物価高騰の国民生活への影響は予断を許さない。大幅な最低賃金引き上げが求められる。
石破前政権は最低賃金を「遅くとも2030年代前半までに1500円」という目標を掲げていた。しかし、高市政権は3月に閣議決定された「第6次男女共同参画基本計画」でこの目標を覆し、「適切な価格転嫁と生産性向上支援によって、最低賃金の引き上げを可能とする環境を進めていく」ことを目標とした。さらに、7月に閣議決定された「骨太の方針2026」では、「労働生産性の継続的な向上を図ることで、遅くとも30年代前半のできる限り早期に達成」と、目標を後退させた。
そのようななかで26年度の地域別最低賃金が決まり、10月1日から各都道府県で順次引き上げられている。引き上げ額は過去最大だった前年度の66円を下回り、全国加重平均(注)は1177円、前年から56円の引き上げとなった。これでは、長引く物価高騰にあえぐ労働者が生活できる賃金には遠い。
連合も事務局長談話で、「現在の地域別最低賃金の水準は、連合が試算した最低生計費を下回っており、働く人のナショナルミニマム(国家が国民に対して保障すべき最低限の生活水準)として不十分」と指摘した。
全国一律最低賃金が必要
厚労省の諮問機関・中央最低賃金審議会(中賃)がランク別に示した目安額を上回った地域は33府県(昨年39道府県)。「目安超え」は、地方最低賃金審議会が、全国の最賃近傍の労働者約660万人(女性の短時間労働者が半数を占める)の生活難の現状や、最低賃金決定の三要素(生計費、賃金、賃金支払能力)の中でも、生活を維持するために必要な最低限の生計費を重視せざるを得なかった結果と言える。
また、前年度に大きな問題となった、最大半年遅れた最低賃金の「発効日」は、多くの県で10月とされた。しかし、11月が10県、12月が2県(熊本・沖縄)で、いまだ12県で発効日が遅れ、労働者に不利益となっている。
また、目安額を超えた33府県のうち、引き上げ額が最も高いのは佐賀の65円、次いで鹿児島の64円、高知の63円、沖縄の63円であった。都市と地方の地域間格差は是正されていない。
改定後の最高額は東京都の1280円、最も低いのは宮崎県の1085円で、195円もの差がある。地域別制度を見直し、生計費原則に基づく全国一律の制度を実現させたい。
最低賃金水準では暮らせない
仮に、全国最高となった東京都の時給を月給換算(稼働日22日)すると、天引き前の総支給額は22万5280円で、年収約270万円。独身39歳以下(介護保険未加入で社会保険加入)の労働者は、社会保険料・所得税・住民税の天引き後、概算月収は18万2000円、年収218万円。所得税がゼロになる年収ライン(年収の壁)は、税制改正、26年分は178万円となった。最低賃金で働いていても課税されるという、国民負担率45・7%の現実がある。
国民民主党や参政党の「手取りを増やす」という主張が、若年・中堅労働者に支持される根拠が垣間見られる。
また、社会保険負担が発生する「106万円の壁」は、2026年10月から撤廃され、「週20時間の壁」に移行、週20時間以上の勤務が社会保険加入の条件となった。最賃近傍労働者の半数を占める女性労働者たちの自立はさらに阻まれる。
人間らしく生きられる社会へ
そもそも賃金とは何か、労働者とは何者なのか。生産と分配の仕組みそのものについても、問い、考えたい。
生み出された富を誰が受け取り、どう社会に還元するのか。利潤最優先ではなく、生活を生産の目的に置くことはできないだろうか。現在の労働運動にとっても大きなテーマだ。
特に女性の低賃金、非正規労働、ケア労働、少子化、最低賃金を一本につなげて考えると、「最低賃金を上げる」という要求のさらに奥にある、社会の再生産を誰が担い、誰が負担し、誰が利益を得ているのかという構造が見えてくる。
最低賃金引き上げを、単なる金額の問題にとどめず、人間らしく生き、働ける社会をどうつくるのかという課題として考え、行動したい。(M)
(注)都道府県ごとの労働者数を重みとして算出した平均。