民主党は六月二十四日、安全保障政策基本問題調査会(会長・伊藤英成副代表)幹事会を開き、「安全保障基本政策」を決定した。
自衛隊が日本有事を含む緊急事態に対応するための法整備を急げ、国連平和維持活動(PKO)協力法の平和維持隊(PKF)の凍結解除に向け国会審議を開始せよ、憲法改正論議を活発化せよ、など看過できない内容を含んでいる。
支配層の立場を代弁するマスコミはすばやく反応し、「旧社会党勢力を含む野党第一党の政策としては驚くべき現実的な内容であり、評価に値する」(日経新聞)、「民主党の政策が大幅に現実化し、自民党と重なりが多くなることは日本の安全保障、憲法論議にとって好ましい傾向」(読売新聞)などと社説で絶賛した。
自民・自由連立の小渕政権が公明を巻き込んで新ガイドライン関連法を成立させ、日米安保体制をアジア・太平洋地域に拡大、米軍と一体となって自衛隊が海外展開・軍事介入する道へ大きく舵を切ったばかりである。中国、朝鮮をはじめアジアに強い反発と警戒心を呼び起こし、国民の間に大きな不安が広がっている。さらに政府は、カサにかかって盗聴法、「日の丸・君が代」を法制化する挙に出ている。
二十一世紀を目前に、わが国の進路、平和と民主主義はいよいよ重大な曲がり角にさしかかっている。わが国の進路を憂えるすべての政党、労働組合をはじめとする各界の指導的人びとの責任は大きく、早急にもう一つの進路、外交・安保政策を提起し、国民的闘いを組織しなければならない時である。
このような時、民主党がどんな政策を提起するか注目された。だが提起されたものは、率直にいって多くの国民が首をかしげ、危ぐを抱かざるをえないようなものであった。この党が野党第一党であり、しかも労働運動を基盤にして国民に少なからぬ影響をもつだけに、見過ごすわけにはいかない。
政府の安保政策の露払い担う
菅直人代表は記者会見で、「五五年体制下では旧社会党が国会論議を避けたため、官僚任せの安保政策だった。野党が踏み込んで提起することで国会が本格的な論議の場に変わる」と得意げに語った。
だが、旧社会党は決して安保論議を避けていたわけではない。社会党を中心に野党の厳しい追及があったからこそ、自民党政府の暴走にいくらかの歯止めをかけてきた。そういう意味で社会党に功績もあった。野党第一党の代表ともあろうものが、戦後政治の中で野党が果たした役割をいとも簡単に清算してしまうとは! 敵へのいらぬ譲歩である。
それはさておき、民主党が「踏み込んで提起」した政策はどんなものか。
第一、新ガイドラインまで拡大した新日米安保体制を基軸に据えている。
「日米安全保障条約がわが国の安全保障政策の最も重要な柱」であり、「当分の間、日米安保体制の実効性を高めることが、アジア太平洋地域の平和と安定のための重要な基盤と考える」。
第二、日本有事の際の「緊急事態法制」(有事法制)の整備の提案である。
「日本にたいする直接侵略などの緊急事態において、(自衛隊の円滑な活動が行われるよう)、緊急事態における法律関係について十分論議を行い法制化しておくことが重要である」。
第三、PKO協力法のPKFの凍結解除に向けた国会審議の提案である。
「PKO活動を通し、国際的な平和の維持に対する積極的な貢献を行うことをわが国の基本的な政策と位置づけるべきである。現在凍結中の紛争停止や武装解除の監視、緩衝地帯における駐留・巡回などのいわゆるPKF活動についても、その凍結解除にむけ、国会審議を開始すべきである」。
第四、憲法改正論議の呼びかけである。
「民主党は憲法問題について論議することは重要なことであると考える。憲法解釈の安易な変更を行うのではなく必要に応じて憲法改正することが成熟した民主主義国家の取るべき道である」。
正確を期するために長い引用となったが、民主党の安全保障政策のポイントは大方理解できよう。
民主党の安全保障政策の基本は、新日米安保体制を基軸にするものである。「事前協議制の明確化」「効率的かつバランスを失することのない運用」など「日本の主体性」から若干注文をつけることを除けば、政府・自民党と違いはない。将来的に日米安保体制を解消する展望は示されず、かつて鳩山由紀夫氏が提唱した「常時駐留なき安保」も引っ込められた。
しかも、そこにとどまらない。有事法制、PKFの凍結解除、憲法改正論議など当面の具体策が「踏み込んで提起」されている。いずれも内外の世論の反発を恐れて政府・与党の側から切り出しかねている、新ガイドライン後の「次の課題」である。民主党の政策は、その露払い役を積極的に買ってでようとするものだ。
こうした民主党の安保政策が当面の政治で果たす役割は、きわめて有害である。労働運動を基盤とする野党第一党のこうした政策は、新ガイドライン関連法案の成立で広がった国民の不安と闘いの気運に否定的な影響を及ぼさずにはおかない。反対に内外の反発を恐れる政府、与党を勇気づけ、安定させ、さらに有事法制、改憲論議へと流れをすすめる上で願ってもない援軍となる。マスコミが「驚くべき現実的内容」と絶賛するのには、理由がある。
国民が「民主党よ、お前もか」と危ぐと幻滅を抱いたのは、当然であろう。民主党を支持している多くの労働組合はもちろん、野党第一党に期待を寄せている国民への裏切りといわねばならない。
日米安保体制解消の展望提起を
野党第一党の政策提起の目的は、「国会を本格的な論議の場に変える」ために先手を取ったり、マスコミ受けすることにあるわけではない。まして、政権にありつくために政府・与党の政策にすり寄ったり、その露払い役に堕するとすれば、野党としての自殺行為である。五年前、村山社会党が総理の座と引き替えに基本政策を投げ捨て、安保反対の国民運動に多大な打撃を与えた上に、自らの党を無惨な解体的危機に追い込んだ深刻な教訓は、真剣に学ばれなければならない。
わが国の進路を憂い、平和と進歩を願う民主党の皆さんが「安全保障基本政策」を再検討されんことを心から希望する。
冷戦後十年。わが国政府は、湾岸戦争を経て、「新防衛計画大綱」(九五年)、日米安保共同宣言(九六年)、新ガイドライン(九七年)、そして今回の新ガイドライン関連法の成立と、米国の戦略にしたがってアジアで軍事介入する新日米安保体制の道に踏み出した。これは新日米安保体制の道を選択し、踏み出した。だがこの道は、アジアに緊張をもたらし、わが国を孤立させ、国益を損なう。
いま切実に求められているのは、この道を阻止することである。そのために、もう一つのわが国の進路、外交・安保政策の提起が不可欠で、緊急の課題となっている。
民主党が、国民大多数の支持を受け多数派になろうというのなら、政府・自民党の政策にすり寄るのではなく、時代を見据えたもう一つのわが国の進路を対置しなければならない。
冷戦後の世界は激動し、再編の過程にある。ドル支配の世界経済は危機に直面し、米国の軍事的世界支配にも限界がみえている。アジアでも、経済危機の打開をめぐって次第に主体性を確立し、連携を強めている。そうした流れの中で、わが国がアジアとともに生き、平和と繁栄の道を進もうとすれば、米国の戦略に身をまかせる道は、いずれ転換を迫られよう。
したがって、もう一つの進路には、骨格に日米安保体制解消の展望が据えられなくてはならない。時代を見据えるなら、日米安保体制を解消し、独立・自主、アジアとの共生こそ、もっとも現実的な展望である。
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