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労働新聞 2019年9月25日号・4面 労働運動

自治労大会を傍聴して 
自治労運動の再構築は職場の
闘いに依拠してこそ


 相楽五郎

 自治労は八月二十七〜二十九日の三日間、福岡市で第九十二回定期大会を開催、代議員を中心に傍聴者含めて三千人以上の組合員が参加した。自治労組合員の減少に歯止めをかけ、「八十万人自治労」の復活をめざし、討議が行われた。またこうした組織現状の反映として、先の参議院選で組織内候補として擁立した岸まきこ氏は当選したものの、組織人員を大幅に下回る十五万票余りにとどまった(前回の江崎氏は約十八万票)。
 安倍政権は「地方創生」の破たんを覆い隠しながら新たに「自治体戦略二〇四〇」なるものを打ち出した。新たな自治体再編に乗り出そうとしており、本部議案や大会代議員からも警戒と反対の声が上がった。
 こうした自治労、あるいは地方政治に関わる問題のみならず、米トランプ政権による対中攻勢に象徴されるような世界政治での争奪の激化、米国を頂点とする世界資本主義の末期的危機という時代状況への認識についても、本来ならば議論されるべきであった。しかし、本部議案、あるいは大会代議員からも本質的な意見は上がらなかった。
 いずれにしても、八十万人を割り込んだとはいえ、全国の自治体で活動する自治労の位置とその役割は重要である。「自治労運動の活性化と再生」を期待する立場から大会を傍聴して若干の感想を述べたい。


 今大会では(1)一般経過報告、(2)二〇二〇—二〇二一年度運動方針案、(3)「第四次組織強化・拡大のための推進計画」「新・『組織拡大アクション21』の総括と『第五次組織強化・拡大のための推進計画案』」などが提案された。

情勢認識の上で大きな弱点もつ運動方針案
 わが国を取り巻く世界情勢の激変について運動方針ではAI(人工知能)やICT(情報通信技術)の発展とプライバシーや人権の侵害、世界共通のルール整備の必要性について記述した後、「アメリカ・トランプ大統領による自国第一主義・保護主義的政策と、中国の覇権主義の対立は、貿易・経済面に留まらない摩擦の深化」(運動方針)と描き出している。
 しかし、これは正しい見方ではない。
 世界を揺るがす「貿易戦争」や華為技術(ファーウェイ)排除にみられる米中対立激化はどうして起きたのか? これは歴史的に衰退する米国が、基軸通貨ドルと比較優位にある軍事力を使って、台頭する中国を抑え込む策動にほかならないのである。香港でのデモや米ロ中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱もその一環だ。米中対立は、米国帝国主義が仕掛けた悪あがきが原因で、米中を同列に評価していては、闘いの方向を見誤ることになりかねない。米帝国主義こそ世界共通の真の敵である。
 続けて、「運動方針」では「今、各国の政治に求められるのは、煽(あお)られる対立に同調するのではなく、持続可能で包括的な社会にむけた責任ある言動と、共生と連帯に基づくより丁寧な対話と発信」とある。また国際的な紛争についても「国連を軸とした協調的な安全保障体制によって解決」と言う。
 だが、こうしたことは可能とは到底思えないし、もっと言えば、米国を頂点とする帝国主義との闘いを回避することになりはしないだろうか。
 「運動方針」にある「対立」の背景には世界資本主義の深刻な危機があり、幾十億の世界の労働者人民、被抑圧民族、大衆の生存諸条件が破壊され、不満と怒りを強めていることと結びついているのである。
 八月末の先進国首脳会議(G7)でも米国の「通商戦争」に見られるような「一国主義」に対して、何ら有効策は打ち出せず、第二次世界大戦の遠因となった「一九三〇年代を想起」(「日経新聞」)とさえ指摘されている。
 「世界情勢は、歴史の転換期」(運動方針案)というのはまったくその通りである。だが、この「転換期」に立つ現在、どのような認識を労働運動が持つべきかが重要である。帝国主義、各国支配層は危機におびえている。しかし、帝国主義が、戦争や大恐慌などでこの危機の立て直しに成功しないとは言えない。世界の労働者人民が、とりわけ先進資本主義国の労働者階級が世界政治に登場できるか、この両者の速度をめぐる競争に世界の運命はかかっているのだ。そういう意味でこんにちの世界は、大局的に見れば、労働者人民にとって歴史的なチャンスともいえる。
 「運動方針」では国連サミット(一五年九月)で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)を高く評価、「自治労運動の運動目標とも重なる」としているが、労働者階級にとってこれが危機の「処方箋(せん)」にはならない。
 フランスの「黄色いベスト」運動は頑強な闘い、米帝国主義本国では労働運動や人種差別反対闘争が続いている。また、中国やロシア、朝鮮民主主義人民共和国、イラン、パレスチナなど帝国主義の支配と干渉に反対する闘争も続いている。各国首脳や企業家の「善意」に依拠するのではなく、労働者階級を先頭とする闘いこそが危機を打開する唯一の道である。この点で、「大会議案」は大きな弱点をもっていると率直に指摘せざるを得ない。

「中道・リベラル結集」は対抗軸となり得るか
 こうした世界的激変のなか、安倍政権について「大会議案」では「アメリカ追随の政治から脱却できていない」と正しい指摘を行っている。しかし、この対米追随をいっそう深める安倍政権に対する対抗軸については「共生と連帯に基づく持続可能な社会」「中道・リベラル勢力の結集」というだけで、その中身も「新自由主義とは一線を画し」「公共の役割と勤労者の生活改善、社会的公正を確立」という中途半端なものに終わっている。
 こうした認識の下、参院選についての総括も行われたが、もっぱら、「選挙運動」上の「戦術」課題に終始、突っ込んだ議論は交わされなかった。
 より本質的には、議会内野党が多国籍企業の利益のための対米従属政治を強行する安倍政権への対抗軸を十分に提起できなかったことが重要ではないだろうか。
 外交問題一つとってみても、立憲民主党は「日米安全保障体制が基軸」、国民民主党は「日米同盟を基軸」と唱え、安倍政権との違いは見えない。消費税問題でも一方、れいわ新撰組は消費税増税問題で「廃止」を唱え、国民の支持を獲得した。
 参院選という限定された政治闘争だが、安倍政権を打ち破るためには、明確な対抗軸が必要であることを改めて示したといえる。
 それでも立憲民主党と国民民主党などとの統一会派結成の動きについて原発や平和、憲法などの課題で大きな相違点があることなどを挙げ、野党の動向を不安視する発言もあった。また消費税をめぐっても、「本部方針では『充実した社会保障を幅広く実施するためには強い財政が必要。そのための消費税を含めた税の拡充は必須』とあるが、解散・総選挙を考えれば『消費税率の引き下げ』が大きな焦点となる。また、『連帯税』については共感するところもあるが、現行税制が企業や富裕層にやさしく、家計に厳しいことから、法人課税、金融資産課税など抜本的税制改革こそ優先すべき」(高知)と鋭い指摘も行われた。
 また沖縄の代議員は、辺野古新基地建設に反対する闘い、秋田、山口両県からは住民とともに陸上イージス配備の阻止に向けた取り組みが報告された。

具体的な闘いの報告相次ぐ−これこそ自治労運動の「原点」
 大会ではとくに二〇年四月に施行される会計年度任用職員制度への対応、そして「四年間での八十万人自治労の回復をめざす」(「第五次組強計画の大目標」)ための組織強化・拡大について議論が集中した。
 多くの代議員から会計年度任用職員制度の条例化に向けた自治体当局との交渉などについて報告が行われたが、今だ自治体当局から提案が行われていないなど全体として取り組みに遅れが生じているようである。
 そうした状況下でも香川県の代議員は会計年度任用職員制度をめぐり大衆行動で闘った「みとよ市現業臨時職員ユニオン」(給食調理員で組織)の取り組みを報告した。
 このなかでは条例化に向けた市当局との団交のなかで、市長が知らないまま、実質労働条件切り下げという当局回答に対して、市職労と連携しながら、抗議行動を街頭で実施、ほぼ正規職員と同水準の賃金で退職金も支給という成果を勝ち取ったことが報告された。また鹿児島県の代議員はある自治体ではこれまでフルタイムで臨時・非常勤職員を雇用していたが、それをすべてパートタイムにしていくという「脱法的」提案を行い、これに対する取り組みを報告した。
 神奈川県の代議員は「すべての自治体単組で条例化という状況ではないが、当局と合意できたすべての単組においては、定めた基準をクリアした。そして、なかには総務省が示す水準以上の休暇制度を勝ち取った単組も」と報告した。 
 「何としても適切な賃金・労働条件の処遇改善を実施させるためにも、到達闘争ではストライキの配置も検討して取り組みを強化する決意」(新潟)との力強い発言もあった。
 現在、各自治体では九月議会が開かれているが、以降の十二月議会まで射程を置いた条例化に向けた動きが進むであろう。会計年度任用職員制度をめぐっては、「今後の正規職員削減や、さらには民間委託、そういったさまざまな課題をはらむ」(大分)との指摘もある。「安易な使い捨て労働と、賃金の低位平準化を蔓延させないため、非正規労働者の処遇改善と組織化を進める」(本部議案)ため、大衆行動を含めた取り組み強化が望まれる。
 組織強化・拡大の拡大をめぐっては、新規採用者の加入促進で成果を挙げた県職労の取り組みについて報告した岩手の報告や、「重要なのは青年層の力」として、次代を担う活動家の育成と、運動強化に向け、基本組織も関わりながら、若年層や単組役員を対象とした県本部・ブロックセミナーを長年開催するなかで、成果を得た山形などから報告が相次いだ。
 また賃金闘争や人事評価制度をめぐっても意見、報告が行われた。
 東京の代議員からは、「職場の声を要求に反映させる労使交渉を全国で展開する統一闘争が何よりも重要。今年五月の中央委員会で『自治労産別統一闘争の見直し』『春闘の再構築』について発言し、運動方針への反映を求めた。しかし、運動方針案では、『賃金闘争の再構築』との表題があるものの、『再構築』との書きぶりに見合う具体的な取り組みは読み取れず、課題ごとの統一闘争の設定についても従前通りで変化が見られない」と厳しい指摘が上がった。
 「『賃金闘争の再構築』のため到達指標を示すことも重要だが、労働基本権が制約されている状況にあって、単組や県本部ではどんなに交渉を強化しても限界がある。単組段階で交渉を有利に進めるためにも賃金水準に関わる地域手当など具体的な交渉方針や獲得目標を打ち出し、関係省庁、地方六団体と交渉を行っていくことが重要」(宮城)と具体的な行動指針を望む声も相次いだ。
 安倍政権・総務省による「自治体戦略二〇四〇研究会報告」や十月からスタートする幼保無償化による地方負担など自治体、そして自治体労働者をめぐる環境は厳しさを増すなかで、全国の代議員から警戒の声も多く上がった。
 新潟の代議員からは知事が「身を切る改革」と称して、自らの報酬を二〇%カットすることを表明、それに呼応するように自民党県議が財政悪化の理由に「公立病院の赤字」を挙げるなど、公務員攻撃の準備が進められていることを警戒感をもって報告した。
 また宮崎県の代議員は高鍋、川南両町における保育所全廃という提案に対して、保護者、住民となった闘いによって歯止めをかけた取り組みを報告した。
 大阪の代議員は維新政治との闘いを報告、来秋にも予想される再度の「都構想」住民投票に向けた集中した闘いを提起した。
 状況は確かに厳しいが、こうした現場における闘いのエネルギーこそが「自治労運動の再生」の源であることを多くの組合員が実感したのではないだろうか。
 今大会のスローガンは「原点・共感・躍動」とあり、「自治労回帰」が大きなキーワードとなった。文字通り、自治労運動の「原点」を取り戻す闘いを期待したい。


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