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労働新聞 2020年6月5日号・4面 労働運動

利用者の安全と生活
守ることが業界の未来に


「コロナ」で見えた命と健康
軽視する安倍政権


全自交労連・松永次央書記長

 新型コロナウイルスの感染拡大とそれを受けて発出された「非常事態宣言」によって、労働者など国民生活は大幅に悪化している。「宣言」解除となったものの、新たな感染拡大、何よりも「補償なき自粛の要請」など安倍政権の対応によって、あたゆる状況の悪化に歯止めがかかっていない。特に雇用情勢の悪化は際立ち、なかでも、タクシー・ハイヤー業界で働く労働者の雇用は危機的だ。すでにいくつかの企業では倒産・廃業が表面化、労働者の解雇も始まっている。こうしたなか、ハイタク労働者などで組織する全国自動車交通労働組合連合会(全自交労連)は売上が激減している業界への支援、雇用維持に向けて、国や自治体などに対して積極的に要請行動を行っている。松永次央・全自交労連書記長に聞いた。(文責・編集部)


半分以下にまで落ち込んだ収入
 緊急事態宣言で、タクシー需要は激減した。国土交通省は「期間限定特例休車」(※)の適用を通知、約半分の車両が休車した。
 東京など関東圏では、四月の運送収入は前年同月比で五〇%を割る地域も出ている。
 外出自粛が続くなかでも、国交省からは鉄道、バス、タクシーは動かしてほしいと要請を受けたが、現状は厳しい結果だ。困難な下での営業だが、国から財政支援もなく、一般企業と同じように休業補償制度を使ってドライバーを半分休ませ、残りを稼動させている。しかし、この売上では歩合はほとんど期待できず、結局、手取りは半分以下だ。
 タクシードライバーは鉄道、バス以上に利用者と身近な環境で運転するため、感染の危険性は高く、リスクと背中合わせだ。しかも、この収入なので、業界から人が減り始めている可能性は高い。
 マスクなどの衛生用品の入手も困難で、対策が遅れた結果、ドライバーが感染したケースが出てしまった。当初から、運転席と後部座席との間にビニールを張るなどの対策ができていれば、防げたかもしれない。  現在は、マスク支給は行き届いている地域も増えたが、マスク不足時、ドライバーは自分たちで苦労してマスクを手に入れ、毎日洗って使うなどの努力を続けてきた。医療従事者でさえ、当初は同じ状況だった。患者の命を守る医療従事者も、利用者を安全無事に届ける私たちの業界も考え方や責任では同じだ。  全自交としても全国にマスクを約三千枚送ったが、「第二波」も予想されるなか、まだ不十分だ。
 国交省はタクシーを公共交通機関と位置づけている、国は、緊急対策の一環として、バスやタクシーの稼働を要請した。感染リスクが高い環境から、感染防止策の対応を要請してきた。現状を振り返れば、タクシー業界への配慮が不足していると感じる。
 休業手当についても、国がいう「平均賃金の六割以上の支給」に沿った形で、大半の会社は「六割」の補償にとどまっている。会社によってはプラス一割支給や、七割を超える支給するところもある。
 雇用調整助成金は上限八千三百三十円から一万五千円へ引き上げ、五月二十七日に予算案が閣議決定した。
 五月二十日の衆議院国土交通委員会で、外出自粛の状況下でもタクシーや路線バスは運行継続を求められて、難しいカジ取りを迫られている。雇用調整助成金は、「休業手当の一〇〇%が支給されるのは、休業要請が出されている業種に限られているが、公共交通事業者にも一〇〇%支給を適応すべきと質問が出た。早期に、タクシー業界にも対応するべきだ。
 昨年十月の消費税増税に合わせて、キャッシュレス・ポイント還元が始まった。現在、タクシー業界でも収入の半分以上はキャッシュレスだ。クレジット決済で、すぐに現金化されない中、毎月一千万円くらいしか売上がない会社は、キャッシュレスが収入の約半分だと給料は遅配する恐れがある。結果的に、キャッシュレスを導入できる体力がない会社が多い業界だ。こうしたことも相まって、倒産や廃業を考えている会社も多いし、見渡せばすでにこうした事態は起こっている。この状況は「緊急事態宣言」が解除されても当分続くだろう。

自治体と共に生きる業界
 外出自粛が広がるなか、国交省は、消費者に代わって食料や日用品を購入し、自宅まで届ける「宅配タクシー」を九月末までの特例措置として認めた。とくに地方では高齢者を中心に一定の需要があり、自治体によっては補助金を出しているところもある。この措置を恒久化するのかどうか、これからの議論だ。
 医療従事者や感染軽症者をタクシーで運んでほしいという要請もあり、トヨタなどが感染防止策を施した「飛沫循環抑制車両」を提供するなど、対策が少し進んでいる。私たちはプロだから、こうした人たちを病院まで安心・安全に運搬するのにいちばん適していると思う。ドライバーの感染防止策も同時に担保されるのであれば、こうしたことは業界としてとても良いことだ。利用者の生活を守ることが、業種を守ることになる。
 タクシーという業界に若い人がなかなか入らないのは、長時間労働で低賃金というイメージが定着したままだからだ。
 全自交は、給与体系として、基本給制度を要望してきた。地域に根ざした公共交通として、自治体から指定を受けるような「自治体タクシー」のようなものが出てきたら業界の体質も変わるはずで、新たなモデルケースが求められている。「歳を取ってから転職する職業」というままでは、業界は終わってしまう。
 国交省は、全国約千七百の自治体の内、約八割に交通関係の窓口部署がないと回答。自治体に対して、タクシー業界から、地域自治体、住民に対して、さまざまなサービス提案することも必要。今こそ「タクシーだからこそできるサービス」を要請していく、「待ち」の姿勢だけではダメな時代であることはいうまでもない。

ライドシェアなど文化壊す安倍政権と闘う
 改めて、タクシーは、地域の公共交通として自治体と共に生きる業界だと強調したい。
 国会では「スーパーシティ法案」が自公などの賛成で成立したが、参議院内閣委員会では、私たちが野党に要請した結果、「ライドシェア事業のような安全や雇用に問題が指摘されている事業の実証については、規制法令に違反するものが認定されることのないよう」旨の附帯決議を入れることができた。確かに法的拘束力はないが、あるとないとでは違う。よく、「日本にライドシェアなんて来ないじゃないか」といわれるが、労使一体で、国や自治体への必死に働きかけ「ライドシェア(白タク)合法化阻止」を実現できている。
 ライドシェア、そして「スーパーシティ法案」も竹中平蔵氏が主導している。日本は米国についていかないと生きていけない国なのか。もはや、ライドシェアを前提とした「観光立国」という考えは終わったのではないか。東京のような大都市圏でしか生活できないような政策から、地域、住民を守るということにシフトすべきだ。
 私たちはこの間、一貫して日本の文化を守ろうとしない安倍政権と闘ってきた。地方を回るなかで、地方分権と称し、地方が弱体化していく姿を見てきた。新型コロナウイルス感染拡大により、生活用品やマスクがなくなり、生活がままならなくなったことを踏まえ、日本のモノづくり文化等を見直すべきだ。地方が生き残り、人口減少に歯止めがかかり、少子化対策ができる国づくりが重要だ。 政治を変えるためにも、二十歳代の若い人たちに選挙に出向かせるような政策をつくるため、国民生活を考える政治を実現できるよう奮闘しよう。


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