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労働新聞 2020年10月25日号・4面 労働運動

究極の成果主義狙う
トヨタの「新賃金制度」


昇給ゼロの可能性も

昇給ゼロの可能性も
 トヨタ自動車労働組合は九月三十日、愛知県豊田市で定期大会を開催した。大会では経営側から提案されていた毎年春の定期昇給の算定方法を大幅に見直す新賃金制度の受け入れを決めた。
 西野勝義委員長は「目に見えない新型コロナウイルスとの戦いを乗り越えた後には、一人ひとりが前よりも幸せになった、会社がより成長したといえるようにならなければならない。そのために強い組織、職場を作ることが必要だ」などと述べ、会社提案の受け入れを合理化した。来年一月から原則一律に昇給する現在の方式を改め、人事評価に応じ昇給額を決定する。労働者によっては来春から、昇給しないケースも出てくる。
 トヨタの定期昇給は、職位などに応じて一律に昇給する部分と、人事評価に基づく成果分の二つの要素で構成されているが、新方式では、これを人事評価に基づくものに一本化、職種などに応じて四〜六段階の評価を設定するという。高評価を受けると昇給額が増える仕組みだ。一般組合員の約六万五千人が対象となる。しかし、職位で業績を下回り、改善されない場合は定期昇給がゼロになる。すでにトヨタでは、今夏から一時金について、人事評価に応じてこれまでよりも支給額に差をつける制度を導入していた。
 トヨタ労組が発行する「評議会ニュース」(八月五日発行)では「第十五回労使専門委員会」で会社側から提案があったとされている。
 例えば、事務技術職(事技職)では、これまで「上限値」を設けていたのを止めて、「がんばり続ければ上限なく昇給し続ける」「期待通りがんばっている人には定年まで昇給するという形で報う」としている。これにより、これまで事技職の主任職でA〜Dまでの四段階としていた考課を六段階に細分化する。
 これによれば、「D2」は「ゼロ昇給」となる。つまり、会社側の「期待」に沿って「がんばり続ければ」青天井で賃金は上がるが、「がんばらなければ」昇給ゼロなる。
 また、工場で働く労働者(技能職)は、A(「資格の期待を大きく上回る」で一〇%)、B(「資格の期待を一部上回る」で三〇%)、C(「資格の期待通り」で六〇%)とDの4段階になり、Dは、「資格の期待を下回りチームワークやルール遵守に問題あり。FBしても改善がみられない」とし、昇給ゼロとなる。
 これは究極の成果主義賃金にほかならない。また賃金の総原資が変わらないとすれば、労働者間の賃金の奪い合いを招き、分断と競争をあおるものでしかない。会社側、そして労資協調路線にどっぷりつかった労組に意見・反対する労働者は「チームワークやルール遵守に問題」と決め付けられ、昇給ゼロとされるのだ。

組合側から提案 会社に忠誠誓う
 しかも、この「提案」なるものは形式的には会社側から出された格好になっているが、昨年十二月に「トヨタ労組、評価応じベア提案」(共同通信)と報じられているように、労組側から「提案」されたものなのだ。
 この間、トヨタ労組は「百年に一度の大変革期」「組合、会社とも、生きるか死ぬかの状況が分かっていない」(豊田章男社長)との「一喝」に恐れおののき、春闘期に毎回開く集会を「コロナ禍」を口実に中止し、昨年、今年とベア要求額を非開示、そればかりか、今春闘では人事評価によるベアの傾斜配分を要求とするなどいっそう会社の意を先んじて汲む姿勢をあらわにしていた。
 また春闘では従来労使双方のトップである労組委員長と社長が向き合う形での交渉だったのが、今年の春闘では、本来は経営側の一員として社長の後ろに座る非組合員の幹部たちが、新たに設けられた前方の席にに座った。組合側の席は一つだが、経営側は、社長と副社長らトップ級が座る席、課長以上の中間管理職ら幹部が座る席の二つに分かれ、組合員の前で経営側の幹部同士が議論する「労使使」協議になった。これまでも形ばかりであった団体交渉さえも形骸化、会社側の提案を労資が共に考える場に変質していた。

危機募らすトヨタ資本
 自動車業界をめぐっては電気(EV)化などの技術革新の進展などを背景に新興勢力が台頭、また、グーグルなど情報技術(IT)大手という異業種も本格化に参入、全世界的に競争が激しさを増している。こうしたなか、豊田社長は「今の日本をみていると、雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがあまりない」などと言い放ち、グローバル競争に打ち勝つ人材づくりのため、「日本型雇用」と象徴とされてきた「終身雇用制」の破壊に乗り出したのだ。
 また「規制改革」を「政権のど真ん中に」と叫ぶ菅政権が発足したが、菅首相は自身が副大臣として仕えた竹中平蔵・元総務大臣と会い、レクチャーを受けている。この竹中は「終身雇用と年功序列こそ正しい働き方であるという前提」を「最大の元凶」などと決め付け、「日本型雇用」の最後的解体を公言している。
 すでに日本経団連も今年の「経営労働委員会報告」のなかで、「人事・賃金制度の再構築」を叫び、「労働時間ではなく成果で評価する」などと強調してきた。  今回のトヨタの新たな賃金制度はまさにこうした財界の狙いの具体化であり、さっそく呼応し、忠誠誓う裏切り者=トヨタ労組の姿勢を許してはならない。


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