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資料と検証

民主党の安保基本政策を斬る


 民主党が安保基本政策を決定した。その基本的な暴露は、二面社説で書いている。ここでは五点の柱を設け、民主党の政策と支配層の有力な(国際フォーラム)見解などを比較紹介しながら、その追認ぶりを検証してみる。


1、調査会の中心人物は日本国際フォーラムのメンバー

 「民主党は従来のイデオロギー対立に基づく安全保障論議を排し、安全保障面における日米関係の重要性を十分に認識しつつ、日本の主体性ある安全保障政策の確立を目指す」。

 「日米同盟の信頼性を維持してゆくことは、疑いもなく日本外交の主要な柱でありつづけるであろう。しかしながら、これからの日本の外交は、これまでのような「対米追随外交」の批判を受けかねない受動的な外交姿勢をつづけてゆくことはもはや許されない」。

 二つの文章は、わが国のこれからの外交・安保政策についての提言のまえがきから引用したものだが、日米関係を重視しつつ日本がもっと主体的に振る舞うべきだとしている点でまったく共通している。

 前者は『民主党安全保障基本政策』(以下『民主党政策』と略)で、後者はわが国支配層の有力なシンクタンク「日本国際フォーラム」(会長・今井経団連会長)の政策提言『対米中ロ関係の展望と日本の構想』(九九年四月発表、以下『ファーラム構想』と略)である。問題意識があまりにも似ているのに驚かされるが、どちらがどちらを参考にしたか自明である。

 ちなみに民主党安保政策調査会の会長・伊藤英成副代表は、日本国際フォーラムのメンバーで『フォーラム構想』の政策委員として署名している。単なる偶然か?

2、「主体性」唱えるが、あくまで日米安保体制基軸

 『民主党政策』は、「日本の主体性」を声高に唱えるが、日米安保体制を「最も重要な柱」とし、米軍の武力に依存している点は、いささかも変わらない。

 「日本の平和と安全を守るためには、日本自身の外交防衛努力が基本となることは言うまでもないが、これと並んで、日米安全保障条約が我が国の安全保障政策の最も重要な柱であるとの認識を我々は持つ」(『民主党政策』)。

 「米国はアジア太平洋地域の平和と安定のため、軍事的なプレゼンスを維持しつつ、この地域に積極的に関与する姿勢を見せている。米国の現実に果たしている役割には大きいものがある。このため、米国の活動が米国の国益確保を背景としたものである事を認識しつつも、民主党は米国の存在がこの地域の平和と安定のため重要であるとの基本認識に立つ」(『民主党政策』)。

 「新ガイドラインは、我が国の平和と安全を確保するために我が国の米軍に対する平素、日本有事、周辺事態における日米防衛協力について定めており、民主党はその必要性を認識している。ただし、周辺事態に対応するための周辺事態安全確保法の運用に際しては周辺事態の認定を含め、日本の主体性を十分に担保するとともに、日本の安全と国民生活に与える影響のバランスに細心の注意を払うべきである」(『民主党政策』)。

 日本の主体性についての具体的な政策は、「事前協議制の明確化」である。その保障は見えない。

 「従来の日米安保体制は重要な意思決定を米国に委ねるという点で、真の意味での同盟関係とは言いにくい状況にあった。今後日本のとるべき態度は、日本の国益を十分に踏まえつつ米国との緊密な対話・協議を行う姿勢である。日米両国の国益は当然のことながら常に一致するとは限らない。…このような観点から『日米安保条約の第6条の事態に関する交換公文(一九六〇年)』に基づく事前協議制度をより明確にする必要がある」(『民主党政策』)。

3、中国、北朝鮮への干渉政策

◆朝鮮半島六者会談

 『民主党政策』では、今年四月の「北朝鮮政策」の一つに盛られたが、『フォーラム構想』では重要な地域構想として提言されており、すでに小渕政権の外交政策として九九年五月の日米首脳会談の場などで展開されている。

 「朝鮮半島をめぐる状況はかなり深刻である。特に既に弾道ミサイルについて相当程度の技術力を持つ北朝鮮が核武装した場合には日本にとって重大な脅威となり得る。北朝鮮の核疑惑・弾道ミサイル問題は日本自身の危機対処の問題であるとの認識に立って、その解決に向けてより積極的な努力を行うべきである」。

 「日本、米国、中国、韓国、北朝鮮、ロシアを中心とした北東アジアの安全保障の枠組みを考える」(『民主党政策』)。

 「現行の四者会談とは別に、日米中露に韓国および北朝鮮を加えた六者対話の場を新たに創設することを提案したい」(『フォーラム構想』)。

◆中国の台湾に対する武力行使反対

 重大な問題として指摘しておかなければならないのは、「中国の台湾に対する武力行使反対」を外交・安保政策として掲げていることである。この問題は、中国の内政に属することであって、外国人がとやかく言うべきものではない。それは内政干渉となる。

 「台湾海峡をめぐり中台間で軍事衝突が発生することを避けることは我が国にとって極めて重要な関心事である。また、台湾海峡をめぐる米中関係の緊張は、アジア全体の不安定化を強めることになる可能性が大きい。民主党は台湾の一方的な独立を支持せず、同時に中国の台湾に対する武力行使に反対するとの基本的な立場に立つ。また、このような台湾海峡をめぐる緊張が生じないように中国・台湾に対するあらゆる予防的働きかけを行うことを日本の外交政策の最重要課題の一つと位置づけることを主張する」(『民主党政策』)。

 『フォーラム構想』では、「日米両国は『台湾の武力解放へのノー』という基本姿勢を協調して堅持せよ」と提言。

4、自民、自由の安保政策の露払い

自民党

自由党

民主党

有事法制 あらゆる危機に対処できる体制の整備のため、党危機管理プロジェクトチームで検討する 有事の際に自衛隊などが超法規的な行動をとることがないよう整備する 自衛隊が出動する緊急事態の発生時に、超法規的措置をとらないよう関係法の整備が重要
領域警備 領域警備の任務を自衛隊に与える規定を自衛隊法に設けるべきだとの指摘は党内にある。法整備の是非は党危機管理プロジェクトチームで検討する 領域警備活動を可能にするための自衛隊法改正案を作成している テロやゲリラ的活動に対し、法制面での整備を含め検討すべきだ。海上保安庁や警察が対応不可能な状況で自衛隊が対応できるようにすることも重要だ
PKF 参加凍結を解除する。国連平和活動への協力は、新法制定を含め、法整備する

自民党と同じ

(自自合意)

凍結解除に向けた国会審議を開始すべきだ
国連軍・多国籍軍 国連平和活動への参加は、総会や安保理の決議、要請がある場合、武力行使と一体化するものでない限り積極的に参加できる

自民党と同じ

(自自合意)

正式に国連軍が編成される場合に参加は当然。多国籍軍への武力行使を伴う参加は違憲

5、憲法改正論議を呼びかけ

 新安保体制の実効性を保障する必要から、憲法改正は政治日程に上ってきた。

 「民主党は憲法問題について議論することは重要なことであると考える。一般論として言えば憲法の文言と現実に乖離が生じた場合には、憲法解釈の安易な変更を行うのでなく必要に応じて憲法改正することが成熟した民主主義国家のとるべき道である。従って民主党に設置された憲法調査会や国会に設置が予定されている憲法調査会(仮称)において、安全保障問題も含め幅広く憲法論議が行われることが期待される」(『民主党政策』)。

 「安全保障政策においては、従来の硬直した議論を脱して、憲法解釈も含めて国際秩序形成に積極的に関与できるあり方を議論すべきである。また、自衛隊と日米安保をめぐる制度についても、法制を現実とバランスのとれたものにすべきである」(『フォーラム構想』)。


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