ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2011年10月15日号・4面 労働運動

連合第12回定期大会を傍聴して(上)
社会改良の『安心社会』は
苦難と敗北の道

大失業、大増税、賃金引下げ
攻撃と闘い、独立の旗を高く
掲げ、国の運命を握る
闘いの先頭に

労働運動対策部長 中村寛三

危機感なき情勢認識と対処方針
 「復興・再生に全力を尽くし、『働くことを軸とする安心社会』につなげよう」をスローガンとした連合の第十二回定期大会が、十月四〜五日、東京で開かれた。
 米国債の格下げと雇用問題の深刻化、欧州の財政危機と世界的金融システムの動揺など、米国を震源地とする世界資本主義の危機はいちだんと深まり、「第二のリーマン・ショック」とも言われる破局含みの新たな局面に入ったかのようである。リーマン・ショックが大恐慌に至るのを防いだ、主要国の金融・財政などの政策手段は手詰まりとなり、「国際協調」も吹き飛んだ。米帝国主義の凋落(ちょうらく)、中国など新興国の台頭、世界政治の構造的変化が進む中、アジアでは争奪が激化、緊張も高まっている。
 わが国は、超円高に見舞われ、それを口実に大企業は国を捨て生産拠点の海外シフトを加速させ、かつてない産業空洞化の危機に直面している。リーマン・ショックによって先進国最悪の経済危機に陥り、対米従属政治の限界が露呈したが、東日本大震災、原発事故を経、さらにこんにちの超円高に直面して、いよいよもって対米従属政治ゆえに、国民諸階層の生存条件が悪化させられ、苦難が耐えがたくなっている。
 このような迫り来る危機を、わが国のナショナルセンター・連合はどのように認識し、どう対処するか。とりわけ、労働者にとっては、大失業と大増税、さらなる賃金引下げが予測されるが、それとどう闘うか、注目された。
 さらに、前大会は、悲願であった民主党への「政権交代」で期待と幻想に満ちていた。だが、わずか二年の間に「落胆と失望」に代わったと苦言を呈さざるを得ない経過を経て、誕生した野田政権にどんな態度をとるか、注目される大会であった。
 だが、古賀会長の冒頭あいさつにも、提案された「二〇一二〜一三年度運動方針」(案)にも、世界資本主義の破局含みの新たな危機とわが国への影響、とりわけわが国労働者の生存条件の劇的悪化など直面している情勢認識にはおよそ危機感はなかった。大震災と原発事故は、確かに深刻な国内の重大事件で、その復興は緊急かつ重要課題には違いないが、それがすべてではない。したがって破局含みの世界情勢や財界の対処方針などを検討もせず、それらと切り離し、孤立させて、復旧・復興を「働くことを軸とする安心社会」につなげるなどと紋切り型に唱えても、説得力がないのは明らかである。被災地の十万人を越える失業者には、さらに空洞化、大失業、大増税の波が襲ってくるのである。
 野田・民主党政権に対する態度も、直面している内外情勢や課題、政策についての分析抜きに「国民の目線に立った、国民のための政治を与野党で進め、国難を乗り越え、日本再生を進めることを期待する」と幻想をあおるものであった。
 ドルを基軸通貨とする世界資本主義の破局的危機、世界秩序の構造的変化、その中で迫られるわが国の選択という現実からの決定的な立ち後れと言わねばならない。
 これに対して、十二人の産別、地方連合会代議員から発言があった。九月十九日の脱原発の大集会などを反映して、脱原発を求める発言が多く、他に労働者派遣法、有期労働規制、最低賃金の取り組み強化などの要望が出された。だが、昨年秋以降、環太平洋経済連携協定(TPP)問題を機に生じた連合指導部に対する批判は、今大会では公然たる論戦という形ではあらわれなかった。
 このような連合大会に示された状況を踏まえ、連合労働運動の打開を望む先進的活動家の皆さんに、いくつかの点について率直に問題を提起してみたい。

世界資本主義の危機の深さと矛盾の激化を覆い隠す「パラダイム転換」論
 第一番目に問題提起したいのは、大会直前の七〜八月にかけてあらわれた世界的な財政、金融危機をどのように認識すべきかということである。わが国への影響は甚大で、現実に超円高、空洞化という形で労働運動は待ったなしの対応が迫られているからである。
 この重大な世界情勢の変化について、古賀会長は意図的かどうかは別にして、何一つ触れず、立ち後れを自己暴露した。それと比較すれば、来賓としてあいさつした国民新党の亀井政調会長の方がはるかに危機感を持っており、不十分にしても米国のウォール街占拠の若者の行動とその原因について代議員の注意を喚起したのは、真っ当な態度であった。
 採択された「運動方針」には、「われわれを取り巻く情勢と課題」の項目の中に、かかわりがあると思われる箇所がある。「依然として金融資本主義は存在し続けているが、暴走がもたらした災禍への反省から今、世界は新たなパラダイムへの転換に取り組み続けている。それは公正や安全・安心を社会の基盤とし、人と人との絆を強くしながら、支え合う社会への政策軸の転換である。」その根拠として、「国際労働機関(ILO)が提起したディーセント・ワーク」と、「欧州で見られる『連帯経済』という考え方」を挙げている。
 だが、これは、「考え方」の提起をもってあたかも現実になったかのように言いくるめる、主観主義の典型と言わねばならない。三年前のリーマン・ショックは、ドルを基軸通貨とする戦後世界資本主義がシステム的危機に陥ったことを示すものであったが、その危機対策として各国がとった野放図な金融、財政政策がこんにちの危機を招来したものであり、危機は継続しているのである。しかも、もはや各国政府の政策手段も手詰まり、国際協調も国際対立に代わって、破局的危機となり、弱小国と労働者に過酷な犠牲が押し付けられてきている。
 これがごまかしがたい現実であって、どこに「新たなパラダイム転換」の事実があるというのか。それとは逆の事実が進んでいる。論より証拠、ディーセント・ワークを提起したILOのソマビア事務局長自身が、九月下旬、世界の失業者数は約二億人にのぼり、「大恐慌時代のピーク時に近づいている」として、二十カ国・地域(G20)の雇用・労働相会合に抜本的対策を要請した。そして、失業率を〇八年の金融危機前の水準まで回復させるには、G20内で二千万人の雇用創出が必要だと指摘。雇用の伸びが現在の低水準のままだと、一二年末には失業者数がさらに四千万人増える恐れがあると警告した。もはやこんにち、世界資本主義はシステム的危機に陥っており、人類にメシを食わせられないほどの矛盾をさらしているのである。したがって、こんにちの世界情勢を、「市場原理主義の終えん」「新自由主義政策の破たん」と言い、「新たなパラダイム転換が進んでいる」という連合指導部の見解は、危機の深刻さを覆い隠すものと言わなければならない。

「働くことを軸とする安心社会」は、階級闘争で決着つける道への前進をそらす謬(びゅう)論
 二番目に問題提起したいことは、したがって、この世界資本主義のシステム的危機の下で、連合指導部が提起している「働くことを軸とする安心社会」というめざすべき社会像は、机上の空論であり、わが国労働者階級と国民諸階層の苦難を打開する道にはならないということである。
 私は、わが党の政治理論誌『季刊労働党』の一〇年秋号で、「連合指導部は、わが国労働運動をどこに導こうとしているか」という論文を書き、「働くことを軸とする安心社会」に対する全面的批判を行っている。ぜひ、ご参照願いたい。
 今大会の「運動方針」では、「『働くことを軸とする安心社会』の実現に向けた取り組み」という項をおこし、「政労使の社会対話を積極的に推進するとともに、志を同じくする人たちを増やし、さまざまな国民各層や団体などとも幅広く連携」する運動を進めると踏み込んでいる。
 だが、世界資本主義の新たな破局的危機が迫る中、大企業は国を捨てて海外シフトを加速する一方、国際競争力強化のためにさらなる労働の規制緩和はわが国労働者を途上国の低賃金労働者と競わせようとするものであり、法人税減税、消費税大増税と併せて、ますます「政労使」間の利害対立を激化させるものであって、労働者の立場に立つならば、「政労使の社会対話」など成り立ちようがないのである。北アフリカ、中東だけでなく、英国や米国でも、耐え難くなった労働者と人民は活路を求めて、ストライキに訴え、街頭に打って出て、資本家どもとその政府に公然と立ち向かい始めた。趨勢として階級闘争の激化は不可避で、階級闘争で決着をつける時代が始まっているのだ。
 大震災の復興・再生をめぐっても、財界は財源を国民に負担させながら、復興特区を活用し、前例にとらわれない思い切った税・財政・金融・規制・行政上の措置を迅速に講じ、競争力強化・経済成長の起爆剤と位置づけ、「震災復興と成長戦略の一体的な推進」を推し進めてきており、「二つの路線」の闘争は、現に闘われているのである。
 そのような時、できもしない「働くことを軸とする安心社会」の幻想をあおり、「政労使の社会対話」による実現の道を説くことは、わが国労働運動が唯一の現実的な勝利の道、「階級闘争で決着をつける道」への前進を他にそらそうとする反動的な仕業と言わなければならない。連合指導部の、この欺まん的反動的役割を徹底して暴露することが重要となっている。(つづく)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2011