前外相が日本国際貿易促進協会の派遣団で、財界人とともに中国を訪問、9月28日、王毅外相(共産党中央外事工作委員会弁公室主任)と会談した。翌日には、何立峰副首相(同財経委員会弁公室主任)と会談した。
この成果、前進に各方面から支持と期待が広がっている。筒井・日本経団連会長は、岩屋氏らに「期待」を表明し、「関係改善に向けた努力を継続していくことが重要」と述べた。
わが党は岩屋氏らの訪中団を断固支持し、日中関係を打開しようとする関係者の皆さんの努力に敬意を表する。
一方、高市首相は22日、トランプ米大統領と会談した。24日の米中首脳会談を前に、対中国政策をすり合わせ、トランプ政権による「抜け駆けの関係改善」を牽制する狙いであった。首相は直後に、対中政策で「緊密に連携していくことで一致した」と述べている。
だが、米中首脳会談でトランプ大統領は両国の緊密さを誇示し、米中を「かつて同盟国だった」と述べた。それは米中関係の力関係が「中国の優勢・米国の劣勢」へと転換したことを全世界に示すものとなった。以降の世界は、中国の主導性が高まる可能性が高い。しかも、トランプ大統領の「かつて同盟国だった」発言は直接の表現ではないが、米国が「一つの中国」の立場を認めたと解されるものともなった。
高市首相はこれに驚愕し、26日にも大統領に電話をかけ「日米はいまや最も信頼し合える同盟国」と泣きついた。
「台湾有事」をあおって中国敵視の先兵となってきた高市政権は「はしごを外され」、大きな打撃を受けている。対米従属外交の限界は明らかだ。
高市政権と岩屋氏らの訪中団、後者への経団連会長の高い評価という二つの対立する動きに象徴される、対中国・対米国をめぐる支配層内の分岐が浮き彫りになった。
対米追随で中国敵視の外交と闘う、広範な戦線を形成する好機である。
積極的役割果たした訪中団
岩屋氏らの訪中に対して、中国側は共産党政治局員二人が会談に臨む、厚遇で対応した。
王外相は、来年が国交正常化55周年であることを念頭に、高市発言を念頭に「再正常化のために」「間違った言動を速やかに是正すること」を求めた。
岩屋会長は「日中間の4つの政治文書の初心と原点に立ち返るようにしていく」と応じた。日中共同声明(1972年)、日中平和友好条約(1978年)、平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言(1998年)、「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008年)という4つの政治文書は、正常化以降の日中関係の基礎だ。
自民党政治家の岩屋氏が、この点に「立ち返る」努力を表明したことは重要である。
何副首相は「(日中の)経済・貿易の発展をさらに促す」と述べた。わが国経済にとって、中国はきわめて重要な存在だ。
岩屋氏がレアアース(希土類)輸出手続きの迅速化を求めたのに対して、何副首相は「民生分野であれば問題ない」と応じた。
レアアースは、自動車、電機・電子部品、医療・光学、産業、航空宇宙といった幅広い産業に不可欠な資源である。中国は、レアアースの埋蔵量で世界全体の約5割、鉱石生産で世界全体の約7割、加工工程で約9割という圧倒的なシェアを握る。わが国経済にとっても、きわめて重要な輸入資源である。
中国の輸出管理に不安を感じていた財界にとって、何副首相の発言は朗報だ。
また、米中は次世代の重要産業である人工知能(AI)開発で激しく競いつつ、「対話の枠組み」をつくることで合意した。
日本企業にとって、比較優位な半導体製造装置や基礎素材、化学薬品などをテコに、この競争に加わることは死活に関わる。そのためにも、対中国関係の政治的改善は欠かせない。
この会談に勢いを得た経団連は、11月、中国委員会企画部会による訪中団派遣を予定している。年度内、来年3月にも、経団連会長などが加わる大型訪中団派遣の準備に入った。経済界全体が「再正常化」に向けた動きを強めようとしている。
米中首脳会談の「成果」が背景
こうした中国の態度の背景には、直前の米中首脳会談で成果を得たことがあるだろう。
第一に、米中は、中国が主導した「尊重・公平・対等に基づく建設的な戦略的安定関係」を再確認した。これは昨年秋からの流れだが、トランプ政権はイラン戦争後の衰退のなかで、国内対策のための「時間稼ぎ」を必要としていた。
第二に、「同盟国」発言である。トランプ大統領は、第2次世界大戦で米中両国が「同盟国だった」と発言した。習近平主席も、「中米は肩を並べてファシズムの侵略と戦った。この歴史を中国人民は忘れず、米国人民も忘れていない」と呼応した。発言は歴史認識にとどまらず、台湾問題に関係する。
第2次世界大戦末期、米国と中華民国(当時)が参加した「カイロ宣言」では、日清戦争で日本が奪った台湾の「中国への返還」が明記され、それは「ポツダム宣言」にも引き継がれた。台湾の返還つまり「統一」は戦勝国の合意で、日本はそれを受諾して降伏した。
しかも発言は、中華人民共和国が、中華民国の正統な継承国家であることを認めている。間接的だが「一つの中国」の立場、つまり「台湾は中国の不可分の一部」と認めている。
中国は、国家の正統性と「一つの中国」の立場を強化することに成功した。
これらの歴史と台湾問題についての原則的立場は日中国交正常化の原点で、田中首相や大平外相など、当時の日本政府が認め、確認したものだ。以降の日中関係を導いてもきた。
第三に、米中関係が変化し、一時的な「協調」、より本質的には「対峙」に入ったことを伺わせる。戦後の米中関係の経過を経て、米国がオバマ政権後期から強めた中国敵視、「台湾有事」扇動や関税戦争を仕掛けた状況からの変化だ。
これを進めた背景は目前の中間選挙対策だけでなく、米国の衰退と国内階級矛盾の激化であり、半面で中国の興隆である。米中の立場は入れ替わった。米中の力関係の「対等」あるいは「逆転」が鮮明になっている。
中国は、抑圧され続けたグローバルサウスの中心で、世界の構造変化を促進させている。
「はしごを外された」高市政権
日本にとっては、台頭する隣国・中国とどう向き合うかが、ますます深刻に問われる。
米中首脳会談の結果、とくに「同盟国」発言は、台湾を独立国であるかのように扱って中国の内政に公然と干渉してきた高市政権にとっては、「驚天動地」であろう。
高市首相はわざわざ米中首脳会談に先んじて訪米した。首相は「対中認識を共有し日米同盟の絆の強さを再認識した」と強がったが、むしろ円安と積極財政を牽制された。
しかも国連演説で、国連憲章の「旧敵国条項」を削除するよう訴えた直後の「同盟国」発言である。米中が「ともに日本と戦った」と再確認したわけで、高市外交の大敗北である。
高市首相は、慌ててトランプ大統領に電話をかけ、真意を尋ねたという。首相は大統領に、「日本と米国はいまや最も信頼し合える同盟国」などと泣き言を言ったとされる。
米政権に対する影響力において、日中間に巨大な格差があることを、全世界に見せつけられてしまったのである。
高市政権は、アジアの大国として登場することを夢想している。ただ、単独では中国に対抗できず、米国の核に頼らざるを得ない。その米国に「はしごを外された」。それでも米国に頼ろうとする、高市政権の売国性は目に余るほどだ。
中国との共生こそ日本の活路
中国敵視の高市外交は、重大な危機に陥り、行き詰まった。こうした状況下での、岩屋氏らの訪中団であった。
マスコミの評価は割れており、特に「財界機関紙」たる『日経新聞』は動揺している。財界が望むのは、高市政権が進める、中国排除の「経済安保」とは真逆の方向だ。
玉木・国民民主党代表が「意義あること」と述べるなど、野党は概して好意的だ。櫻井よしこ氏をはじめとする右派が「中国による高市政権揺さぶりに使われた」などと難クセをつけているが、世論も若干、「日中関係打開」へ向き始めたようだ。
「風向きの変化」を感じたのか、高市首相は10月6日の所信表明演説で、「重要な隣国で、課題がある中にも長年の積み重ねがある」「意思疎通を図る」と、中国との対話へと修正を図った。
だが、「安保3文書」改定や大軍拡などは引き続き進められており、中国への敵視と排外主義が変わったわけではない。
それでも、自民党内の分岐や流動化が進むことは避けがたい。注目し、戦線を広げなければならない。高市外交の行き詰まりは、中国との平和・共生へと転換させる好機でもある。
わが党は、中国との平和・共生を求めるあらゆる行動を支持する。政治への不満を高める国民諸階層の怒りと行動と結び付け、日中間の平和と共生を目指す世論と運動を前進させることが、切実に求められている。