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2025新春座談会/資本主義は末期、世界は転換期 共産主義者に求められる役割

 激動が不可避な2025年。世界・日本の情勢はどうなり、日本労働党はどう闘うのか。党の常務委員の4人がオンライン座談会で語った。参加者は大嶋和広(宣伝局長)、田中剛(沖縄県責任者)、長岡親生(総政治部責任者)、司会は竹井一郎(労働新聞編集長)の各同志。


竹井 あけましておめでとうございます。
 さて、秋山議長が新年あいさつで「資本主義は末期」「世界は歴史的な転換期」というようなことを述べています。しかし、こういうことが労働新聞に載ると、「労働党はいつもそんなことを言っているじゃないか」などとも言われます(笑)。確かに、1年前の新年号でも、秋山議長は「資本主義は命脈が尽きた」と断じて、気候変動危機や少子化など6つの特徴について指摘しています。
 それでも、昨年は間違いなく資本主義が末期の様相を深めたと実感させられることが多々ありました。この1年を振り返ってみて、いかがでしょうか。

長岡 まずあるのが、米国で、また英国、ドイツ、フランスなどで、そして日本でも、階級矛盾が激化し、有権者の政治意識が劇的に変わっている。米国では共和党のトランプ元大統領が再当選し、英国では14年ぶりの政権交代が起きました。フランスではマクロン大統領の与党が総選挙で大敗し、ドイツでも連立政権が崩壊してこの2月に総選挙が行われる。日本でも自公与党が総選挙で大敗して少数与党となった。隣の韓国では、野党に国会の主導権を握られた尹大統領の「戒厳令策動」が国民の決起で阻止され「死に体」となっている。まるで足並みをそろえたように同じような状況となっている。
 生活が悪化し、将来に展望も持てない国民は、既成政党への不信感をかつてなく募らせている。それが選挙に反映し、支配層がもう従来の手法では政権を維持できない。そんな状況が米日欧で起きている。共通しているのは物価高でしょう。先進国と言われる国々で資本主義の矛盾が行き着くところまできている。そう思うんですよ。

ネットやSNSが問題なのか

田中 日本では、総選挙もそうですが、都知事選の「石丸現象」や、兵庫県知事選に既成政党への不信感・反発が示されました。やや、米大統領選や欧州における政治変化と共通している面もありますね。
 問題は、これをどう理解するかでしょう。マスコミや知識人には「若者はニュースを見ない」「ネットはニセ情報であふれている」などとしてSNSの規制を訴える人もいます。その思いや必要性は一定は理解します。しかしあくまで大事なのは、多くの国民が生活に窮して意識が変わった点だと思います。そこから、既成政党、特に「左派」「革新」と総称される勢力が、「浮いている」のではないでしょうか。
 米大統領選で民主党のハリス副大統領が敗れました。これについて民主党「左派」と言われるサンダース上院議員は「労働者階級の人びとを見捨てた民主党が当の労働者階級から見捨てられても、大して驚くには当たらない」「民主党指導部が現状維持をよしとする一方、米国民は怒りを募らせ、変化を望んでいる。彼らは正しい」と断じた。検事出身のハリスさん、確かにエスタブリッシュメント(支配階級)の代表でしょう。この点については的を射ていると思います。
 「ポピュリズムに惑わされている」との指摘もよく聞きます。ではなぜ有権者が惑わされるのか。やはり人びとの生存条件が変わったからで、もっと言えば、困窮化が政治意識を変えた基盤となっている、そう理解するべきでしょう。

竹井 ポピュリズムの定義はいろいろあるようですが、それでも「反既得権益層」「反エリート」「反メディア」という共通点はあるとされています。
 西欧について言えば、各国個別の事情があるものの、共通するのは国民の生活苦と疎外感のようです。1980年代あたりから、階級や宗派、地域などを軸に組織されていた国民の関係性が希薄になった。同時に、財政削減や規制緩和で西欧型福祉国家が弱体化し、国民の暮らし向きは悪化した。90年代からは欧州連合(EU)統合に向けて「財政規律の順守」が各国に押し付けられた。各国国民には「EUのエリート集団は既得権益を守るばかりで、われわれ国民は見捨てられている。メディアはそれを正当化ばかりしている」と映っている。
 EUで「右派ポピュリズム政党」が台頭すると、メディアは「ロシアの情報操作・選挙介入」などと見なして攻撃している。しかし、物価高騰でカツカツの生活を強いられている庶民にとっては「ウクライナに武器を支援するぐらいなら、その費用を物価高対策に回してくれ。われわれの生活はどうでもいいのか!」と思うのはある意味当然でしょう。右派ポピュリズム政党が「平和」を掲げてウクライナ戦争の停戦を訴えると、既成政党が「ロシアを利する」と批判する。この状況の方がおかしいように感じる。

大嶋 米国の場合はどうか。歴史を簡単に振り返ってみると、戦後直後は世界のGDP(国内総生産)の4割を占める「一強」国家でした。これが71年の金ドル交換停止で衰退があらわになり、ベトナム戦争の時期のスタグフレーションで国内矛盾が深まりました。81年に誕生したレーガン政権はMAGA(米国を再び偉大な国に)を掲げ、財政出動で軍拡を進めてソ連との対抗を強め、高金利で世界中から資金をかき集め、規制緩和を進めた。インフレは収まり、以降の金融肥大化の基礎もつくられた。
 しかし実は、そういう政策はレーガンの前のカーター民主党政権の時代に始まっている。米経済を「復活」させるには、支配層からすればその手段しかなかった。90年代のクリントンの時代にもIT(情報技術)化などウォール街のための政治を積極的に実現している。金融を中心とする大企業・投資家が大いに潤う一方、大多数の労働者の貧困化が進んだ。そのなかで、民主党はそれまで依拠していた労働組合の利益から離れた。
 リーマン・ショック後、オバマ政権は広範な支持の下で登場しました。しかしやったことはバブルに踊った巨大金融資本の救済で、国民が失望して「ウォール街を占拠せよ」と立ち上がったのは当然です。トランプは共和党を「労働者階級の党」と言い、この不満をひきつけて登場した。先のサンダースの指摘はその通りでしょう。

トランプ政権は「デジタル金融複合体」

大嶋 もっとも、トランプ政権が米国の労働者階級のための政治を行うかと言えば、そんなことはない。先月、超党派の国会議員連盟「石橋湛山研究会」が寺島実郎氏(日本総合研究所会長)を招いた学習会を開いたので私も参加した。寺島氏はトランプ政権を「デジタル金融複合体」という言い方をしていて、支持者のイーロン・マスクが典型なわけだけど、テスラのEV(電気自動車)、スターリンクの通信システムといったデジタル技術や、暗号資産でもうけたい金融資本とか。実際にはこういう業界の操り人形であると評した。

 ところで、その学習会で面白かったのが、寺島氏が現在を「100年前の1920年代、第1次世界大戦と2次大戦の戦間期、その情勢と似ている」「資本主義の転換期」と言っていた。20年代は、フォードシステムのような大量生産システムが広がり、労働者の上層が「中間層化」し、資本主義的なイデオロギーに組み込まれていく時期でもあった。その資本主義が、こんにち「デジタル金融複合体」化という、新たな転換期を迎えていると認識していました。
 暗号資産のような「実体のない」ものに資金が集まる現状は、資本主義の転換期どころか、その著しい腐朽性と末期症状を示すものにほかならないのですが、寺島氏にはそのような認識はないようです。

長岡 時代認識ということでは、一昨年に大澤真幸氏が出した「資本主義の〈その先〉へ」という本が興味深かった。
 彼は、パンデミック、ウクライナ戦争、環境危機、民主主義の破壊などを挙げ、現在起こっている破局に向かうかのような世界の混乱や無秩序に「原理や法則のようなものが見えない」と言っている。冷戦期までは原理のようなものがあったが、今は違うと。
 その上で、彼はこれまでの歴史上の世界の混乱や無秩序の中から、フランス革命やレーニンのロシア革命、毛沢東の中国革命も起こり、それは時代を進めたと肯定している。資本主義のシステムが根本問題であることを認めながら、しかし、それを「乗り越える」方向、展望が社会主義、共産主義とは言いきれない。彼のその理由の一つに今の中国に対する評価がある。中国のような「権威主義的資本主義」がしぶとく生き残るのではないかと言うんですね。史的唯物論や階級闘争の理論がいわば信じられなくなったということでしょう。
 私たちからすると、資本主義、帝国主義の歴史のなかで行き詰まりは明瞭です。リーマン・ショックという破綻に至る、米国を頂点とする資本主義の一つの過程があり、その後の世界は明らかにそれまでとは違う乱世、戦争の時代となっている。中央銀行の量的緩和によって金融はさらに肥大化し、アフリカ、欧州等での政変、難民・移民の急増、英のブレグジット、米国第一のトランプの登場など、コロナ以前から相次いでいましたね。また、技術革新の急進展のなかで世界の力関係も劇的に変化していました。パンデミックそれ自身が、資本主義がもたらした環境への収奪の結果だったわけですが、コロナ以降、それらの諸矛盾が噴出した。貧困層は1億人も増え、ついにウクライナ戦争、イスラエルのガザ攻撃、東アジアでの米国の画策で、需要不足ゆえの経済の軍事化が進んでいる。
 かつての「先進国」から中国を中心とするグローバルサウスへの世界の構造の変化は決定的となった。そうしたなかで「先進国」内での階級矛盾が前面に出始めたということでしょう。

竹井 大澤氏の話が出ましたが、世界的に共産主義というイデオロギーが後退することによって、社会の何に問題があり、人民にとって何が敵なのか、多くの人が分からなくなってしまっているような気がする。
 ポピュリズムに傾倒する人びとは、「エリート」と対置して、自分たちのような「人民」の声を政治に反映させたいと思っている。その気持ちや姿勢は必ずしも間違っていないと思う。しかし、その「人民」には移民や性的少数者が含まれておらず、排除したり敵視したりしている。分断を生み、支配層の延命に利するものの見方。有害だし、闘いの先に展望がない。
 広い人民の連帯をつくり出す思想を広げることが共産主義者の役割として現在最も求められていることだと思います。

共産主義者だからこそ展望示せる

田中 資本主義の末期だとか、歴史の転換期とか、そういう時代であれば、まさに私たち共産主義者の役割が問われていると思うべきでしょう。
 参考になると思うのが、レーニンの著作「なにをなすべきか」。1902年に出されたこの長作は、当時のロシア社会民主労働党におけるいわゆる経済主義者との党内闘争のために書かれました。各種闘争における「自然発生性」「経済主義」的傾向を厳しく批判し、イデオロギー闘争の重要性を訴えています。当時、「社会民主主者」と称された、こんにちの共産主義者の学説、階級的意識性は「経済闘争の外から、労働者と雇用主の関係の圏外からのみ、労働者にもたらされる」という指摘は、改めて大事だと思いました。
 そのうえで、党と人民との関係について、こんにちでも重要な指摘をしています。当時の高揚した、言わば自然発生的な各種の闘争について、「現在の運動の強みが大衆の目覚めであり、その弱点が指導者=革命家の意識性と主導性の不足にある」という指摘は、こんにちの私たち自身にもそのまま当てはまると思います。
 そして「われわれにはロシアの生活から、われわれの想像以上にはるかにしたたり落ちているこの人民の憤激のしずくと細流を、いわば集めて、集中する力がない」と、当時の党の問題点を明らかにしています。続けて、全階級の「護民官」としての党の役割、全面的政治暴露の重要性も指摘しています。
 現在は、人民の怒りが反動派に組織されている実態があります。革命の時代は反革命の時代でもあるわけです。そういう激突は避けられない時代でしょう。私たちは努力する必要があると思いますね。

歴史の転換期 青年の役割に大きな期待

大嶋 歴史の転換期には、とくに青年・学生の役割が重要ですね。
 この1年ほど、パレスチナ連帯や環境保護、日中友好、生活困窮者支援、性的少数者の権利拡大など、さまざまな青年・学生の取り組みに参加してきました。運動のスタイルは大きく変わっていて、欧州の環境保護運動や、米国の学生運動から学んでいることもあるようです。私も当初、非常に戸惑いました。
 それでも、青年・学生の正義感や行動力は、労働党を結党した先輩の皆さん、あるいは私たちと違わないと思います。彼らの不正・不条理に対する怒りは信頼できるものです。これは、深く確信できます。
 彼らは、性的少数者の権利拡大、環境保護、パレスチナ問題、沖縄問題などの諸課題を連関したものとしてとらえています。
 ある活動家に「性的少数者がパレスチナ問題に関わる動機は何なのか」と尋ねたとき、「逆に、大嶋さんが疑問に思うことが理解できない」と言われてしまいました(笑)。もちろん、共産主義者にとっては最初から、ブルジョア政府、日本では対米従属で大企業のための政府を打ち倒すための「連関した」問題です。
 ただ、彼らは「誰が敵なのか」という点がやや不鮮明な気がします。帝国主義の頭目・米国を批判し、自国政府を倒すあるいは政策変更を迫る、つまり政治を変えるという方向性を鮮明にできれば、諸課題をもっと統一的に発展させられるのではないでしょうか。
 田中同志が「革命家の意識性と主導性」を指摘した通り、私たちの働きかけ次第で、彼らが政治変革の道に合流する可能性・希望を感じています。

戦後80年、迫る戦争の危機 労働党はどう闘うのか

竹井 さて、今年は戦後80年を迎えます。言い換えれば、対米従属80年でもあります。80年、本当に長い従属ですね。

長岡 80年も米国の従属下にあったこともあり、日本の国家中枢・官僚機構はもとより、経済界やメディアも米国に牛耳られていることが当たり前。元内閣官房副長官補の柳澤協二さんが以前、「官僚も与野党の政治家も日米同盟は絶対という思考停止状態になっている」という意味のことを言っていました。鳩山政権が普天間基地(沖縄県宜野湾市)の県外移設を模索したら官僚につぶされて政権そのものも頓挫しました。
 政党も、議会政党はほぼ「日米同盟基軸」以外のことは言わない。共産党も、日米安保破棄を掲げているが、米国を「民主主義」、中国を「権威主義」と色分けするなど、ものの見方は米国流に染まっていますね。「台湾有事」についても、「台湾に対する中国の軍事圧力も、米国による台湾問題への軍事介入にも反対」と言い、「台湾有事」問題の本質、つまり、米国が台頭する中国を抑え込むために「台湾問題」をつくり出し介入することによって引き起こされている問題である、ということを言いません。本当に米国を暴露しなくなっています。

「台湾有事「は中国ではなく米国が元凶

田中 沖縄にいると「台湾問題」をめぐる政党の不作為の問題を強く感じます。
 沖縄では2022年8月のペロシ米下院議長の台湾訪問、そして、安倍—菅—岸田と続いた歴代政権による「台湾有事」策動に対する闘いが続いています。こうした闘いの大きなスローガンの一つが「日中不再戦」です。また玉城デニー知事が進める「地域外交」にもこうした声が反映していますね。
 米国や追随するわが国政府の対中敵視政策と闘う上で、「台湾問題」に対する認識がとても重要です。
 昨年秋に外務省で情報局長を務められていた孫崎亨さん、有名な方ですね、彼が那覇で講演を行いました。ここで孫崎さんは「中国は、台湾が中国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本政府は、この中国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」という1972年9月の日中共同声明、あるいは米国と中国との間で交わされた上海コミュニケを紹介し、「その原点に立ち返るべき」と指摘しています。改めて大事な点ですよね。
 しかし、この点がいま曖昧になっていることは大問題です。一部には「台湾も沖縄も米中という大国に翻弄(ほんろう)されている」という「米中どっちもどっち論」とも言うべき言説や、「高度な民主主義を有する台湾を武力で脅かす中国はけしからん」という論調をこれまで日中友好運動に携わったりしてきた方々や、学者、平和運動内からも聞かれます。
 こうした見方は、おそらく米国の影響下にある日本メディアなどを通じて形成されたもので、「台湾有事」や「中国の脅威」を名目として強行される沖縄の基地強化と闘う上で障害です。徹底的に批判しなければなりません。

大嶋 そうしたものの見方についてですが、韓国は少し違いますね。韓国では戦後長く米軍支配下で軍事独裁制が敷かれ、人民の闘いによって軍政を崩した。先月、尹大統領による戒厳令策動がありましたが、退役軍人などの尹大統領支持派は、集会に韓国旗である太極旗と米国の星条旗を持って参加している。見た目にも分かりやすく米国が存在している(笑)。

竹井 昨年の6月に日中戦争回避をテーマにした集会が行われ、その準備過程でいろいろな人と話をしたのですが、「台湾問題とは何か」については、日朝友好運動をやってた人などには理解されやすいと感じました。戦後、朝鮮半島は米国の東アジア戦略によって分断されました。その歴史・構図はある程度台湾海峡にも当てはまります。日本にとっての80年ではなく、米国の東アジア政策の80年という角度から見ると分かることも多い。

「一つの中国」に込められた侵略への反省

長岡 戦後80年は、日本の敗戦、米国からの敗戦だけではなく、中国での15年戦争、アジアへの侵略戦争の敗戦からの80年ですね。日本は日清戦争からその後の日中戦争に至るまで、台湾を植民地として奪い、中国への侵略戦争で数千万とも言われる人を殺し、国土を荒らした。日中国交正常化はその反省に立っているので、「一つの中国」という原則を守るということは、二度と中国に介入しないという、非常に重い国家間の約束です。
 この時、中国政府は日本への賠償を放棄した。日華条約で合意されていたいことを前提に持ち出さなかったんですね。さまざまな事情を考慮した大局的な観点からの判断ですが、中国国内からは猛烈な反対が噴出した。まだ戦争による被害も生々しい時期で、国民の中には「あんなにひどい目に遭わされたのに」という声が根強かったという。
 それでも中国政府は、かつて日清戦争後に日本の国家予算の4倍にも当たる賠償金を清国政府が支払わされ、人民も長く重税に苦しめられたことを例に「同じ苦しみを日本の人民に与えない」と、全戸にビラをまくまでして国民を説得したそうです。後世に遺恨を残してはならない。中国にとって国交正常化は両国間の平和への強い思いが込められたものです。日本の側がこれを軽く扱うなど許されることではない。敗戦80年という節目であれば、このような歴史の事実に改めて学ぶべきです。

大嶋 歴史の見直しという機運は今年は世界的にも高まると思っています。最近の若者と話をすると、「脱(反)植民地主義」という言葉をよく使います。これには、欧米の帝国主義国が築いた世界システムからの脱却という内容も含まれています。新興国・途上国では、かつての宗主国に植民地支配の被害に対する賠償を求めるような取り組みが強まっています。これまで欧米各国は「当時は合法」と賠償も謝罪も拒んできましたが、グローバルサウスの台頭など力関係の変化も手伝い、風向きが変わってきているようです。
 日本はこうした流れを支持し、連帯すべきです。何より日本自身が朝鮮半島・中国をはじめアジアへの侵略戦争を深く反省するだけでなく、植民地支配の違法性・無効性を宣言する。
 たとえば、今年締結60年を迎える日韓基本条約の日本側解釈では、1910年の併合を「合法」としています。これを撤回させなければならない。そうしてこそ、世界で信頼を得ることができるのではないでしょうか。

田中 米欧中心の価値観やものの見方・考え方は影響力を失う一途でしょう。イスラエルのパレスチナなどへの侵攻で、米国や欧州の権威は失墜し続けている。イスラエルの蛮行を米欧が支えていることは世界の誰もが知っている。米欧の唱える「自由」だとか「民主主義」がうそっぱちであることは明白です。
 そうした中でも、日本の政府やメディアは米国に忖度(そんたく)した情報ばかり流している。時代錯誤というか、情勢あるいは世界から取り残されているとしか思えない。
 戦後の日米関係を振り返ると、資源に乏しい日本が生き残ろうとすれば、米国など当時の西側諸国に市場を求めざるを得なかったのでしょう。米国への輸出で潤ったりもしたので、百歩譲って対米従属には一定の経済合理性があったかもしれない。
 もっとも、これまでも1957年の日米繊維交渉から始まって、牛肉・オレンジの自由化、コメの市場開放、次期支援戦闘機開発、そして今話題の半導体をめぐる日米半導体協定等々、米国は一貫して日本の主要産業をつぶしてきました。
 しかし、状況は一変しました。各種の原材料を供給していた中東や中南米は当時と違って必ずしも「親米」ではありません。むしろ、グローバルサウスの一員として登場しています。そして、米国はトランプ政権の登場です。外交・安全保障政策はもちろん、貿易、経済面での対日要求は苛烈になる可能性は大きい。日本もアジア諸国も、現在は経済的にも中国との関係の方が深い。戦後80年、もう対米関係が見直される時期ではないのか。私はそう思いますよね。

長岡 政府やマスコミによる「中国の脅威」宣伝が強まっていますが、一方で日中関係を良好にしたいという声は広く各層に存在しているように思います。
 先に述べた「日中戦争回避」の集会を呼びかける過程でも、私が思っていた以上に多くの国会議員が賛同の意を示しました。ただ、有権者を意識して「親中派とみられたくない」という萎縮した雰囲気が蔓延(まんえん)していることも感じましたが。
 経済同友会の新浪代表幹事は昨秋訪中し、日中関係の改善をたびたび政府に提言しています。経済界の関心も高いと思います。

大嶋 先に寺島氏が話していたことの続きですが、100年前の1920年代は日本にとっても転換期で、アジアへの進出を広げる「大日本主義」が強まっていた当時、それに反対する石橋湛山などは「小日本主義」を唱えていた。国会議員の中で石橋湛山が見直されているのはよい傾向でしょう。
 今年は参議院選挙も行われます。日中不再戦を掲げる国会議員の役割は重要です。実際の選挙に対して、私たちはもっと積極的に政治的態度を示していく必要があるかもしれません。

田中 昨年の総選挙の後、「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」の新垣邦雄さんが「沖縄タイムス」の論壇にこんな寄稿をしています。総選挙に対して議席を伸ばした立憲民主党が「日米同盟が基軸」と主張していることを指摘して、「立憲が自民党と軍拡路線で同調するようなことはあってはならない」と述べ、県内の立憲関係者に奮起を促しています。
 沖縄では本島で米軍由来の事件、事故が後を絶たず、自治体、住民の反対を無視するかのような軍事訓練が継続されています。辺野古新基地建設も強行され続けています。そして、宮古・八重山では自衛隊基地の機能強化・拡大が進み、米軍艦船の入港も相次いでいます。そして、この南西諸島にミサイル部隊を配備し、フィリピンで中国の動きを挟み込むミサイル網を整備しようというのです。まさに「台湾有事」に突き進む動きが軍事面で具体化しています。
 一方で、玉城デニー知事は明確にミサイル配備に反対を表明しています。そして、23年暮れに突如として明るみとなった自衛隊の訓練場開設計画に対して地元うるま市の住民が保革を超え、反対を表明して白紙撤回を勝ち取りました。またつい先日、24年6月に明るみとなった米兵による女性への性的暴行事件に抗議する県民大会が開催されました。こうした沖縄県民の闘いは健在であり、いっそうの県民、闘う勢力の総団結と、それに呼応する本土での闘いを呼びかけたいと思います。
 併せて、玉城県政が進める「地域外交」を県民の側から支えるという面で、沖縄県民と中国人民との相互交流、往来も重要な意義があると思います。朝鮮民主主義人民共和国との友好・連帯運動もこんにち重要な課題です。
 また、最近の諸物価高騰は県民生活を直撃しています。本土に比べて離島である沖縄ではその影響はさらに大きい。米軍基地から流出する有機フッ素化合物PFOS(ピーフォス)の問題もあります。米国の戦争策動やそれに追随する政府に対して闘おうという勢力は、こうした生活問題にも目を向け、要求化していく必要がありますね。
 青山学院大学名誉教授の羽場久美子先生は「沖縄を東アジアの平和のハブに」と訴えています。先ほど、戦争の危機について述べましたが、戦後80年を迎える今年こそ、その具体化に力を注ぎたいですね。

竹井 今年は米トランプ政権が再登場します。これに日本政府や財界などは関税引き上げなど対日要求が強まることに恐々としていますが、悪いことばかりではないかもしれません。関税引き上げなどで貿易が打撃を受けることを見越して、日中両政府は関係改善により積極的になっています。しかしそれだけでなく、トランプ政権の内外政策で「米国の本質」がよりむき出しに、分かりやすくなるからです。「民主主義の国・米国」なる固定観念を見直すよいきっかけになるかもしれませんね。
 トランプ政権の内外政策で、米国の衰退はさらに加速するでしょう。闘う側にとって有利な状況が生まれ得る。その意味でもトランプ再登場は悪いことばかりでもない。
 ちなみに、今年はベトナム戦争終結50周年でもあります。ベトナム戦争やベトナムの歴史を知ることは、米国がアジアで何をしてきたかを知ることでもあります。こうしたことも労働新聞で紹介しながら、米国について暴露していきたいと思っています。

打開への道筋鮮明に示す役割果たす

田中 いろいろと話が出たところで、さて今年、労働党はどう闘うのか。私の意見です。
 マルクスの「共産党宣言」に共産主義者とは何かみたいなことが書いてあります。私の理解では要するに二つです。
 労働者階級の利益と離れた利益を持っていない、最も先進的に労働者階級の闘いを絶えず推進していく、労働者と徹底的に結びつくということ。もう一つは、現在の運動にあって未来を代表するということ。
 一つの目のことで言うと、労働者階級の問題、その苦しみや、先ほど出ていた疎外されているような状況。労働者もさまざまに多様化しているわけですが、労働者階級という定義で言えば、生きるために労働力を売るしかない人たちです。それはほとんどの労働者がそうですよね。現場の同志のなかには、大衆の生活のために、地域でこども食堂を運営したり、介護などのケア労働者の課題に取り組んだりするなど、優れた活動をしている。それらを評価して発展させることが重要だと思います。
 また、全国の農村部などでも、各地域でさまざまな自立的な運動があり、政治を変えたいという若い活動家、地方議員も出てきています。JAM(ものづくり産業労働組合)傘下の工場、関生労組でも組合つぶしに反対して闘いが継続されています。そうした現実の闘いを前進させ、支援、連携を促しながら、大衆に信頼される党員、党組織を全国の現場で作っていきたいと思います。
 もう一つのこと、同時に現在の運動によって未来を代表するということですが、資本主義がこんにちに至った危機や行き詰まりのなかで、世界が劇的に構造的な変化を遂げ、国内では自民党政治が行き詰まったという政治状況は、私たちにとってまれにみるチャンスですね。どう打開していくのかということについてより鮮明な方向を示すことが党に求められています。

野党も労働党も問われる責任

長岡 石破政権は、戦後長期に続いた対米従属で大企業大優先の自民党政治の行き詰まりの結果として成立した政権です。金融を頂点としたグローバル大企業、売国的な官僚、その政治的代理人である自民党、その国家であることに変わりがありません。しかし、その財界も、単に米国に従属しているわけではなく、米国や世界の企業とも戦ってるわけで、日本の自立、経済活動する上での環境を整えようとしているのも間違いありません。それは安倍政権以降の経過の中でもありましたよね。
 そうしたなかで、石破首相自身は「日米対等」をめざすと言ったり、最近地元の鳥取では「平和で独立した国をつくる」と言ったりしています。日米地位協定の見直し、地方の重視、農業・第一次産業重視を強調するなど、安倍以降の首相とは違いもあります。ただし今の政権で十分それを貫くのは容易ではない。そのこと自身が自民党政治の行き詰まり、議会政治の行き詰まりを表しているとも言えると思います。
 長期に見れば、もうすでに1990年代、細川政権が生まれたときに、自民党はもう国民の信頼を失っているわけですよね。それにもかかわらずその自民党政治を崩せなかったこちら側の問題、野党側の問題として私たちは総括すべきでしょう。具体的には、民主党中心の政権交代、共産党の腰の定まらない態度などを検証すべきです。
 もちろん、この対米従属政治のもとで、これほどまでに労働者の生活権利が奪われ、地方の経済も危機になり、農業・食料問題が深刻な事態になり、そして米国が策す日中戦争の危機が進むなかで、私たち労働党がこれまで政治を覆すほどの力を持ちえていないことの責任も問われている。そう思います。

大嶋 混迷の時代だからこそ、マルクス主義の根本である史的唯物論や弁証法等の哲学を分析の道具として使い、党として行動の指針を打ち出せるようにしたいと思います。田中さんが言った全面的政治暴露の鋭さ、SNS活用、宣伝の抜本的強化も課題ですね。
 今年は日中不再戦の課題にいっそう熱心に取り組みたいと思っています。こうした取り組みを通じて、より多く広範な人びとと連携し、独立・自主の政権を樹立するための条件づくりを進めたい。石破政権下で、日米地位協定問題や、農業・食料問題での世論形成や闘い、訪中団の組織化などの課題は重要ですね。
 また、この3年、「全党の知恵、経験、力に依拠しよう」と党内民主主義を徹底する運営、仕組みを模索しています。女性戦線や労働新聞の通信会議などがそれです。

長岡 全党の同志たちには、かつてなかったような重大な情勢に備えて、闘いを堅持して党をつくっていこうと呼びかけたい。皆で学びながら進むということで今年一年やっていけたらと思っています。

竹井 もう少し肩の力を抜いた座談会にするつもりでしたが(笑)、皆さん、熱のある発言、ありがとうございました。闘うこと、学習すること、党を宣伝すること。この基本を大事にしてがんばりましょう!

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