企画 インタビュー

人口的に持続不可能となった資本主義ーー大西 広・慶應義塾大学名誉教授に聞く

 私が2023年に上梓した「『人口ゼロ』の資本論」は、当初、世の「持続可能性論」に対する問題提起として書きました。私は「持続可能性の核心は人口問題である」と考え、専門のマルクス経済学の立場から論じました。翌年には、それを深める形で「バブルと資本主義が日本をつぶす」も書いています。

100年後の日本は4000万人

 現在、日本や韓国、ドイツなどいくつかの欧州先進国を中心に、人口が減少しています。

 国勢調査の結果によると、日本の総人口は08年をピークに減り続け、25年は1億2304万9524人です。2020年から309万6575人(2・5%)の減少で、5年で大阪市以上の規模で人口が失われたことを意味します。

 日本で合計特殊出生率(注1)が、人口置換水準(注2)である2・07を下回ったのは約50年前(1974年)です。しかし、実際に人口減少が顕在化したのはごく最近になってからです。25年の合計特殊出生率は、わずか1・14です。

 現在われわれが認識しているのは、50年前の状態の結果です。社会的認識は約50年遅れるわけで、そのぐらいのタイムラグがある。特に、東京など都市部では人口増加が続いているため、全体の人口減少に対する危機感が薄いのでしょう。50年後の状況は、まだ誰も十分に理解していないということを、認識する必要があります。

 結婚や出産は個人の選択の問題です。とはいえ、現在の日本は、男性が50歳時点で一度も結婚していない生涯未婚率は28・3%にも達しています。この現状では、結婚した家庭が平均3人以上子どもを産まなければ人口維持はできません。これは、現在の合計特殊出生率の2・5倍以上で、現実的に不可能です。

 このまま推移すれば、私の予測では、100年後の日本の人口は約4200万人にまで減少します。生産年齢人口は総人口の10%程度になるという試算もあり、社会保障財源の問題どころではない深刻な事態になります。

人口減少は資本主義の限界を示す

 資本主義は、資本家に自分の労働力を売るしかない労働者の存在を前提にしています。

 マルクスは、その労働力の価値が、労働者が生きて労働力を発揮し続けるために必要な衣食住などの生活手段(商品)の価値(再生産費)によって決まるとしています。賃金の本質は、労働者が働いた対価の「全額」ではなく、労働力の再生産費分だけです。労働者が自身の賃金に相当する価値を生み出す時間が「必要労働時間」で、それを超えて働く「剰余労働時間」が、資本家の取り分である「剰余価値」の源泉です。

 労働力の再生産には二つの側面があります。一つは、睡眠、食事、休息などにより体力を回復させるという「再生産」です。もう一つは、労働者が子どもを育て、将来労働力となる次世代を社会に送り出すこと、つまり「人口の再生産」です。

 個人の労働力だけでなく、人口が世代的に再生産されて初めて、資本主義は持続できます。そのためには、必要最低限の賃金が支払われ続けることが前提になります。

 ところが、人口は現実に減り続けています。これは「労働力の再生産費」が資本家によってきちんと支払われていないことを意味します。

 かつては、日本もそうでしたが農村からの労働力供給や、欧州諸国のように移民導入によって労働力を補ってきました。しかしこれも、現在では限界に達しています。農業部門にはもはや資本主義部門に供給できる人口はありませんし、円安とアジアの発展は日本を外国人労働者に選ばれない国にしています。

 人口減は、きわめてマルクス経済学的な問題なのです。

解決には社会化と平等化が必須

 人口減少は、新たな生産様式への転換が迫られる「社会革命の時代」であることを示すものです。過去の奴隷制社会、農奴制社会においても、人口減少が持続不能の指標となっていたという事実があります。人口減少は、新たな生産様式への転換を促してきたのです。現在の人口減少も、資本主義という生産様式の根本的な変革を求めるシグナルだと解釈できます。

 人口減少を解決するには、社会化(ソーシャライズドソサエティー)と平等化(イクワライズドソサエティー)が必要です。社会主義・共産主義を目指すことです。

 社会化とは、教育や社会保障制度の充実と所得再分配によって、育児・教育・医療などを社会的業務として担う仕組みを拡充することです。これは、社会主義的理想に対応する概念です。

 保健、医療などは資本主義下においても社会によって担われるようになっています。しかし、高齢者介護などではまだ不十分です。また教育無償化や、離婚した相手からの養育費徴収を行政が肩代わりするなども、人口対策として重要です。

 平等化とは搾取を解消した平等社会の実現であり、共産主義的理想に対応する概念です。

 資本主義は、低賃金の労働者の存在、すなわち「格差」を前提にした社会です。

 世界の超富裕者9人の資産合計は、世界人口の下位50%・約36億人の総資産と同等であるとされています。この超富裕層への集中を解消すること、つまり彼らの財産を政治の力で没収して貧困層に分配することが、平等化の現実的な出発点になるのではないでしょうか。そうしてこそ、貧困を解決し、安心して子どもを産み、育てられる社会に向けて踏み出せます。

 社会化と平等化のどちらか一方ではだめで、両方が必要です。不平等を放置したままの社会化(所得再分配)では不十分です。それは逆に、格差を拡大させてしまう可能性さえあります。

 例えば、貧困層への十分な対策がないまま「子育て世帯」への「所得再分配」を行えば、それは非婚で子どもをもうけられない人々から、結婚も子どもも持てる「ゆとりのある」人々への「逆再配分」になってしまいます。

 韓国の文在寅政権は、最低賃金の引き上げや非正規雇用の正規化などを行いました。しかし、低賃金の若者を放置した状況で結婚・出産が可能な家庭への補助のみを拡大したため、結婚・出産が可能な所得層を少しも増やすことができませんでした。現政権になってようやくほんの少しの出生率の改善がみられるようになっていますが、合計特殊出生率が1・0を下回る危機的状況からの脱却は本質的に見られていません。

大幅賃上げと非正規労働者の正規化を

 人口減の解決は、小手先の「子育て支援政策」では不可能です。長期的視野での政策論議が欠かせません。50年後、100年後の社会を具体的にイメージする想像力と、認識の刷新が急務です。

 経済的理由で結婚を断念せざるを得ない層をゼロにするには、最低限の労働力の再生産に足る賃金水準の保証が不可欠です。

 当面、最低賃金の大幅引き上げや、労働者の約4割を占める非正規労働者の正規化を含む労働条件の抜本的改善を優先すべきでしょう。男性では、正規雇用の50歳時点の未婚率が19・6%であるのに対して、非正規労働者では60・4%にも達します。彼らは「結婚しない」のではなく、低賃金や雇用の不安定さによって、「結婚できない」のです。

 「経済の活力がなくなる」という理由で、労働者の正規化などに反対する意見もありますが、同意できません。

 また現行税制度では、課税最低限問題に示されるように、わずかな所得増加でも税負担が増加する仕組みです。手取りを実質的に増やす制度改革が重要です。結婚を躊躇する要因を除去するという観点からの選択的な夫婦別姓の導入という提案も最近は出ています。

 個別の賃金改善だけでなく、システム全体をゴロンと変えるような体制的変革が必要です。資本主義体制そのものを問い直し、社会主義・共産主義を目指すことなくして、人口問題を解決して社会を持続させられない局面に達していると考えます。(文責・編集部)

(注1)15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を足したもの。1人の女性が一生の間に産む子どもの数の平均を示す。
(注2)人口が長期的に増えも減りもせず、一定に保たれるために必要な合計特殊出生率。


大西広(おおにし・ひろし)
 1956年生まれ。京都大学経済学部・同大学院を経て、立命館大学助教授。京都大学助教授・教授を経て、現在同名誉教授。2012年より慶應義塾大学教授を務め現在同名誉教授。著書に「『人口ゼロ』の資本論」(講談社)、「反米の選択」(ワニ・ブックス)、「バブルと資本主義が日本をつぶす」(ちくま新書)など。

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