4月の日米首脳会談で、岸田首相とバイデン大統領は「過去3年間で、日米同盟は本当にグローバルなパートナーシップに変化した」と述べ、日米同盟を「前例のない高み」と誇った。日米両政府は外交、防衛、技術革新を包括する全面的な同盟強化で合意した。岸田政権は「対中国戦争」で前面に立ち、国土と国民の命・財産を差し出すことを約束したのである。
さらに米バイデン政権は、頼清徳・台湾「総統」就任式に超党派使節を派遣した。日本からも、150人近くの国会議員・自治体関係者が訪問した。
米国とそれに追随する日本政府の策動によって、台湾をめぐる米中戦争、日中戦争の危機は一段と高まった。米国による「歴史の巻き返し」こそが、危機の根源である。
わが国マスコミは中国の「脅威」をあおり立て、米日政府の中国敵視策動を支えている。議会内野党は、日米同盟強化に対抗するどころか追随している。
戦争と亡国の道を避けるには、日本が中国への内政干渉をやめ、独立・自主の国の進路へ転換しなければならない。
各界による共同の努力と世論形成、国民運動が求められている。
緊張の元凶は米国の巻き返し策
アジアの緊張をつくり出しているのは、米帝国主義である。
米国は冷戦崩壊後、中国を新たな対抗相手と見定め、「東アジア戦略」などで対抗とけん制を強めてきた。以降、リーマン・ショックで米国の衰退があらわになるなか、中国は台頭を強め、米中関係は曲折を経た。オバマ政権は2011年秋に「アジア・リバランス戦略」を打ち出し、世界戦略の力点を中国への対抗とアジアでの権益確保に据えた。
この方向は、「米国第一」を掲げたトランプ政権、さらにバイデン政権となって、さらに強まっている。22年にはペロシ下院議長が台湾を訪問、中国を露骨に挑発した。
こんにち、国際政治面での米国の影響力失墜は際立っている。
21年のアフガニスタンからの米軍敗走は、米国の軍事力の低下を印象付けた。米国が主導する、ロシア制裁への参加国は減る一方である。国連総会では、パレスチナ国連加盟決議が8割以上の賛成で可決、反対は米国など9カ国にとどまった。
米国内の危機は深い。米金融資本は、ますます深刻化する資本主義の危機を自国民と他国へ犠牲転嫁で切り抜けようとしている。大多数の労働者人民は極度の貧困に追いやられている。全米自動車労組(UAW)のストライキ、全米に広がる学生デモなど、階級矛盾はいちだんと深まっている。
他方、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国が独自の政治的行動を強め、影響力を大きく拡大させている。経済面でも、購買力平価国内総生産(GDP)で、非先進国の上位7カ国が先進7カ国(G7)を上回った。数百年にわたって帝国主義に抑圧されてきた中小国・途上国が、国際秩序の主流となる時代の到来である。
その先頭に立つのは中国である。困難を抱えつつも名目GDPで米国に迫り、技術革新でも米国より優位に立つ分野が増えてきた。BRICS、上海協力機構(SCO)など、政治的影響力も拡大させている。中国は、「建国100年」を迎える2049年までに「総合的な国力と国際影響力」で「世界をリードする」ことを国家目標としている。
まさに、世界の潮流が変わる歴史的すう勢である。
米国は危機感に駆られ、中国を「かつてないレベルでの挑戦」と決めつけて抑え込もうとしている。歴史の歯車を逆回転させようとする悪あがきである。日本の岸田政権は、この戦略に組み込まれ、先兵役を演じている。
そのための最大の手段が、中国が「核心的利益」と位置づける台湾問題である。米日は中国の一部である台湾をあたかも「独立国」のように扱い、その国際的地位向上を露骨に支援している。中国へのあからさまな内政干渉である。
「台湾有事」をあおり、アジアの緊張をつくり出しているのは、米国にほかならない。
中国は脅威ではない
政府は、中国について「東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試み」「台湾海峡の平和と安定も重要」(24年度版「外交青書」)などと、連日連夜、「中国脅威論」を喧伝(けんでん)している。マスコミも同様である。
だが、これらは悪質な政治宣伝である。
尖閣諸島に関しては2014年の日中合意で、「対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避する」としている。この合意に基づく外交と、両国漁民の安定操業を第一とする対処を行えばよい。日本政府が「(中国による)一方的資源開発」としているものはデマである。中国は、合意済みの日中「中間線」より「中国側」で開発を進めているにすぎない。
南シナ海における岩礁埋め立てなどによる実効支配強化は、中国だけでなく、フィリピン、ベトナム、台湾なども行っていることである。中国だけが「現状変更の試み」をしているかのような宣伝は、一方的なものである。解決は、関係国・地域の外交努力に委ねるべきである。
台湾問題は、1972年の「日中共同声明」で確認された通り、中国の内政問題である。「外交青書」に「台湾海峡の平和と安定」と記すこと自体、中国への内政干渉にほかならない。
そもそも、かつて中国を侵略し、台湾や南シナ海を奪った歴史を持つ日本は、この地域の問題に口を出す資格はない。
政府、マスコミが振りまく「中国脅威論」はデタラメなものである。平和を願う人々には毅然(きぜん)とした態度が求められている。
「中国脅威論」の基本的な背景は、日中の経済関係が急速に変化し、こんにちでは購買力平価GDPで5倍程度まで広がっていることがある。だがこれも、数千年の日中関係を振り返れば「当然の状況」に戻るにすぎない。台頭する中国と共存・共生することこそ、わが国の平和と繁栄の基礎である。
「前例のない」道に踏み込む岸田政権
歴史的変動期は、本来、対米従属政治が続く日本にとって「選択の幅が広がる」時代である。大多数のグローバルサウス諸国と連携することは、国際民主主義と平和の道である。なかでも、隣国・中国との共生関係が肝心である。
だが、岸田政権や支配層は、衰退する米国を支えて中国に対抗する道を選択した。これは、「アジアの大国」を願う、わが国多国籍大企業主流の要求でもある。
安倍政権は中国敵視の政治軍事大国化政策を進めたが、一方で「新時代の日中関係」をうたうなど「敵視一辺倒」の態度はとれなかった。
安倍政権に続く菅政権は2021年4月、バイデン大統領との日米首脳会談で、共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」などと明記して中国の内政に干渉した。しかも菅首相は、この声明を「今後の日米同盟の羅針盤」とまで述べた。
岸田政権はこれを引き継ぎ、「敵基地攻撃能力」保持を含む「安保3文書」改定、防衛費の対GDP比2%への大軍拡、南西諸島へのミサイル配備や全国的な弾薬庫建設、先端技術における経済安保政策などを矢継ぎ早に進めた。
日米首脳会談では、自衛隊と米軍を一体運用するための「指揮統制」見直し、AUKUS(米英豪)への協力拡大、米艦船の日本での補修のほか、先端半導体の開発、核融合や環境技術での協力など幅広い分野で合意した。その後、「重要経済安保情報保護・活用法(SC法)」を制定、機密情報の対象を経済安保に広げた。
岸田政権は米戦略とグローバルに一体化し、「対中国戦争」の最前線に立つことを約束したのである。
同じ米国の同盟国であっても、欧州諸国は中国からの「デリスキング(脱リスク)」を進めつつも、戦略的外交を堅持している。ショルツ・ドイツ首相は訪中して関係強化をアピールし、マクロン・フランス大統領は習近平国家主席との会談で、「(両国間の)新たな展望」を歓迎した。
岸田政権の時代錯誤ぶりは、国際的にも鮮明である。
日米基軸で米国を暴露せぬ野党
独立・自主の国の進路を歩み、アジアでの戦争を阻止しなければならない。
だが、議会内野党は「中国脅威論」に追随している。
立憲民主党の泉代表は、日米首脳会談での合意について、岸田首相に「敬意を表する」と、ほめたたえている。「自衛隊の独自性が確保されるのか」などと「懸念」を示してもいるが、日米軍事一体化は中国敵視と同盟強化の必然的帰結である。この党の心ある人々や地方組織、特に支持団体の労働組合は、「日米基軸」の基本政策を見直さない限り、与党に対抗できないことを認識すべきである。
共産党は昨年3月に「日中両国関係の前向きの打開のために」を提言した。共産党は、誰が「台湾有事」の危機をつくり出しているのかという肝心な点について、米国の責任に触れず免罪している。
むしろ、20年の第28回党大会で改定された綱領で「中国の覇権主義・大国主義」と述べているように、責任を中国に求めている。
さらに共産党は、日中共同声明にほとんど言及せず、その中心的内容である「一つの中国」の立場を意図的に避けている。一方、「台湾住民の自由に表明された民意を尊重すべき」(22年4月・志位談話)などと、中国の内政に干渉している。
共産党は「中国脅威論」で支配層と同じで、その宣伝を「左」から支えている。
日中関係の基礎となるべき日中共同声明の立場を曖昧にする、議会内野党との原則的闘争が必要である。
中国への内政干渉やめ共生の道を
米国の本音は、日本を「対中国」の前面に立たせて争わせ、日中両国の力をそいで覇権を維持することである。米国が想定するのは、米中間の核戦争には至らぬ「限定戦争」である。太平洋を隔てた米国は「安全」かもしれないが、あまたの日本国民が犠牲となり、国土が荒廃することは必定である。
国の進路を大転換させなければならない。台湾海峡の危機をつくりだしている責任が米国にあることを鮮明にさせなければならない。日本が独立・自主の道を進めば、米国のたくらむ戦争の道を阻止できる。日中共同声明以来の「4つの政治文書」に沿い、「台湾は中国の一部」という「一つの中国」の立場を堅持し貫くことである。
財界にとって、SC法などによる規制強化や、半導体輸出規制などは、中国市場を失いかねない重大問題である。原・経団連国際経済本部長はSC法について、「(機密指定の基準が不明確という)懸念が全くないわけではない」と述べているが、当然であろう。対中・対米関係をめぐり、財界・支配層内の矛盾はますます深まらざるを得ない。
玉城デニー知事を先頭とする沖縄県民は、「中国との平和・友好」を掲げた県民運動を前進させている。わが国の独立・自主を目指す国民的戦線の最も確かで強力な勢力である。
国民運動で、戦争への道を阻止しなければならない。文化や青年学生間の交流などを含む、平和のための幅広い運動を巻き起こすことは欠かせない。友好団体はもちろん、労働組合、文化団体、大学や研究機関、企業、心ある個人の役割に期待する。
わが国の命運がかかる、重大な情勢である。すべての心ある人々に、共同した闘いを呼びかける。