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ヒップホップで訴える パレスチナと世界の平和ーーDANNY JINさん(歌手、大学2年生)

 イスラエルは昨年10月以来、パレスチナ自治区・ガザに侵攻、3万人以上を虐殺している。米国は事実上、蛮行を支持し、岸田政権もこれに追随している。南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)に提訴するなど、国際的非難がイスラエルに集中するなか、岸田政権の態度はわが国を国際的孤立に導く道である。こうしたなか、日本でもパレスチナに連帯する運動が広がり、とくに青年・学生は毎週のように街頭行動を繰り広げている。デモで新曲「WAR&DEATH」を披露している、ヒップホップ・アーティストのDANNY・JINさんに聞いた。


——JINさんのバックグラウンドを教えて下さい。

JIN
 父はパレスチナ人、母は日本人のミクスト・レイス(混血)です。

 祖父は1948年のナクバ(大災厄・注1)でパレスチナを追われました。親族は、今もヨルダン川西岸に住んでいます。入植地の拡大や入植者による暴力や殺人、イスラエルによる監視と行政拘束(罪状や拘禁場所が不明なままの逮捕)の危険性に、日常的にさらされています。

 両親は米国で出会って結婚しましたが、僕自身は日本で生まれました。

 自分のバックグラウンドは小さい頃から意識していましたし、パレスチナ問題について学び、きょうだいで話題にしてきました。

——アーティスト活動はどのような形で行っているのですか。

JIN
 デビューは昨年夏です。10月からの紛争が、新曲を書く動機になりました。ユーチューブ・チャンネルのほか、スポティファイなどの各種音楽ストリーミングサイトでも曲を配信しています。もちろん、デモ(街頭行動)で歌うことも多いですよ。

——「WAR&DEATH」に込めた気持ちは、どんなことでしょうか。

JIN
 僕はパレスチナ人としてのアイデンティティーからだけでなく、一人の人間として、平和を望んでいます。

 紛争が始まったとき、僕は「いつものような小競り合いか」と思っていました。もちろん、それでも人が亡くなるわけですが。イスラエルが「戦争状態に入る」と宣言したことで、「これまでとは違う」「大変なことになる」と感じ、リリック(歌詞)を書き始めました。

 「WAR&DEATH」で歌っていますが、ガザで殺され、あるいは少年兵となって闘っている子供たちと僕は、同じパレスチナ人です。でも、僕自身は「平和」の中で暮らせていて、環境はまるで違う。

 同じ地球上で起きているとは思いたくないですし、無力さや葛藤を感じることも多いです。

——「人が死ぬ」という言葉が何回も出てきます。ストレートな言葉だと思いますが、あえて使っているのはなぜですか。

JIN
 「死ぬ」と繰り返すことで、現実を少しでも意識してもらえたらと思います。

 しかも「自然の死」ではなく、突然、理不尽で強制的に「殺されている」。本来、とても悲しいことなのに、僕の周りでも、それを何とも思ってない人が多いのではないかと思ってしまいます。だから抗議しないし、行動に移さない。でも、世界中のどこでも、「知らない人だから無関係」「死んでもいい」なんてことは、あっていいはずがない。

 よく「国際社会」と言われますが、「そもそも何?」と思います。ハマスの行動は、パレスチナが「国際社会」から不当に扱われてきたからでしょう。この理不尽の背後には、イスラエル政府、シオニスト、そして米国という明確な存在がいるし、それが「国際社会」だとされるのはおかしいでしょう。

 僕はその中でできることをするしかないわけですけど、こうした思いがリリックになっています。

——ところで、ヒップホップは黒人文化が発祥です。しかし「韻を踏む(押韻)」のは漢詩や和歌でも見られますよね。

JIN
 そうですね。その意味では、日本でもっとメジャーになってほしいですし、したいですね。

 ヒップホップはそれによってリズムを生み出しているところが、和歌などとは違う点でしょうか。

——パレスチナの平和に向けて、日本政府に求めることは何でしょうか。

JIN
 岸田政権は、イスラエルを支持し、軍事援助する米国とほとんど同じ態度です。虐殺の「共犯者」ではないでしょうか。

 パレスチナの人々は、イスラエルへのBDS(ボイコット、投資引き上げ、制裁)を呼びかけています。

 日本は本来、それをすべきですし、平和のためにもっと行動すべきでしょう。日本は国連の「停戦決議」に最初は棄権し、最近ようやく賛成しました。でも、この程度では「共犯者」という評価は覆らないと思います。

 こんな社会を許したら、いつ自分が同じ境遇になるかもしれない。それは台湾海峡での戦争かもしれませんし、沖縄かもしれない。広島・長崎への原爆投下に代表される、第2次世界大戦の悲劇を知っている日本は、世界平和に向けて発信する義務があると思います。

 同世代のみんなにも関心を持ってほしいですし、伝えていきたいですね。

——ルーツであるパレスチナを訪れたいですか。

JIN
 パレスチナ人、そして連帯している日本の仲間は「川から海までパレスチナ」というスローガンで闘っています。「ヨルダン川から地中海まで」という意味で、現在のパレスチナ自治区(ヨルダン川西岸とガザ地区)だけでない、全パレスチナの解放を意味しています。

 理想かもしれませんが、多民族で宗教の違いを超えた平和国家としてのパレスチナを訪れたいと思います。

——JINさん自身は、アーティストとして何を目指していますか。

JIN
 僕自身は、パレスチナ人としてのアイデンティティーを隠したくない。隠したら、発信しなかったらウソになるし、世界もパレスチナも平和にならないと思うんです。

 人が死に、傷つくのは見たくない。平和の中で生きたいし、平和だからこそアーティスト活動ができる。そこは守っていきたいですね。

 将来は、ヒップホップ・アーティストとして、ビッグになりたいです。まずは日本で成功し、さらに世界にも進出したいです。

 黒人差別にヒップホップで対抗した、2PAC(注2)のような、社会に影響を与えるメッセージを放てるラッパーになりたいです。

——壮大な夢ですね。ありがとうございました。

(注1)ナクバ イスラエルは第1次中東戦争の際、約80万人のパレスチナ人を暴力的に追放し、土地・財産などを奪った。
(注2)2PAC 米ニューヨーク市出身のヒップホップ・アーティスト兼俳優。

DANNY JIN(ダニー・ジン)
2005年生まれ、2023年8月にファーストシングル、9月にアルバムをリリース。現在、大学2年生。
ユーチューブ・チャンネル @DANNYJINHojiCha

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