日中国交正常化から50周年、日中関係は首脳会談のメドすら立たず、最悪とも言われている。岸田政権は米国の中国抑止策に追随して、「台湾有事」などを口実に軍備増強、南西諸島の軍備強化を進めている。国交正常化の原点である1972年の「日中共同声明」など日中間の約束事は事実上ホゴにされようとしている。50周年に際して、日中関係者をはじめ財界などの中にも現状を危惧する声が上がっている。だが政権与党だけでなく野党の中にも中国敵視政策に異を唱える声は小さく、共産党は中国を覇権主義と攻撃する犯罪的な役割を買って出ている。揺るぎない日中関係はわが国だけでなくアジアの平和と繁栄のためにも重要であり、それにはわが国が自主外交を打ち立てる以外にない。こうした声を大きくしていこうと「日中国交正常化50周年、とめよう『台湾有事』! 自主外交を求める緊急集会」が9月29日、東京で開かれ重要な成功を収めた。以下、主な登壇者の発言を掲載する。(要旨・文責編集部)
米国の東アジア戦略、「台湾有事」を起こさせない! 日中韓、沖縄を平和のハブに!
羽場 久美子(青山学院大学名誉教授)
「台湾有事」の背景には中国の経済成長がある。米の世界戦略は、21世紀にも自国の覇権を維持することだ。
20世紀は米国の時代だったが、バイデンはウィルソン、ルーズベルトの二大巨頭をまねて「価値の同盟」を言いだした。「民主主義対専制主義」という価値の同盟で世界を分断していこうとしている。
アフガンからの撤退で地に落ちた米国の威信を塗り替えようと積極的に世界戦略を練り直している。新冷戦ではなくむしろ「熱戦」が準備される、抜き差しならない状況だ。
コロナ禍で米欧日の経済衰退は加速された。この危機感が米国の覇権維持のための外交、軍事政策を活発化させている。今やるべきことは、対立する国と共存することで戦争を避けることだ。米国は戦争をやめさせるどころか火に油を注ぐようにウクライナへの武器援助を進め、停戦を遅らせている。台湾への支援も進めている。「台湾有事」は中国の成長を止め、米国の覇権を継続するという米国の「のるかそるか」の生き残り戦略である 世界は先進国の衰退と新興国の成長がパラレルに起こっている。中国や東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなどの成長が続いている。21世紀後半はアジアの時代であるとOECD(経済協力開発機構)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行まで言っている。これを止めることが、米国にとって極めて重要な戦略だ。
ジョセフ・ナイ(元米国防次官補)は、ウクライナ戦争は米国に最大の利益をもたらしたと言った。各国が軍拡に動き米軍需産業を増大させ、武器輸出が空前の規模で拡大した。経済制裁で一番打撃を被ったのは、同盟国であるドイツや欧州諸国や日本。それを尻目に米国は経済的に回復する状況になった。米国は戦争の継続を望んでいる。
米国の戦略は必ず中国に及んでくる。ウクライナ戦争をやめさせ東アジアに火の粉が及ばないようにすることが大事だ。
国交正常化から50年、本来、日中両国を挙げて祝わなければならない時にこういう話をしなければならないこと自体が悲しいことだ。米国は台湾有事を後ろからあおっている。始まった戦争は止められない。いかに東アジアの対立関係を戦争に発展させないかということが大事だ。
米国はインド太平洋戦略として、クアッド、クアッドプラスを言いだした。クアッドは中国の「一帯一路」にくさびを打ち込む形で、安倍元首相が提唱した。さらに強力な軍事同盟としてAUKUS(米英豪)さらに5アイズ(諜報網)を握って世界中に諜報網を張り巡らしている。仏、独も加わった。だがインドは米国の言いなりにならないという姿勢だ。
日本列島は3000キロにわたって大陸封じ込めの自然要塞(ようさい)といえる。そこに米軍基地、軍が大量に導入されている。ロシア、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、中国の三方からのミサイルに対してイージス艦などでは守れない。話し合いを継続しないと大変な状況になる。
アンガス・マディソンによる2030年までの経済統計でGDP(国内総生産)の推移を見ると、1800年代までインドと中国が世界経済の半分を占めていた。その後、中国やインドの富を収奪して欧米が成長した。アジアはもともと経済と文化が豊かで、植民地から解放され、再び成長している。
中国やインドは大国でありながら周辺国と地域協力を拡大している。
だが、米国は覇権にしがみつくために「米中核戦争シナリオ」さえつくっている。尖閣、南シナ海、台湾が口実になっている。米国に届かない中距離核を中心に戦争準備をしている。経済分野でもアジアを分断しようとしている。米国はドイツとロシア、日本と中国、台湾と中国を対立させることで米国の支配を続けようとしている。
東アジアは世界の軍事、経済、政治大国が集まるところだ。日中韓、沖縄の連携で平和的安全保障体制を確立することが重要だ。欧州安全保障協力機構(OSCE)のような、恒常的な対話組織の確立が急務だ。
政府と政治家だけに任せていてはいけない。議員、自治体、市民、知識人、経済界、メディアなどが入って進めることが重要だ。
復帰50年の沖縄と現状
高良 鉄美(参議院議員・琉球大学名誉教授)
沖縄では、シェルターの準備が始まっている。それは戦争の準備行為であり、戦争に向かっているということ。緊急集会で「沖縄を再び戦場にするな、真面目に平和外交を行え」と訴えた。
沖縄の現状は、主権在民ではなく、日本政府がやっていることは主権在米ということだ。
沖縄の空には憲法はない。嘉手納ラプコンは返還されたが、実際は米軍が管制をやっている。低空飛行をやらざるを得ない。訓練空域、海域が次々作られている。日本の主権はない。
沖縄は、福岡より台北、上海の方が近い、東京より、香港、マニラの方が近い。アジアのハブとして有利な位置だ。沖縄は万国津梁の鐘の漢詩に言われるような懸け橋の地位にある。沖縄の経済的活用が必要だ。
日本はウクライナ戦争を止めようとしていない。参議院のロシア非難決議では退場したら「非国民」と言われた。
台湾有事を口実に馬毛島、宮古、石垣島で基地強化が進められている。辺野古新基地建設には県民投票で72%が反対し、参院選や今回の県知事選挙でも示された。辺野古の問題はデモクラシーの問題だ。台湾有事について、沖縄は止めてくださいと言っている。
将来の世代がアジアの未来予想図を描けるように、そういう時代をわれわれがつくらなければいけない。
食料安全保障について
鈴木宜弘(東京大学大学院教授)
日本が近い将来、飢餓に直面するという想定はすぐそこまできている。
コロナ禍で物流が止まり、ウクライナ紛争が起きて物流が止まってきている。小麦の輸出の3割はロシアとウクライナが占めている。日本は米国から買っているから大丈夫だなどと言っているが争奪戦になって日本が買い負ける状況が起こっている。来年から日本の農家が使う肥料が供給できないかもしれない。
お金を出せば買えるなどウソで経済安全保障など通用しなくなる。
「台湾有事」が起こったらアウトです。米国の大学が核戦争のシミュレーションをしたら、国際物流が止まり局地的核戦争でも日本人の6割が餓死する。米ロの全面核戦争では全滅。核で死ぬのではなく餓死する。戦争に突き進むようなことを勇ましく言うことが、いかに愚かであるかということを本当にいま考えなければいけない。
こんな時に国内の農業生産より中国がけしからんから経済制裁を強化して敵基地攻撃能力を高め、防衛費は2倍に増やし、いざとなれば攻めていけなんて言っていたら、闘う前にみんな餓死してしまう。
米国は日米安保で何を守ろうとしているのか。米本土を守るために、沖縄の周辺にもミサイル基地を増やし、日本を戦場にして米国を守るということです。こんなことに加担したら、日本が一番被害を受ける。
米国追従はいますぐ断ち切り、アジアとの共生システムを早急に考えなければならない。国民を守るため、国家戦略として外交をどうするのか、近隣との関係をどうするのかということを抜本的に立て直し、早急に行動しないと間に合わない。
集会には伊波洋一・参議院議員など100人以上が参加した。多くのメッセージが寄せられ、各界からアピールも行われた。賛同も部落解放同盟中央本部など多くの団体・個人から寄せられた。主なメッセージと各界からの訴えを紹介する。