ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2020年9月5日号・4面 労働運動

コロナ危機があぶり出した
グローバル経済と
安倍農政の破綻
農業再建、農協革新の好機


農協は地域インフラの中核

全国農団労・大谷篤史書記長に聞く

 全国農林漁業団体職員労働組合連合(全国農団労)は七月十七日、金沢市で第三十三回定期大会を開催した。新型コロナウイルスの感染拡大が収まらぬなかだが、改めて協同組合としての農協の役割を発揮させる「農協革新」、さらにこの間続いた安倍農政からの転換に向けた方針を確立した。また、二〇春闘における成果や課題についても討議され、必要な決定が行われた。大谷篤史・全国農団労書記長に聞いた。(文責・編集部)


 今回の大会は、新型コロナウイルス感染防止の観点から規模を縮小し、一日のみの開催としたが、運営は大変苦労した。全国でコロナ感染者が再び増え始めた時期とも重なり、県をまたいだ移動の「自粛」もあり、残念ながら参加できなかった組合員もいた。それでもよく集まってくれたと感じている。
 大会では、二〇二〇年度の運動方針などを議論、承認された。
 新たな運動方針はこれまでを踏襲しつつ、コロナ危機によって、改めて農業や協同組合が持つ価値について注目されてきた状況を反映したものとなっている。
 内容は、(1)農協の総合事業体制の堅持とその機能発揮」(自己改革の実践)(2)「家族農業を中心とした日本農業の再建」(3)「協同組合運動の持続的な発展」に集約される。

農協の総合事業体制堅持を
 農協中央会は一四年から「自己改革」を強調し、現在も継続して取り組んでいる。私たちはそれよりも以前から組合員目線に立って協同組合本来の姿に立ち戻った事業の展開を求める「農協革新」を掲げてきた。農協の「自己改革」も理念的には大きく変わらない。労働組合からは「自己改革」をチェックし、ともに進めるという立場で関わってきた。むろん、細部では組合員目線で「自己改革」を進める一方で、労働者の労働環境にしわ寄せが行くというケースもあるが。
 この間、規制改革推進会議がリード役となり、安倍政権は農協改革を進めてきた。その理屈は、農協が持つ信用・共済事業の収益が減少するなか、信用事業の譲渡、代理店化、准組合員規制などを進めようと画策している。
 いつまでも信用共済の収益モデルに頼れないから自己改革が進められているのだが、信用収益減少→農協経営を悪化→譲渡・代理店化というのが「規制改革推進会議」の主張だ。しかし、収益減少は事実だが、黒字部門でもあり、言われる通り譲渡・代理店化すれば、農協経営は悪化どころか破綻に追い込まれる可能性が高い。
 農協に対して、信用・共済事業の収益で、本業である営農経済の赤字を補填して経営しているという批判や、信用・共済事業分離などは二〇〇〇年代以降から指摘されていた。
 確かに農林中金の奨励金が減少し、コロナ禍がより収益減少をもたらすだろう。しかし、規制改革推進会議が狙っているのは、百兆円を超える農協資金の収奪にほかならない。
 農協が信用事業を持っていることのトータルメリットは結構大きい。信用事業も網羅する総合事業体だからこそ、農家への経営支援ができる。
 併せて、広域合併や「一県一JA」化、支店の統廃合も計画されてきたが、コロナ禍だからこそ、地域の重要なインフラとして再定義し直す必要があると思う。コロナ禍のなかでも農協は農家、組合員、准組合員のための事業を続けており、そういう意味ではエッセンシャルワーカーに近い位置にあると思っている。
 この間、事業ごとのタテ割りによる「合理性・最適化」を追求した結果、地域おける協同組合としての役割が希薄になってきた面は否めない。この点を労使が共に反省し、経済・信用・共済などそれぞれの事業が有機的に結びついてこそ、組合員の経営と生活を支えるという農協本来の役割を発揮できる。合併で「一県一JA」化が進んだ県でもマスが大きくなっただけで、必ずしも経営の改善に結びついていないケースも見受けられる。こうした観点から、農協の経済事業を担う全農の株式会社化や信用・共済事業の分離に反対して、あくまで農協における総合事業体製の堅持を求めていく。

崩れたグローバル経済という「常識」
 また、コロナ禍では改めて農業や農地、食料自給率の問題などに注目が集まったと感じている。
 国会に上程されていた種苗法改悪案について、女優の柴咲コウさんが「このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます」と発信して反響を呼んだが、これも法改悪が見送られたことに影響したと思う。
 コロナ禍のなか、これまで「錦の御旗」のように言われてきた自由貿易の「理念」はいとも簡単に忘れられた。トランプ米政権はマスクの輸出禁止に踏み切り、農産物の輸出規制を行う国も出てきた。「都市封鎖」によって人やモノ、サービスの移動が封じられ、これまで「常識」とされてきたグローバル化した自由貿易体制の前提は大きく崩れた。
 安倍政権はこの三月、新たな「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定している。この間、の安倍農政は農業について「輸出=強い」という単純な発想の下で、小規模、家族農業を切り捨て、規模の拡大を奨励してきた。また日米自由貿易協定(FTA)や環太平洋経済連携協定(TPP )などの農産物の自由化を進めてきた。
 しかし、新たな「基本計画」では経営規模の大小や中間山地などの条件に関わらず生産基盤を強化することや、食料国産率の設定などが盛り込まれた。
 「基本計画」の方向性についてはだいたい昨年中にまとまっていたので、直接コロナとは関係ないと思うが、従来型の規模拡大一辺倒では立ちゆかなくなったことを認めざるを得なくなったのではないか。結果として自給率は下がり、高齢化と後継者不足に歯止めもかからず、このままではまずいという意識も働いたのではないか。この「基本計画」の方向性がそのまま打ち出されたということは、コロナ禍の下、農家は輸出どころでなくなっているということを政府自らも認めざるを得なかったとも受け取れる。「輸出拡大で強い農業をつくる」ということが破たんしたということだ。
 すでに発効している自由貿易政策を抜本的に見直し、行き過ぎたグローバル経済を是正するとともに、食糧安保の観点からも持続可能な地域農業の再建へ動き出さなければいけない。私たち農団労がこの課題にいっそう力を入れることはもちろんだが、農協に対してもこうした運動を展開するよう求めたい。

コロナ禍での春闘
 二〇春闘だが、「働きがいが実感できる賃金水準」「ワーク・ライフ・バランスとディーセント・ワークの実現」「臨時・パート職員などの非正規労働者の底上げ・底支え」の三本柱を掲げて取り組んだ。賃金については定昇・定昇見込み分の確保、消費増税分を加味した二%以上のベースアップを要求した。
 その結果、ベアの獲得や初任給の引き上げ、格差是正の賃金改善に結びついた単組もいくつかあった。だが、昨春闘と比較すればいくつかの課題で下回った結果となった。
 春闘のさなかに「新型コロナ特措法」に基づく「緊急事態宣言」とその延長もあって、組合としても意思統一の集会ができなくなったのも響いたと思う。経営側が「緊急事態宣言」をタテにとって思うように団交が進まなかったケースもあった。
 また、大会でも地方の代議員から報告があったが、春闘では比較的営業時間の問題が取り上げられた。窓口での就業→営業開始時間と始業時間が同じという職場が意外とある。しかし、窓口は準備しないとすぐに仕事を開始できないので、結局、十〜十五分くらい前倒しで出勤する状態が続いていた。そして、その分は実質的にはサービス労働になっていたので、組合として経営側に対して、就業時間を早める、あるいは窓口の開業時間を遅らせるなどの対応を求めて、それがいくつか実現できた。サービス労働の不払いの実態を改善するといった形で、いわゆる「働き方改革」の「正」の部分が広がってきたと思う。
 組合としては新型コロナウイルスの感染拡大の防止を理由に、「仕方がなかった」という総括ではなく、諸行動の制限が強いられたなかでも、そこまでやれたのかという視点こそ必要だ。こうした問題意識を持ちながら、継続となった諸課題や要求については以降の秋季闘争へつなげていきたい。
 組織強化・拡大の面では、大分県などで大幅に組合員を拡大、いくつかの県では未加盟組合の組織化へ働きかけを強め、成果に結びつつあることが報告された。併せて、本部の産別機能強化に向けた方針も確認された。

国際的潮流追い風に農政転換を
 安倍首相が退陣を表明した。この間の安倍政権はコロナ禍への対応を見ても、無為無策ぶりが際立った。一方で、安保法制を強行させるとともに、改憲への動きを強め、核兵器禁止条約に背を向けてきた。また農政では「農協つぶし」ともいえるような政策を推し進め、協同組合組織としての農協の役割を大幅に後退させた。
 国際情勢を見ても、米中対立は貿易分野にとどまらず、国際関係すべてにその影響を及ぼしている。日本は、対米追随外交から脱して、アジア地域に軸足を置いた外交に転換すべきだ。
 コロナ禍は良くも悪しくも、人びとの意識を変えたと思っている。安倍政権の支持率も最低水準に落ち込み、退陣に追い込まれた。グローバル経済の負の面が浮き彫りになった。二〇一五年の国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)や一八年の国連総会では小規模農家のさまざまな権利保護などを各国に求めている。このような国際的な潮流も追い風にしたい。私たちは、地域共生社会、地域づくりの中核として農協が本来の機能を発揮できるよう「農協革新」の旗を掲げていく。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2020