来年、在日朝鮮人の総合アーティスト集団「金剛山歌劇団」が結成50年を迎える。1月には約50年ぶりの沖縄公演も行われ、沖縄県立芸術大学の琉球芸能専攻OB会も友情出演する。朝鮮と沖縄の民族芸能が同時に楽しめるはずだ。公演実行委員会共同代表で弁護士の白充さんに聞いた。(労働新聞那覇支局)
共通の歴史もつ朝鮮と沖縄
来年1月の沖縄公演に先立ち、本年11月7日に行われた、金剛山歌劇団・鹿児島公演を観覧しました。とても素晴らしく、この公演を沖縄で実現することは全国の同胞たちに勇気や希望、元気を届けることができるのではないかと思っています。残念ながら、今の日本社会は私たち在日朝鮮人にとって厳しい状況。そうした中で沖縄公演を成功させることは、大きな意義があると考えています。
そして何より、沖縄の方々にとっても元気と勇気、そして希望につながるような公演になると思っています。沖縄の現状も厳しい。基地問題だけでなく、沖縄独自の伝統芸能を継承していくことが簡単ではない状況があります。そうした中でも沖縄の伝統芸能を守っている人がいる。この公演では沖縄の伝統芸能への思いも届けられると確信しています。
今回、沖縄県立芸術大学のOB会の方に友情出演していただきます。その中で沖縄の伝統的な楽器を紹介する時間もあります。沖縄には朝鮮半島由来の楽器と似たようなものがあります。朝鮮と沖縄の文化面での共通性も垣間見ることができるでしょう。
朝鮮と沖縄は、かつて日本から言葉を抑圧されてきた歴史があります。沖縄では「方言札」という形で言葉や風習などが「日本化」された歴史があります。朝鮮でも植民地時代に朝鮮語が禁止され、「創氏改名」という形で名前も日本式に変えさせられました。沖縄に来た朝鮮学校の学生は「沖縄の歴史は自分たちの歴史と同じだ」と驚きます。そんな歴史もとても重なるところがあると思っています。
かつて朝鮮と琉球王国との間では進貢貿易が活発に行われていて、強いつながりがありました。そして近現代史のなかで独自の言語や風習などの文化が奪われてきた歴史もあります。この共通の歴史を今回の沖縄公演で再確認できればと思っています。さらに両者の伝統文化や芸能が熱意ある方々の存在によって守られていることも共有できればいいですね。
もちろん、日朝友好というメッセージもあります。国境を超えた歴史的なつながりが私たち朝鮮、そして沖縄にあるということ、そして、それは沖縄、日本、そして朝鮮半島、ひいては東アジアには「水脈」とも呼ぶべきつながりがあったということを伝えられれば幸いです。誰が上とか下とかいう意味ではなく、皆「家族・きょうだい」の関係性だったわけです。
また、私たち在日朝鮮人の活動を支えている祖国・朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)のことも知ってもらいたいという思いもあります。政治的な立場や考え方の違いはありながら、今回の公演を通じて、「心」を通わす機会になれば幸いです。そして、今後の沖縄のあり方だったり、日本、あるいは東アジアの友好などを考える上でもとても意義深く、見応えのある公演になるのではないかと思っています。
県外からも在日同胞が100人を超える規模で沖縄に来ます。観客席の側でも朝鮮・沖縄が心を通わす場になればいいですね。
ぜひ全国からもたくさんの方にお越しいただき、その熱気を感じてもらえればうれしいです。
大切にしたい固有の文化
この間、沖縄県内のいろいろな方々に働きかけをしてきましたが、反応は本当にいいです。面白そうだと言ってくださる方がたくさんいます。特に沖縄芸能に携わっている方からはものすごくいいリアクションをいただいています。
芸能関係の方だけではありません。とある畜産農家の方と話をする機会がありました。その方は「畜産にも文化がある」と強調していました。そこに込められた歴史性や地域性ということを考えなくてはいけないということでした。その地域に伝来するものに対して真摯(しんし)に目を向けることは、これからの沖縄、日本にとって大事なことだと言っていました。
そして、今「地方創生」とも言われている中、地域を活性化させるという意味においても、その地域固有のもの、あるいは国を超えて伝来して根付いたものを守るということが、今後の沖縄、そして日本の活路につながっていくと聞いて、今回の公演にも通ずるテーマだと思いました。
朝鮮の人びとも意識的に民族の独自性に価値を見いだしています。在日朝鮮人もまた、朝鮮の芸術文化の灯を絶やさずに金剛山歌劇団を続けてきました。芸能関係者のみならず、畜産農家の方にも、今回の公演へ大きな期待の声を寄せていただき、分野を超えた大切な何かがあることも感じています。
また、これまでの長い歴史の流れに思いをはせることができる方が、沖縄には多いとも感じています。沖縄県内でも地域に根付いている伝統文化や芸能が多い。今回の公演の告知などを通じて、こうしたものを掘り起こし、盛り上げていこうという思いをもっている方にも、とても意義深い公演だということをご理解いただけているかなと思います。
私と沖縄とのかかわり
私自身は福井県出身で、福井の朝鮮初中級学校、愛知の朝鮮中高級学校で学び、東京の朝鮮大学校を卒業後、弁護士になりました。2011年に沖縄に来て、1年の研修を経て弁護士となりました。
沖縄で弁護士として働き始めたころは激動・激怒の時期でした。13年の暮れに当時の仲井真沖縄県知事が辺野古埋め立てを正式承認しました、それから12〜13年たちますが、新基地建設を許さない県民の強い思いを、今なお感じ続けています。地域の人びとが、無くしてはならない大切なものを守ろうとしているという意味で、沖縄県民と在日朝鮮人というのはすごく似ていると感じます。
また、米国など大国の外交政策や世界情勢の影響を受け続けてきた歴史という点でもつながります。沖縄は、朝鮮半島にルーツがある私にとって、非常に密接な関係がある地域だと思っています。
そのような思いもあり、昨年9月には那覇市で朝鮮戦争の停戦協定70年を機に沖縄と東アジアの平和を考えるシンポジウムを開催しました。また今年9月にも停戦70年をテーマにドキュメンタリー映画の上映会とトークの集いを開きました。
今後も年に1回ぐらいは沖縄・日本・朝鮮、ひいては東アジアの平和について考える取り組みができたらと思っています。
「あらゆる戦争は終わるべき」というのが私の思いであり、沖縄の方々の思いも同様だと思います。しかし、残念ながら朝鮮戦争はいまだに完全な終結、平和協定には至っていないというような現状があります。朝鮮戦争のときは、平和を望む県民の思いとは裏腹に、この沖縄の米軍基地が出撃拠点になったという歴史もあります。
いまだ終わらない朝鮮戦争という「しこり」が東アジアのど真ん中に残っているっていうところにも目を向けてもらいたいですね。
不景気だったり、暗いニュースが多かったりする昨今ですが、公演を見ていただければ、人はいろんなことを乗り越えられるという実感を得ていただけると思いますし、シンプルに元気が出ると思います。新年早々元気にスタートが切れるような気持ちになっていただけると思います。
白充(ぺく・ちゅん)
1985年3月生まれ。在日朝鮮人3世。朝鮮大学校政治経済学部法律学科を卒業後、2012年から弁護士として沖縄で活動。基地関係訴訟等に携わる。22年4月より那覇市で「法律事務所 春」を開設。沖縄県差別のない社会づくり条例制定に向けた検討委員(21年)、多文化共生社会の構築に関する万国津梁会議委員(24年)、沖縄弁護士会理事(24年)。
金剛山歌劇団沖縄公演
日時:2025年1月30日(木)開場17時、開演18時
会場:那覇文化芸術劇場なはーと(モノレール県庁前駅、美栄橋駅から各徒歩約6分)
チケット:S席5000円、A席4000円、B席3000円
主催:金剛山歌劇団沖縄公演実行委員会
kumgangsan.okinawa[@]gmail.com
公式サイト
カンパは以下の口座にお振り込みください。
沖縄銀行 本店(101) 普通2665133 金剛山歌劇団沖縄公演実行委員会
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