南米ベネズエラ(ベネズエラ・ボリバル共和国)で7月28日、大統領選挙が行われた。中央選管はマドゥロ現職大統領の当選を発表したが、野党は「不正」と決めつけて非難している。
野党の背後にいるのは米国である。米国は「野党候補の勝利は明らか」との声明を一方的に発表した。欧州連合(EU)選挙監視団も、一旦は現職勝利の「受け入れ」を約束したが、後に覆した。
「キリスト教社会主義」掲げた独自路線
ベネズエラは、世界最大の原油埋蔵量を誇る。戦後、軍事政権から民政に移管したが、大地主と外国資本に依拠する二大政党は腐敗をきわめた。
1980年代、レーガン米政権によるドル高政策を背景に、中南米諸国はの累積債務危機が深刻化した。国際通貨基金(IMF)、世界銀行(WB)は、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる構造調整政策(いわゆる「新自由主義政策」)を押し付けた。各国の国内産業は破壊され、外資に乗っ取られ、社会福祉政策は著しく後退した。
ベネズエラでも、ペレス政権(1989~1993年)が、IMFと合意して緊縮財政政策を実行した。公共料金の大幅引き上げ、各種補助金の縮小・廃止、付加価値税(消費税)導入などで、貧困層の割合は倍増して国民の3分の2を超え、スラムは急拡大した。
1989年のカラカス暴動は、バス運賃の大幅引き上げをきっかけに起きた。
1998年、行き詰まった二大政党制を打ち破って登場したのが、チャベス政権である。
チャベス大統領は「キリスト教社会主義」を掲げ、米国からの自立、農地の農民への分配、石油産業を国家管理下に置き輸出収益を貧困層に配分するなどの政策を進めた。
石油公社は国営企業化されたものの、大企業の経営権は米国と結びついた勢力が維持しており、チャベス政権の転覆を繰り返し画策した。チャベス政権による諸政策は、かれらの利益を損ねるものだからである。
代表的なものは、2002年の軍部内親米派によるクーデター未遂事件である。これは米中央情報局(CIA)の援助の下で強行された。だが、反クーデターの国民デモに加え、中南米諸国も相次いで抗議し、クーデターはわずか3日で失敗した。
だが、ブッシュ米政権は2006年、ベネズエラへの制裁措置を発動するなど、政権転覆を諦めなかった。
2020年にも、米民間軍事会社「シルバーコープUSA」が扇動したマドゥロ政権転覆計画(ギデオン作戦)が実行された。これまた、察知したベネズエラ当局によって鎮圧されている。
米弁護士組合も「透明で公正」を保証
今回の「不正」キャンペーンも、マドゥロ政権を転覆しようとする、米国による画策の一環である。以下、米国の独立メディア「Geopolitical Economy Report」の報道を元に暴露する。
野党指導者らが引用した「不正」の証拠とされる「出口調査」は、米国政府と密接に関連しており、CIAによって設立された米機関で働いている企業によって作成されたものである。
この企業は「エジソンリサーチ」と呼ばれる米ニュージャージー州に拠点を置く会社である。同社は、CIAなどと連携し、ウクライナ、ジョージア、イラクなどで活動した「実績」がある。
「エジソンリサーチ」は、マドゥロ大統領31%、野党のウルティア候補65%と「予測」した。この「結果」はすぐさま、ベネズエラの野党指導者やイーロン・マスク(テスラ経営者)、ワシントンポスト、ウォールストリートジャーナルなどのメディアによって引用された。
ベネズエラ国内で信頼性が高いとされる独立系世論調査機関「ヒンターレース」による調査では、マドゥロ大統領が54.6%の投票を得たとしている。この調査結果は、ベネズエラ選管の発表(マドゥロ大統領が51.2%)に近い。
ベネズエラの選挙結果については、米国弁護士組合の監視員も「合法性、投票へのアクセス、多元主義に細心の注意を払って透明で公正な投票プロセスを観察した」と評価している。かれらは一方で、野党の「選挙制度への攻撃と民主主義プロセスを弱体化させる米国の役割」を強く非難してもいる。
わが国マスコミは、チャベス政権を継承した「マドゥロ政権のバラマキ的な政策」が経済苦境の原因であるかのように宣伝し、「有権者の支持を得ることはあり得ない」(産経新聞)などと決めつけている。
だが、経過を見れば分かるように、米国による経済制裁と政権転覆策動こそ、同国の一定の混乱の原因である。米国の「不正」宣伝を無批判に垂れ流す、マスコミの宣伝に惑わされてはならない。(K)