以前、私は中国に対して悪い印象を持っていました。その理由の一つが、GoogleやMetaなどのソーシャルメディア企業を規制する政策でした。メディアでは常に「中国には言論の自由がない」という批判がされるので、同じように感じている人は少なくないかもしれません。
ですが、本当に外国のソーシャルメディアを規制することは悪いことなのでしょうか。最近、私の母国ブラジルで起こったできごとを通じて、この問題について改めて考えるようになりました。
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今年の8月、ブラジル最高裁判所はX(旧Twitter)に対し、法定代理人を任命するよう命じましたが、Xはそれを無視したため、その後国内でのサービス停止を命じました。
これに対し、国内外の右派勢力は「ブラジルは言論の自由を抑圧する独裁国家になった」と批判しています。しかしこの判決は言論の自由とは全く無関係です。
法定代理人がいなければ、ブラジル当局はXにブラジルの法律を守るように求めることができません。たとえば、X上に児童ポルノが投稿された場合、被害者の親はXにその投稿を削除するよう法的に要求する手段がなくなります。普通に考えてありえない話です。
では、なぜXの最高経営責任者であるイーロン・マスク氏は法定代理人の任命を拒否したのでしょうか。私はここに本当の問題があると考えています。
ブラジルの右派勢力は、以前から最高裁のアレシャンドリ・デ・モラエス判事を標的にしており、マスク氏はその動きを支持してきました。Xは「アレシャンドリ・ファイルズ」というアカウントを開設し、モラエス判事に関する虚偽情報を拡散して、彼が逮捕されるように仕向けていたのです。
マスク氏が今回最高裁判所の命令を無視したのも、モラエス判事を独裁者に見立てるための戦略であると私は考えています。ブラジルの主権を侵害し、極右勢力を支援するための手段なのでしょう。
なぜか。マスク氏は以前から極右勢力と手を組んで自身のビジネスを有利に進めようとしています。たとえば、彼はアマゾンで違法な鉱物採掘を行っている組織に、Starlinkという会社を通じてインターネットサービスを提供しています。Starlinkを使うことで、彼らはアマゾンの資源を細かくマッピングし、効率よく違法採掘を行うことができるのです。
採掘された鉱物は、マスク氏のもう一つの企業である電気自動車メーカーTeslaに売られることもあるでしょう。ニッケルは電気自動車用のバッテリー製造に欠かせない資源であり、中国の電気自動車メーカーBYDとの激しい競争に直面しているTeslaにとってきわめて重要な資源です。
このように、マスク氏はブラジルの極右や違法採掘者と協力し、自らの利益のためにブラジルの自然を違法に破壊・搾取しています。なお、ボリビアがリチウム採掘への民間投資を禁止したときも、マスク氏はクーデターを示唆する投稿を平然と行っています。
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インターネットを使った国家主権の侵害は他国でも行われています。たとえば、英ケンブリッジ・アナリティカはFacebookと連携してユーザーのデータを利用し、BREXITやトランプ、ボルソナロの当選を後押しました。また米国のCIA(中央情報局)は東南アジアにおける中国に対する不信感を高めるため、中国製ワクチンに関する虚偽情報をSNSで拡散しました。フランスでは最近Telegramの社長がデータ提供を拒否したことで逮捕されました。デジタル時代において、SNSは帝国主義的介入の武器となっているのです。
このような例を見ていると、中国が外国のSNSを規制するのもうなずけます。国家主権を守るために、特に米欧の巨大企業が運営するSNSの規制は必要不可欠かもしれません。中国はこの点で時代を先取りしていたとも言えるでしょう。
日本はインターネットを通じた多国籍企業による介入を防止する対策ができているでしょうか。国家の主権を守るためにはインターネットのあり方を考えるべきなのではないかと思います。(D)