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労働新聞 2016年2月15日号・4〜5面 労働運動

16春闘に際して訴える 
安倍政権を打ち破り、
国民多数の独立・自主の政権を

生活できる大幅賃上げを! 
アベノミクスの正体を見抜き、
労働者自身の団結した
力で闘おう(上)

高畑 勇夫

 連合の一六春闘開始宣言中央集会が二月五日に開催され、いよいよ春闘の火ぶたが切って落とされた。各職場では要求提出、交渉に向け取り組みが始まっている。
 今春闘は、「デフレ脱却、経済の好循環実現」を掲げた安倍政権下での三年目の春闘である。経団連は「社会的要請」に応え、「経済の好循環と企業の持続的成長の実現」をめざす立場から、傘下企業に対し「収益を挙げた企業では年収ベースの賃上げを検討すべき」との指針を打ち出し、労使交渉に臨むよう呼びかけている。
 対する連合は、「経済の好循環実現」など総論では経団連の見解に同意したうえで、「月例賃金の引き上げ」にこだわるとして「二%程度を基準」にベースアップ要求を設定、中小企業、非正規労働者を重視した「底上げ春闘」を展開するとしている。
 だが、「異次元緩和」を中心とするアベノミクス(インフレ政策)から三年、「投資、賃上げによる経済の好循環」はどうなっているのか。圧倒的多くの労働者の実感では、生活はますます苦しくなっている。「経済好循環」などの言葉に惑わされず、労働者の立場から、事実に基づく検証がなされなければならない。
 最近発表された毎月勤労統計調査では、四年連続して実質賃金がマイナスになっていることが明らかになった。アベノミクスと消費増税によって物価が上昇、実質賃金は目減りした。
 問題はそれにとどまらない。この三年間に労働者が新たにつくりだした付加価値のうち、労働者の取り分の割合、労働分配率は大きく低下した。大企業をはじめ資本家の側は、労働コスト削減に成功し、労働者から以前より多く搾り取ることによって、ばく大な利益を手に入れたのである。
 そうだとすれば、連合指導部の「経済の好循環実現」という考え方は、労働者の首を絞めることにならないか。検証が必要である。
 今春闘を取り巻く情勢は、世界経済がより深刻な新たな局面が顕在化し、アベノミクス自身が成否を問われるところとなった。資本家の側がこれまでにも増して厳しく対応してくることは必至である。
 わが方は、ハラを決めてかからなければならない。
 大幅賃上げなしには、インフレ政策で奪われた賃金を奪い返して、生活苦、貧困から脱することはできない。そのためには、政府や経営側へのいっさいの幻想を捨て、労働者階級の立場に確固として立ち、自身の団結した力に直接依拠し、必要ならストライキを打ち抜いて、要求を実現しなければならない。
 内外の危機の深まりはまた、闘わなければ後退し、闘ってのみ道が切り開けることを教えている。
 日本労働党は、すべての労働者が生活できるために、大幅賃上げの闘いに立ち上がるよう訴える。安倍政権のインフレ政策を打ち破り、その犠牲になっている農民、自営業者、中小企業など国民大多数の生存条件を守るために闘い、独立・自主の政権をめざすよう訴える。
 先進的活動家の皆さんには率直に、今日ほど労働運動の真価が問われている時はないと奮起を呼びかける。

1、アベノミクスの正体見抜き、大幅賃上げ要求を
(1)アベノミクスの3年間を労働者の立場で検証する

 安倍政権は、「企業収益は過去最高、賃上げは率は十七年ぶりの水準、失業者数は五十三万人減り、有効求人倍率は二十三年ぶりの水準」などとアベノミクスの「成果」を並べ立て、「デフレ脱却に向け経済好循環を回す」ためと、今春闘でも「賃上げ」を要請し、幻想をあおっている。
 経労委報告で経団連は、昨年を振り返り、「近年にない大幅な月例賃金の引き上げが実現」したなどと宣伝している。「額で七千三百八円、率で二・四%、十七年ぶりに七千円を超えた」などというが、それは経団連会員企業四百八十二社、五百人以上規模企業の七九%の集計の平均値にすぎない。その実態たるや、定期昇給が六千一円(一・九五%)、ベアは一千三百四十円(〇・四四%)である。五千万人を超すわが国労働者全体から見れば、ほんの一握りの大企業労働者の、しかもスズメの涙ほどの「賃上げ」を誇大宣伝し、労働運動を取り込もうとしているのだ。
 だが、安倍政権が登場し、黒田「異次元緩和」をはじめとするアベノミクスを断行して三年。「デフレ脱却と経済の好循環の実現」のためと政労使会議を立ち上げ、二年続いて「賃上げ」を要請してきた結果はどうなったか。
 第一、賃金の実質が目減りした(図1)。


 実質賃金(名目賃金から消費者物価の上昇分を考慮した指数)が、四年連続を記録、安倍政権になって三年間に大きく低下している。
 最近発表された厚労省の毎月勤労調査は、労働者が生活の中で実感していることがデータで裏づけられた。
 二〇一五年の労働者の名目賃金は月平均三十一万三千八百五十六円で、前年より〇・一%増えた。昨年も〇・四%増えたので、二年連続の増加となった(五人以上規模の事業所)。だが、物価上昇(図では消費者物価指数)の方が大きかったため、物価の影響を考慮した実質賃金は昨年二・八%減に続いて〇・九%減で、四年連続のマイナスとなった。
 経団連が宣伝しているように大企業を中心に、一四春闘に続いて一五春闘でも、月例賃金の引き上げを実施したのは事実である。だが、賃上げは物価の上昇には追い付かず、目減りし、労働者が景気回復を実感する状況には程遠いということである。
 この時期の物価上昇はいわゆる経済現象ではなく、アベノミクスの「異次元金融緩和」政策が意図的に引き起こしたものである。この政策は、大量の円通貨を発行することによって、円安を引き起こすというインフレ政策であった。
 したがって、第二に、このインフレ政策によって、資本家は労働コストを大幅に削減し、労働者への搾取を強化して、ばく大な利益を手に入れたということである。


 図2は、大中小の資本家たち全体が年間どれほど製品やサービスを売り上げたか、その際人件費(労働コスト。従業員給与+賞与+福利厚生費)を払ったか、営業利益はいくらになったかを指数化したものである(法人企業統計)。
 安倍政権以降、一二年度から一四年度で売上高を七十三兆円、五・三%増やした。しかし、人件費は二千四百二十六億円、〇・一%減らした。こうして売上高に占める人件費比率は、一二・四%から一一・八%に低下。労働者がつくりだした富、全付加価値に占める賃金の割合、労働分配率も五五・四%から五二・八%に劇的に低下した。そのことによって、営業利益は三三%も激増した。
 特に、円安でのインフレでもっとも恩恵に与ったのは、輸出が多い自動車産業の大企業だった。売上高を九・九%増やしたが、売上原価は半分の五・五%増にとどまった(図3、非製造業では売上高五・五%増、原価五・四%増)。ここには、労働者への搾取強化と下請け企業への「原価低減」が含まれている。労働分配率は七〇・二%から五八・〇%に激減した。
 こうして営業利益を一〇九・一%と倍以上に増やした。


 詳しくは後で触れるが、自動車の大企業のもう一つの特徴は、トヨタ自動車が典型だが、営業外収益(保有株式にかかわる受取配当金、保有債券にかかわる受取利息、為替差益など)が激増していることである。最高益を更新する経常利益の激増となってあらわれている。
 この二年間、労働者の手取り賃金はわずかだが上がった。しかし、実際には労働者に気づかれないように搾取が強められ、資本家たちは利益を激増させた。 これがインフレ政策である。
 したがって、「デフレからの脱却」とか、「経済好循環」なる言葉にダマされてはならない。この三年間の経験を通じて、アベノミクスの異次元金融緩和政策の本質は、インフレ政策で、労働者の懐から企業家の金庫へ所得を移転するものだということを学ばなければならない。労働者が「デフレからの脱却、経済の好循環の実現のため」などと信じてアベノミクスに付いていけば、賃金の目減りは加速し、資本家を富ませて自分の首を絞めることになる。
 加えて安倍政権は、「世界で企業が一番活動しやすい国」にすると法人税減税にさらに踏み込むなど大企業優遇税制を推し進め、他方では消費税増税を強行、「生涯ハケン」に道を開く労働者派遣法の大改悪を強行し、さらなる労働の規制緩和を推し進めようとしている。
 安倍政権の経済政策の正体を見抜き、苦しくなっている生活の現状、そこに根差した要求を掲げ、自分たち自身がもつ団結という力に頼って、断固として闘わなければならない。すでにこの四年間、実質賃金は大きく目減りしている。生活水準を以前に戻すだけでも、「二%程度」ではなく、大幅な賃上げが必要である。アベノミクスで奪われた賃金は、最低、奪い返さねばならない。

(2)労働者の生活はいちだんと困窮化、貧困化した。

 今 実質賃金が消費税増税を含めて四年間連続してマイナスになった実際的影響は、労働者の生活を直撃している。
 加えて安倍政権は、消費増税、年金、健康、介護ど社会保険などの給付減、負担増などを強行。重石は重なるばかりで、労働者は必要な支出を削らざるを得ず、生活はますます苦しくなった。
 家計調査によれば、リーマン・ショックの影響を受け、実収入が急減、その後も実収入が低迷していることが労働者の家計を圧迫している。そこへもってきて直接税、とりわけ年金、健康保険料などの負担が強まり、それらの「非消費支出」は、実収入の一八%強、二割に迫っている。「収入が減った以上に生活が厳しいように思える」。
 とりわけ安倍政権の下で、この傾向が強まるのと併せてアベノミクスと消費増税が重なり、実質可処分所得は四%も減少した。一四年四月の消費増税以降、二人以上世帯の消費支出は、一〇年比一貫してマイナスが続いている。低所得者層ほど負担は重くなっており、食料、水光熱費、被服・履物などが家計を圧迫、エンゲル係数(支出に占める食料の割合)は二四%に跳ね上がっている。
 「貯金を取り崩している」「親から援助を受けている」「借金している」など賃金だけでは生活が賄いきれない世帯が急速に増えている。一三年の国民生活基礎調査によれば、貯蓄が減った世帯は全世帯の四割を超えた。その理由としてもっとも多いのは、「日常の生活費への支出」であった。
 働いても働いても楽にならない、ワーキングプアと呼ばれる年収二百万円未満の労働者は一二年には、一千八百二十二万人、全労働者の三三%にまで増えている。うち八割超の一千四百九十七万人が非正規労働者である。
 連合総研が発表した「非正規労働者の暮らしと働き方」の実態調査報告によれば、非正規労働者が主稼得者である世帯では、五割弱が世帯全体の年間収支が赤字になっており、四分の一が世帯貯蓄がない。さらに、半分超の世帯で「衣料費」「理容・美容費」「外食費」「耐久消費財」「遊興交際費」「家での食費」を切り詰めている。また、三四・六%の世帯で「医療費」を、二五・一%の世帯で「子どもの教育費」を切り詰めている。二割超で「食事の回数を減らした」と回答、「医者にかかれなかった」と答えたのも一割弱いた。
 「貯蓄ゼロ世帯」は、一三年に調査開始以来初めて三割を超えた。
 生活保護世帯は、百六十三万人を超え、なお増え続けている。
 ここでは労働者のもっとさまざまな層の生活のさまざまな側面に触れるべきだが、紙幅がない。暴露しなければならないのは、安倍政権のアベノミクスによって、労働者の生活は急速に苦しくなっているということである。
 「底上げ・底支え」というなら、こうしたわが国労働者階級の「底辺」で進行している困窮化、貧困化の深刻な現実に向き合わなければならない。そこには、まともに生活できる賃金を得たいと望む多数の労働者が充満しており、闘うエネルギーも蓄積されているはずである。
 そこに闘いの火を「点火」するための支援こそ組織された労働者がなすべきことではないか。「底上げ・底支え春闘」と言うなら、こうした労働者階級の現状に接近し、闘いを波及させなければなければならない。
 以下、春闘を再構築するために、一九九七年までさかのぼって賃金問題を分析する。
 それを踏まえ、どう闘うべきか提起したい。当然にも、連合指導部への批判が必要である。(つづく)


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