関東大震災時の朝鮮人虐殺から100年となった昨年、在日朝鮮人の学生が日本人学生に呼びかけ、朝鮮人虐殺の歴史を記憶し朝鮮人差別に反対する行動「トルパ(突破)・プロジェクト」を立ち上げ、多様な活動を行った。それから1年。日朝の学生が一緒に行う取り組みがさまざまな形で広がっている。現在の活動について、日朝の学生に聞いた。(文責編集部)
ーートルパ・プロジェクトを立ち上げた経過や目的について教えてください。
Aさん
はじめまして。私は関東在住の在日朝鮮人で、大学4年生です。
昨年は関東大震災時の朝鮮人虐殺から100年でした。在日本朝鮮留学生同盟(留学同)でもこの史実を問い直す取り組みをしようとなったのですが、私たちは日本社会の中で暮らしているのだし、またこの社会の差別は朝鮮人だけの問題ではないのですから、日本の学生にも呼びかけて一緒に何かしようという話になりました。
そのような問題意識から、知り合いの日本人学生に声をかけ、朝・日の学生それぞれ2人、4人が共同代表となるトルパ・プロジェクトを立ち上げました。朝鮮人虐殺100年の年に何を訴え何に取り組むべきなのか。一緒に話し合いました。
昨年のトルパの活動としては、関東大震災100年を前に集会とデモ行進、また朝鮮人虐殺の歴史を認めない小池都知事への要請行動などを行いました。
また、全国的に行われたこのプロジェクトでは、各地の大学で朝鮮人虐殺を知ってもらうためのパネル展なども行いました。東京では、パネル展と併せて日本人学生によるトークイベントも行いました。

ーー昨年トルパをやって、どのようなことを感じましたか?
Aさん
一緒に活動してくれる日本人がいることには心強いものを感じました。もちろん、朝鮮学校に関する課題など、これまで関わってきた活動で日本の人とも一緒にやる機会はありました。しかし、一緒にデモを行い、一緒に要請を行ったのは、私としては初めての経験でした。
このテーマでデモを行うと、全く無関心な通行人がほとんどである一方、罵声を浴びせてくるような人もいます。そのような直接的な差別や侮蔑を浴びる経験を、在日朝鮮人だけでなく日本人と共にすることで、互いの立場で日本社会の現状を考える機会になったかと思います。
また、在日朝鮮人だけで活動すると、マンネリ化というか、やや従来通りのやり方になってしまいがちだと感じることもありましたが、日本の人が参加し新しい視点が加わることで、活動内容も活動に参加する人の幅も広がったように感じます。
こうしたこともあり、トルパを昨年の一度限りのものとせず、今後も朝・日の学生による取り組みを継続させようということになりました。
ーーそうして活動を継続するなかでBさんも参加するようになった…。
Bさん
はい。私は関東在住の大学1年生です。映画『ウリハッキョ』の上映会に参加したらAさんにつかまり、連れ回されて、気付いたらデモまでやってました(笑)。
元々は朝鮮人虐殺に強い関心があったわけではないのですが、昨年話題になった映画『福田村事件』のことは知っていました。映画を見てはいないのですが、どうして大虐殺のようなことがこの日本で起こったのか、その疑問はずっと頭の中にありました。
その後、愼蒼宇(シン・チャンウ)法政大学教授の講演を聞く機会がありました。そのときに愼先生は、朝鮮人虐殺が、日本が朝鮮半島に侵略・支配したことや、日本軍が朝鮮民衆による三・一独立運動を弾圧したこと、こうした植民地政策と地続きで起こったことだと話していました。朝鮮人虐殺は、大地震という非常時にデマで起こってしまった自然発生的な事件ではなく、国家が意図的に関与したジェノサイド、とのことでした。
これを聞き、私は朝鮮人虐殺については、むしろ日本人こそが向き合わなければならないことだと思いました。現在はこのテーマについて在日朝鮮人の学生と一緒に活動しながら勉強している最中ですが、日本人の自分こそ積極的に取り組むべきだと思い、最近は催しの主催側としても関わり始めています。
ーー在日朝鮮人の学生と一緒に活動し、どのようなことを感じていますか?
Bさん
そもそも私は留学同の存在も知りませんでした。在日朝鮮人の学生が、どういう目的で、何を目指して活動しているのか。一緒に活動するなかでそういうことを知ること自体が非常に勉強になっています。
また、在日朝鮮人の学生との文化的な交流にも参加しているのですが、朝鮮の民族的打楽器であるチャンゴを皆で輪になってたたき、アリランを演奏する。やってみると思っていたよりずっと高揚感があり、本当に楽しい! やってみてよかったと思っています。
Aさん
これもトルパの経験からですが、いま私たちは文化系・交流系の企画を増やして門戸を広げようとしています。これはトルパではなく東京地方の朝・日大学生を中心に活動してるコルムという団体としてやっているのですが、朝鮮民謡や朝鮮語の講座とか映画鑑賞会とか、そのような催しをやって文化に関心を持っている人への働きかけを強めています。
これまでも、朝鮮学校見学会とかフィールドワークとかはやっていたのですが、こういう企画に参加する人は、そもそも差別など社会問題に関心のある人が多い。しかし、これより窓口を広げ、より幅広い人たちに段階的に日本社会の差別の問題について訴えていこうと思っています。
今年行ったデモには、文化交流で知り合って参加してくれた人もいました。デモに参加するというのは普通の人にはけっこうハードルが高い。それでも一緒にデモをしてくれた。地域での文化交流の重要性が確認できました。
これまで、何かの企画に私たちが呼びかけて日本の人に参加してもらっても、その企画が終われば関係が切れ、また何か課題が浮かび上がれば呼びかけて、ということが多かった。文化交流を楽しみながら関係を維持し、さらに踏み込んでこの社会を変える取り組みを一緒に行う、そういう継続的な枠組みがつくれたらと思っています。
また、さらに広く訴えることを念頭に、トルパとして朝鮮人虐殺の歴史を知るためのホームページをこの9月1日に開設しました。虐殺を知るためのQ&Aなどは昨年のパネル展の内容を発展させたものです。記録や証言、関連資料などを掲載していますが、内容を随時豊富にしていきたいと思っています。
ーー改めてですが、朝鮮人虐殺の歴史を問い直す意義について、どのように考えていますか?
Aさん
新たなヘイトクライムを防ぐためには、なぜあの虐殺が起きたのか、しっかりと解明する必要がある。そのことも朝鮮人虐殺について伝えることの意味の一つだと思います。
2021年8月に京都府宇治市にある在日朝鮮人が多く暮らすウトロ地区で放火事件が起こった。私は近畿地方出身で、高校まではずっと京都の朝鮮学校に通っていました。課外活動でウトロに行ったことがあるし、ウトロに住んでいる人と話をしたこともある。だから放火事件にはすごい衝撃を受けました。
その後の裁判では犯人には実刑判決が下されましたが、裁判の供述などを見ても、犯人はすごく偏った固い思想の持ち主とかではなく、ネットで知ったことに影響されて在日朝鮮人への敵意を募らせたという、けっこう「普通」の人という印象でした。
こういう人が、すっと放火という犯罪に手を染めてしまう。なぜこんなにハードルが低いのか。ネットの影響力の大きさを認識させられました。ただ、本当にネットの影響だけなのか。
東京都の小池知事が関東大震災の朝鮮人犠牲者追悼式典に追悼文を送らないことで大虐殺の史実を覆い隠そうとしていることや、群馬県が高崎市の県立公園・群馬の森に立つ朝鮮人労働者の追悼碑の設置許可を取り消したこと、あるいは高校無償化や幼保無償化からの朝鮮学校除外や自治体からの補助金停止といった朝鮮学校への差別的な対応など、いわゆる「官製ヘイト」と呼ばれる施策は、社会に根付く差別意識に「お墨付き」を与えて助長しています。このようなことは世界各地で起こり、国連も警鐘を鳴らしています。私たちがトルパで小池都知事への要請を重視しているのも同じ理由です。
先ほどBさんが、大虐殺に国家がどう関与したかについて話していましたが、国が差別的施策を行えば、それがどのように社会に影響するのか。それを考える上でも歴史に学ぶ必要があると思います。
Bさん
大虐殺の史実をなぜ公権力が必死に抹消しようとするのか。なぜそれが許されるのか。私はこういったことの理由や経過について、ドイツと比較しながら学ぶ必要があると思っています。ドイツではホロコースト(ユダヤ人虐殺)を否定することは犯罪となる。日本とは大きく状況が違うのですが、なぜこのようなことになったのか。
おそらくそのことは、日本が朝鮮半島や中国大陸に侵略した歴史ときちんと向き合っていないことと同じ理由からだと思っています。だから、大虐殺にきちんと向き合うことは、日本社会そのものを問うことにつながる、日本人が絶対にやらなければならないことだと思います。
ところで、少し前に三上智恵監督の映画『戦雲(いくさふむ)』を見ました。沖縄の与那国島や石垣島、宮古島などで基地が強化され、着々と戦争の準備が進んでいる現地の様子を知り、背筋が寒くなる思いがしました。
戦争そのものも怖いのですが、歴史的には虐殺などの事件が戦時や災害時などの非常時に起こっていることを考えると、別の怖さがある。日本で戦争が起これば何が起こるのか全く分からない。平和について考えることの重要性も増していると思っています。
Aさん
最近、朝鮮半島でも戦争の危機が高まっています。米国は「ロシアと北朝鮮、事実上の軍事同盟」などと朝鮮への脅威宣伝を強めています。韓国の尹政権は米国の言うがままに米韓合同軍事演習を激増させています。
朝鮮半島でもいつ戦争が起こっても不思議ではありません。日本に住む私たちは共に朝鮮半島情勢についてもっと関心を持つべきだと思っています。
ーーこれからの抱負について聞かせてください。
Bさん
私個人としては、朝鮮人虐殺について、人間の内面というか哲学的な側面からも勉強したいと思っています。先ほど話したような客観的な社会条件があったにしても、どうして人間はあのような残酷なことができたのか。自分の中では十分に消化できていない気がします。
ドイツのホロコーストについては、ハンナ・アーレントのアイヒマン研究のようなものがあります。朝鮮人虐殺についてはどういう研究があるのか。もっと調べてみたいし、問い続けたいと思っています。
Aさん 私自身はもうすぐ大学を卒業し社会人になるのですが、できる限り運動を続けていきたいと思っています。
最近、世界でも日本でも、運動が変化している。入管をめぐる運動でも、世界で起こっているパレスチナ連帯の行動を見ても、そう思います。世界の構造自体がおかしい。自分たちの社会を根底から見直して変えよう。そういう若い世代の運動が世界中で起こっている。私もじっとしているつもりはありません。
ーー長時間、ありがとうございました。
1923、あの日の記憶〜関東大震災時の朝鮮人虐殺を忘れないために〜
朝・日大学生一大行動トルパプロジェクト
2024年8月28日
東京都知事
小池百合子 さま
朝鮮人虐殺の事実認定と真相調査の実施及び朝鮮人差別政策の是正に関する要請書
関東大震災の発生から今年で101年が経ちます。
1923年9月、この地では国家や警察、軍や市民たちの手で6000人以上の朝鮮人が虐殺されました。
100年以上の年月を経ても政府による真相調査や国家的な賠償は果たされず、その歴史的事実は国家や行政により隠ぺい・歪曲され続け、朝鮮人虐殺の史実はなかったものにされています。
東京都においても真相調査は未だなされておらず、2017年には小池百合子東京都知事が関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文送付を拒否することによって、東京都が朝鮮人虐殺の史実を歪曲・矮小化していることが顕在化しました。都知事のその姿勢は8年に渡り続いており、今年も追悼式典への参加はおろか追悼文すら送らない方針が発表されました。このような東京都による朝鮮人虐殺の歴史歪曲及び否定は植民地主義の温存とも言い換えることができ、100年以上前に虐殺された朝鮮人の尊厳だけでなく現在生きている在日朝鮮人の尊厳をも奪っています。
東京都は現在朝鮮学校への補助金不支給措置を筆頭にした朝鮮人差別政策を講じており、それを容認する社会を形成し、官民を問わないヘイトスピーチやヘイトクライムを蔓延させ、在日朝鮮人に対する差別や迫害を助長しています。それにより日本社会に生きる在日朝鮮人が自己のアイデンティティを育むことは困難を極め、民族的尊厳を持って生きることは非常に難しい状況にあります。私たちはこのような社会状況を首都・東京から是正していく必要があると考えます。
以上より、私たちは東京都に次のことを強く求めます。
一、関東大震災時の朝鮮人虐殺が国家や行政、警察や軍によって引き起こされたものであることを正式に認め、東京都内の被害実態に対する真相調査を即時行なうこと。
一、東京都知事が都内で行なわれる関東大震災時朝鮮人虐殺犠牲者追悼式典に参席し、人為的に亡くなることとなった被害者とその遺族に対する追悼の意を述べること。
一、東京都として朝鮮学校補助金不支給措置をはじめとする朝鮮人差別政策を是正し、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムの発生防止措置を取り、在日朝鮮人の民族的権利を保障すること。
以上
「朝鮮人虐殺の歴史を記憶し、朝鮮人差別に反対する朝・日大学生一大行動」実行委員会
他、賛同者一同