最近「労働新聞」では介護保険の問題についての記事がよく載っていますね。大いに同意しながら読んでいます。ヘルパーの不足が多くの人から指摘されていますが、私は今回ケアマネジャー(介護支援専門員、ケアマネ)不足についても指摘させていただきたいと思い、投稿しました。
離職が相次ぐケアマネ
ケアマネは、高齢者やその家族の相談に乗り、介護サービスを利用するための計画書(ケアプラン)をつくることが仕事です。介護サービスを受けたい高齢者などは、行政の総合相談窓口に申請し、介護認定を受け、地域包括支援センターにケアマネを探してもらい、ケアマネに来てもらって相談し、ケアプランに沿った介護サービスを受ける。こうした流れが一般的です。
私はある都市部でケアマネをしてますが、この地域ではヘルパーよりもむしろケアマネ不足が問題となっています。全国的にもそのような地域は少なくないと聞いています。
利用者が介護サービスを受けるには実質的にはケアマネがケアプランを作成する必要があります。地域にケアマネが少なければ、サービスを受けたくても受けられない、あるいは受けるまでに時間がかかるなどの「介護難民」「保険あってサービスなし」という状況が生じるでしょう。
現在、ケアマネは資格取得者の約4分の1強しか現場で働いていません。ケアマネとして働いていても離職して看護や介護の仕事に戻る人も後を絶ちません。
なぜケアマネの仕事は人気がないのか。分かりやすく言えば「割に合わない」からだと思います。そもそもケアマネの介護報酬は決して高いとは言えない上に、いわゆる「シャドーワーク」と言われる本来の業務範囲を超える無報酬労働も多い。これが最大の理由ではないでしょうか。
無報酬労働が多い!
たとえば、ある認知症のAさんを担当したとします。Aさんに身の回りの世話をしてくれる家族がいる場合、ケアマネがやることは月に2時間ほどAさんや家族にサービスの利用状況について確認するぐらいになります。
別の認知症のBさんを担当したとします。Bさんが一人暮らしで頼れる家族・親族がいない場合は、介護サービスを利用できる環境を整えるためのあらゆる身の回りの世話をすることもあります。入居できる施設を探すために電話をかけまくったり、そのための書類を作成したり。ヘルパーに来てもらう場合、前もって家のごみを掃除したり。お金の管理ができなくなっていれば、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業につないだり、電気代や電話代の支払いが滞っていればその支払いを代行したりもします。そのお金を銀行から引き出そうにも、本人が暗証番号を忘れてしまっていれば、暗証番号の変更をする手続きを一緒にする。そんなこんなで月に5日もBさんのために使うということもあります。
このように、月2時間のAさんでも、月5日のBさんでも、一人を担当することによる月額の介護報酬は同じです。制度的におかしいとしか思えません。
無報酬ということでいえば、こういう例もあります。担当しているCさんが1月に入院したとします。2月に病院から「3月に退院予定です」と電話があると、退院前カンファレンス(患者が自宅や地域で安心して療養生活を送れるよう病院スタッフと地域の医療・介護専門職が連携して行う会議)に参加します。本人と会って様子を確認して退院後のサービスを相談したりもします。にもかかわらず、入院が長引いて3月に自宅に戻れなくなったり、あるいは不幸なことに本人が入院中に亡くなったりした場合、2月に行った私の対応は無報酬ということになります。「Cさんのために2月にこんなに働いたのに無報酬?」と疑問に思わざるを得ません。
ついでですが、ケアマネの負担となっていることに研修があります。ケアマネは国家資格ではなく都道府県知事が認める資格で、有効期間は5年間です。資格の更新のために法定研修を受ける必要があります。しかし、仕事を休んで時間を取ってお金を払う研修の割には中身が薄く、提出しなければならない書類も膨大です。個人的には費用と時間が全く無駄になっているようにしか思えません。ケアマネ仲間とは「〇〇の利権だよ」などと話をしています。この研修を機にケアマネ資格の更新をやめる人もいます。制度を改めるべきだと思います。
政府の対応は愚策
シャドーワークについて、厚労省は「本来業務ではない」と言います。しかし、介護保険に制約があったり、公的福祉サービスが十分でなかったりする現状があれば、利用者や家族が身近なケアマネを頼るのは自然なことだと思います。
ケアマネ不足を解消するためには、公的福祉を拡充して、行政の仕事まで民間のケアマネに投げられている現状を変えることが必要だと思います。
この状況の中、国は何をしているのでしょうか。政府は昨年ケアマネ1人が担当できる件数の上限を月39件から44件へと緩和しました。しかしこれでは今でも少ないケアマネに業務が集中し、ケアマネのさらなる離職を促しかねません。目先のことしか考えていない愚策です。
介護保険制度は抜本的に改められる必要があります。ヘルパー不足もそうですが、あまりに「割に合わない」と感じる仕事であれば人が集まるはずはありません。担い手を増やす政策こそが求められています。