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労働新聞 2020年8月5日号・4面 労働運動

「コロナ危機」下での20春闘

港湾料金の許可制復活を

全港湾・松永英樹書記長に聞く

 新型コロナウイルスの感染拡大で、世界経済はいちだんと先行き不透明となっている。この環境下で闘われた二〇春闘では、連合が発表した最終回答(七月二日集計)によると、ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた平均賃上げ率は一・九〇%(五千五百六円)で、前年比〇・一七ポイント(四百九十一円)下落した。全国港湾労働組合(全港湾)が六月三日に行った最終集計でも、闘争分会の妥結額が三千三百九十二円(▲五百十五円)、速報分会妥結額が三千六百二十三円(▲四百八十一円)となった。全港湾が加盟する全国港湾労働組合連合会(全国港湾)と日本港運協会(日港協)との中央団交も、三十日に産別最賃などについて継続協議するなどを内容とした仮協定書が結ばれて妥結した。厳しい状況の中での春闘であったが、成果も少なくない。全港湾の闘いなどについて、松永英樹書記長に聞いた。(文責・編集部)


休業補償での100%賃金支給を協定化
 二〇春闘は昨年と比べ、額としては下がった。今回特徴的だったのは、港湾職場における人手不足が依然解消されないなか、「働き方改革」もあり時間外労働も簡単にできず、港湾運送料金について、認可制を復活させ適正収受できなければ「出せません」という本音が事業者から出てきたことだ。
 全国港湾も、日港協との間で認可制の復活に「労使ともに取り組む」との協定を交わした。だが、今後どう動くかという点では、省庁だけではなく、国会議員なども含めた対策が必要になるだろう。
 トラック業界では二〇一七年十一月から適正な運賃・料金の収受に向けて、標準貨物自動車運送約款が一部改正された。これがよい見本になると思うので、こうしたことも生かしながら、労使で取り組まなければならない。
 組合員からすれば、妥結額は納得のいく金額ではなかったと思う。また、コロナの影響で、支部段階で団体交渉ができないなど、組合員から見えにくい春闘だったとも思う。
 ただ、雇用調整助成金の活用については、休業補償を余儀なくされた場合、賃金の一〇〇%支給を協定化した地方や支部もいくつかあるなど一定の成果を上げたと思う。この点は本部としても早々に指示を出し、地方・支部に呼びかけていた。これは、あらゆる感染症を対象にしなければいけないということで進めている。

十分な感染防止策行わぬ国に憤り
 港湾事業は、「休業要請」というのがまったくなく、国から「何があっても仕事をして下さい」といわれるのが当たり前だ。
 全国港湾として国土交通省などとの省庁交渉を行ったが、私から「『やって下さい』はいいが、国として港湾事業に何をしてくれているのか」と言わせてもらった。国交省からは「ああしなさい」「こうしなさい」という分厚い資料になるほどの「通達」や「指示」があるが、マスク配布など、感染防止の面で実質的にやってくれたことは一切ない。
 実際、国は「キチンと手洗いを」と言うだけだった。感染拡大が非常に心配されていた二〜三月は現場から「マスクが足りない」という悲鳴が上がっていた。事業者に頼んでも「用意できない」という。
 全国港湾としても、「国は港湾事業をどうとらえているのか」という点を国交省などには投げかけてきた。
 また、今回の新型コロナは最初に中国・武漢市で発生し、日本でも横浜港に停泊していたクルーズ船で多くの感染者を出したことから、欧米船籍の船から「マスクをしていないと乗船させない」と言われ、実際に体温計測定で発熱があった労働者が乗船できず仕事に支障が出たケースもあった。
 現在は逆に日本の港湾労働者が「この船員は大丈夫なのか」と心配している面がある。外国船籍は、例えば、まず博多港に寄り、神戸港そして大阪港などいくつかの港を経由する場合があるが、その際の検疫は最初に寄港するときの一回だけだ。しかも、港から船長に無線で「体調不良の船員はいませんか」と聞き、「いません」と答えればそれでOKとなってしまう。あとはフリーパスだ。
 だから、現場の港湾労働者から「着岸する港ごとに検疫すべき」という要望が上がっており、国交省にも伝えているが、まだ実現していない。六月には韓国・釜山港でロシアの貨物船船員の感染が発覚したが、船長は「感染者はいない」と報告していた。
 港湾事業者の圧倒的多数は小規模だ。万が一に職場でクラスター(集団感染)などが発生すれば、代わりの人手もなく、事業を畳まなければならなくなってしまう。  国は人の動きに重きを置いているのだろう。航空関係は比較的検疫体制を強化している一方、港湾関係ではそうした動きは見られない。この点で「空と海で何の差があるのか」と、国交省などに言わなければならない。

港湾職場奪う「自動化」許さない
 人手不足もあって、国交省はコンテナを運搬するRTG(ラバータイヤ式ガントリークレーン)の遠隔操作の導入を進め、昨年名古屋港が手を挙げて、今年は神戸、横浜港あたりが手を挙げるのではないかと言われている。併せて、コンテナターミナルのゲート前の外来トレーラーの自動化実証事業の公募を行い、横浜港が選定されたと聞いている。
 六大港(東京、横浜、名古屋、大阪、神戸及び関門)の職場は元請けがあり、それから専業、そして関連部門がひしめき合う重層構造だ。そこで働く労働者から見れば、「自動化」は職場を奪われることにつながる。同時に、十分に対応できない中小事業者も経営基盤が失われてしまう。こうした観点からいえば、「自動化」には絶対反対であり、現在、日港協ともワーキンググループで協議している最中だ。
 「自動化」といっても、すべての仕事がなくなるわけでなく、例えば、ターミナルの運営、オペレーターなどを含めて付随する仕事はたくさんある。また、SOLAS条約(海上人命安全条約)に基づいた警備の仕事も雇用に充てるべきだ。「港湾労働者はいらない」という事態は許されない。絶対に労働者の首を切ることがないようにという姿勢で対峙していく。

産別最賃解決しなければ港湾の未来はない
 日港協は一八年の全国港湾との団体交渉から産別最低賃金についての統一回答について、「独禁法に抵触する恐れがある」との理由で、回答を拒否し続けている。
 現在の産別最賃は月額にして十七万円に届かない額で、時給換算すれば東京の最賃より全然低い。
 結局、全国港湾として中央労働委員会にあっせんを申請、統一回答について普通に読めば独禁法に抵触しないと解釈できるあっせん案が出たにも関わらず、日港協はまったく飲まない態度が続いていた。
 このこう着状態を打開すべく、全国港湾としては今年二月に「救済」に切り替えて中労委に申し立てた。しかし、中労委は「全国的なことではない」との理由で、東京都労働委員会に回した。都労委の第一回の調査が八月にも行われるが、日港協がどういう態度に出るのか注視している。
 まだ、港湾職場は「ブラック」というイメージが根強い。最賃の問題を解決し、週休二日制の導入など魅力ある職場環境をつくらなければ港湾の未来はない。

大会に向けて
 九十一回目となる定期大会の開催を今年九月に予定していたが、コロナ防止の点から規模を縮小して代議員の参加だけで開くことにした。
 労働組合の活動は、お互いに顔と顔を合わせて初めて相手の本音が分かる部分がある。その点で、この間もいろいろ苦労した。Web会議なども追求したが、具体化できなかった。今後、「第二波」がいわれるなか、仲間の意見を聞きながら、試行錯誤してやっていきたい。
 大会議案についても討議を重ねているが、春闘や最賃などさまざまな課題があるが、政治の面でいえば、とにかく安倍政権にはいい加減に退場してもらわないといけないし、そのための取り組みも強めていきたい。
 また六月には米国やカナダでILWU(国際港湾倉庫労組)が黒人差別に反対するストライキを行った。大会ではこの闘いを支持する決議案も提案できればと思っている。


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