インタビュー 青年学生

学費値上げに反対し政府に要請 未来を奪われた学生の声を届けるーー金澤伶さん(東京大学4年生)

 「学費値上げ反対運動に立ち上がった東大、広大、大阪大、熊本大、中央大、武蔵美大 苦しむ学生の声を聴く」が2月13日に国会内とオンラインで行われ、全国から学生250人以上が参加した。行動には、「東京大学学費値上げ反対緊急アクション」など121の高等教育機関の学生が連名し、政府に対策を求める画期的なものとなった。この行動の旗振り役の一人で、当日司会を務めた、東京大学の金澤伶さんに聞いた。(文責編集部)

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 「学費値上げ反対緊急アクション」は昨年5月、東京大学が学生1人当たり年約11万円の学費値上げ(引き上げ後は64万2960円)を計画していることが明らかになったことに反対して、結成されました。ほとんどの教員、全ての学生は、マスコミのリークで初めて知らされるという一方的なものでした。

 報道直後、「五月祭」(学園祭)に合わせて抗議デモを行いました。文学部や駒場キャンパスなどでもさまざまな動きが生まれ、全学集会も取り組まれました。

 6月には院内集会を開き、7党派29人以上の国会議員が参加しました。オンライン署名も立ち上げ、3万3千名の反対署名を集めました。これらは、一定の効果があったと思います。

仲間と共に署名を提出する金澤さん(中央)

 6月21日には「総長対話」が行われましたが、藤井輝夫総長は「検討を行っています」などと述べるのみで、きわめて不十分なものでした。しかも、大学はこの後、「総長対話」に不満を持ち自然発生的に安田講堂前に集まった100人の学生が集会を行っているところに、深夜、約30人の武装警官の構内侵入を容認しました。大学自治を破壊する、まったく不当な弾圧であると、多くの抗議の声が上がりました。

 7月初旬、値上げ公表の「一時見送り」がマスコミで報じられました。しかしながら、東大は夏休み中の9月10日に学費値上げを一方的に発表しました。

 学費値上げは東京大学だけのことではありません。各国公立、私立大学でも値上げは行われていますし、今後も波及することが予想されました。

 そこで、東大、中央大をはじめとする6大学の学生による呼びかけで改めて院内集会を行い、与野党国会議員と政府に学生の置かれた状況を直接伝え、対策を求めることにしました。

 準備は短期間でしたが、121の高等教育機関の学生有志・団体が加わるものとして、アピールできたと思います。

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4項目の要求を提出

 最終的にまとめ、2月の院内集会で提出した要請項目は4つです。

 まず、近年行われた、または来年度行われる学費値上げを撤回させるため、145・2億円を緊急措置することです。

 第二に、大学等の学費をまず10万円引き下げるために、3216・2億円を措置することです。

 第三に、少なくとも年収650万円までの世帯に、無条件で受け取れる給付型奨学金を拡充することです。

 第四に、上記項目を、国立大学法人運営費交付金、私立大学等経常費補助金、地方公共団体への国庫支出金等、大学等の基盤的経費に資する国からの支援金増額で実現することです。

 少子化などで大学経営が厳しくなっていることは理解できますが、高等教育に対する国の責任として、学生や家庭の負担が増えないよう努めるべきという趣旨です。

 要請項目の金額については、文部科学省の公表資料などを基に計算しました。30大学以上の学生が議論に参加し、当事者として現実を見つめながら要請項目としてまとめました。

切実な声があふれた院内集会

 院内集会では18人の学生が発言しましたが、みな切実な内容で、時間が足りなくなってしまいました。

 週6日のハードなアルバイトに追われている学生、経営側が学費値上げを学生への説明なく行ったことで休学や退学を選択せざるを得なかった私大生、学費値上げで地方大学が受け皿としての役割を失いつつあること、留学生や障がいなど多様な背景を持つ学生の状況はとくに深刻です(別掲)。

 私がとくに印象深かったのは、東京学芸大学大学院生の声です。

 「私たちが学ぶ理由はさまざまです。勉強や研究のため、夢、将来、生きる力のため、いずれにせよ、学びたいという思いは尊いはず。しかし、経済的理由で諦め、心身を壊す現状があります。高等教育機関は、お金という現実で『諦め』を『学ばせる』ためにあるのでしょうか。『そんなはずはない』という共通理解が得られることを信じます」

「44万円を3週間以内に払え」

 学費や就学支援制度は、若者の未来を左右する重大な問題です。

 宇都宮大学の4年生だった私の友人は卒業間近の昨年3月、大学から通告を受けました。内容は「再判定により、学費を免除しすぎていたことが判明」したとして、「3週間以内に44万円を払わなければ除籍処分」にするというものです。

 彼女は8歳でフィリピンから来日し、授業料免除制度と奨学金を活用し、さらに大学後援会からの貸付金を借りながら、なんとか大学に通っていました。困難な中でも多くの資格を取得し、複数言語を話せる努力家でした。

 それでも仮に44万円を払えず除籍ともなれば、通学記録も、努力して取った単位も全て無に帰してしまいます。

 彼女は大学に分割払いを求めましたが拒否され、金融機関からの借り入れも、在留資格を理由に拒否されてしまいました。

 こうした事情が新聞に報じられたことで善意の寄付が集まり、また弁護士の仲介もあって、除籍という最悪の事態は免れました。納付期限当日ではありましたが、盛山文科相(当時)も「学生や保護者に対して丁寧な情報発信ができていたか課題が残る」と、大学側の姿勢を問題視しました。

 しかし、それまでの経済的圧力やさまざまな差別的対応により、友人の心身は追い詰められてしまいました。

クラウドファンディングで宣伝

 このような事例は、物価高騰と相次ぐ学費値上げによって全国で噴出しています。

 経済的理由や奨学金制度の問題など、さらに、自分ではどうしようもないルーツやマイノリティー性などによって、未来を奪われてきた学生たちの声は埋もれてしまっています。「裕福な家庭出身者が多い」とされる東京大学でも、実態はさまざまで、掛け持ちや連日のアルバイトで生活費を捻出している学生もいるのです。

 私は国会要請行動を通じて、こうした声に耳を傾け、可視化し、国政に働きかけ、変えたかったのです。実際に成果も表れていて、3月4日の千葉県船橋市議会、3月13日の参議院文教科学委員会および3月14日の参議院予算委員会、3月26日の参議院本会議および3月27日の参議院文教科学委員会などで、学費値上げ問題と学生たちの声を取り上げていただきました。

 現在、要請行動で集まった学生の声を広げ、また政策決定の場に届けるためのZINE(自主出版物)を制作するためのクラウドファンディングを行っています。目標額は50万円ですので、ぜひご協力をお願いします。今後、さらに内容を充実させ、書籍化も行う予定です。

 併せて、全国の教員と連帯しての院内集会や、省庁交渉、参議院選挙の前には、再度の国会要請行動や全国での同時行動を行うことを検討しています。

 人の痛みを自分のものとして、多様な背景を持つ人びとが生き生きと暮らせる社会を目指して、これからも活動していきたいと思います。

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院内集会での学生の発言(一部・要旨)

一橋大学学生
 2020年度より学部生と一部の院生に対して授業料値上げが行なわれました。理由は「世界最高水準の教育研究拠点の構築」のための経費確保でした。しかし学生からは良い変化は見えませんし、そもそも十分な説明もなかったのです。
 奨学金制度などを上手く使えという意見もあるでしょう。しかし制度を上手く使って当たり前という考えは「生存バイアス」そのものです。これでは、構造に由来する学生・院生の苦しみも、「努力が足りないから」と問題が矮小(わいしょう)化されてしまいます。
 私は大学が経済的にも精神的にも常に強者でないといられないような場所であってほしくありません。各人が一人の人間として余裕をもって生きられるよう、値上げ阻止、無償化に向けた高等教育の予算拡充を、強く訴えます。

東京大学学生
 東京大学は、学費値上げの理由として「グローバルな競争」を挙げていますが、その競争によって、本来であればアクセスできたはずの教育を受けられなくなることは、誰もが教育を受ける権利を有することに反します。「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げているのに、特定の学生を排除する可能性があるのは本末転倒です。
 私自身、大学院進学を諦めた理由の一つが学費の高さでした。私の家庭は、妹も大学に行っており経済的に余裕がありませんでした。そのため、大学進学時には奨学金を借りるしかありませんでした。大学院進学を考えた際、さらなる奨学金借り入れが必要となり、将来の返済負担を考えると大学院への進学を断念せざるを得ませんでした。本当は大学院へ行こうという気持ちもありましたが、これ以上借金を増やすのは流石に憚られたのです。
 奨学金制度は、多くの学生にとって「借金」という形で将来の負担となっています。私自身、卒業後は返済に追われる日々が続くと思います。これは、経済的に厳しい家庭の学生にとって大きな心理的・経済的負担です。経済的に困難な状況にある学生に対して、学費の減免や生活支援をさらに拡大することを要請します。

広島大学学生
 広島大学で学費値上げ検討が明らかになった翌日から、学費値上げ反対を訴え続けています。首都圏の大学に集中していた授業料の値上げが地方国立大学にまで波及してきたことに強い危機感を抱きました。
 「大学に進学できたのは学費が安い国公立大学だったから」「生活費のことを考えると広島県内の大学しか進学できなかった」。度々広大生から聞かれた言葉です。
 地方国立大学は経済的な事情を抱える人の受け皿となり、地域に根差した大学としてより多様な人の学ぶ権利を守るうえで重要な役割を果たしています。学費値上げではなく値下げを、そして高等教育無償化の実現のために改めてお力添え願います。

静岡大学学生
 給付型奨学金と授業料免除を受けながら大学に通っています。この制度がなければ大学進学は実現できませんでした。しかし制度を利用する中で、手続きの煩雑さや免除決定の遅さなど、多くの課題を感じています。
 現在の制度では、自宅通学の学生に支給される奨学金は、自宅外通学の学生の約44%にとどまっています。ただ、学生が置かれた状況はさまざまです。静岡大学の場合、市内から自転車で通学できる学生もいれば、隣県から電車・新幹線を利用して通学する学生もいます。遠距離通学する学生は経済的負担が大きいにも関わらず、アルバイトの時間を十分に確保することも難しい状況にあります。実情に寄り添った支援策を検討すべきではないでしょうか。

武蔵野美術大学学生
 武蔵野美術大学では、他大学とは比較にならないほどの学費の値上げの問題があります。
 1つ目は学費の値上げの問題についてです。2020年度には授業料が25,000円増額し、2024年度には30,000円増額しています。大学側は学費増額の理由やその使途について十分な説明をしておらず、透明性の欠如が問題としてあげられます。
 2つ目の問題は、留学生のみに対して「修学環境整備費」の名目のもと、年間363,000円、4年間で145万2000円の増額をしたことです。他大学とは比較にならないほどの大幅な増額であり、この値上げにより、年間の学費は230万円近いものとなります。
 12月末に開かれた説明会は、学生証の提示が必須かつ撮影・録音禁止のクローズドなものでした。説明会は、留学生の日本語能力をその場で試したり、日本文化理解の不足を前提とした不適切な発言も見受けられるなど、根本的に多様性への配慮が欠けた独善的なものでした。

お茶の水女子大学大学院生
 私も貸与型の奨学金を借りており、博士課程の進学も研究資金の獲得の見通しがなければかないませんでした。そのような研究資金への応募も、家族の助力などで経済的負担を軽減できた人のみが注力することができ、研究者としての資質や能力の差ではなく、環境的な差が本当に大きいと感じます。
 博士課程を希望していた同期や先輩、後輩の方々が学費捻出がままならないため就職の道を選んでいるのを目の当たりにしてきました。また、研究職は専任になるまでは多くが非常勤講師として働くことになり、経済的余裕のなさや見通しのつかなさが、研究への注力を阻む精神的負荷にもつながっており、メンタルヘルスに与える影響も大きいことが分かっています。
 研究者にならない人でも高等教育を自身の動機から選べる社会になって欲しいですし、そもそも大学の授業料無償化は「手の届かない理想論」ではありません。

東北大学学生
 昨年国際卓越研究大学に選ばれた東北大学の状況について話させていただきます。昨今の大学政策の方針の一つに「稼げる大学」がありますが、本来教育研究機関である大学が経済的利益を要求されたり、国からの財政支援に条件が課されたとき、大学は国に忖度(そんたく)せざるを得なくなります。
 東北大では高すぎる数値目標に現場が混乱したり、ふたを開けてみたら援助額が想定より少ないために結局博士学生への支援が縮小されたりと、見切り発車的な改革に多くの懸念が伴っています。
 運営の「コスト」となる学寮など福利厚生施設が縮小されたり、大学自治が弾圧されるという形で学生にしわ寄せがきています。これは学費値上げとも無関係ではありません。改めて確認しておきたいのは、これらが本来は競争原理の外側で守られるべきものであるということです。

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