19960225

96年度政府予算案

財政危機の中 銀行・大企業、
アメリカに大盤振る舞い


 国会で九六年度予算案が審議されている。今年度は特に住専(住宅金融専門会社)の不良債権を処理するために六千八百五十億円もの税金を使う問題が焦点になり、国民の大きな怒りをかっているが、国会の論議はきわめて低調、お粗末である。
 本来、国の財政をどう使うかは、どういう政治を行うかの集中的な表現であって、政党を名乗るのならば、激しく争って当然である。ここにも国民多数の利害と離れたオール与党化の問題があらわれている。
 政府が提出している予算案は、先進国中で最悪の財政危機にもかかわらず、あえて膨大な赤字国債を発行し、住専処理案にみられるように銀行や大企業のために使い、また米国の要求にそって軍事費を拡大する、そしてツケはみな国民へ、というものである。まさに露骨な大企業とアメリカのための予算案であり、そのためには国家財政の破たんも辞さない反国民的な政治である。

先進国で最悪の財政赤字に
――国の借金残高二百四十兆円
 九六年度予算案の一般会計は総額七十五兆千四十九億円(前年度当初比五・八%増)である。
 このうち税収は五十一兆三千四百五十億円(前年度当初比四・四%減)しか見込めない。だから、不足分を国債という借金で埋め合わせるとしている。国債発行額は、二十一兆二百九十億円、過去最大である。一般会計歳入に占める国債の割合(国債依存度)は二八・〇%になる。国債の元利払いにあてる「国債費」が十六兆三千七百五十二億円だから、国債の新規発行額が上回る事態になる。しかも、当初予算としては七年ぶりに償還のあてのない赤字国債を十一兆九千九百八十億円も発行する。
 その結果、九六年度末の国債残高の累積は、二百四十兆円を上回り、国民一人当りに換算すると約二百万円の借金となる。
 この財政の現状は、橋本首相も認めているとおり「まさに危機的事態」である。昨年十二月、財政制度審議会が公表した報告は「近い将来において破裂することが予想される大きな時限爆弾を抱えた状態」で、「毎年大きくしている」と指摘した。
 わが国の財政赤字の水準は、双子の赤字を抱える米国を追い抜き先進国の中で最悪となった。各国の九五年度「公的債務残高」(国、地方などを含めた累積債務残高)の対GDP(国内総生産)比をみると、米国六三・〇%、英国六三・〇%、ドイツ六二・五%、フランス五九・五%だが、日本はなんと八八・九%である。
 昨年末の米国の政府機関の閉鎖騒動やフランス労働者のストライキなど、各国ではまさにこの財政赤字問題が政治の最大の争点となった。
 したがって、先進国中で最悪になった財政赤字をどうするのか、その打開の道を示すことこそ国政に求められおり、橋本政権は予算案でその回答を示す責任があった。もちろん、国民大多数が求める打開の道は、米国やフランスのような国民に犠牲を押しつけるやり方ではない。
 だが、このもっとも切実な問題は先延ばしの無責任な態度である。そればかりか、あとでみるように大企業とアメリカに大盤振る舞いし、財政危機の「時限爆弾」をさらに大きくしようとしている。この責任を、第一に問わねばならない。

銀行・大企業、アメリカに手厚く
 七十五兆千四十九億円を何のために、誰のために使おうとしているか。橋本政権の政治が誰のための政治かを見分ける基準である。このうち、十六兆四千億円弱が「国債費」に、十三兆六千億円強が「地方交付税交付金」として地方に交付されるので、残り四十四兆円余の使われ方である。
 一番の問題は、これほどの財政危機の中で、住専処理に六千八百五十億円をつぎこむ問題である。この案は、当時の武村蔵相が「財政危機宣言」を出した直後に、何の積算根拠もなく、「予算案提出に間に合わせるため」という理由で密室のなかで突如決定された。
 住専破たんの主な責任が、大銀行にあり、これと癒着し「監督」してきた大蔵省、歴代政権にあることは明白である。(本紙二月五日号「社説」を参照)
 しかも歴代政権は、銀行に対して低金利政策、不良債権の無税償却など手厚い優遇措置をとり、大手二十一行の九四年度業務純益は二兆七千六百七十九億円にものぼる。法人税額は、わずか五百八億円しか払っていない。
 「金融システムの安定のため」などというが、どこからみても銀行救済である。
 二番目の問題は、膨大な公共事業費など大企業への大盤振る舞いである。公共事業費は米国との約束にそって今年も四・〇%(一般歳出全体は二・四%)も増額され、九兆七千百九十九億円がつぎ込まれることになっている。「景気対策」という名分はつけられているが、高速道路など幹線道路(二〇・二%増)や特定港湾(六・四%増)など大規模事業に手厚く、大手ゼネコンや大企業の要求が反映されている。対照的に一般道路は、〇・八%マイナスである。
 この四年間に「不況対策」として六回、総事業規模で六十二兆円、うち四十四兆円(事業規模)が「公共事業」としてつぎ込まれた。海外よりも三割も割高といわれ、GDP比で八%(米国、ドイツなどの四倍!)にものぼる公共投資こそ急速に悪化した財政赤字の根源の一つである。巨額にのぼる公共投資が大手ゼネコンや大企業を潤すだけで、国民生活には役立たず、不況対策にもならなかったことは経験が示している。 アメリカの戦略を補完するためのODA予算は、「大企業のための隠された補助金」といわれているが、すでに四年連続世界一で、今年度も三・五%増の一兆千四百五十二億円がつぎ込まれる。
 さらにリストラ推進のための「雇用安定助成金」は、二十七億円から七十二億円に増額された。
 三番目の問題は、一般歳出の伸びを上回る軍事費である。この財政危機の中で四兆八千四百五十五億円もつぎ込まれる。政府は昨年十一月策定した新「防衛計画の大綱」を具体化するため「次期中期防衛力整備計画」(五年間で総額二十五兆千五百億円)を決めた。その初年度分として、支援戦闘機F2の十一機導入、九〇式戦車も十八両など正面装備
を強化した。また朝鮮や中国との地域核戦争を想定した戦域ミサイル防衛(TMD)の調査費は四億四千万円に増額された。在日米軍駐留のための「思いやり」予算は、新たな負担増としての「訓練移転費」三億五千万円を含め二千七百三十五億円である。米海兵隊の実弾砲撃演習の分散・拡大のための調査費も計上されている。
 増大する軍事予算には、米国の「東アジア戦略」に追随し、そのカナメとして日米安保「再定義」を行おうとする橋本政権の対米追随政治が色濃く反映している。

すべてのツケが国民に
 膨大な赤字財政のもとで、銀行・大企業、アメリカに大盤振る舞いしたツケは、国民生活へどっとしわよせされている。
 阪神大震災の被災者と被災自治体が強く求めた「特別枠」は拒否され、従来型となっている。
 厚生・国民年金保険料はアップするにもかかわらず、支給額は十三年ぶりに据え置きである。国立大学の授業料は九七年から三万円の値上げ、私学助成は減らされる。老人医療費や医療費の患者負担限度額もアップされる。
 中小企業対策費は、千八百二十九億円で一般会計歳出にしめる割合は〇・二四%と過去最低を更新した。農業に対しては、新食糧法にそって減反を強化し、従来の「食糧管理費」は三・二%減額した。
 まさに国民大多数の生活と営業を犠牲にする予算である。
 問題は、そこにとどまらない。今年度予算でさらに二十一兆円が加算され、累計が二百四十兆円にも上る総借金の負担もまた、国民に押しつけられようとしている。
 来年四月からの消費税率五%への引き上げは当然のこととして、一〇%、一五%案が財界などから公然と出ている。
 当面、国民の高まる怒りを住専予算の削減、消費税増税反対の国民的運動へ発展させるとともに、政権の軸をひとにぎりの大企業から国民大多数の側へ移し替える政治の根本的転換をめざす闘いが求められている。

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