労働新聞 2003年7月15日号 学習

マルクス主義入門
カール・マルクス著

『賃労働と資本』(5)
資本家と労働者の
利害の本質的対立

 前章で、マルクスは「資本家と労働者の利害の共通」というまやかしに対して、それを「高利貸と浪費者」に例え、「同じ1つの関係の2つの側面」に過ぎないと言った。今回は、その労働者と資本家の相互関係についての考察である。これこそ実は、この資本主義社会の運命を決定づける、階級闘争の実際的基礎である。
 マルクスがまずふれる、人間の欲望や享楽についての見解は有名である。
 例えば、昔の炭鉱住宅を思い出してほしいが、人は周囲が小さい、同じような家ばかりなら何の不自由も、不満も感じない。ところが、見えるところに大邸宅が建てば、とたんに小さな家はみすぼらしく見え、惨めに感じ、いつか大邸宅に住みたくなる。つまり欲望という感情にも物質的基礎があり、「欲望や享楽は社会的なもの」「相対的なもの」である。「隣の芝生」とはよく言ったもので、人間の欲望それ自身は無制限なものではない。原始時代や赤ん坊のことを考えてみればよい。彼らは決してプール付きの家に住みたいとは思わないであろう。
 ところで「資本主義は個人の欲望を基礎にするから発展する」「社会主義はそれを認めない、悪平等だからから失敗した」などという。しかし欲望が社会的だとしたら、この論議の根拠自身が崩れるのではないだろうか! 現実にありもしない豪奢(ごうしゃ)や自由などをあおり立てる、CNNなど帝国主義の電波メディアの犯罪的役割もここにある。
 さて、賃金にもこの問題が当てはまる。仮に、賃金が変わらなかったとして、物価が軒並み上がったら、つまりインフレになればどうだろうか。労働者が同じ金額で買える物は少なくなり、生活の満足度は下がる。名目上の賃金は変わらなくても、実質の賃金は下落したのである。60年
代など高度経済成長期はこんなものであった。
 逆に、いまの日本のようなデフレ下で物価が下がったらどうか。賃金が変わらなければ、ちょうど逆のことが起こることになる。だから、「賃上げ」だの、「右肩上がりの経済」だの言っても、名目賃金だけを見ていたら何も分からない。
 さらに、賃金にとって決定的なことがもう1つある。マルクスは「賃金は、さらに、何よりも、資本家のもうけ、利潤に対する賃金の割合で、決められる」とし、これを、資本家のもうけとの比較という意味で、「相対的な賃金」と名付けている。
 実質賃金は、他の諸商品の価格と比べた労働の価格を表している。これに反して相対的賃金は、労働によって新しく生産された価値のうち、資本のものとなる分け前に比べての、直接の労働の分け前である。
 資本家は生産された商品を売るのだが、この価格は、次の3つで構成される。「第1には、彼が前払いした原料の価格の埋め合わせ、およびやはり彼が前払いした道具、機械その他の労働手段の磨損分の埋め合わせ、第2には、彼が前払いした賃金の埋め合わせ、第3には、以上のものを超えた超過分である資本家の利潤」である。だが、「この第1の部分が前からあった価値を回収するに過ぎないのに反して、賃金の埋め合わせも、超過分たる資本家の利潤も、だいたいにおいて、労働者の労働によってつくり出され、原料につけ加えられた新しい価値から得られる」ものではなかったか! 労働者の受け取る賃金と資本家が搾取する利潤とは、要するに「労働者の生産物に対する(資本家と労働者の)分け前」、労働者が生産した富の奪い合いの関係にあることが分かる。これこそ資本家と労働者の相互関係の本質である。
 景気がよい時で、ものがよく売れ、労働者の賃金が10%上がったと仮定しよう。一方で、資本家の利潤は15%上がったとする。労働者は豊かになったのだろうか? いや、「労働の分け前に比べて資本の分け前は増大した。資本と労働との間の社会的富の分配は、さらに不平等になった」のである。労働者の相対的賃金は減少したのだ。こうして、「賃金と利潤は、反比例する」という法則が発見される。
 マルクスは言う「労働者階級にとって最も有利な状態である、資本のできるだけ急速な増大でさえ、どれほど労働者の物質的生活を改善しようとも、労働者の利害と……資本家の利害との対立をなくしはしない、利潤と賃金とは、あいかわらず反比例する」と。
 「労働生産性」などという言葉があるが、これこそ資本家のためにこの「反比例」を極限まで拡大することである。最近では、史上空前の利益を上げた会社が「賃上げゼロ」という実態すらあるではないか。(O)(つづく)


  『賃労働と資本』(1)『賃労働と資本』の成り立ち
            (2)賃金とは何か?

            (3)賃金はどのようにして
              決められるのか?

           
(4)資本とは何か?
            (5)資本家と労働者の
              利害の本質的対立

            (6)資本主義の発展と賃金、
               労働者の運命


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