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労働新聞 2020年10月5日号・4面 労働運動

コロナ禍の20春闘
「職場と雇用守る」
スタンスこそ


統一闘争の意義再確認を

全国一般評議会
亀崎安弘事務局長に聞く

 自治労全国一般評議会は八月二十四日、第十六回定期総会を開催した。総会では「コロナ危機」の下で闘われた二〇春闘などについて討議が行われた。この危機を口実とした首切り・リストラ攻撃が本格化しようとしているなか、改めて労働組合の存在とその果たすべき役割の重要性は高まっている。中小・零細企業を数多く組織化している自治労全国一般評議会の亀崎安弘事務局長に聞いた。(文責・編集部)


企業・産別を超えた統一闘争としての春闘を!
 二〇春闘の特徴は、経済界が賃上げについて「多様な選択肢」といい、それに合わせるように、大手企業などがベア以外に「選択型の福利厚生サービス」や確定拠出型年金の増額も含めた要求を行い、連合全体としての要求の中身が見えづらかったことが挙げられる。また、コロナ禍と重なり、連合の会議や集会も例年通り行えず、十分な議論も情報共有・意見交換の場がなく取り組みが難しかった。
 連合は昨年から春闘について「上げ幅のみならず賃金水準」との方針を打ち出した。私たち全国一般としては、この点についていくつかの問題点も指摘してきた。全国一般でも「あるべき賃金水準」を出しているが、やはり、「上げ幅」表示は相場が一目で分かるし、物価上昇があった場合には、その分を盛り込んだ要求として分かりやすい。また、賃金制度が整備されていない中小組合もいっしょに取り組みやすいので、「賃金水準」とともに「上げ幅」も同時に示していく必要があると思う。
 連合は七月六日、二〇春闘についての最終集計を発表している。この最終集計と全国一般の集計、単純集計)を比較した場合、連合でいう規模「九十九人以下」の回答は「三千九百二十五円」で、全国一般は「三千二百七十八円」という数字だ。全国一般の職場はほとんどが「九十九人以下」だが、それ以上の規模がある職場を含めてトータルで集計しても、連合の「九十九人以下」には及ばない額となっている。
 全国一般の場合、大手企業があり、その下にある関連企業や系列子会社に働く仲間を組織しているのは少なく、ある県のある地域にしかない地場の中小企業で働く仲間でつくられた組合が圧倒的に多い。そのため、他の連合産別の中小組合と違うのは「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」の影響を受けることはあまりない。
 そして、連合全体との比較でいうと、二〇一六年までは三十二円上回っていたが、下がる傾向が一七年から顕著となり、今年さらに四百二十一円もの格差が開いた。
 毎年、私たちは春闘に際して四〜五月にかけて全国一般の四役・幹事が全国各地にオルグに入り、未解決職場の早期解決にむけた対応を行うが、それがコロナ禍の影響でまったくできなかった。オルグに行けないかわりに「報告書として上げてほしい」という要請もしたが、それもなかなか集まらず、内容も「会議も開けなかった」「交渉もできなかった」というケースも多くあった。専従者がもっと職場に入ることができれば、もう少し引き上げが可能だったかもしれない。
 来春闘について考える上で、気になるのは大手企業を中心に、「一律のベア」をやめて、人事評価制度を導入する動きが強まっていることだ。大手企業のなかには一律定昇を見直し、評価の高い社員ほど賃金が上がりやすくする昇給制度を導入する動きが報じられている。それこそ「産別自決」どころか、「企業自決」であり、統一闘争としての春闘が形骸化してしまう。「自分の企業だけよければ」ではなく、たとえ個々の企業経営が苦しくても、そこを含めて全体で「底上げ」するという春闘の意義をもう一度しっかりととらえ直すことが大事だ。政府、財界は「労働力の移動」という言い方で「職場を残す」のではなく、「ダメなところはつぶして、別の職場に移ってもらう」という政策を強めている。困難な状況だからこそ、大手も中小、官民もいっしょになって、企業・産別を超えて、全体で「底上げ」し、「雇用と職場も残す」というスタンスの重要性を今一度確認したい。

「コロナ禍」で厳しい職場ーー奮闘する地方支部
 新潟県にある合板製造会社では、来年三月末での職場閉鎖と従業員二百人全員の解雇が提案された。コロナ禍で住宅の着工数が減少しているなか、先行きが見通せないということで条件闘争にならざるを得なかったが、分会ががんばって退職金の上積み、組合員だけでなく全従業員に対する就職のあっせんなど経営側に約束させるなど協議は継続している。  全自交の皆さんも同じような状況だが、全国一般傘下のハイタク職場も大変だ。これは福岡県のタクシー職場だが、数年前に経営難から、会社の車と退職金を原資にして十六人で自主営業したが、月の売り上げが全体で昨年の四割しかならず、一時は倒産の憂き目に遭うところだった。だが、雇用調整助成金の支給を受け、なんとかがんばっている。  石川県の電気職場(車のダイオードなどを製造)では、輪島市の工場を二〇二二年三月末で閉鎖し、県内の他の工場への集約が発表された。全国一般の当該支部は、工場存続を追求し、雇用と生活を守るため、「会社の早期退職=首切り」に反対し闘っている。ここは交替制勤務なので、終業時が夜中の二時になることもある。数年前にも工場閉鎖・配転攻撃があり、強行された。そのときにも、冬の帰宅の際、雪で危険を伴うので配転になれば働けない人が出るということで反対した。結果として閉鎖・配転は止められなかったが、組合ががんばった結果、女性に限って送迎バスを会社側に用意させるなど、一定の前進を勝ち取った。
 また会社は地元の輪島市からの助成金も受けており、約二百七十人もの雇用を脅かし、地域経済に影響を及ぼすことから、全国一般として市長に協力要請を行い、事業所継続に向けた協力について明言を得てきた。
 富山県のある食品工場では新型コロナの感染防止のため「自宅待機」になっていた労働者が、上司の許可を得た上で、支給されていた次亜塩素酸水がなくなったため関連会社に取りに行ったことを理由に「けん責処分」になり、その上、解雇された。明らかに不当解雇であり、地裁に仮処分を申し立て争っている。
 これは岡山県にある産業廃棄物処分を行う企業のケースだが、四月に組合を結成し、要求書を出したら、会社側は警察に「被害届」を出し、五人の組合員が警察の事情聴取を受けるという事態が起きた。また会社側は組合員を個々に呼びつけ圧力をかけ、警察側からは「組合をつくった経緯は」「誰から誘われた」という事情聴取が行われた。これは単なる不当労働行為だけではなく、関西生コンに対する弾圧と同様の警察の不当な介入であり、自治労顧問弁護士も入って対応している。
 また、外国人労働者(技能実習生)の課題にも取り組んでいる。
 コロナ禍で縫製業界も打撃を受け、技能実習生の仕事も失われる危機のなか、岐阜一般労組は技能実習計画に布マスク製造を加えるよう要請を行い、その結果、四月に技能実習生のマスク製造が認められた。技能実習生は、単純労働は認められておらず、マスク製造も単純労働と見なされる恐れがあった。この間、縫製業界では技能実習生をめぐり賃金不払いや最低賃金をはるかに下回る事例が多発し、社会問題にもなっていた。だが、こうした問題を解消しなければ生き残れないと考えた縫製業者のなかから、技能実習生やそれを支援する岐阜一般の活動に共感し、労使一体で業界の悪弊をなくそうという動きでもある。

本当の意味での組織化めざそう
 これから直面する課題だが、感染の収束もまだ見通せないなか、年末一時金なども含めて厳しい闘いにもなるし、職場閉鎖や、解雇などが次々と出るのではないかと身構えている。
 こうした状況を見据え、例えば全国一般関西ブロックはコロナ問題に特化した形の労働相談を計画、準備している。また、十〜十一月にかけて全組合員を対象に「賃金実態調査」「生活実態アンケート」を実施する予定だ。これは毎年行っているが、とくに今回はコロナに関連した項目を盛り込んでいる。これらを基礎に二一春闘の要求づくりに生かしていきたい。
 コロナ禍の下、組織拡大も難しかった。また個々の労働相談を受け、問題を解決したらそこで終わってしまうというパターンではなく、そこから職場全体に組織拡大につないでいく必要性を強く感じている。これからは運動の担い手をつくらなければいけない。
 労働運動全体の組織化は大きな課題だが、以前から連合が打ち出している「労働者代表制」の法制化は多くの問題があり危機感を持っている。
 私たちはかねてから、とくに中小の職場では少数組合の否定につながりかねないことや、労働者代表委員の運営費用などについて使用者が負担するなどの理由で経営側の意向が強く反映されてしまうことなどの問題点を指摘してきた。労働者代表制の導入が組織化につながるかのような話もあるが、労働者代表制には労働三権も付与されず、労使対等の原則も保障されない。これで本当の意味での労使対等による労働条件の決定も組織化もできるか疑問である。連合内における議論の進捗状況も見えながら、必要な対応をはかっていく。
 安倍首相が突然退陣を表明し、菅政権が発足した。全国一般は、安倍政権による安保法制や共謀罪などの数々悪法や改憲策動、「モリカケ・桜を見る会」に象徴される隠蔽体質と政治の私物化などに反対の声を上げてきた。
 菅首相は「安倍政治を継承する」と言っており、「官邸主導」の政治をより強めるだろう。規制改革も強調しており、労働法制の改悪にも踏み込む可能性も大きい。情勢は激動しているが、菅政権の動向や国際情勢を注視しながら、平和の課題をはじめとする諸闘争をいっそう強化していきたい。


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