今年、世界・日本をめぐる情勢はどうなり、日本労働党はどう闘うのか。常務委員の同志4人が座談会で語った。参加者は長岡親生(総政治部責任者)、大嶋和広(宣伝局長)、田中剛(沖縄県責任者)、司会は竹井一郎(労働新聞編集長)の各同志。
竹井 あけましておめでとうございます。1年前も同じ顔触れで座談会をしました。「新鮮味がない」と感じた読者の皆さまには申し訳ございません(笑)。
昨年は、米大統領選でトランプ再登場が決まった後で行われました。私たちはこれによって米国の衰退は早まるとの見通しを立てていました。ただ、予想以上にトランプ政権の内外政策はめちゃくちゃで衰退が加速したというのが私の感想です。
さて、まずこの1年に世界ではどのようなことが起こったのか、日本がどのような国際環境に置かれているのか、そのことを確認したいと思います。
大嶋 昨年1月にトランプ米政権が再び発足しました。私たちは米国内の階級矛盾の激化がトランプ政権を誕生させ、またそのトランプ政権がさらに米国内外の矛盾を激化させるだろうと予測しました。
国内においては、「不法」移民の摘発・強制送還の強化や親パレスチナ・反イスラエルの活動家への弾圧、大学・研究機関への補助金停止や留学生の受け入れ厳格化、政府機関の大規模な改革と支出削減・公務員の大量削減、多様性・公平性・包括性(DEI)推進方針の廃止など、まさしく暴君のように振る舞いました。
対外的にも、なりふり構わない関税攻撃を仕掛け、いわゆる同盟国との結束は大きく揺らぎました。バイデン前政権時代は対中国上重視していたインドやブラジルとの関係も最悪になっています。ウクライナ支援をめぐって欧州連合(EU)との距離も広がっています。
相互関税の発動だけではありません。隣国のカナダを米国の「51番目の州」などと言って本気で併合を策動しました。デンマークのグリーンランドへの野心も同様です。ベネズエラに対しては事実上侵略戦争を仕掛けています。パレスチナ・ガザ地区で虐殺を続けるイスラエルを支え、またイランへの直接攻撃にも踏み切りました。気候変動対策に関する国際的な枠組みであるパリ協定や世界保健機関(WHO)からも離脱しました。
11月にブラジルで開かれたCOP30(国連気候変動会議)は象徴的だったと思います。気候変動は途上国により大きな影響を与えており、気象災害や農業被害などで民族紛争や気候難民、飢餓などの問題も深刻化している。しかしこの会議に米国は参加さえしなかった。他の先進諸国も財政的な制約から積極的な役割を果たせなかった。
一方で、中国や開催国のブラジルはグリーン経済への投資や交渉で重要な役割を果たした。中国はこれまでも途上国の側に立って先進国に要求する役割を担ってきたが、もっと積極的に世界を主導する役割を果たすよう変わってきた印象があります。
高まる中国の国際的主導性
長岡 米中関係の変化で言えば、特に中国側の対応が大きく変わりつつあることが特徴だったと思います。中国はトランプ関税への対抗や、9月3日の反ファシズム戦争勝利80年軍事パレード、10月の米中首脳会談とその後の高市発言や台湾問題をめぐる対応を見ても、対米関係が「戦略的防御」から「戦略的対峙(たいじ)」の段階に移ったという認識の下で戦術的な対応を始めたように私は思います。
労働党は、20年ほど前の第6回大会(2005年)で、先進国内の階級矛盾などいくつかある基本的な矛盾の中でも、世界の動きを決定づける主要な矛盾は「米国を中心とする帝国主義とその他諸国との矛盾」であると規定しました。そして、その両者の間の「主要な側面」は、その時点では依然として「米国を中心とする帝国主義」側でした。
2008年のリーマン・ショックとその後一連の経過を経て、経済面での力関係を背景にして国際政治面でも中国、インド等を中心とする「その他諸国」が急速に台頭しました。技術革新もその変化を加速させたと思います。米軍のアフガン撤退、ウクライナ戦争を契機にして、「主要な側面」はこれまで帝国主義の抑圧、圧迫を受けてきた「その他や諸国」に、いわば中国をはじめとするグローバルサウスに変わりましたね。そうした流れは一昨年の新興国グループ「BRICS」拡大会合、昨年の拡大上海協力機構会議などでも明らかです。昨年は、その流れのなかで米中関係の変化が際立ったと思います。
田中 トランプ大統領が昨年10月に中国の習近平国家主席と会談した際に、米中関係を「G2」と表現したと報じられて波紋を呼びました。日本やEU、とくに高市首相は内心穏やかではなかったでしょうね。このG2の是非はともかくとして、少なくとも中国敵視を続ける米国ももはや中国と「全面衝突」できるほどのパワーはないという状況ではないでしょうか。
その表れの一つとして、トランプ政権は同盟国・非同盟国にかかわらず無差別に関税攻撃を仕掛けましたが、「本丸」であるはずの中国は攻め切れていない。「米国を手玉にとる中国」などと言う識者もいるようです。中国はレアアース規制などで対抗し、トランプが得意だと自負するディール(取引)に応じていない。むしろ米国が譲歩を迫られた。米国の横暴な要求に苦渋を飲まなければならない中小国にとって、中国の存在と行動は心強いのではないでしょうか。
中国は2015年ごろから「新型国際関係」という外交理念を提唱している。これまでのような米国を中心とするいわゆる西側諸国、先進諸国が中小国、新興国にかつての「宗主国」のように振る舞うのではなく、「対抗せずに協力し、独占せずにウィンウィンを目指し、ゼロサムゲームと勝者総取り方式をやめる」ことを核心とする関係のことのようです。このような中国の提唱が世界で広く受け入れられているのではないでしょうか。「一帯一路」構想にも中小国を中心に参加が広がるとともに、各種大型プロジェクトが具体化しています。
竹井 昨年はディープシーク・ショックというのもありましたね。1月に中国の人工知能(AI)企業であるディープシークが、これまでの常識を覆す低コストで高性能な生成AIモデルを発表しました。オープンソースで消費電力も圧倒的に少ないとのことで、新興国や途上国を含む世界市場で選好され、世界に広く恩恵が及ぶのではと話題になった。一方、AI開発競争における米国の優位性が揺らぎ、NVIDIAなど米ハイテク株が軒並み急落しました。ソ連による世界初の人工衛星スプートニク打ち上げが米国に衝撃を与えたスプートニク・ショックになぞらえられました。
スプートニク・ショックとの対比と言えば、2017年に中国の研究チームが「量子もつれ光子対配送実験」で、人工衛星と地上の受信基地の間の量子通信を世界で初めて成功させた時にも「第2のスプートニク・ショック」と報道されました。
このように報道され話題になることは氷山の一角でしかなく、科学技術の方面でも米国の優位性はかなり揺らいでいるのは間違いないでしょうね。
大嶋 自動運転技術などに関しても、日本では米国のGPS(全地球測位システム)使用を前提とした開発、つまり米国が軍事プロジェクトとして始めた人工衛星を前提としたものが一般的ですが、中国では街角中に設置されたセンサーで自動運転する技術を開発しています。米国から通信衛星の使用を停止するような経済制裁を受ける可能性があることを想定しているわけで、安全保障の観点から独自開発している。こういうことも重要ですね。
米国による中国への半導体輸出規制も、結局は中国の自前の半導体開発を後押しする結果となっている。このような戦略のない場当たり的な対応にも米国が落ち目であることがにじんでいるように思えます。
安全保障でも米国第一主義顕著に
長岡 米国の衰退は安全保障政策にも表れていますね。11月に米国は第2次トランプ政権になって初めての国家安全保障戦略(NSS)を発表しました。米国は、世界に介入せず、南北アメリカという縄張りを守るとの「モンロー主義のトランプ系」を掲げたことが話題となりました。これは19世紀の、ないしは20世紀のルーズベルト流のモンロー主義とは異なります。今回の姿勢は明確に帝国主義の力の衰退を背景にしたものです。
問題は東アジア戦略です。バイデン前政権下の2022年に公表されたNSSでは、中国を唯一の戦略的競争相手とし、台湾問題で「力による一方的な現状変更」を明確に非難していましたが、今回は「支持しない」とトーンダウンしています。
ただ、米国はすでにオバマ政権時代から、オフショア・バランシング、つまり台頭する中国を抑え込むために日本や韓国を使う戦略をとっています。今回はそれを徹底させ、とにかくおまえらで軍備増強をしてやれということでしょう。より巧妙な勢力均衡政策ともいえます。
トランプ政権には、コルビー国防総省政策担当次官のようにあくまでも中国抑止に重きを置くブレーンもいます。ヘグセス国防長官らは3月にあくまでも米国の覇権を維持する国防戦略を出していますね。今回のNSSで米国の対中国政策が完全に変わったと断じるのは早計ですが、いわば日本は、はしごを外され、見捨てられ始めている。そして先に述べたように、中国はその米中関係の変化を前提とした対日政策を取り始めているということなのでしょう。
日本の経済は、最大の貿易相手国である中国と敵対してはやっていけないはずにもかかわらず、日本の支配層は中国の台頭をおそれて日米同盟一辺倒での安全保障をやってきたわけですね。こんにち、それが外交・安全保障で重大な局面に直面している。
昨年暮れ、高市首相の「存立危機事態」発言の撤回を求める院内集会を呼び掛けた際、十数人の国会議員と話をしましたが、そうした世界の変化、米中関係の変化に無自覚な政治家が少なくなかったという印象を受けました。
田中 沖縄や西日本で行われている軍備増強などを見ても、自衛隊はかなり臨戦態勢を強めていますね。米国の軍事力がまだ世界一であるうちに中国を抑えてアジアの覇権を握りたいと思っているのでしょう。
ただ、仮に「台湾有事」が発生しても、米国が中国と全面的に戦争することはできないのははっきりしています。これは伊波洋一参議院議員が以前から鋭く指摘しているところです。
そうなると、日本が中国と血を流す戦争の先頭に立たされ、特に沖縄県民が犠牲となる。まさに「捨て石」です。ウクライナ戦争と同じ構図です。
最近は自衛隊と靖国神社の関係が問題となっていますが、軍国主義の精神で中国に対抗できると思っているのでしょうか。防衛省や自衛隊の幹部が日中の力関係の逆転など、情勢を正しく認識しているのか大いに疑問です。中国は2010年に国内総生産(GDP)で日本を追い抜きましたが、現在では購買力平価で見ると日本の3倍も大きな大国です。経済でも軍事でも到底対抗などできません。
ただ、わが国支配層は中国と戦争することに全面的には賛同していないでしょうね。米国市場と密接な関係を持っている大企業や、相当に米国と関係の深い政治家・官僚を除けば、むしろ中国との戦争をやむなしと思っている者は少ないのではないでしょうか。最近の財界の見解を読むと、中国との関係改善を求める意見が目立ちます。
長岡 財界は高市発言に対してこれまでになく「原則を重視すべき」などと踏み込んだ発言もし始めています。一方、売国的な官僚、対中関係で緊張をあおることで政権を維持しようとする高市首相ら、排外主義的な右派勢力には警戒が必要ですね。日中戦争を阻止する、戦争に近づく政策を摘み取っていくような、最も広範な運動、戦線形成が肝要だと思います。
根本的に問われる日中関係
竹井 昨年10月に発足した高市首相は、ほどなく「存立危機事態」発言で日中関係を国交正常化後最悪と言われるほど悪化させました。本来はトランプ関税の影響を軽減するためにも中国と良好な関係を築き経済交流を活発にしなければならない状況だったはずなのですが。観光産業から始まる経済的な打撃もあらゆる産業に及び始め、日々深刻になっています。
田中 沖縄県民の多くは高市政権発足に強い危機感を抱いています。石破前首相は、「日米地位協定の見直し」というようなことも言っていたが、高市首相は一切何も言わない。昨年は1995年に起きた米軍人による少女暴行事件とそれに抗議する県民大会から30年を迎えたが、米軍由来の事件や事故も依然として続いている。米兵による少女暴行事件に抗議するために一昨年12月に開かれた県民大会の実行委が昨年改めて政府に日米地位協定の見直しなどを求めました。しかし、形ばかりの「再発防止」を繰り返す政府に対し、「『再発防止策』はまったく効果はない」と断じられました。PFAS汚染についても米軍は難癖をつけて県が求める基地への立ち入り調査を拒否、しかもその回答を政府はずっと県に伝えていなかったことが発覚しました。「西田発言」に見られるように沖縄戦を美化するような歴史歪曲(わいきょく)の動きも顕著です。
またご存じのように県経済は観光産業に支えられていますが、高市発言後に中国人観光客のキャンセルや予約減が相次ぎ、じわじわと経済に打撃を与えている。2024年沖縄県に中国本土と香港から来た観光客は全海外客の約2割で、経済効果は327億円超、1人当たりの消費額は13・6万円と、他国籍者に比べ高額だった。県経済への影響は甚大です。
日本全体で見ても経済的な打撃はますますひどくなるでしょう。高市政権に不満をもつ経済界からの声は高まらざるを得ないでしょうね。
長岡 高市発言で日中関係は危機的状況となっています。しかし、長期化した後でそのまま元に戻るのかと言うとそうは思えない。先に述べたように中国の米国や日本に対する対処はもっと先を見た戦略的なものだと思います。容易ではない事態です。
高市首相は、存立危機事態発言後の国会答弁でサンフランシスコ講和条約について触れ、「台湾の地位は確定してない」とわざわざ言いました。これはこれまでのいきさつを考えると外務省の公式見解と見てよいですね。中国はサ講和会議に招待されず認めていない。中国からすれば、日中間の戦争が終結(抗日戦争に勝利)したのは1945年9月2日、戦後が始まったのは日中国交正常化時点からです。中国は国交正常化時の約束事を反故(ほご)にするのであれば、1945年時点まで戻る、下関条約まで戻る、さらには沖縄の帰属問題まで触れる発言をしています。
中国はアヘン戦争以降の、列強による半植民地化、香港・台湾などの割譲の「国辱」の歴史を取り戻す「中華民族の偉大な復興」をめざすという意識が明確です。
日本の政治家が歴史認識をきちんとし、国交正常化の意義を自覚しなければ、中国ときちんとした関係を築けないのではないでしょうか。
中国共産党は、抗日を闘いながら、地主、買弁資本家らの旧体制の支配に反対し、その抑圧下にあった農民・労働者に依拠して、国共内戦を勝ち抜き社会主義の新中国を樹立した。困難や過ちを経験しながら、今なお13億の中国での政権を担い、経済や科学技術でも米国を凌駕(りょうが)しようとしています。
これからの世界、日本社会の変革を考えるうえで、中国の壮大な実験はとても重要だし、われわれはさまざまなレベルで中国との連携を強めるべきではないでしょうか。
竹井 ところで、今回の高市発言を米国は明確には支持していません。むしろ、トランプ大統領は高市首相と電話協議した際、台湾問題で中国を刺激しないよう注文を付けたと伝えられています。米国にとっては自国第一、経済第一でこの局面では対中関係を重視したのでしょう。
それどころか、この問題が長引けばトランプ大統領が「仲介者」として名乗り出るかもしれません。米国にとっては、中国に仕掛けた関税攻撃で返り討ちに遭い、中国との関係を改善したい局面で高市発言があったのですから、かなりありがたかったのではないでしょうか。
本来「台湾有事」は米国が仕立て上げた「問題」で、日本にとっては米国から負わされた問題です。高市発言以降の日中関係の悪化の背景には、本当は米国の対中政策があるにもかかわらず、はしごを外されようとしている。
今回の事態から明確にするべきなのは、日中関係を本当に確かなものにするためには、米国からの自立が必要だということではないでしょうか。
大嶋 対米従属下での日中関係が曲がり角にきていることは間違いない。
1972年に日中は国交を正常化させましたが、前年に米国が中国との関係を改善させたという前提があってのこと。この際に、中国側は日米安保条約を問題視したが、米国は「日本の軍事大国化を抑えるため」という「ビンのふた論」を出して渋る中国を説得した。日本の侵略や戦争に対する賠償や尖閣諸島の問題なども含めて中国側からすれば不満があったものの譲歩した上での日本との国交正常化だった。労働党は結党直後の1974年、日中共同声明を高く評価しつつも「正常化は対米従属の枠内ではあるが」と但(ただ)し書きをつけている。
日中国交正常化は、スタートではあったけれども、そこで終わらせてはいけなかった。
長岡 日中国交正常化の時には関西を中心に財界も動いたが、岡崎嘉平太さんら当時の経済人には、単に経済的利益だけではなく、侵略戦争に対する反省の気持ちがあった。国交正常化後のこの五十数年、日中間の交流は経済に偏り、歴史の反省に立って長期の日中関係を展望することが不十分だったのではないかと思います。
このことは対米従属下で侵略と戦争の責任が免罪された戦後日本に言えることで、こんにちの排外主義の台頭を主体的にとらえるうえでも重要なことではないかと思います。
昨年は戦後80年という節目でした。かつての侵略戦争を踏まえ新しい日本の方向性やアジアとの関係を考えるような若い世代を育てたいと、私たちは夏に若者訪中団を派遣したりもしました。このような活動は今後も強めたいと思っています。
田中 沖縄でも「沖縄を平和のハブとする東アジア対話交流プロジェクト」の催しが行われ、私たちもその成功に寄与することができました。夏の若者訪中団には沖縄の学生も参加し、訪中後に開いた報告会には幅広い人が参加しました。そもそも沖縄と中国との関係は琉球王朝以来、600年の歴史があります。全国で日中関係を打開し、発展させる上で沖縄での動きは重要だと思います。
昨年、長らく自民党政権を支えてきた公明党が高市政権の発足にあたって連立から離脱しました。ご存じのように公明党、そしてその党を支持する創価学会は1972年の国交正常化以前から中国との交流に力を尽くしてきました。斉藤代表は高市首相の「存立危機」発言を厳しく批判しています。同党が昨年5月に提起した「北東アジア安全保障対話・協力機構の創設」を柱とする「平和創出ビジョン」にも注目しているところです。こんにちの日中関係の打開に向けて、公明党の皆さんと一緒に汗を流すことを願っています。
米帝国主義という視点必要
竹井 私も訪中団に随行の一人として参加しました。若者が訪中するなかで、歴史や現在の中国のことなど、少しでもいろいろなことを学び今後の平和に生かしていこうとしている姿勢に感銘を受けました。
同時に、「一つの中国」についての考え方には、世代差も反映しているのか、違いがあると感じました。一概には言えませんが、若い世代の、特に人権問題に関心があったり、パレスチナ連帯運動に関わったりしている人ほど、「一つの中国」を「大国・中国による台湾併合」と見る。「一つの中国」は日中間の約束であり、かつての侵略に対する反省でもあるのですが、「だからと言って台湾の民意を尊重しなくてよいのか」という意見は出る。
このような意見は、国会議員・地方議員を問わず政治家にも広く見られます。視察で台湾と交流があるという議員は驚くほど多い。であればなおさら台湾の人に寄り添いたい気持ちが出てくるでしょう。もちろん台湾にもさまざまな立場や意見の人がいるし、また交流の窓口となっているのがどのような団体なのか、全米民主主義基金(NED)の関与があるのか、などには個人的に関心があるところですが。
日本中でここ15年ほどは猛烈に「中国の脅威」宣伝が強められています。だからこのような傾向に世代は関係ないのかもしれませんが、それでも侵略戦争の傷跡が深く貧しい中国を知っているシニアと、世界第2位の軍事経済大国である中国しか知らない世代とでは、印象の根本が違うように感じます。
また、米国に対する印象も違うのかもしれません。朝鮮戦争やベトナム戦争など、米国がアジアで東アジアで行ってきた介入をリアルタイムで知っているかどうかでも違いはあると思います。朝鮮半島の分断も「台湾問題」も米国の存在なしにはあり得なかった。このことに対する、頭の理解というより、肌感覚の違いのように感じます。
台湾の人にも世代間格差はあるでしょうね。台湾では民進党政権になってから「本国史」が「中国史」と「台湾史」に分けられるなど、ここ25年ぐらいで台湾人としてのアイデンティティーを強調する教育改革が進んだ。日本の私たちが「台湾の自己決定権を」などと主張したら、私が学生の頃に「戦後50年」について一緒に議論した台湾からの留学生だったら「日本人が台湾・中国のことに口を出す資格があるのか」と、おそらく嫌な顔をしたでしょうね。
大嶋 やや乱暴な評価かもしれませんが、マルクス・レーニン主義の影響が薄れたことも影響しているかもしれませんね。若者が中心となったパレスチナ連帯運動は積極的なもので、断固支持し、発展させる必要があります。他方、彼らが影響を受けている「反(脱)植民地主義」の考え方は、レーニン的な帝国主義論——金融寡頭制に基づく帝国主義は資本主義の最終段階で、帝国主義列強間による戦争と社会主義革命の必然性が導き出される——に発展する可能性をはらみつつ、やや異なるものです。
まだ研究途中ですが、大なり小なり、アントニオ・ネグリとマイケル・ハートによる『〈帝国〉』論の影響が見られますね。
この考え方の弱点はいくつか指摘されています。
第一に、〈帝国〉と闘う主体として労働者階級をとらえていないことです。環境保護や民族文化、ジェンダーなど、労働運動以外のさまざまな抵抗運動に積極的意義を与えたことは重要ですが、それでも変革の中心は、生産手段を持たない労働者階級でしょう。
第二に「脱領土的グローバル主権」などと、国家権力を相対化させてしまっています。ここから〈帝国〉を暴力的なものではなく、「ソフトな支配」として描いています。
米国を例に取れば、その影響力は、ハリウッドなどの文化面や価値観、政治家や研究者の人的交流など重層的なものです。それでも、依然として支配の基礎は、軍事力と通貨ドルでしょう。
ネグリとハートの理論は、米帝国主義の暴力的現実とかけ離れていますし、その衰退を見ることもできません。朝鮮戦争、ベトナム戦争、グレナダ侵略、湾岸戦争、イラク戦争、シリア攻撃などの歴史的現実を踏まえていませんし、ガザやイラン、ベネズエラの人びとからすれば、笑うべき「理論」でしょうね。
第三に、労働者階級・人民が政治権力を握るという考え方が希薄なことです。
米帝国主義を先頭とする帝国主義と闘い、それと結びついた各国政府を打ち破って新しい政治権力を打ち立ててこそ、「反(脱)植民地主義」を実現できます。そのためには、マルクス主義の革命政党が不可欠なのです。
ですから私たちは、米帝国主義がアジアで行ってきた侵略と民族分断、植民地主義の実態を、もっと暴露する必要がありますね。
労働党の政治路線を訴える
竹井 私たちがしっかりと説明しなければならないのは、「一つの中国を守ろう」という訴えを、何のために、何を目指して訴えているのか、そのことの説明だと思います。
もちろん「侵略の歴史の反省から中国と交わした約束だから、一つの中国の原則を守らなければならい」という理由は当然ある。あるいは「中国は経済発展している国で、良好な関係を築かなければ日本の未来はない。だから中国の主張を受け入れよう」と考える人がいてもいい。
しかし、私たちは政党であり、日本の政治を変えることを通じて社会を変えようとしている団体です。米国の従属国である日本の政治を変えようと思えば、本当の意味で米国からの独立を勝ち取らなければいけない。米国の従属国であることの矛盾がかつてなく高まっている今こそ、あるいは中国との関係を改めて築き直すことが問われている今こそ、「一つの中国を守ろう」と日中不再戦を掲げて、国民各層に独立・自主・平和の外交を呼びかけています。そう説明することが必要でしょう。
長岡 つまり、私たちの政治路線をしっかり説明する必要があるということですね。その重要性は増していると感じます。
いわば「どうやって政治を握るのか」ですが、その前提として、こんにちは貧困格差や環境危機、そして戦争の危機の増大にしろ、資本主義の限界が誰の目にも明らかになっている状況です。日本の資本主義社会、それは対米従属で多国籍企業の利益のための政治、政権に守られているだけですが、その中で労働者の多くは厳しい生活を強いられながらも、すでに次の社会に移行する萌芽がある、自覚した労働者や青年、女性らの意識や行動にも表れ始めています。
資本主義が完全に限界まできていて、同時に次の社会である社会主義、共産主義に至る条件は成熟しています。そこに移行するまでの戦略を持った党が必要です。政治路線を持っていたこと、時々の情勢をより歴史的に、より本質的に把握をしようと意識してきたことがわが党の大きな強みですが、今まで以上に私たちは試されるでしょう。
私たちは今の高市政権の成立を戦後の自民党政治、あるいは55年体制以降の政治の歴史過程の一つの帰結として見ていますね。戦後の米軍の占領期から始まる時期は、労働運動や農民運動が激烈な闘争を行い前進した時期でした。レッドパージで激しく弾圧され、55年体制で議会制民主主義の枠内に押し込まれ、日本共産党もその過程で議会主義に変質しました。現在はその歴史過程の終わりに当たります。
1994年の細川政権成立によって自民党による38年間の単独支配が終わって以降、若干の経過を経て、1999年から26年間続いた自公政権がこんにち崩れました。このことは議会政治上の大きな変化です。その直接の原因は要するに、ここ数カ年の物価高で加速した生活苦の中で飯を食えなくなった人が増え、金権腐敗した政党の堕落に不信を抱いたこと。自民党や公明党の支持者でさえも、こんな政治でいいのかと思っている。その結果、参議院選挙では既成の野党勢力が、その自民党政治を変える力にはならないと見限られたというようなことが出てきたのだと思います。
現在、SNSによって民意がつくられる新たな状況で、議会政治はいちだんと欺瞞(ぎまん)に満ちているわけですが、対米従属と多国籍企業の利益の政治が限界を迎え国民生活の危機が進み、政治への不満と不信が高まり、議会制民主主義が揺らぎ始めていることがその根本にあると思います。排外主義などの政治傾向も含め大衆の直接の政治行動は日本においても広がると思います。
ニューヨーク市のマムダニ現象について、斎藤幸平氏は、民主党穏健派のいわゆる「エクストリームセンター(極中道)」が暴露されたと言い、日本の立憲民主党も同様だと言っています。彼らには現状の苦難を打開する力がないと。それに対してれいわ新選組だとかのことだと思いますが、「減税ポピュリズム」「積極財政ポピュリズム」で、彼らには「社会主義の理念に基づく再分配政策がない、資本主義に挑んでない」と言っています。一見、もっともらしいんですが斎藤幸平氏は国家の問題、労働者階級が生産手段を握る問題、所有の問題に触れないんですね。現在の議会政治の中で労働運動、国民運動と結びつかずに政治を握っても結局中途半端なものになる。マムダニ氏もこれから大変でしょう。強力な反発に遭うことは避けられない。
労働者や国民の中に力をつくって、国家権力、政権を奪い、その資本主義的な私的所有を変えていくことなしには根本的打開はありえないでしょう。では、どのようにその政権を握るのか。どのように次の社会に移行するのか。労働党の政治路線は、そのような問いに対し、具体的な情勢、闘いの実践のなかで絶えず試されなければならないものですね。
闘いのエネルギー結集しよう
竹井 座談会の最後に、一言ずつお願いします。
田中 昨年は1月に沖縄で、10月に北海道で全国地方議員交流研修会が行われ、私も参加しました。分科会でケア労働者の問題や公務非正規の労働者の問題が取り上げられましたが、これらの深刻な状況を打開しようとする人たちが、労働組合や市民団体、女性団体、司法関係者、大学の研究者、報道関係者などと連携して取り組む活動が報告されました。大衆の生活に密着した真面目な活動家が地方議員の人たちの中にいるということを再確認しました。
また、農業の課題でも昨年は大きな取り組みが行われました。日本は戦後直後から米国に食料を支配されてきました。米国と日本の輸出大企業の利益のために農業や農村、地方は犠牲にされてきました。しかし「農業も農村も食料安全保障も日本も、このままの政治じゃ本当に限界」と、「令和の百姓一揆」が全国で取り組まれた。これから起こってくる、起こらざるを得ない国民的運動の先駆けだと思う。そういう位置づけで、私たちは重視し、農民とも地域の人たちも連帯していきたい。
また、「青年は社会の変革者、革命の主人公」などと昔から言われますが、パレスチナ連帯や差別・排外主義反対、学費値上げ反対など学園課題に取り組む青年学生にも力を感じます。沖縄の基地問題に取り組む若い世代も増えている印象があります。
労組や労働運動についても、今以上に注視しなければならないし、こちらからの働きかけも強めなければならないでしょう。
もちろん、沖縄県民の戦争に対する危機感は強い。沖縄県民の要求を実現する課題は引き続き重要です。
先述した一昨年12月に開かれた県民大会の実行委は1年を迎えていったん解散となりましたが、実行委に集った各団体は以降も被害者への十分なケア、日米地位協定の抜本改定の動きを続けようと決めました。昨年12月からは「平和なくらしと地位協定を考える公開市民講座」がスタート、21日のシンポジウムには多くの県民が集いました。宮古・八重山の南西諸島、本島における自衛隊や米軍基地の拡張、辺野古新基地建設に反対する等々の県民の闘いは粘り強く続いています。昨年夏の参院選で高良さちかさんを押し上げたのはこうした県民の思いです。
また今年は県内では秋の県知事選を頂点として多くの自治体で選挙が行われます。すでに高市政権は今の玉城デニー県政の転覆を策して動きを強めています。
私たちは玉城デニー県政を守り抜くために県民の総団結を強く呼びかけます。同時に、現県政が進める「地域平和外交」など諸政策の充実に向けて、県民の各界と協力したい。米国や高市政権の横暴に怒りをもつと同時に生活悪化で苦しむ県民に根差した活動をこれまで以上に強めていくなかで、党それ自身も強めていきたいですね。
大嶋 これだけの資本主義の危機で、現実に本当に苦難に陥っているような人たちと結びついた運動をつくらなければいけないと思っています。
日本は米国の従属国であるがゆえの矛盾に加え、というか米国の従属国であるがゆえに深刻化したのですが、国家財政問題という重大な問題を抱えている。この問題が、誰によって、誰の負担として押し付けられるのか。教育や社会保障などさまざまな分野で問題化せざるを得ない。これを、私的所有に手を付けず、現在の政治の延長上で解決することなどできるのか。
高市政権は「安倍政治の継承」を掲げていますが、少数与党というだけでなく、経済力や国家財政状況、人口動態など、あらゆる面で第二次安倍政権時代より状況が悪い。田中さんが述べたような重要な課題に取り組んでいる先進的な人たちとの連携を、私たちは戦略的に重視し、共に闘うとともに、労働党への結集も呼びかけていきたいと思います。
長岡 今年中に党大会を開催する予定にしています。昨年はさまざまな社会問題で闘っている若い同志たちや政治経験のある地方議員が党に結集しました。これからが楽しみです。ジェンダー、差別、環境などの問題について、労働党の政策をもっと豊富化していく上でも、いろいろな人の知恵を結集し、ともに実践をし、党を新たにつくっていけたらと考えています。
わが党の経験のある同志、結党初期から党と革命のために闘ってきた同志、私たちの先輩たちは党の政治路線に沿った情勢の見方は鋭く、嫌中意識がはびこる中でも確固とした姿勢と思想を貫き、各地で大衆を組織して数々の政治的な闘いを進めています。
結党初期と比べても情勢ははるかに切迫してきています。戦争にもなりかねない情勢、多くの大衆の苦しみをわがこととして闘おうとし、何より労働者の党としての誇りを持っている。これらが闘いの中で、長い党の活動の中で培われていることを改めて感じます。これはこの党の強み、党組織の骨格だと思います。
経験のある同志たちと、若い人たちが一緒になって、よく議論し、よく闘って、より力強い労働党をつくっていきましょう。今年はもう一歩か二歩、画期をなす前進をしましょう。
全党の同志、頑張りましょう。今年もよろしくお願いします。
竹井 皆さん、本日はありがとうございました。ともに頑張りましょう。