ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2011年5月25日号・4面〜5面 労働運動

連合「政策制度中央討論集会」を傍聴して(中)

財界のための復興路線を暴露し
国民多数のための復興を
対置して菅政権と闘おう

党労働運動対策部長 中村 寛三

2、大震災の復興をめぐって

 民主党への政権交代後初めての連合「政策制度中央討論集会」は、世界資本主義の危機が深まる中、東日本大震災に見舞われ、国民諸階層の苦難がいちだんと増大し不満が高まる情勢を反映して、指導部案への鋭い批判が出された。われわれは、そうした批判を「連合内部にあらわれた現状打開を望む光明」と評価し、これを手がかりに歴史的激動期を切り開く志をもって大いなる論戦を繰り広げようと先進的活動家の皆さんに呼びかけた。
 前号では、論戦すべき第一番目の政策課題として環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題を取り上げ、論戦を促進する願いから意見を述べた。今号では、第二番目の政策課題として大震災復興問題を取り上げてみたい。
 前号で述べたように今回の討論集会には、連合指導部の提案文書として「二〇一二〜二〇一三年度政策・制度 要求と提言」(原案)に加えて、別冊として「災害復興・再生に向けた政策」(原案)が出され、それを討論する全体集会も持たれた。
 そこでは原発政策について意見が集中したが、ほかにもいくつか注目すべき発言があった。
 その一つは、サービス・流通連合が原案の「国際産業競争力の維持・観点から、……部品供給(サプライチェーン)の早期再生への支援をはかる」を取り上げ、「国際産業競争力の視点のみならず、国内地場産業再生の視点で、企業規模の大小に関わらず支援をはかるとすべきだ」と述べた。連合指導部が第一義的に自動車、電機など大企業支援をあげていることに対する当然の批判である。また、「電力需要抑制は、パート労働者が多い流通・小売業に影響が大きい。パート労働者は労働日・時間の変更が困難で、労働者の合意が得られないまま使用者に一方的に契約内容が変更されることがないよう交渉を行う必要がある。また、非正規労働者からの苦情処理の対応をしっかり行うべきだ」と要求した。
 また、連合大阪から「従来からの円高、エネルギー高騰に加えて、震災により、企業の海外移転の加速が懸念される。企業が地元に根付く、または誘致するなどの政策について言及されたい」との発言もあった。
 もう一つは、復興財源の問題である。連合山口は「原案では優先順位が分かりづらい。まず、政策の見直し、次に国債、最後に税負担の順番ではないか」と述べ、他にも増税に反対の立場から原案に対する注文が相次いだ。

(1)復興をめぐる「二つの路線」の争いの現実を認めねばならない
 「災害復興・再生に向けた政策」(原案)は、基本的考え方と経済政策から始まって十五の個別政策課題が四十三ページにわたって述べられており、個別に立ち入ることはできないし、適当でもない。そこで、いわば総論とも言うべき「災害復興に当たっての連合の考え方」と、発言が集中した原発政策にしぼって意見を述べる。
 まず、災害復興に当たっての「基本的考え方」を検討しよう。
 「単なる復旧ではなく復興・再生を目指すべきである」。その意味で復興は「日本の新しい国づくりの契機として、十年後を見据えたしっかりしたグランドデザインをつくるべきである」。
 「復興に向けた地域住民及びコミュニティの意思はもとより、全国民の意思統一に向けた理解と協力が不可欠であり、政治がその役割を果たすべき」「そのために、政府・民主党は、国民の生命・生活を守るとの決意を国民に示すとともに、与野党の垣根をこえたオールジャパン体制の確立を早急に行うべきであり、一刻の猶予も許されない」。要約すれば、これが連合の「基本的考え方」である。
 問題にしたいのは、復興に向けた「地域住民及びコミュニティの意思」や「全国民の意思統一」が不可欠と言うが、果たしてそれは可能なのかということである。
 なぜなら第一に、「地域住民」と一口にいうが、被災して生活基盤を失った点は共通しているにしても、その社会的経済的立場、すなわち階級的立場は、決して一様ではないからである。労働者が多数だろうが、農民や商店主もいれば、漁民、企業家などもおり、異なる社会層に分かれている。震災前のこれらの人びとの生活ぶりは、リーマン・ショックを経て地域経済が全体として疲弊する中、さまざまで格差も拡大していた。大企業はV字型回復で大儲けする一方、中小企業は低迷、淘汰(とうた)されたものもいた。労働者はリストラで賃下げ、失業を押し付けられていたが、その三分の一以上が非正規労働者でいちだんと劣悪であった。漁民、農民なども年々厳しくなっていた。
 そこを大地震、津波、原発災害が襲って、彼らの苦難が倍加した。したがって、被災しての苦しみの程度も、生活再建の道もそれぞれ異なっているのは当然である。
 それは、大震災から二カ月余が経ち、復旧、復興の局面に移った現在、いっそう明らかになってきている。
 被災四十二自治体のアンケートによれば、なお約二割で電気、水道など復旧のメドが立っていない。
 産業復興も明暗が分かれ始めた。自動車部品などの製造業は親メーカーの応援を受けて生産体制を立て直しつつあるが、漁業や農業は自力再建が困難な状況が続いている。事業を再建しようとする中小企業には、いわゆる二重ローン問題が重荷になってかぶさっている。
 大震災関連倒産は全国で百件を超し、被災三県では十九件になった。これは、届出ができていない企業もあってのことで、実態ははるかに厳しい。そうした中で、数十万人の労働者が職場を失った。被災三県だけでも、雇用保険離職票を交付された労働者は十万六千名を超え、職業相談件数は二十五万人超に上った。被災地以外の「派遣切り」などを含めると、震災後に失業者は激増している。
 他方で、大企業の中には海外移転を計画したり、西日本に生産拠点を移すところも出てきている。
 まさに「地域住民」は一様でなく、社会的経済的立場によって生活再建、復興に向けて条件が異なり、それゆえ利害の対立も激しくなっている。地元で事業を再建しようとした企業が、資金の手当てが間に合わず、労働者を解雇した例も出ている。
 これが被災地の「地域住民」のリアルな実際であって、連合指導部が言うように、復興に向けて地域住民の「意思を統一する」など、容易でないことがお分かりであろう。むしろ、復興の局面に入り、利害の衝突が目立つようになってきている。
 すでにそれは、事実となってあらわれてきている。
 宮城県の村井知事は「復興構想会議」のメンバーで、「災害対策税」導入や「水産業復興特区」創設など次々に復興策を打ち出しているが、足下から猛反発が起きている。養殖の漁業権を民間企業に開放する「水産業復興特区」創設に対して、県漁協は「市場原理が地域の漁業を荒廃させる」「協業化を進めようという矢先に特区創設の話を出されては、漁業者が戸惑ってしまう」と撤回要請を行った。
 この宮城県の復興をめぐる意見の対立は、復興をめぐって「二つの路線」があり、激しく争われている現実を端的に示すものである。
 したがって、労働運動の先進的活動家は、「災害復興・再生に向けた政策」を正しく提起しようとするなら、まずこの現実を認めここに立脚して立案しなければならない。
 連合指導部の見解は、この否定しようのない復興をめぐる「二つの路線」の争いの現実を認めず、労働者に見させようとしない反動的なものである。その上で、「与野党を超えたオールジャパン体制を確立する」重要さを提起している。
 しからばわれわれは連合指導部に質問させてもらわねばならない。「オールジャパン体制」で実現しようとする復興は誰のための、どの社会層に都合のよい復興なのか。さらには「日本の新しい国づくり」とは、国民多数のためのものか、と。

(2)財界は復興を改革のチャンスとして準備してきた
 これに対する正しい判断をもつためには、大震災後の財界と菅政権を振り返ってみることが必要である。復興をめぐって「二つの路線」が争われている現実を認める者なら、「未曽有(みぞう)の国難」「挙国一致」といったキャンペーンの影で、財界と菅民主党政権が推し進めてきた、きわめて階級的な所業を見抜くことは難しいことではない。
 菅政権は、震災以前から政権延命のために、財界と米国に奉仕する政治を推し進めてきていたが、震災以降の危機のなかでいちだんと財界と米国の走狗(そうく)としての性格をあらわにしている。
 三月十一日、菅首相は「国民の安全を確保し、被害を最小限にするため、政府として総力を挙げて取り組む」と表明したが、その時、被災者支援で支出したのは、わずか三百二億円のスズメの涙。国民が赤十字に寄せた義援金の二割に過ぎない。福島第一原子力発電所の事故に対する対処に炉心溶解(メルトダウン)の認識も含め、重大な過誤があったことは、日を経るごとに暴露されている。
 対照的に、日銀を通じての大銀行支援と大企業支援は、迅速で惜しみないものであった。日銀による大銀行支援のための資金供給は、ついに累計百二十兆円を超えた。わずか十日余の間に、年間の国家予算を大きく上回る資金をタダ同然で大銀行に提供したのである。さらに、大企業が発行する社債やコマーシャルペーパーの買い取り枠を四倍の四兆円に増やす企業支援策を決定、四月六日には千三百七十九億円の社債を買い取ったが、その大半が東京電力のものであった。
 政府は、被災地の大企業に対して過去二年分の法人税を還付することにし、さらに被災地外の大企業に対しても三兆円規模の危機対応融資を予算に盛り込んだ。また、輸出大企業の利益を守るために「円売り・ドル買い」介入を実施した。
 厚生労働省は、企業が計画停電で休業する場合、労働者に休業手当を支払わなくてもよいとする通達を出して、企業を支援さえした。
 仮設住宅、ガレキ撤去、社会インフラ復旧、生活再建支援金など、政府が最初になすべき「国民の安全確保」のための四兆円余の第一次補正予算が国会で成立したのは、震災から一カ月半後の五月二日であった。まだ十二万人が避難所生活を余儀なくされており、被災者から見ると時期も遅く、規模も少なく、きわめて不満が残るものであった。しかも、本格的な復興のための第二次補正は、八月に先延ばしされているのだ。原発危機の収束のメドは立たない。
 この間、財界は頼りない菅政権を「今こそ政治のリーダーシップを」と叱咤(しった)激励し、与野党には「一致協力して国難に当たれ」と要請しつつ、大震災を財界のための「新しい日本創生」、日本改革の契機にすべく、緊急アピールを発し、復興構想を先んじて提案して、国論を主導してきた。
 三月三十一日には日本経団連が、四月六日には経済同友会が、復興に向けての構想を提起した。
 経済同友会の復興提案は、「復興による日本創生をめざして」を掲げたもので、端的に「復興」は、震災前への「復旧」ではない、「新しい日本を創生するというビジョンの下に、新しい東北を創生していく必要がある」と明言している。「復興の基本理念」としては三点、(1)道州制の先行モデルをめざし、東北地域全体を総合的に考える視点を、(2)「新しい日本創生」の先進モデルとして、国際競争力のある国内外に誇れる経済圏の創生、(3)財政健全化の道筋にたった復興計画を、を掲げている。リーマン・ショック後の世界資本主義の危機の中で、財界として生き残るために立てた新成長戦略を、復興のなかで貫こうとしているのである。
 復興の推進体制、復興財源、復興計画の具体化に向けての三項目に分けて具体的な要求が盛られている。推進体制については、強力な権限を持つ強力な司令塔としての「東北復興院」の創設を提起、財源については財政健全化の道筋を強調し民間資金の活用、「復興基金債」の発行、法人実効税率の引き下げ見直しには反対、復興税の導入などを提案している。
 復興計画の具体化については、特区制度の積極的活用を提唱、規制緩和、投資減税を列挙、部品・素材の開発・製造拠点として更なる国際競争力の強化を図るとしている。第一次産業については、農地の大規模化や他地域への集団移転、法人経営の推進、漁港の拠点化など「大胆な構造改革」を進め、「強い産業」としての再生をめざすとしている。
 日本経団連、日本商工会議所の復興提案を読めば、TPP推進、消費税増税も含まれており、財界が復興を主導してどのような日本に作り変えようとしているか全貌(ぜんぼう)が明らかになるであろう。
 五月十七日、菅政権は「政策推進指針〜日本の再生に向けて〜」を閣議決定したが、ほぼ全面的に財界のこれらの要求を反映させたものとなっている。日本再生に向けた「再始動」の七原則の最初には、「日本再生が東日本復興を支え、東日本復興が日本再生の先進例に」が掲げられているが、経済同友会の考え方の引き写しである。そして、「震災復興」と並ぶ日本再生は、「財政・社会保障の持続的可能性確保」及び「新たな成長へ向けた国家戦略の再設計・再強化」の二つの柱で実行すると明記した。社会保障・税一体改革については、六月末までに成案を得、中期財政フレームを改定して、財政健全化を推進する、新成長戦略については、夏までに検証、TPP参加の判断時期については総合的に検討するとした。
 以上が、財界が震災直後から先行的に推し進め、菅政権が閣議決定し、具体化しようとしている復興路線の中身である。
 さて、最初の質問に戻ろう。連合指導部の「復興に向けての基本的考え方」の中では、何一つ、現実政治を動かしている財界の復興提案、構想について記述はない。したがって、こちらの「考え方」を打ち出す上で批判的評価、暴露もない。きわめて一面的と言わざるを得ないが、改めてこれをどう評価しているのか、聞いてみたいところである。
 また、連合指導部がいう「日本の新しい国づくり」の中身は、財界や菅政権の「再生日本」とどこがどう違うのか、同じなのか、これにも答えていただかなければならない。これに対する態度が明確でなければ、「災害復興・再生に向けた政策」に盛られた個別政策もほとんど意味がないことになるからである。

(3)連合指導部の「協調」路線の清算を急がねばならない
 われわれは、連合指導部が復興をめぐって「二つの路線」が争われている現実を認めておらず、労働者に見させようとしていない点から推測して、また財界の復興路線を何一つ暴露せず、大震災後も菅政権を支える役割を果たしてきた実際行動から見て、復興をめぐっても連合指導部は財界と「協調」していると言わざるを得ないのである。連合指導部の「労資協調」は、経済闘争の範囲を超えて政治にまで拡大し、震災後のわが国の進路、生き方が深刻に問われる事態になってなお、維持・継続されているのである。
 先進的活動家の皆さんに注意を喚起したいのは、こうした連合指導部の「協調」路線がさらに継続されるなら、財界のための復興が具体化されるなら、その帰結は国際競争力の強い大銀行・大企業が栄える一方、リーマン・ショックによっていちだんと悪化した国民諸階層の生存条件はさらに悪化、わが労働者階級だけでなく、被災地をはじめとする全国の漁民、農民、商店主や中小企業に至るまで苦難が倍加、耐え難い状況に追い込まれるに違いないということである。
 したがってわれわれは、何としても財界の復興路線を打ち破って、国民多数の復興を実現なければならない。
 しかしそのためには、財界のための復興路線を労働者の中に振りまく、連合指導部の「協調」路線を徹底的に暴露し、一掃することが必要である。
 併せてわれわれは、苦難を倍加させられている漁民、農民、商店主、中小企業に大胆に接近し、彼らの切実な要求を掲げて闘い、菅政権に反対する「友」として連携を強め、広範な国民的戦線を形成しなければならない。その力で菅政権を追い詰め、打倒し、財界のための政権を転換しなければならない。
 そうしたことのできる労働運動に転換するためにわれわれは、政治思想上の、組織上の準備に全力をあげている。先進的活動家の皆さんとの団結を心から願っている。
 統一地方選挙にあらわれた「民意」は、菅政権に対して厳しく、国民の怒りは国中に充満している。現状打開を望む気運が高まっており、闘おうとする者にとってチャンスであることも訴えたい。
(次号に続く)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2011