地方政治 インタビュー

住民主体の再生エネルギー実現を 能登半島地震で問われる町づくり 原発前提の地域づくりに展望ないーー堂下健一・石川県志賀町議会議員

——昨年1月の能登半島地震で、北陸電力志賀原発がある堂下さんの地元で「地震と原発」の問題がクローズアップされました。この問題の現在の状況などについて教えてください。

 能登半島地震によって、これまで「大丈夫」とされてきた原発避難計画は「絵に描いた餅」だったことが明らかとなりました。

 志賀原発以北の住民は能登半島の先端部にある自治体に避難することとなっています。しかし、今回の地震で避難道路は至る所で隆起・陥没あるいは土砂崩れが起こり通行不可能となりました。また、避難先の自治体も甚大な地震被害を受けています。地元住民の避難との兼ね合いもあり、仮に避難できていても、現実的には受け入れ対応は厳しかったはずです。

 要避難者や体の不自由な人の町内での避難施設も多数地震の被害を受け、機能不全となりました。建物の柱や天井が損傷し、防護区域で雨漏りや窓に隙間ができた施設もあります。自家発電が起動せず、数日停電の施設、避難施設本体は無事でも付属の浄化槽が陥没し使用不能となった施設、上水道が地震の影響で通水できないといった施設もありました。原発事故の緊急時に仮設トイレ、あるいは給水車といった対応はあり得ません。

中国領事館(名古屋市)を訪問する堂下さん(左)

 能登半島と同じような地形に立地する原発だけではなく、都市部に近い原発でも、地震での避難道路の確保は大きな課題でした。原発事故との複合災害となったとき、本当に住民は避難ができるのか。能登半島地震で「避難は不可能」ということが事実をもって証明されました。

 こうした状況に対し、町や県はどう対応しようとしているのか。現在は静観し特に何もしていないという状況です。

 というのも、志賀原発は2011年3月に起きた東日本大震災と福島第一原発事故の前から定期検査で運転を停止していて、その後も現在に至るまで再稼働していません。再稼働に向けて原子力規制庁が審査していますが、クリアすべき審査項目はまだまだ多い。地震で問題化した原発防災、道路問題、土砂崩れの問題も残っているし、海底活断層が原発に与える影響などを見極める必要もある。規制庁の結論が出るにはまだかなりの年数がかかると予想されています。

 だから町は、どうせ時間がかかるのだからと、私が議会で質問しても、町長は「規制庁の判断を注視している」というような不明瞭な姿勢を示すだけで問題を先送りしています。

 志賀町の町長は、能登半島地震の直前1週間ぐらい前に町長選が行われて今の町長になったのですが、本人も被災し、自宅から町役場にたどり着く道路も相当に破損したなどの経験をしている。当選した時には従来の原発推進路線をそのまま引き継ぐ姿勢でしたが、さすがに自ら多くの問題を経験したので、新聞等のインタビューでも「これまでの原発避難計画には問題が多過ぎる」などと言わざるを得なくなった。

 ただ、町長は徐々に軌道修正を図っているようにも見える。表向きは原発推進とは言わないし、個人的に原発計画に疑問を持っているかもしれないが。立場的にはよほどの信念がないと原発反対とは言えないでしょう。

——原発を前提としない地域づくりという課題は、地震後にいっそう厳しく問われていますね。

 そうだと思います。地震によって用水路やあぜ道が崩れるなど水田が受けた被害は大きく、能登半島では離農者が増えています。地元の商店街も同じような状況です。住民が地域で生業を維持するのがますます困難になっています。人口減に拍車がかかり、若い看護師・介護士の多い職場では、自らも被災し将来の子どもの教育環境を考慮し金沢近郊へ移住する人が多くなっています。奥能登の2市2町の4公立病院で看護師さんらの離職が増えているため、今後の病院維持が病院機能の復旧とともに課題となっています。さらに4つの公立病院の統合も検討がされています。こうした地域衰退を食い止めるための原発再稼働などというものには全く展望がありません。

 いま若い人たちがいろいろなプロジェクトを立ち上げています。地震後に捨てざるを得なかった着物のリサイクルや地震の記録作業、古木や家具のリサイクルなどを始めたグループなど、これまでになかった動きが随所に出てきています。こうしたことは地域の今後への明るい希望です。

——地域で再生可能エネルギーを実現する課題について、地震後の動きや取り組みなどについて教えてください。また、今月行われる第21回全国地方議員交流研修会に参加して得たいものなどについてもお話しいただけますか。

 山間部に大規模な風力発電所を建設することについては、森林伐採による環境悪化や水源汚染、土砂災害リスクの増大、景観の破壊、低周波音騒音からくる健康被害、コストや採算など、さまざまな問題があり、私は以前から疑問視してきました。

 地震以降、山間地への風力発電施設建設について、もろに撤退とは言わないが、中断している事業者はいくつかいます。予定していた場所で土砂崩れなどで林道がふさがれたり崩れたりして建設予定地に行けなくなったなどの状況があります。既設の風力発電施設も地震以降は送電線が切れて稼働していなかったりします。能登半島には190基余の風力発電建設計画がありますが、そのうち140基近くが志賀町との町境に建設が予定されていました。しかし、最近の各事業所の動きについて町に問い合わせても「事業者が何も言ってこないので困っている」という感じです。

 新しいところでは、近隣の輪島市で新たな洋上風力計画が持ち上がっています。「震災復興の一環」として検討が始まっているようですが、今後どのようなことになるのか、注視したいと思っています。

 また、隣の市の話ですが、長い間休耕田になってた田んぼを復元して、その一角にソーラーパネルを並べて置いて、それで農業収入を補填(ほてん)するような取り組みも行われています。参考にしたいと思っています。

 結局のところ、地産地消の再生エネルギーを実現するためには、自分たちがしっかりと目標をもって主体的に取り組むことが何よりも重要だと思います。進出してくる外資系の企業などは、「地域のために」などとは言いますが、騒音や景観の問題など弊害については言及しません。そうして事業が進む間に事業が転売されて事業者名が何回も変わったりする。そうなると弊害に対する責任はあいまいにされます。

 自分たちの地域の具体的な場所に合った再生エネルギーを見いだして、地域の中に新たな産業をつくっていくというのは、よほど皆で頑張っていかないと厳しいという現実があります。自己満足的に小さな試みをやるのではなく、地域を巻き込んで地産地消の再生エネルギーを実現しようとするのであれば、まずその仲間づくりから始めなければなりません。近々行われる全国地方議員交流研修会では、他の地域の具体的な例を聞くだけでなく、その方法がうちの町に合っているのか、本当にそれがうちの町で実現できるのか、仲間づくりはどうしているのかなど、いろいろと学べることがあればよいと思っています。

——お忙しいなかで時間をつくっていただき、ありがとうございました。

 いえいえ。議会と稲刈りが重なった上に、農機具の故障で稲刈りが遅れて、ちょっととバタバタしていました。(笑)

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