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労働新聞 2011年10月25日号・4面 労働運動

連合第12回定期大会を傍聴して(下)

野田政権下、空洞化と亡国の
危機が迫った大失業、大増税、
賃金引下げ攻撃と闘い、
TPP参加阻止、
日米同盟深化反対掲げ、
国の進路を切り開こう

労働運動対策部長 中村寛三

 われわれは前号で、古賀会長の冒頭あいさつ、提案された運動方針(案)が、眼前で進行している「第二のリーマン・ショック」といわれる、ドルを基軸通貨とする世界資本主義の破局的危機の深まり、世界秩序の構造的変化と矛盾の激化、その中で迫られているわが国の進路の選択、という現実から決定的に立ち後れていると指摘した。にもかかわらず、昨年秋以降、環太平洋経済連携協定(TPP)問題を契機に生じた連合内部の分岐、連合指導部への批判は、大会議論の場では公然たる論戦という形ではあらわれなかった。
 そうした現状を踏まえ、連合運動の打開を望む先進的活動家の皆さんに、いくつかの問題提起をするとして、二点を述べさせていただいた。
 一番目の問題提起は、今年七〜八月以降の破局含みの世界資本主義の危機の深まりをどう見るかという情勢認識の基本にかかわる問題であった。
 リーマン・ショックから三年、各国政府・中央銀行が危機対策としてとった野放図な金融、財政政策が、ソブリン危機、インフレなど新たな危機を生み出した。だが、米欧諸国の政策手段は手詰まりで、金融、経済危機が連鎖的に深刻化している。それゆえ各国支配層は、危機を他国と自国の労働者、人民に押しつけるほかなくなり、結果、国際協調は吹き飛び、米中をはじめとする諸国家間の矛盾が激化、諸国内部の矛盾も中東にとどまらず米欧諸国でもストライキやデモの激発となって顕在化している。だが、連合指導部の情勢認識——「市場原理主義の終えん」「パラダイム転換」論は、およそ主観主義的情勢認識で、世界資本主義の危機の深さと矛盾の激化の現実を覆い隠すものだと批判した。
 二番目は、そうした激動し破局が迫るという情勢認識に立つならば、労働運動はどう闘うべきか、事態の根本的打開の方向が問われる。これまでの「労資協調」路線、「働くことを軸とする安心社会」は、果たして打開の方向たり得るか、という問題提起であった。
 内外の深まる危機の中で、これまでの「生産性三原則」に基づく「労資協調」路線は、経営側によってすでに反故(ほご)にされ、非正規労働者が全労働者の四割近くまで増加、年収二百万円以下のワーキング・プア層が激増、失業率の高止まりと長期化が進んでいる。それは、リーマン・ショック直後の輸出激減、最近の円高問題が示すように、「対米従属政治」の限界が露呈する中で、ますます深刻さを増している。
 こうしたこの間の経験は、もはや「労資協調」路線では雇用も賃金も守れないこと、さらには対米従属政治との闘いなしに、国民大多数が安定して暮らせる経済社会は切り開けないことを教えているのではないか。
 だが、連合指導部が提起している打開の方向——「働くことを軸とする安心社会」は、この十年来の経験の総括から導き出されたものではない。何一つ有効性を発揮できなかった「労働を中心とする福祉型社会」の焼き直しにすぎず、いっそう危機が進み、労資間の利害対立が激化する情勢局面で、あろうことか「政労使の社会対話」によって実現するのだと提起している。甘い幻想を振りまくもので、現実に立脚しない机上の空論というほかない。
 経験と現実を踏まえるなら、苦難の根源、闘うべき敵を全面的に暴露し、ギリシャをはじめ欧米の労働者が始めたように、労働者の団結、断固たる闘いによって生活を守り、階級闘争によって決着をつける道へと前進すべきである。だから、「働くことを軸とする安心社会」は打開策にならないばかりか、真の打開の道を誤った道にそらそうとする見解だと批判した。
 われわれは先進的活動家の皆さんに、労働運動の現状を打開しようとするなら、TPPや原発問題という個別課題にとどまらず、連合指導部の情勢認識と運動路線に対する全面的暴露を深め、対置した路線を打ち立てることが必要になっているのではないかと、問題提起したかったわけである。

財界の新成長戦略を批判し、さらなる労働者への犠牲押しつけに反対する闘いを
 三番目からの問題提起は、そうした基本的な情勢認識、運動路線での認識面の整頓を踏まえたうえで、当面どのように闘うべきか、具体的な課題と闘い方に関わる問題についてである。
 それには、この間の具体的闘いの総括、当面する内外情勢と財界や野田政権の政策についての具体的分析が必要となる。
 問題にすべきは、世界的危機の深まりに対処するために、大企業、財界が踏み込んできているかつてない労働者への攻撃に対する連合指導部の問題意識の希薄さである。
 すでに大企業は激化する世界的競争に勝ち残るために、自動車、電機のみならず、食品、日用品など内需型産業、さらには中堅、中小企業の一部まで、超円高など「六重苦」を口実にして、海外シフトを加速させ、空洞化の危機が迫っている。工場・事業所閉鎖や撤退、中小企業の倒産、人員削減、賃金引き下げなど、かつてない攻撃とどう闘うべきかが求められていたが、課題としてさえ提起されていないのは、どういうことか。
 九月中旬に発表された「経団連成長戦略二〇一一」は、財界の立場からどのように危機を認識し、乗り切ろうとしているか包括的に処方せんを示したもので、これを批判し、その具体化との闘いを呼びかけるべきであった。そこには、原発の再稼動、為替の安定、法人税減税、TPP参加、さらには大増税、道州制導入と並んで、労働時間の規制緩和を中心とした新たな雇用政策が提起されている。それは、九五年の「新時代の日本的経営」をさらに深化させ、労働者に犠牲を押し付けようとするものにほかならない。
 こうした局面で、大企業中心の一部産別指導部、単組指導部に、労資協調路線をさらに推し進め、財界の新成長戦略に呼応してTPP参加推進や法人税減税、インフラ輸出を叫ぶやからも出てきているが、労働者の裏切り者として徹底的に暴露し、信用を失墜させなければならない。
 そして、そうした労資協調路線では、大企業の労働者の雇用や賃金さえ守れなくなっている現実を説明し、断固たる闘争で活路を切り開くよう奮闘しなければならない。具体的攻撃に対して一つ一つ反撃を組織しなければならない。その際、非正規労働者、中小企業労働者、公務員労働者の地域的な共闘が重要となろう。大企業の工場撤退に対しては、自治体さえ誘致補助金の返還を求めるようになっている。地域で広く社会層と連帯した闘いも可能となっている。

いっさいの幻想を捨て、野田・民主党政権と闘おう
 最後の問題提起は、野田政権に対する評価と態度についてである。
 先進的活動家の皆さんに提起したいのは、野田政権が何を言っているかではなく、何をやっているか、何をやろうとしているかを判断基準にすべきだということである。
 十月十二日、大会後初めての政府、連合トップ会談で首相が言明したように、野田政権はそれまでの安全運転から急ハンドルを切り始め、やろうとしていることがはっきりしてきている。
 その一つは、TPPへの参加であり、普天間基地(沖縄県宜野湾市)県内移設である。当面の政治の焦点となっているTPP参加問題は、財界が新成長戦略の中心政策の一つとして要求しているが、より本質的には、衰退し困難を抱える米国の死活をかけたアジア戦略、対中戦略に日本を従属させようとする売国と亡国の選択にほかならない。本来なら、支配層にも亀裂があられておかしくない選択である。
 TPP参加によってわが国農業を壊滅させ、国民皆保険制度や郵便制度を破壊するなどわが国の形を変えるにとどまらない。米国の戦略に沿って、中国をはじめとする興隆するアジアに分断を持ち込む先兵の役を担わされ、アジアで孤立の道を歩むことになる。これは、中国を「共通目標」とする日米同盟「深化」の一環であり、沖縄米軍基地強化、新防衛大綱、武器輸出三原則の緩和、最近の日比、日韓関係強化等々ここに来てバタバタと進めている危険な動きと軌を一にした動きである。
 世界経済の危機が深まり、構造変化が進む中、わが国の対米従属政治の限界がますますはっきりしているにもかかわらず、さらなる対米従属政治を進めることによって国益を損ない、国の将来を危うくしようとしている最悪の政権と言わねばならない。
 いま一つ、野田政権は、財界の要求に沿って法人税減税を具体化し、「社会保障と税の一体改革」と称して、消費税大増税に踏み込むことも明確にしている。
 こうした野田政権がやろうとしていること、やり始めたことから判断するなら、野田政権がわが国国家金融独占資本と米国の忠実な走狗(そうく)であり、わが国労働者階級と国民大多数が闘い、打ち破るべき政権であることは明らかである。
 野田首相が大会あいさつで述べた「分厚い中間層を取り戻す」という公約が空手形になるであろうことは、まさに野田政権が実行に移そうとしている対米従属の亡国政治、大増税の政治がもたらすことを考えれば、容易に推測できることである。
 したがって、古賀会長が「国民の目線に立った、国民のための政治を期待する」といい、「政権交代の成果と現実をしっかり見つめ、……新しい社会づくりに積極的に参画していく」として、野田政権への幻想をあおり、これを支える態度をとることは、きわめて欺まん的で労働者と国民の利益を裏切るものと言わねばならない。
 先進的活動家は、もはや民主党政権へのいっさいの幻想を捨て、これを支え続けている連合指導部の犯罪的態度を批判し、本格的に闘いを準備しなければならない。
 野田政権の登場と選択によって、対米従属政治の総決算、独立・自主の課題が差し迫った課題となった。この政権の売国的反動的性格を全面的に暴露し、労働運動が独立の旗を高く掲げ、広範な国民的戦線を形成し、国民大多数の政権を打ち立ててこそ展望が開けることを鮮明にして闘うよう準備しなければならない。革命政党の建設強化は、そのカギである。
 この情勢は、われわれにとって有利である。ともに大いに奮闘することを訴える。


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