米国でトランプ政権が再登場した。欧州諸国でも極右政党が台頭し、一部の国では政権与党となっている。こうした傾向と相まって、各国で人種差別主義者(レイシスト)の行動が激化している。
本作は、米国の人種差別主義団体「ヴィンランダーズ」の共同創設者ブライオン・ワイドナーの実話をもとに製作された映画である。
路上生活者であったブライオンは白人至上主義者に拾われ、彼にとってはそれが「家族」であった。ブライオンはスキンヘッドに全身タトゥーを入れ、集会ではハーケンクロイツ(カギ十字)を掲げ、「移民は米国から出ていけ」と叫び、人権擁護団体のデモに暴力を仕掛ける。
だが彼は、ふとしたきっかけでシングルマザーのジュリーと出会い、愛し合うようになる。憎悪と暴力に満ちた自身の行為を悔い、「生き直そう」と決意するが、まともな仕事を得られずはずもない。彼は、16カ月にわたる手術で全身のタトゥーを消す決意をする。
だが、差別主義者の同志たちは許さず、彼を「裏切り者」と非難し、暴力を浴びせる。一方、ブライオンを支える人権活動家のダリルは、「(差別主義者は)殺すか終身刑にするか、転向させるかだ」と冷静に言い放つ。
本作で描かれているのは、「人間は変われるのか」という普遍的なテーマである。
また、世界的に問題となっている人種差別主義を生み出す根源が、資本主義的な貧困と格差にあることも赤裸々に暴き出されている。人種差別主義団体が衣食住を保証すると呼びかけるとき、それを失った子どもたちにとっては、「蜘蛛の糸」に等しい福音なのである。
また、ブライオンを救い出すきっかけとなったジュリーもまた、太っていることを理由に暴言を受ける。差別は、どこにでも潜在している。
本作を見て、毛沢東が徹底して「人間は変わることができる」と信じたことを思い出した。(K)
2019年製作/118分/R15+/米国