労働運動 インタビュー

介護現場で増える「スポットワーク」ーー白崎 朝子 介護福祉士・ライターに聞く

 スマホ(スマートフォン)アプリを使ったスポットワーク(スキマバイト)が増えています。インターネット上の広告でも、スポットワーク運営会社の広告が目立ちます。

 スポットワークは、アプリを通じて1日あるいは数時間単位で仕事を受発注するもので、継続した雇用関係ではありません。賃金はスポットワークの運営会社が一時的に立て替え、即日入金されます。賃金は業種や地域によって違いますが、最低賃金と大差ない水準です。東京の介護福祉士なら時給1400円と交通費です。

 派遣労働だと労働者の雇用関係は派遣会社との間にありますが、スポットワークの雇用関係は就労先の事業所との間にあり、運営会社は「仲介者」にすぎません。また、ウーバーイーツなどのギグワークとの違いですが、ギグワークが業務委託契約であるのに対しスポットワークは雇用契約です。そのため、建前では社会保険や労災も適用されますが、実態は不明です。

 最大の特徴は、スマホさえあれば誰でも簡単に登録でき、履歴書提出や面接が不要なことです。このため飲食店や物流センターなど、さまざまな業種で利用されています。最大手のタイミーは、23万8千社の登録企業数と、1420万人の登録者があります(4月現在)。

 スポットワーカーの登録者数は約3800万人ですが、複数のサイトに登録する人が多いため、実際の人数はタイミーの登録者数より少し多いぐらいと推察されます。、日本の労働者総数(約6800万人)の約15%です。一年以内の実就労者数は約452万人です。「普段仕事をしている人」でも、物価高などによる生活苦でスポットワークに従事する人が増えています。

 スポットワークでは、すでに多くの問題が起きていて、直前に事業所側から仕事をキャンセルされ賃金未払いなどのトラブルが多発しており、訴訟も複数起こされています。

ケア介護保険制度の見直しを求めたケアデモ
(5 月 30 日、東京)

スポットワークで死亡事故も

 スポットワークは、2018年ごろから飲食業界を中心に広がり始めました。介護現場にスポットワークが普及することになったのは慢性的な人手不足によるもので、ここ2年ほどで増大しています。そのためスポットワークの最大手である㈱タイミーから成長産業と目され、医療・介護人材大手のベネッセの子会社ベネッセキャリオスとタイミーが今年4月に業務提携しました。スポットワーク市場における介護関連の割合は5%強とされていますが、成長速度は圧倒的です。タイミーの場合、介護関連登録者数は51.3万人にも上ります。

 スポットワークに登録した途端、3分に1回とか、ひっきりなしにスマホに求人の「通知」がくるようになったと話す都内のスポットワーカーもいます。私の取材によれば、スポットワーカーを受け入れている介護現場の実態は、有り得ない状況が多々あります。

 高齢者施設に来たスポットワーカーに対し、利用者の心身についての説明をしないだけでなく、リスクが高く、正規職員が行うべき入浴介助や食事介助に対し、「身体介護もどんどんやってもらってください!」と現場を知らない仲介業者が勧めるという実態もあります。入浴介助は正規職員が対応しても一番リスクが高いケアです。食事介助も誤嚥のリスクがあり、慣れた職員が対応しても誤嚥性肺炎が頻発しています。しかしリスクがあっても、そもそも人手不足でスポットワーカーを呼んでいるので、いきなり身体介護を丸投げされる場合もあります。

 昨年6月、大阪市の特別養護老人ホームで、介護福祉士のスポットワーカーが入居者を約50度以上の風呂に入れ、全身にやけどを負わせました。入居者は敗血症で亡くなり、大阪府警はスポットワーカーを傷害致死の疑いで逮捕、大阪簡易裁判所は罰金50万円の略式命令を下しました。このスポットワーカーは、わずか2回目の就業時に一人で入浴介助をさせられました。しかし施設長や法人は刑事起訴されず、大阪市福祉局も「業務改善指導」しか出しませんでした。事故の起きた法人からは取材を拒否されました。スポットワーク運営会社の責任も問われていません。人材不足が深刻な介護業界では、事故が起きても隠蔽され、スポットワーカー個人の責任となる可能性が高いのです。

 利用者のいのちに関わり、深い信頼関係が求められる介護現場で、スポットワークが広がることには断固反対です。研修期間もなく「簡単で楽に稼げる」と宣伝する企業に強い憤りを感じています。

支援する自治体の責任は重大

 こうした危うい状況に対して、厚労省は労使双方に向け「いわゆる『スポットワーク』の留意事項等」という冊子を作成しています。労働者が求人に応募した時点で「労働契約が成立するもの」とし、直前のキャンセルや賃金未払いを防ぐ意向ですが、トラブルは後を絶ちません。タイミーは、介護現場に関して、正規職員の補助業務を推奨しています。しかし正規職員が全くフロアにいないなど、補助業務では済まない実態があります。

 行政も業者も、利用者のいのちを守るために規制を強めるという姿勢ではありません。経産省は、スポットワーク運営会社「カイテク」が提供する介護アプリ「カイスケ」を「人手不足やコスト削減への貢献」を名目に表彰までしています。驚くべきことに、公益法人日本介護福祉会が、今年カイテクと提携しました。国に介護人材不足の改善を要請すべき職能団体までもが、です。

 全国の地方自治体がスポットワーク運営会社と提携していることも、重大な問題です。神奈川県、大阪府、北海道旭川市、愛知県豊田市などが「人材確保」などを名目に、カイテクと連携協定を結んでいます。またタイミーも、北海道、東京都、石川県、大阪府、香川県、長崎県など41都道府県・ 97自治体と連携しています。

 東京都は、未経験者がスポットワークで介護職を「体験」する際、採用した事業所に助成しています。世田谷区も介護事業者が人手不足解消を目的にスポットワークを利用した場合、30万円まで助成しています。

 事故を起こしかねないスポットワーク、しかも未経験者のトライアル採用に助成を行うとは、利用者をリスクにさらすことに行政が税金を投入していることと同様で、その見識を疑わざるを得ません。本来、地方自治体は国に対して介護現場の人材不足解消のための施策を要請すべきであり、また独自にも取り組むべきではないでしょうか。リスクが高く、労働条件にも問題が多いスポットワークの運営会社とすすんで提携するのは言語道断です。その実態について地方自治体議員にも周知されていないようです。大阪市のスポットワーカーによる死亡事故はほとんど報道がなされていません。マスメディアの怠慢にも疑問があります。

人材不足改善こそ政府の責任

 根本は介護事業者が、欠陥だらけの介護保険制度の下で経営せざるを得ないことです。少しでも人材を確保するため、スポットワークを「活用」する方向へと追い込まれています。大分県で介護事業所の経営をしているAさんは、「介護業界が、スポットワーク業界の〝草刈り場〟となっている」と強く批判しています。半面、事故が起きた場合の責任は労働者と事業所に押し付けられ、スポットワーク運営会社は責任を負いません。

 スポットワークは「新自由主義による市場原理の究極」とも言える労働形態であり、きわめて不公正な構造的な問題です。危険性を知りながら、介護現場がスポットワークを利用せざるを得ない状況をつくってきた国の責任は重大です。
 介護現場の低賃金は、育児や介護などのケアが家庭内における女性の無償労働であることに起因しています。その構造は就職氷河期世代の男性が大量に介護現場に参入しても改善されず、ますます悪化しています。「ケアは女性が無償で行うもの」という社会通念を打破しなければなりません。

 すでに介護保険制度は崩壊しており、小手先の改定では人手不足は解消しません。介護や保育、医療などの人の〝いのち〟に関わる仕事は公的責任の下に置くべきです。介護の人手不足の原因は他職種よりも月額だと6~8万円も低い賃金体制にあります。介護福祉士のBさんは、「介護は単なる人材確保やマッチングでは成り立たず、人と人との関係性や尊厳を支える専門職です」と話し、スポットワークやスポットワーク企業と提携した日本介護福祉士会を強く批判しています。

 介護職員が利用者のいのちと自らの尊厳を守れるよう、介護保険制度と労働法制の抜本的な改革が必要です。(文責・編集部)


しらさき・あさこ
 介護福祉士・ライター。著書に『Passion ケアという「しごと」』『介護労働を生きる』、共著に『ベーシックインカムとジェンダー』(いずれも現代書館)他。2009年平和・協同ジャーナリスト基金「荒井なみ子賞」受賞。

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