日本大学芸術学部映画学科の学生による「日芸映画祭」が、12月6日〜12日、東京・ユーロスペースで行われる。テーマや上映作品について聞いた。

ーー本年のテーマが「はたらく✗ジェンダー」に決まった経過、議論ついて教えてください。
松本真優さん 「はたらく✗ジェンダー」のほかに、「人を裁く」「宗教」といったテーマも候補でしたが、より当事者性のあるテーマとして選びました。働く現場にいる人、性別で意思に反した生き方を強いられた人を取り上げたかったのです。それを通じて、「女らしさ」「男らしさ」という、社会にある無意識の偏見を取り払う機会にできるのではないかと考えました。フライヤーのデザインも、「男性=青、女性=赤」という定型的なものを避けています。
近藤陽太さん 当事者性をテーマに自分の身の回りであったことを話し合っていくうちに、女性メンバーから、男性という立場では考えられない出来事を多く聞かされました。自分は「男女の平等化は進んでいる」と思っていたので、認識のギャップを埋めることが必要だと感じました。
酒井優和さん 昨今、不祥事の多いエンタメ業界や映画業界に進もうとしている学生だからこそ、当事者意識を持てるテーマだと考え選びました。
ーー「はたらく」ことは、皆さんも何らかの形で当面していると思います。現実のアルバイトや自分、家族、社会のジェンダー問題に関してはどんな議論がなされましたか?
松本さん 今年は男女雇用機会均等法施行から40年という節目でもあり、制度が生かされているのか、自分たちの今後のために振り返りたいと思いました。現状でも多くの問題があるということは、大事な視点だと思います。
ーー上映に至らなかった作品には、どのようなものがありましたか?
松本さん 男性保育士が性加害者の疑いをかけられる『偽りなき者』(2012年)は、男性側の苦悩を取り上げており上映を希望しましたが、日本側に上映権がないため、かないませんでした。
山口誠さん 山本薩夫監督の『熱風』(1943年)は、八幡製鉄所を舞台に、「男らしさ」を強いられる労働者を描いています。ただ、16mm・35mmフィルムともに素材が見つからなかったために、上映不可能でした。
西田夏海さん 『ドリーム』(2016年)も同じで、日本に上映権利がなく配信にあるものは優先されませんでした。ただ、そうした映画は映画祭のSNSで紹介しています。
浜島藍さん 米国のコメディー映画『9時から5時まで』(1980年)も、ネット配信があることから採用されませんでした。
ーーおっしゃるように、昨今はネット配信による映画鑑賞というスタイルが定着していると思います。そのような中で、劇場で映画祭を行う意義をどのように考えていますか?
松本さん 映画は芸術ですが、娯楽として消費もされています。映画館でスクリーンを通して見ることで共感する、つまり自分の人生に置き換えることがあると思います。今回当事者性を取り上げる点から、皆さんが自分と向き合っていただく機会を提供できればと思います。
藤井万夕さん 配信を通して映画をたくさん見ればよいわけではなく、心に残ることが大切だと思います。私たちが議論を通して選んだ作品を見ていただくことが、何らかの共感をつくりだせればと思います。
ーー権利が不明確な作品などを、現地と交渉することで上映することにも価値があると思います。どんな苦労がありましたか?
酒井さん まずはメールを送るのですが、言語の壁はかなり大きいです。しかし自分の英語が伝わり、上映許可を頂いた際はうれしかったです。
松本さん 権利が国外、素材は国内など、交渉先が複数に分かれているケースもありました。
上田瑛万さん 『下女』は権利保有者が分からず、会社や遺族という複数ルートを通じて交渉しました。
ーー本当に苦労されたのですね。ありがとうございました。
上映作品と担当学生によるオススメの一言
・『君と別れて』(1933年)
成瀬巳喜男監督の国立映画アーカイブ所蔵版。芸者女性を斬新なカメラワークで描く。弁士、三味線付き上映。(藤井万夕さん)
・『浪華悲歌』(1936年)
溝口健二による代表作。多額の借金をかかえた父や家族のために懸命に生きる女性の、報われない人生を描く。(西田夏海さん)
・『わたし達はこんなに働いてゐる』(1945年)
戦時中の国策短編。「こんなに働いているのに、なぜサイパンで負けたのか」と苦悩する挺身隊女子。(松本真優さん)
・『巨人と玩具』(1958年)
開高健原作、増村保造監督。製菓会社の宣伝競争を通して、資本主義社会における男性優位主義の限界とモデルとなった女性の自立性を表現。(山口誠さん)
・『下女』(1960年・韓国)
韓国で実際に起きた幼児殺害事件をモチーフに描き、『パラサイト 半地下の家族』に影響を与えたとされる。遺族との交渉で上映。(上田瑛万さん)
・『その場所に女ありて』(1962年)
高度成長期、男社会の広告代理店で働く女性たちを躍動的に刻んだ先鋭的な作品。(坂田大雅さん)
・『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』(1970年)
今村昌平監督のドキュメンタリー。戦後史を横須賀の米兵向けバーで働く女性の視点から、記録映像を交えて浮き彫りにする。(山口誠さん)
・『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(1975年・ベルギー/フランス)
主人公の家事を淡々と写し、女性の隠れた労働が映画になり得ることを証明する。(近藤陽太さん)
・『インタビュアー』(1978年・ソ連/ジョージア)
監督の自伝的要素を含みながら、記者のインタビューを通し女性の苦悩を描いた作品。(田添真帆さん)
・『マリア・ブラウンの結婚』(1978年・西ドイツ)
戦争で「男性不足」となった西ドイツで働く女性の、数奇な人生を描いた作品。現地財団との交渉で上映。(酒井優和さん)
・『あゝ野麦峠』(1979年)
山本茂実作、山本薩夫監督。明治期の経済成長を支えながら、女性ゆえに理不尽に扱われる労働者の過酷な現実。(坂田大雅さん)
・『この自由な世界で』(2007年・英国)
ケン・ローチ監督。会社経営に奔走する女性が不法移民ビジネスに手を染めてしまう。英国との交渉で上映。(神戸美雪さん)
・『未来よ こんにちは』(2016年・フランス/ドイツ)
哲学教授の女性が、離婚などを乗り越えて人生を再構築していくという希望を表現。(横山圭一郎さん)
・『映画はアリスから始まった』(2018年・米国)
世界初の女性監督アリス・ギイ=ブラシェの功績を描いた米ドキュメンタリー。(本間大翔さん)
・『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年・韓国)
人気となった同名小説の映画化。韓国社会の女性の苦難は、日本と共通点が多いのではないか。(横山圭一郎さん)
・『ある職場』(2020年)
即興演技を用い、セクハラ事件の後日談を描いた、緊張感の高い作品。(浜島藍さん)