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署名運動に取り組んで 看護師への暴力にNOを(男性看護師・秋吉 嵩博)

 今年4月、女優の広末涼子さんが交通事故で病院に搬送された際に、看護師を蹴飛ばす、引っかくなどの暴行をしたという事件が起きました。

 このことを聞いたとき、すぐに「また起こったか」と思いました。実際、看護師に対する暴力や暴言は当たり前のようにあります。

 このようなことに遭うと、私たち看護師の間では、大けがなどをしない限りは「またやられちゃったよ」などと言って済ませているところがありました。

 しかし今回の事件については、広末さんの健康状況などが非常に大きく報じられる一方、被害者である看護師についてはあまりに注目されていないことに、私はモヤモヤとしたものを感じました。日頃から看護・介護などに関する情報を共有している仲間とのやり取りでも「それって普通じゃないよね」という声も出ていました。私も次第に「これはやはり我慢することじゃないな」と思うようになりました。

 そこで、私も発起人となって今年3月に発足した医療に関する正しい情報を検証する団体「ナースメディア研究」と、「日本男性看護師会」が主催団体となり、私が代表を務める「ナースメン」が後援団体に加わって、オンライン上で署名運動を始めました。

【オンライン署名】医療の未来を守ろう:現場で働く人への暴力にNOを! カスタマーハラスメント防止策の義務化

 署名を始めて約1カ月半ですが1万筆を超え、これをさらに増やし、今後厚労省等に提出する予定です。

 看護師の処遇改善のため、これまでもナースメンと男性看護師会は共同して署名運動をしたことがあります。コロナ禍のとき、感染して看護師試験を受けられなくなった受験者に再試験の実施を求め、3万筆以上を集め厚労省に提出したことがありました。

 看護師国家試験が再試験を実施した例はあります。たとえば大雪で交通機関が不通になり試験場に行けなくなったときは再試験が行われました。遊びに行って感染したわけでもなく、真剣に勉強してきた看護師希望者です。にもかかわらず「1年待て」とは、あまりに酷だと思ったからです。

カスハラ防止法に魂を

 今年4月、東京都はカスハラ防止条例を施行しました。6月には国会でカスハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が成立しました。カスタマーハラスメントや求職者に対するセクシュアルハラスメントを防止するため、事業主に雇用管理上必要な措置を講じる義務が課せられました。

 しかし、法律には魂を入れる必要があります。法律ができても、ハラスメントを行う側は無自覚にやっていることが少なくありません。また、認知症の人には分からないので、「カスハラは法律で禁止され、労働者は法律で守られているんですよ」との周知と注意喚起は現場で徹底的にやってもらわないといけないと思います。看護師側も「カスハラは我慢することじゃない」と認識を変えていく必要があります。

 具体的対策としては、たとえば入院するときには「同意書」にカスハラ禁止条項のようなものを入れるなどのことは検討してほしいと思っています。

医療の未来守ろう!

 先に述べたような有名人の事件に関連しないとなかなか報道で取り上げられませんが、私たち医療従事者、特に看護師にとって暴力や暴言は、日常茶飯事とまでは言いませんが、珍しいことではありません。

 私自身、何度も血が出るほどに爪を立てられたり、かまれたり、髪の毛を引っ張られたり、胸ぐらをつかまれたりした経験があります。数えきれないほどそのような経験をしています。暴言もあります。「こっちは患者様だ」などと怒鳴られたこともあります。

 経験の少ない看護師であればあるほどミスもするし知識もありません。現場では人命が懸かっていますから、厳しく責任が問われることも仕方ない状況はあると思います。

 しかし、たとえば認知症の患者さんが点滴のときに針を刺すということの必要性を理解できないことが暴力や暴言につながることがあります。

 看護師は、お医者さんと患者さんの間にいます。架け橋として我慢しなければいけないことはあります。患者さんからすれば医者よりモノが言いやすいのでしょう。八つ当たりや怒りのはけ口になったり、たまに物が飛んで来たりとか、そういうことがあります。

 そうでなくても、看護師は激務で不規則など劣悪な労働環境に置かれています。命に関わる責任のある仕事である一方、それに見合った給料をもらっているとは言い難い現状があります。それでも奉仕の精神で身を粉にしてがんばっているのですが、そうした中でハラスメントが決定打となり、看護師を辞めてしまったり、心を病んで休職してしまったりすることは少なくありません。

 このような状況を改善しようと今回の署名運動を行った次第です。今後も「こんなにたくさんの看護師が被害を受けている」ということを社会に広げる必要があると思います。多くの人に自分ごととして考えてもらえるようにメッセージを伝えていきたいし、メディアにも現実を伝えてもらえるようにしないといけません。

 政治に対しては、「手取りを増やす」などと言っている政党もありますが、言葉で踊らせようとしているように感じます。これでは期待が持てないし、政治にワクワクしません。

 医療現場の問題について政治の場でもしっかり議論してもらえるよう、今後も取り組みを強めていきたいと思っています。

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