
ーー河内さんが西伊豆町議になった経過を聞かせてください。
私はこれまで東京都荒川区に住んでいたのですが、昨年、実家の母が脳梗塞で倒れ、左半身まひで車いす生活になりました。父は認知症(要介護3)のため一緒に暮らすことができず施設に入所してもらいましたが、母が独り暮らしするにもヘルパーさんがいないと言われて、私が介護離職して実家に戻ることにしました。昨年12月までは失業給付で生活していました。
介護の人手不足は全国的な状況ですが、地方の西伊豆町では本当に深刻です。これは私だけの問題ではありません。行政もほとんど対応できていません。私は介護・医療に長年従事し、荒川区では議員も一期務めました。この深刻な状況を少しでも変えるために今年4月の町議選に立候補し当選しました。
ーー共同通信が全国の自治体首長に実施したアンケートでは、介護保険サービスの持続に危機感を抱く首長が97%に上りました。
当然ですね。相変わらず新規のヘルパーさんが集まらないからです。ただ私に言わせれば、どれだけの首長さんが深刻な実態を知っているか、疑問に思っています。
西伊豆町内の訪問介護事業所は、今年になって3事業所が廃止され、残った事業所は2カ所のみです。そのうちの1カ所が社会福祉協議会ですが、4年間赤字でした。ここでは介護保険導入時に正規職員が4人、パートが15人いたのが、閉鎖時には正規職員が1人、パート5人ということでした。正規職員を増やしたくても赤字では雇うことができません。
利用者を振り分けられた隣町の松崎町の事業所からも「ヘルパーが足りず受け入れられない」と言われています。
パートヘルパーは最賃で雇われているところがほとんどです。物価高での生活苦で皆大変です。賃金が安いヘルパーのなり手がいないのは当たり前です。
昨年、介護報酬を切り下げたのは政府の大失策です。いまだに改められません。介護崩壊はさらに進もうとしています。
伊藤周平・鹿児島大学教授の言うとおり、「保険あってサービスなし」、公的責任放棄ですね。
ーーアンケートで首長らが答えた対応策は、「国の負担割合の引き上げ」とともに「利用者負担2割、3割の対象拡大」「利用者負担を原則2割に」というのもありましたね。
介護保険の負担割合は、公費が半分で国が25%、県が12・5%、市町村が12・5%、それに保険料、原則1割の利用者負担です。
この利用料2割、3割の対象拡大というのは、結局は所得限度額を引き下げることになります。そうなると貧困高齢者の女性世帯などはサービスを受けられなくなる。全国で65歳以上の貧困率が20%、単身の女性の貧困率は44%にも上りますから。
女性は正社員で働いてこなかったり、パートだったり、外で働いてこなかった人がたくさんいる。だから年金も安く貧困化する。これは大変なことです。
介護保険制度を導入する前の昔の措置制度では、町の高齢者福祉課で必要な人に公的ヘルパーが派遣されていました。「家庭奉仕員」という名前でした。応能負担なので、年金の人が通所したとしても、お昼のご飯代250円ぐらいだった。利用料タダだから。週に2回でも2000円程度の負担で済みました。
それが今は週に2回でだいたい1万5000円の利用料がかかります。介護保険分に加え、入浴介助加算とか、リハビリマネジメント加算、栄養アセスメント加算、科学的介護推進体制加算だとか、さまざまな加算があります。そうなると女性単身の高齢者のほとんどは、サービスは受けたくても受けられない。放置されることになります。
介護保険料も上がりますね。来年から「子ども・子育て支援補助金」が介護保険・医療保険に上乗せされます。それに高額医療費の上限引き上げもまた出てくるでしょう。これらはさまざまな疾病を抱えた患者さんたちからすれば深刻な問題です。
ーー介護保険での国の負担割合を増やす要求は当然で、全国で動きをつくらなければなりません。各自治体での社会保障に対する姿勢や財政をどこに使うかも問われるべきですね。
自治体自体が介護保険制度から25年たって、今はもうかつての措置制度の時代を知らない人たちばかりになっています。だから介護サービスは民間任せで、おまけに社協さえ残っていないところもいっぱい出てきています。
憲法25条の「生存権」自体を首長さんがちゃんと理解しているかどうかだと思います。
高齢者福祉法の措置制度はまだ残っています。その措置に該当する人たちは、たとえば虐待事例とか、放置しちゃダメな認知症の人とか、条件がありますが。それ重要なところですよね。それを忘れて要するに自己責任というのは間違いです。
西伊豆町の人口減少もすごいのですが、将来を見据えた計画を、民間任せじゃなくて、やっぱり自治体がしっかりと立てるべきです。何にお金をかけるべきかっていうことです。いろいろ公共施設の老朽化とか、水道の問題とか、ゴミの焼却場の問題とかいっぱいありますが、今すぐに必要な医療とか介護とか、そういったのが後回しになっています。
たとえば西伊豆町の場合、すぐに津波対策の「避難タワー」を建てることになる。今3基建てられ、今度4基目が建てられますが、一つに3億円かかる。すぐ裏が山なのにわざわざ建てる。一時避難所を整備して安全に上がれるようにすればいい所もあるのですが。だったらその3億円を今働いてる介護労働者が辞めないように補助金出してもらいたい。何年分も持ちます。
医療従事者も看護師不足が深刻です。特養でボランティアしようかと相談したら、「常勤看護師が1人しかいないので休みが取れない、月に数日でもいいから働いてほしい」と言われ、私も9月から週2回働くことになりました。
隣町の特養も人手不足で、入所者の入浴の回数が減らされている状況です。医療、介護、保育の社会保障は、必須なインフラ整備です。民間委託から公的保障として公務員化することが一番の人材不足解決になると思います。
目には見えないけれど人にお金をかけて、これ以上事業所が減らないようにする。そういう対策をきちんとやるべきです。
ーー介護保険は違法と訴えたヘルパー3人の国家賠償訴訟は重要な意義がありましたね。
ヘルパーさんたちが国の責任を訴えたっていうのはすごいことです。ヘルパーさんの状況を全国に知らせたわけだから。一般の国民にも、介護労働者にとっても、自分たちのことだけではない、これは国の責任だったんだっていうことに気づかされたということは大きい。
たとえば、国の責任として報酬単価に移動加算が付け加わっても、その分は利用者にも跳ね返るわけですね。介護保険制度そのものに矛盾があります。
だから私は介護保険制度の導入時前から、いずれ利用料が増えて1割じゃなくなりますよ、いずれ国保と同じ3割になりますよ、そう言ってきました。介護保険料が当時は2000円程度で、減額もあってかなり安かったのですが、それが何十年かたったらそれこそ1万円になりますと言ってきました。その通りになりました。
介護保険法自体は、最初は国会で審議されましたが、通った後は省令で、国民の意見を聞かなくて済んだ。彼女たちが訴えたのは現場で働くヘルパーさんたちの現状。それを皆の運動につなげていけるかが問われていると思います。
ーー「社会保障を公的責任で」という世論を強めるべきですね。
2027年度からの「第10次介護保険計画」の議論が始まっています。そこに向けた運動は非常に重要です。ケアプランの料金は、今は無料ですが、それを報酬に上げるみたいな。自己負担化もある。少なくとも利用料や保険料に跳ね返ることはしないようにさせなければなりません。非課税世帯からは介護保険料徴収しないで高額所得者からしっかり取るべきです。本来は介護保険ではなく公的責任の介護保障制度に変えなければなりません。
また来年から子ども・子育て支援制度が医療保険に上乗せされることになっています。高額療養費の上限引き下げもまた言われるでしょう。医療・介護・保育の社会保障は必須なインフラ整備です。民間委託から公的保障として公務員化が一番の人材不足解決になると思います。
大企業の法人税を下げた分を上げて社会保障に回すべきですよ。もっと大きな声を上げていきたい。
10月に第21回全国地方議員交流研修会が札幌で開催され、社会保障確立が二つの分科会での議論されます。私はそこで社会保障の確立を求める地方議員のネットワークが広がることを望んでいます。