パレスチナ連帯運動、特にイスラエルと取引のある企業への抗議行動に取り組んでいる皆本夏樹さんは、以前からフェミニズム運動にも取り組んできた。動機や問題意識などについて聞いた。(文責編集部)
ーー皆本さんはどのように運動に関わるようになったのですか?
皆本
大きなきっかけは、2021年8月の小田急線刺傷事件です。「幸せそうな女性を殺したい」という男が、ただ電車に乗っていた20歳代の女子大学生を刃物で刺しました。当時同じく大学生だった私は、たまたまそこにいたら自分だったかもしれないと思い、「フェミサイド」反対運動を始めました。
フェミサイドとは、女性であることを理由にした殺人のことです。私はこの事件を、頭のおかしい犯人が偶発的に起こしたものではなく、この社会に蔓延(まんえん)する女性への差別や暴力と地続きの問題として捉えました。
加害者が社会に対して恨みを持っていたなら、なぜ男性の資本家や政治家にではなく、「男にちやほやされる勝ち組の女性」に殺意を向けたのでしょうか。
「正直そういう女性と付き合いたかったが、相手にされないから恨んだ」と語った加害者は、男性なら思いどおりにならない女性に罰を与えていいという意識があったのではないでしょうか。
この女性べっ視の意識は加害者だけが持っているものではないからこそ、個人の問題ではなく「フェミサイド」という社会の問題として訴える必要があると思いました。
ーーどんな行動を始めたのですか。
皆本
私はポストイットにメッセージを書いて駅の構内に貼る運動を一人で始めました。社会に対して訴えかけるためです。16年にソウルの江南駅で同じようなフェミサイド事件が起こった時、韓国の女性たちが付箋を使って運動を展開したのをまねしました。
それからフェミニストが呼びかけたデモに人生で初めて行きました。同世代の仲間を集めて、フェミサイドの実態解明を求めるオンライン署名を立ち上げました。約1カ月後に林伴子・男女共同参画局長(当時)と面会して、1万7000筆の署名簿と要望書を手渡しました。
社会運動もデモも署名活動も、何もかも初めてでしたが、やってみれば声は届くんだと分かりました。また、フェミサイド反対運動をする中で、野宿者やセックスワーカー、トランスジェンダーや人種的・民族的マイノリティの女性が受ける交差的な差別にも目を向けるようになりました。
フェミニズムは私に、自分が受けている抑圧や差別に対して声を上げる方法とともに、他の人々が受けている抑圧や差別とも闘うことを教えてくれました。
その後は名古屋入管が死なせたウィシュマさんの事件のことを知って、入管法改悪反対の運動に参加したり、関東大震災時の朝鮮人虐殺のことを学んだりしていました。
ーーそこに昨年10月、イスラエルがガザで虐殺を始め、皆本さんは抗議運動を始めたわけですね。
皆本
大学でアラビア語を学び、パレスチナへの関心は以前からありましたが、当時は「自分が行動しなければいけない」とは思っていませんでした。
フェミニズムに触れ、自分がクィア(性的マイノリティー)だと自覚してから、抑圧された人々が声を上げる大変さを知りました。やっとパレスチナ人のために自分の声を使う必要があると気づいて、行動し始めたのが10月です。
最初は、パレスチナについての日本語の情報があまりにも少ないので、SNSで発信しているパレスチナ人の声に日本語字幕を付けてシェアしていました。
街頭デモにも参加するなかで、パレスチナのために声を上げている若者たちや、在日パレスチナ人たちとも出会いました。
それから、やはりイスラエルの戦争犯罪を止めるには軍需産業を止めなければいけないと考えました。イスラエル軍に武器を供給しているエルビット社と関係のある伊藤忠商事と日本エヤークラフトサプライに抗議運動を展開し、実際にエルビット社との協力覚書を破棄させることに成功しました。これはパレスチナのBDS(ボイコット・投資引揚・制裁)運動の歴史上でも大きな勝利でした。
今は、イスラエル製の攻撃型ドローンを輸入しようとしている防衛省、輸入代理店になっている日本企業4社に対する抗議運動に力を入れています。自分の税金が、パレスチナ人を殺して開発された殺人ドローンの購入に使われるなんて嫌ですから。
ーー皆本さんはフェミニズムや自身のクィア性とパレスチナがどのように関連していると思いますか?
皆本
私が考えるフェミニズムは、いわゆる「ホワイト・フェミニズム」ではなく、交差性を重視するフェミニズムです。
ホワイト・フェミニズムは、欧米の裕福な白人女性のための運動です。白人女性の地位を高めることには一生懸命ですが、有色人種の女性たちが受ける人種差別と女性差別の重なりは無視しがちです。
またホワイト・フェミニズムは、自国が植民地化した地域の女性たちが、植民地主義によって受ける差別や抑圧についても考えません。それどころか「野蛮な現地男性から女性を救うため」という口実で、植民地化や占領、軍事干渉を肯定する例さえあります。
まさにイスラエルは、ガザでの虐殺を「抑圧されたパレスチナ人の女性を救出する」かのように宣伝しながら、パレスチナの女性たちを大虐殺しています。私の考えでは、これは全くフェミニズムではありません。
また、イスラエルは「クィアの人権に配慮している国」というブランディングにお金をかけています。これは「ピンクウォッシュ」、つまり自らの国家犯罪を覆い隠し、目を逸らさせるためのアピールです。
私はクィアで、全ての性的マイノリティの権利が自分にとってとても重要なことだと捉えています。だからこそイスラエルが私たちの存在を利用していることが許せないと感じます。
11月にはイスラエル軍の兵士が、破壊したガザを背景にレインボーフラッグ(性的マイノリティのシンボル旗)を掲げた写真をSNSに投稿したこともあります。
世界中どこにでも一定数のクィアは存在します。当然パレスチナにも多くのクィアは生きているのに、イスラエルは虐殺をしているガザでレインボーフラッグを掲げて、パレスチナのクィアたちの救世主にでもなったつもりでいるのです。実際にはパレスチナのクィアを最も抑圧し、最低限の権利も、生命さえも脅かしているのはイスラエルです。
パレスチナが解放されるまで、私自身も自由を感じることができないと思います。私の中でフェミニストとクィアであること、反植民地主義、パレスチナ解放運動はそれほど深く繋がっています。
フェミサイド反対運動で知り合った人とは、今もパレスチナ連帯運動を一緒に闘っています。
ーーありがとうございました。