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労働新聞 2021年1月1日号・14面 労働運動

中小を組織する責任果たす

不条理な「格差拡大」
正す春闘に

ものづくり産業労働組合(JAM)
中井寛哉書記長に聞く

 過ぎた一年はコロナ危機が襲い、その影響はこの一年も続くであろう。この危機は労働者の雇用を直撃、首切り、リストラ、工場閉鎖も相次いでいる。これまで先進国で突出して低く抑えられてきた賃金の底上げに向け、二一春闘は本当の正念場になるだろう。百人以下規模の中小企業の多くを組織している、ものづくり産業労働組合(JAM、安河内賢弘会長)は一九九九年の結成以来、中小と大企業の格差是正に向けて積極的にチャレンジしてきた。JAMの中井寛哉書記長に昨年の雇用情勢や二一春闘について聞いた。(文責・編集部)


 JAMは新型ウイルスの感染拡大を受けて、安河内会長名による「JAM版緊急事態宣言」を出し、全組合員とその家族の命と健康を守る取り組みを徹底させてきました。
 その上で、生産減少に伴う雇用問題などに対処するため、本部・地方・地協・単組の連携の下、三十八万人組織の総力を挙げて危機を突破することを宣言しています。
 私たちは随時、構成単組を対象とした「景況調査」を行っています。  それによると二〇二〇年三月頃は、生産量が「減少する」という見通しがいちばん多かった。経常利益の見通しも「減少」が多くを占めました。
 九月に入ると、生産量は「減少」の割合が減っています。その意味では「底打ち」しているとの印象もあります。とはいえ、「危機以前」には戻ってはいません。
 業種別では、「輸送機械」に分類される自動車関連や「非鉄」の生産量の回復は早い見通しです。ただ、時計など「精密機械」は悪い数字です。すべての業種で前回調査より改善しているものの、感染拡大の「第三波」もいわれる現在、まだ十分な見通しが立てづらいのが現状です。

予断許さぬ雇用不安 単組に寄り添う対応を
 この間、JAMは雇用調整助成金の活用を呼びかけ、特例措置のいっそうの拡充と受給要件の緩和に向けた取り組みを強めてきました。これを止められると、経営自体が成り立たないところが多くあります。
 JAMは毎月「雇用動向調査」を行っていますが、経営側の新規提案としていちばん多い一時帰休は、ピーク時より減少する傾向が見られます。
 ただ、雇用に影響を及ぼす希望退職が増加しており、予断を許しません。全体的な新規提案の数は減少していますが、一時帰休では耐えられず、希望退職の申し入れをする企業も出ています。
 希望退職の申し入れに対しては安易な合意をせず、労使による徹底的な協議、雇用の維持と企業再建への議論が絶対に必要です。  経営者の中にはこの危機をうまく利用する形で、以前からの不採算部門を清算する動きも見受けられます。「悪乗り」を許さず、企業の財務諸表などをチェックするような取り組みがいっそう重要になると強調しています。  雇用危機の影響を受ける単組をバックアップするため、地方組織局のオルグが単組に寄り添いながら、徹底的な企業分析を行います。財務諸表などは上場企業の場合は普通に入手できますが、中小の場合では労使の力関係で出し渋る経営者もいます。そこはキチンとやるようにしています。
 こうした企業分析は、人間の健康診断と同じです。経年的に分析して、経営施策に対して労働組合の立場から提言を行うことがその企業の経営基盤を強めることにもつながります。

わが国支える中小企業 実態見ぬ「淘汰論」
 菅政権の下で「成長戦略会議」がつくられ、規制改革で名をはせた竹中平蔵氏や、「中小企業淘汰論」とも言うべき主張を行っているアトキンソン氏がメンバーとして入りました。「中小企業が日本経済停滞の原因」「生産性の低い中小企業を半減すべき」と主張している人物が政権中枢に入ることに、危機感を感じます。
 これは言わずもがなですが、日本は製造業で成り立ってきました。これは外国からも評価されています。資源がないわが国は、ものづくりで発展を遂げてきたわけです。それを支えているのは中小企業です。大手といわれる企業も、中小が部品を作ったりして支えているわけです。
 戦後ここまで日本が発展を遂げたのは、中小企業が担うところが大きいといってもいいすぎではないと思います。残念ながら、中小の組織率は規模が小さくなるほど低くなるのですが、そこにいる労働者が製造業を支えてきたわけです。こうしたことに目を向けないような議論は流行なのかどうか分かりませんが、遺憾ですね。

拡大続ける大手と中小の格差 「予定調和」に陥るな
 二一春闘ですが、連合は「定昇分プラス二%程度」のベースアップを要求する方針を決定しました。これまでの議論のなかで、「業績が堅調、回復した産業が二%の賃上げ」という方針が示されていましたが、これでは「業績が堅調、回復した」というのが前提になってしまいます。それぞれの産業における最大限の底上げに取り組むことが重要で、それぞれの産業が、よいところも悪いところも最大限の努力をして「二%」に取り組むということになりました。
 JAMでは賃金全数調査を行っていますが、やはり、不況期、景気後退期に入ると賃金が頭打ちになる傾向があります。リーマン・ショック、あるいはその前のIT(情報技術)バブル崩壊後の不況、その前の金融不況、そして一九九〇年代のバブル崩壊等々のときの賃金プロットを並べて見ると、景気後退期に企業に在籍している人の賃金が頭打ちになっています。この賃金の歪みを是正しなければなりません。別に能力が不足しているわけではないにも関わらず、賃金が頭打ちされているのは、労使の賃金政策に問題があるわけです。これは組合にも責任があると思います。
 その上で指摘しておきたいのは、いわゆる「大手と中小との格差」が現在も広がり続けているという点です。JAMが結成されたのが九九年ですが、こんにちに至る二十年間を俯瞰(ふかん)したときに、その格差は広がり続けています。
 厳しい闘いが予想される二一春闘ですが、「働く者の社会的公正労働基準の確立」に向け今一度決意を新たにしているところです。
 一部の単組では、春闘が「予定調和」になっている面も否めません。やはり、組合員が望む金額を要求することが大前提です。闘う前から会社の顔色を伺い、懐具合を見て、「社長も大変だ。だから、賃上げは結構です」というのが労働組合なのかと問いたいですね。組合員から話を聞き、議論をするなかで「生活がしんどい。これだけほしい」という声をまとめて要求するのが労働組合です。もちろん労使の話し合いのなかで「大変なのは分かった。ならこのくらいで」というのは当然ですが、姿勢として最初から「予定調和」に陥ってはダメだと思いますね。
 併せて、「価値を認めあう社会へ」の実現に向けた公正取引の環境整備も大きな課題です。この課題は社会的な問題でもあり、その機運はかなり高まっていると感じています。「優越的地位」にある取引先が中小の製品を買いたたくくことは「アウト」という社会的合意ができつつあります。
 大手から二〜三人の単組も加盟しているのが連合です。その連合のなかで中小を組織しているJAMの役割は大きいのです。百人未満の企業における組織率が一%未満というなか、JAM加盟組合の六割が百人未満です。中小春闘を闘うのは私たちの責務です。
 新型ウイルス危機を受けて、「もう春闘どころでない」という雰囲気もないわけではありません。しかし、「格差が拡大している」という不条理を正すためにも、JAMは春闘をしっかりと闘います。


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