「なくそう官製ワーキングプア」を掲げた反貧困集会が9月23日、東京で開催された。非正規公務員の労働問題に取り組む団体・個人でつくる実行委員会が主催した。
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集会の第1部では、まず実行委員会の構成団体の一つである公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)の瀬山紀子共同代表(埼玉大学准教授)が会計年度任用職員などの非正規公務員へのアンケート結果を公表した。

会計年度任用職員制度は2020年度から始まった非常勤の地方公務員に関する制度。全国的に非正規職員の採用や待遇を統一・適正化する目的で導入されたとしているが、制度に任期と公募が導入されたことにより、自治体側が雇い止めの手段として悪用するケースが全国で多発している。はむねっとは当初からこれを問題視し、公務非正規当事者を対象とするアンケート調査をインターネットで実施している。
瀬山氏は5回目となる今年度のアンケート調査の結果について解説した。
有効回答は480件で、回答者の9割は女性だった。10歳代から66歳以上まで幅広い年代からの回答のうち、最も多いのが50歳代で、38%だった。最終学歴は56%が大学卒、配偶者の有無では28%がシングルで、他の調査と比較するとやや高い傾向があった。
回答者の91%が現職だったが、退職した人の47%は雇い止めで、23%がパワハラ・セクハラなどの理由で自ら辞めるなどして職場を離れていた。
職種に関しては、学校司書が30%、図書館職員が24%、続いて一般事務職員(学校事務を含む)、保育士・保育補助、女性関連施設職員(男女共同参画センターなど)、教員・講師・助手・外国語指導助手(ALT)など。幅広い領域の回答があり、さまざまな領域で非正規雇用が広がっていることが改めて示された。
「名前以外で呼ばれたことがあるか」という問いに対しては、36%が「ある」と回答している。呼称の例としては「会計年度さん、会計さん、年度さん、会任さん」などがあり、制度が職場で定着している実態を示すとともに、身分差別ともいえる正規と非正規の大きな格差や職場内の亀裂が現場で定着していることも示す結果だった。また回答者の7割がパートタイムの会計年度任用職員であることも制度の定着を示すものとなった。
今回、行ったアンケート項目として初めて「担っている職務」が加えられた。回答(複数回答)によると、「正規職員に仕事を教えている」が26%、「決裁書を起案している」が25%、「物品の購入や支払いを担当している」が21%、「人材育成を行っている」が20%などとなった。非正規職員には一般的には「補助的な仕事」というイメージもあるとされているが、実態は必ずしもそうではないことが示される結果となった。
週当たりの労働時間は6割が30時間以上で、年間就労収入は250万円未満が6割となり、過去の調査から変わらず低水準が続いていることが浮き彫りになった。また34%が「主たる生計維持者」と、53%が「自分の収入がなくなると家計が非常に厳しい」と答えている。
体調については実に94%が「将来が不安」と答えており、問題だと感じていることについては「雇用が不安定」「正規登用の道がない」「給与が低い」「やりがい搾取」「正規職員との待遇格差が大きい」が上位となった。
こうした調査結果を公表した上で、瀬山氏は「会計年度任用職員制度に象徴される不安定雇用を容認する制度は根本的に見直される必要がある。回答者に圧倒的に女性が多い背景には、女性の経済的自立を前提としていない雇用制度と社会がある。公共サービスの維持という観点からも喫緊の課題だ。今後もこの問題を訴え続けて制度の改善を勝ち取りたい」と語った。
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続いて、はむねっとの渡辺百合子共同代表が、首都圏106自治体に行った大量離職通知書提出などに関する情報公開請求の結果を公表した。この趣旨について渡辺氏は「労働施策総合推進法では、30人以上の離職者が発生する場合は1カ月以上前に市町村長がハローワークに通知する義務を負っている。会計年度任用職員の人数すら把握せず、何の痛みも感じず、任期切れとして使い捨てにしている自治体に対して、雇用主としての責任を自覚してもらう手立てとして、私たちは情報公開請求を活用している」と説明した。
結果では、提出自治体は昨年の50から今年は76に増加した一方、35自治体では1カ月以上前という提出期限が守られておらず、また未提出30自治体のうち15自治体では離職人数すら集計していない実態も明らかになった。
また2024年6月の総務省通知により、会計年度任用職員の任用上限回数の設定が不要となり、継続雇用の追い風になった。この質問については、上限を撤廃したのが45自治体で、もともと制限がなかった20自治体と合わせて65自治体と過半数になった。これまで会計年度任用職員制度の問題点を国や自治体に訴えてきた成果が一定表れていると報告された。
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集会の第2部では、「非常勤ブルース」の演奏で会場の空気が温められた。また争議や裁判で闘う労組からの報告が行われた。会計年度任用職員制度を悪用した雇い止めに遭ったALTやスクールカウンセラーの闘いなどについて報告があった。
集会の第3部では、「私たちがめざすべき制度とは」をテーマに報告と討論が行われた。報告では、名古屋、大阪、福岡などから、各地での「なくそう官製ワーキングプア」反貧困集会の取り組みや大量雇い止めとの闘いについて語られた。
北海学園大学の川村雅則教授は、鳥取県が今年度から短時間勤務でも雇用形態が正職員と同じ「鳥取方式短時間勤務制度」を導入したことについての調査報告を行った。同制度については「硬直的な公務員制度の下で、常勤職員(正職員)での新たな勤務制度が全国に先がけて創設されたことは意義がある。短時間働くことへの懲罰的な制度設計に対する懐疑や見直しが広がる可能性がある」と述べた。一方で「人材確保の目的で導入された制度であり、会計年度任用職員制度に置き換わるものとして導入されたわけではない。すぐに非正規公務員の正規化が成されるわけではなく、過剰な期待はできないが、今後の処遇改善効果は期待できる」とも述べた。
また川村氏は、官製ワーキングプア問題を地域で可視化し、問題を共有し、世論(社会的合意)を形成するため、当事者と支援者との連携や、支援者間での連携・共同を実現することの必要性について力説した。自らが取り組む超党派の「公務非正規問題自治体議員ネット」の活動なども紹介した。