労働運動

書籍紹介/『決断 そごう・西武61年目のストライキ』 ストは労働者の武器!

 1年前の8月31日、そごう・西武労働組合は西武池袋本店で24時間ストライキを敢行した。大手百貨店でのストライキは1962年の阪神百貨店以来約61年ぶりということでマスコミも大きく報道した。他百貨店労組など多くの労働者がスト支援の連帯行動に参加し、デモ行進には地域住民からも激励の声が上がった。

講談社、¥1980(税込み)
2024年7月発行

 しかしこれはそごう・西武労組の闘いのうちの、外から見たごく一部分。本書は同労組の寺岡泰博中央執行委員長が記した、個人としての道のりだ。

 寺岡氏は93年4月西武百貨店(現そごう・西武)に入社する。バブル崩壊で売り上げが低迷する厳しい時期。それから30年。私的整理による会社再編、そごうとの合併、そしてセブン‐イレブンを経営するセブン&アイ・ホールディングス(HD)による買収・子会社化と職場は激動、相次ぐ店舗閉鎖によって退職・離職する仲間たちを涙ながらに見送る。

 30代で労働組合の執行委員を経験したあと、2008年に職場復帰し池袋本店に配属される。もう組合に戻ることはないと思っていたものの、本部の経営戦略に対する違和感から、16年に組合に復帰する。18年からは中央執行委員長を務める。

 22年11月、セブン&アイHDは子会社であるそごう・西武百貨店を米投資ファンド・フォーレスト・インベストメント・グループに売却すると発表した。同社は家電量販店大手のヨドバシHDと連携していたので、売却後は西武池袋本店にヨドバシが入ることが予想された。自分たちの雇用も、雇用の場である百貨店も、守れるのかどうか全く分からない。

 寺岡氏は委員長として団交に臨むが、運営会社は売却に伴う詳細や売却後の店舗計画など、何を聞いても「分からない」の一点張り。親会社であるセブン&アイHDは株譲渡に向けた「守秘義務」として何も明かさない。これまでの「労使協調」が通じない。らちの明かない交渉の中で、それまで「タブー」だったストライキを決断する……。

 本書で寺岡氏は、自身の入社から株主代表訴訟に至る現在の闘いまでをほぼ時系列的に語っている。装飾のない実直な語り口からにじむのは、百貨店文化への愛情と百貨店人としてのプライド、そして何より働く仲間を守りたいという思いと委員長としての責任感だ。

 結果として売却は防げなかったものの、スト権確立から会社はまともな交渉に応じるようになる。仲間と職場を守りたいという思いがストライキという武器を手にしてから局面が変わる。寺岡氏の経験の詰まった本書は全ての労働者にとって教訓となるはすだ。(S)

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