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労働新聞 2018年9月15日号・4面 労働運動

自治労第91回定期大会を評す

安倍政権による
地方再編攻撃に反対し、
 闘い望む組合員に依拠した
自治労運動を

相楽 五郎

 全日本自治団体労働組合(自治労)の第九十一回定期大会が八月二十三、二十四日の両日、岐阜市で開催され、大会代議員、傍聴者など組合員約三千四百人が参加した。
 北陸地方を襲った豪雪、大阪府北部地震、西日本豪雨などの自然災害が立て続けに発生、自治体労働者は被害の復旧・復興に向けて奮闘、重要な役割を果たしている。自治体労働者は相次ぐ人減らしや臨時・非常勤職員への代替などの攻撃を受けている。少ない人員での業務に加え、災害対応に追われ、被災現場の生々しい状況、そして人員確保を求める切実な声が岡山、愛媛など被災した各県の代議員から上がった。
 安倍政権の下、今年六月には「骨太方針二〇一八」が閣議決定された。一九〜二一年度の地方一般財源総額について「一八年度と実質的に同水準を確保」とされたが、社会保障費、災害対策など地方自治体の支出は増加が見込まれ、地方財政確立を求める闘いはいっそう重要となる。また、総務省は「自治体戦略二〇四〇年構想研究会」の第二次報告書(以下、報告書)の内容を明らかにした。ここでは、人口減少を理由に「各市町村が全分野の施策を手がけるフルセット主義から脱却しなければならない」などと危機感をあおり、「半分の職員でも自治体の機能を発揮するためAI(人工知能)を活用したスマート自治体」「複数の市町村で構成する圏域を法律で新しい行政単位」など自治体職場の一大合理化、さらには市町村単位の行政を根本から覆すような方向性が示されている。「圏域の法制化は、今までやってきた(市町村の)努力に水を差す」(立谷・福島県相馬市長)、「机上の発想でなく、現場の声をしっかりと受け止めてほしい」(荒木・熊本県嘉島町長)など地方六団体から反発の声は当然である。
 安倍政権は「地方創生」の破綻を覆い隠し、危機感をあおり立て、自治体再編の世論づくりを始めた。こうした安倍政権の地方政策との闘いも大会に課せられた課題であった。
 また、自治労組織の強化・拡大は昨年新潟大会に引き続き議論の中心となった。そして、二〇年四月に施行される(※)「会計年度任用職員制度」への対応も喫緊の課題である。併せて、安倍政権による対米従属の政治・軍事大国化に対する闘いも大きな課題だ。その上、昨年新潟大会後に行われた解散・総選挙をはさんで民進党が分解するなど、安倍政権と闘う有効な対抗軸が示されていない。自治労は来年夏の参議院選において比例区候補として岸まきこ氏を立憲民主党から組織内候補として擁立するが、この党が安倍政権に対する有効な対抗軸となり得るのか検証も必要だ。活発な議論が必要だったが、俎上に上がらなかった。
 「米国第一」を掲げ登場したトランプ政権は「貿易戦争」を仕掛けるなど、衰退を巻き返そうと策動を強めている。そして、同盟国であるわが国にさえ「良好な(日米)関係は終わる」などとどう喝、屈服を迫っている。それにも関わらず、わが国安倍政権は米国のアジア戦略を補完しながら、国民に犠牲を押し付けようとしている。
 こうした状況に対し、連合中央・神津指導部は「働き方改革」一括法に対する対応などに見られるように安倍政権に唱和し、闘いを放棄している。この下で、自治労の果たすべき役割はいっそう重要である。

組織強化・拡大へ議論集まる
 大会では昨年新潟大会と同様に組織強化・拡大について議論が集中した。「自治労の組合員数は、二〇一七年調査で約七十九万人、一五年調査に比べて、一万八千人強の減少となった。残念ながら組合員の減少に歯止めがかかっていない。また正規職員の組織率は七〇%を切る事態」(川本委員長あいさつ)とあるように、全国の代議員から組織強化・拡大に向けた発言が相次いだ。「本部はより具体的な組織強化対策の提示と、各単組、県本部の実状を反映できる組め細かい対応を」(山梨)、「どうやって職場一体となった労働運動に昇華させるか、悩む単組にどう手を差し伸べようとしているのか」(岐阜)、「本部、県本部、単組が一体となった運動ができるよう、非正規労働者の組織化についてしっかりと方針を示すべき」(宮崎)、「組織率向上を図ることは自治労存続に向け重要な取り組み」(長野)、「人員不足の課題は単組によっては、賃金闘争を上回る課題といっても過言ではない」(岡山)など、本部の強力なリーダーシップを求める声が多く上がった。二〇年四月に施行される「会計年度任用職員制度」を見据えた臨時・非常勤等職員の組織化に向けて、とりわけ単組に対する丁寧な指導を求める声も相次いだ。
 岡崎市非常勤職員労組結成に向けた取り組みを報告した愛知、新規採用者の組合加入を果たした熊本、県職連合における新規採用者の組合加入の取り組みを報告した香川、保育現場を中心に組織化する方針を立て臨時・非常勤等職員の単独組合二単組を組織化した和歌山の経験など各県本部、各単組における必死の努力が実を結んでいることも示された。また産別統一闘争、闘争サイクルの構築・確立も組織強化・拡大と密接なかかわりを持っている。「統一闘争の再構築についてはまさに自治労の運動方針の重要な柱。統一闘争の推進に当たっては、中央段階での強力な省庁対策は必要不可欠。本部がまずは主体的に取り組むよう要請する」(岩手)との声も聞かれた。
「総務省の定員管理調査では、地方公務員総数の減少傾向はとどまり、一般行政職は増加に転じている。組合員の減少の課題は、自治労組織そのものの問題がある」(川本委員長)と言う通り、問題点を赤裸々に明らかにしながら、少なくない貴重な成果を踏まえて県本部、各単組の要望に応え得るような方針とその具体化が求められていることは明らかだ。

IT導入テコとした合理化許すな
 また今回の大会で特徴的であったのは自治体職場におけるAI導入の動きに対する危機感が強く示されたことであった。総務省は報告書で、合理化を前提としたAI導入を自治体に迫っている。「今後次元を超えた人員削減の懸念」(高知)、「AIの実証実験導入にどのように対応すべきか悩んでいる。総務省が拙速に進めることがないよう対策強化もお願いする」(奈良)、「医療・介護では機械は人間の代わりにはならない」(徳島)との声が相次いだ。また香川県の代議員からは、高松市で来年度の保育所入所希望者の選定にAIを使う方針が示され、入所を希望する市民への対応で当惑している報告もあった。本部は「AIと自治体行政研究会」(仮称)を設置、方針をまとめるとしているが、自治労としての基本的スタンスを明確にすべきとの声も上がった。
 「報告書」では、これまで市町村単位で進められてきた地方行政を「圏域単位の行政を標準」などとしていることに対して、「自治労が主張してきた分権改革、市民自治とは大きくベクトルが違う」(高知)との警戒感も示された。
 安倍政権は自ら掲げた「地方創生」が行き詰る中、「企業がいちばん活躍しやすい国」の実現に向けて東京などの大都市圏に資源を集中させる一方、「コンパクトシティ」などといい、地方都市を「選択と集中」で合理化しようというのである。こんにちの地方における荒廃した状況は、戦後の対米従属と財界中心の政治がもたらしたものである。地方経済を支えてきた農林水産物や地場産業の市場開放、対をなす大企業の海外展開と空洞化、日米構造協議による巨額な公共投資の押し付けなどが、その背景である。
 自治労方針にある「地方財政の確立」はその通りだが、これまでの対米従属、財界中心の政治の結果による地方の危機という観点がない下では有効に闘えないだろう。単なる「省庁対策」だけでは地方の危機突破はできない。総務省の「報告書」に対し、地方六団体は反発を強めている。今後いっそう犠牲が押し付けられであろう地方においてはAI導入をテコとした自治体職場の合理化が必至である。それとともに、住民サービスの低下も進むであろう。自らの職場と雇用を守るとともに、犠牲に遭う地域住民の要求を取り上げ闘うことこそが、自治労運動全体の支持にもなるはずである。幸い、大会でもとくに医療・病院現場で働く代議員から地域医療を守るため住民を交えたシンポジウムの開催に向けた取り組みが報告(石川)されるなどの努力も示された。こうした経験を全国に広げるべきである。
 その他、掛川市における窓口業務の委託化に反対する取り組み(静岡)、組合つぶしと闘う佐野市民病院労組(栃木)、「維新」市政による技能職給与表見直しに反対し闘う現業評議会の闘い(大阪)、府の労働協約違反を追及して闘う競輪労組(京都)、豪雪対策費を口実とした福井市職員への賃金カットに対する闘い(福井)、三木市独自の賃金カット撤回の闘い(兵庫)など、地方首長などによる攻撃に対する闘いも報告された。「現場には闘うエネルギーがある」と実感した組合員も多かったのではないか。

真の対抗軸の構築へ議論深めよ
 現在、自民党総裁選が行われているが、事実上安倍政権の継続が確実視されているなか、この安倍政権にどのように対決していくのかもまた問われた大会であった。各地の代議員からは例えば、イージスアショアの配備計画に対し、住民ぐるみで闘う秋田、山口、佐賀空港へのオスプレイ配備反対の取り組み、そして沖縄から辺野古新基地建設阻止、そして知事選勝利に向けた決意が訴えられた。また、青森、茨城などからは反原発の闘いが報告された。
 それでも、対米従属を深める安倍政権に対する根本的な対抗軸が示されたとは言いがたい。「環境・平和・人権を確立する取り組み」(本部方針)の下、憲法改悪を阻止する取り組みなどが列挙されているが、依然として「護憲」のワクにとどまっていては、有効に闘えないと指摘せざるを得ない。
 また肝心な政党問題については突っ込んだ議論はなかった。せいぜい、来年参議院選における選挙区での野党間の候補者調整を求める声ぐらいであった。本部方針通り、比例代表選における岸氏の当選に向けた決意が各県から上がった。だが、立憲民主党が真に対米従属と財界優先の安倍政権に対する対抗軸となり得るのか、検証が必要である。立憲民主党は安倍政権との「対決」を打ち出しているのは事実だが、「日米同盟を軸」(綱領)とし、枝野代表も「外交は日米基軸」と述べるなど、外交政策、日米関係で安倍政権との違いは鮮明ではない。
 昨年新潟大会の際にも述べたが、改めて言わなければならないのは、戦後七十数年間、選挙に動員されてもそれに見合う生活改善はもたらされなかったこと、旧民主党の「政権交代」に裏切られた経験から、真の打開の道は選挙ではなく直接民主主義、労働者自身の断固たる闘争、広範で強力な統一戦線の力による政権樹立の道である。これこそ真の対抗軸となり得るということである。
 独立・自主の国の進路を切り開く統一戦線の組織者として、労働運動が役割を果たすことが肝心である。

自治労は闘いの先頭に
 連合労働運動全体における自治労の果たすべき役割等々、指摘しなければいけない点はあるが、いずれにしても今大会では闘うことを望み、かつ闘って成果を得た組合員の声が相次いだ。この声に応え、すべての自治労組合員が自らの組織強化・拡大、非常勤・非正規職員等を含めた労働条件の改善を勝ち取る闘い、住民大多数のための地方自治体への転換、そして安倍政権が進める危険な対米従属、中国などアジアに敵対する政治に反対し、わが国の独立と自主を実現する闘いに立つことを希望してこの文書の終わりとしたい。


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